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ムーンライト
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ムーンライト

本作は、バリー・ジェンキンス監督が少年の成長を絶妙に描いたドラマであり、数多くの奇跡が詰まった切ない物語だ。主人公の内気なシャロン(アレックス・ヒバート)は、いじめっ子たちに追いかけられ、怯えた目で暮らす10歳の少年。彼の短い少年時代は、混乱と苦悩に満ちていた。心を許せる2人の大人(1人は麻薬ディーラーで、麻薬中毒者であるシャロンの母親に麻薬を売っていた)は、彼の両親ではなかったが、少年が「僕はホモなの」と問いかければ伝えるべき言葉を知っていた。2008年に長編デビュー作『Medicine for Melancholy』を発表したジェンキンス監督は、スクリーン上でめったに掘り下げられることのないアフリカ系アメリカ人を取り巻く世界の問題を描き出し、詩的な言葉を用いながら、社会文化的な領域まで踏み込んでいる。本作ではマイアミの犯罪が多発する地域が描かれるが、そこは注射針が散乱する薬物の取引場所であり、安っぽいダイナーが立ち並び、夜には熱風が海岸を覆う、私たちがいつも映画で目にするようなイメージとはかけ離れた場所を映し出す。そして、内面で起こるステレオタイプに当てはまらない性的な混乱を明確に表現することで、より革命的な作品に仕上がっている。映画『ブロークバック・マウンテン』や、同性愛を描いたそのほかの作品を受け継ぐわけではなく、フランク・オーシャン(初恋相手が男性だったと告白した若手のR&Bシンガー)が刻む張り詰めた不安が湧き上がるようなビートのような、新しい作品がうまれたのだ。 シャロンは相変わらずいじめられて窮地に立たされる10代の少年(アシュトン・サンダース)へと成長するが、3つの時代に分けて描かれるシャロンはいずれも繊細で陰がある。これらの時代は、劇作家タレル・マクレイニーが書いた自伝的な戯曲『月の光の下で、美しいブルーに輝く(In Moonlight Black Boys Look Blue)』が原案となっており、それぞれの時代による制限を取り外し、劇的な場面によってフランソワ・トリュフォーに通じる感動を描いている。また、サメのように旋回するいじめっ子に合わせてカメラが回転するシーンでは、終わりのないサイクルを示唆する悪循環を恐ろしいまでに表現していた。最後の時代では、シャロンはかつての男友達(アンドレ・ホーランド)と再会を果たし、ジュークボックスからはロマンチックな曲が流れだす。この章では、戯曲では描かれないエピソードが展開する。本作では、成長に伴う痛みをこらえ、それが硬化した傷跡と個人的な抱擁へと変わる物語が描かれていた。この映画こそが、我々が映画を観る理由なのだ。できれば他者に寄り添いながら、理解し、近づき、心を痛めるために……。公式サイトはこちら原文:JOSHUA ROTHKOPF翻訳:小山瑠未2017年3月31日(金)TOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー配給:ファントム・フィルム© 2016 A24 Distribution, LLC

タイムアウトレビュー
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インタビュー:ユアン・マクレガー
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インタビュー:ユアン・マクレガー

1990年代ポップカルチャーの代名詞であり、スコットランドのイギリスからの分離独立気運が高まった時代の空気も映し出した『トレインスポッティング』。その続編である、『T2トレインスポッティング』の日本での公開が2017年4月8日(土)に決定した。テーマ曲には、アンダーワールドの『Born Slippy NUXX』が起用されており、リック・スミスが映画全体の音楽も担当している。 今週発行された『タイムアウトロンドン』では表紙に、スパッド(ユエン・ブレムナー)、レントン(ユアン・マクレガー)、ベグビー(ロバート・カーライル)、シック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)らオリジナルキャストが登場。また、それぞれへのインタビューも行われた。ここでは、レントンを演じたユアン・マクレガーのインタビューを紹介しよう。 Ewan McGregor and Jonny Lee Miller in 'T2 Trainspotting' ー『トレインスポッティング』の続編が作られるのを考えたことがありましたか。 2年くらい前に脚本が届いてからは考えるようになったね。それよりも前はひょっとしたらそんなこともあるかもという感じだったかな。新しい映画は本当に素晴らしい作品だよ。キャラクターたちが当時を懐かしく思う気持ちを強く刺激してくるんだ。前作を思い出させてくれる要素もあって。上手くできてるね。 ーふたたびレントン役を演じることは、そのほかの役と比べてどうですか。 そうだね、続編物はやったことがあるけど、前作と20年も隔てたものはやってないな。もう一度、役になりきれるか不安だったけど、ジョニー、ロバート、ユエン、ダニーとセットに足を踏み入れた瞬間、すべてはそこにあったんだ。まるで古い友だちに再会したみたいだった。 ーレントンはエディンバラを離れ、アムステルダムで暮らしていますが、これは彼の帰郷の話なのでしょうか。 うん、彼はスコットランドに帰ってくるけど、それまでは一度も帰ってなかったんだ。20年の間ね。 ー1作目の『トレインスポッティング』でどのように人生が変わりましたか。  僕にとってとても重要で自分の人生を代表する役だった、ただ好きなんだ。ずっと誇りに思えるほどの記録をイギリス映画界に残した。あの時代について表現している作品だしね。 Ewen Bremner in 'T2 Trainspotting' 僕にとってとても重要で自分の人生を代表する役だった、ただ好きなんだ ー最近、1作目を観ましたか。  前作のスタイル、感覚、役柄についてすべてを思い出すために、リハーサルを始める数日前に観たよ。何年も観てなかったんだけど、説得力があるストーリーだったことに驚いたよ。色褪せてないんだ。記憶のなかにあったのと同じくらい良い作品で嬉しかったよ。 ー新しい映画の撮影で不安になることはありましたか。  僕らはただ成功させたいと思ってた。僕の不安は、レントンがどんな人間かをみんなが知っていて、そのレントンを見つけられるのかってことがあった。20年間レントンを演じることはなかったしね。でも、最終的には簡単に役に入り込めたよ。 ーダニー・ボイルと仕事をすることについてはどうですか。1997年の映画『普通じゃない』以来、一緒に映画を撮ってませんよね。 ダニー・ボイルこそ『トレインスポッティング』さ。あんなに上手くいったのは彼のおかげだよ。彼はいつも頭のなかにいるみたいに僕が何をしているかを正確に知っている感じがするんだ。彼がいなくて本当に寂しかったよ。

ひるね姫
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ひるね姫

主人公は、陽気で人好きのする女子高生、森川ココネ。彼女には眠りすぎてしまうという困った癖があった。寝ている間に見る夢の世界では、ココネはエンシェンという、魔法のタブレットを持つ勇敢で冒険心旺盛なプリンセスとなる。そしてある日、父親が突然逮捕されてから、ココネが目覚めている時の現実の世界は、夢の中と同じように驚きに満ちたものへと変わる。 これまでの作品と比べるとはるかにわかりやすい(万人受けする)今作『ひるね姫』は、監督にとって明るい未来が開ける新たな一歩となるだろう。監督は過去の作品ですでに使われたテーマを織り込んでいる。並々ならぬ愛情が見て取れる、球根のようなデザインのロボットは『攻殻機動隊』を彷彿とさせ、また『東のエデン』に見られた情報システム基盤のハッキングも出てくる。しかし、本作ではありがたいことに、こうした専門的な要素がファミリー向けにわかりやすく作られている。 ビジュアルについて言及すると、田舎の単調な生活や安アパートと、どこまでも続く夜の空と夢の世界を彩る灯りを対の関係に置き、彩度と色相のコントラストがとても効果的に用いられている。相当な労力が作画に注がれていることが見て取れ、熟練した職人が率いる優れたチーム力で成し遂げられたことが分かるだろう。ありえないほど詳細に作りこまれたエスタブリッシングショットと、息をのむようなペースで繰り広げられるアクションシーンが更に画面に彩りを与えている。 

 音響は、優れた音声設計と、『ファイナルファンタジー』と『キングダムハーツ』の作曲者、下村陽子による素晴らしい動的な楽譜により綺麗にまとめられている。 ジブリ風のピアノ曲が茶目っ気のあるファゴットの曲と組み合わされており、アクションシーンでは激しいストリングアンサンブルが物語を更に盛り上げている。 ココネはとても好かれるタイプなのだが、それは高畑充希による微妙なニュアンスの歌声による部分も大きい。降りかかる困難にもかかわらずココネは立ち直りが早く、自信のある女の子のように生き生きと描かれている。ほかのキャラクターも思い切ったキャスティングをしており、個人的には役同様魔法使いのように優れた声優、高木渉(『ジョジョの奇妙な冒険』の虹村億泰役)の参加は特にうれしかった。 この映画に欠点がないわけではない。 わき筋には薄っぺらなものが見受けられ、もしより効率的な物語運びを追求するためにメインのシーンがカットされていたらどうなるだろうと思ってしまうかもしれない。脚本も少々物足りない。 2つの世界をまたぐ話は常に難しさがつきまとう。不思議の国のアリスでは、まず読者をウサギの穴へいざない、最後は現実世界へ連れ戻すことでそのバランスをうまく取っているのだが、この映画では空想世界との行き来はもっと思い切って実験的なシーンの切り替えがあったほうがうまくいったかもしれない。
 にもかかわらず、この映画はその目的を達成している。これが観客に響く面白いアドベンチャーアクションたる所以は、すべてを美化してはいないからである。この映画を見た後に温かい気持ちになるのは、完全とはいかない家族愛の表現に何かが存在するからだと思われる。 結局のところ、ひるね姫は感動的でワクワクするようなアドベンチャーである。 脚本にあるいささか観客を立ち止まらせる要素にも関わらず、観客になぜか温かい気持ちを残してくれる映画作品となっている。 2017年3月18日(土)全国ロードショー 公式サイトはこちら 原文:ジョージ・アート・ベイカー ©2017 ひるね姫製作委員会

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わたしは、ダニエル・ブレイク
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わたしは、ダニエル・ブレイク

ケン・ローチ監督が、テレビドラマ『キャシー・カム・ホーム』でホームレス問題に対する激しい怒りを描いてから50年がたった。今作『わたしは、ダニエル・ブレイク』でも同様に、現代社会の破綻に対して静かながらも怒りが描かれている。本作は、ロンドンに移住してきた2人の子持ちのシングルマザーであるケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)と、心臓の病におそわれて仕事がしたくてもできなくなってしまった、ニューカッスルに暮らす50代後半のダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)との間に、思いやりのある友情が生まれる物語だ。本作では大袈裟な感情表現や、観客を喜ばせるような傾向は一切見られず、映画音楽もほとんど使用されていない。ケン・ローチ監督は、語りたいストーリーがある人々の存在を知っているからこそ、自信を持ってまっすぐに物語を描いている。色彩は控えめで派手さはなく、余計なものがない作品であり、だからこそパワフルで差し迫ったものが感じられる。国の援助が縮小されているのを感じるケイティとダニエル。ケイティは住む家を追われて子どもとともにイギリス北東部ニューカッスルに移ってきたばかりで、ダニエルは仕事、病気、国の援助の間に広がる悪夢のような官僚的な手続きに困惑していた。パソコンを一度も使用したことがないダニエルに対して、職業安定所の職員は「我々はデフォルトでデジタルだ」と語り、別のオンライン申請用紙を提出するように促す。作品を通して、政府の官僚制度で使われる非人間的な言語が飛び交う。ブラックユーモアがあって滑稽だが、その内側は脅迫的で、命にさえ関わるような響きに変わり始めるのだ。ケン・ローチ監督が同情を寄せながら描写するのは、ダニエルとケイティが屈辱を覚える機会が増え、見えない力が彼らを別人に変えていく様子だ。ダニエルは、地域貢献を目指す穏やかで陽気な人間であり、最初は彼の前に立ちふさがるシステムを批判し、笑い飛ばす余裕があった。しかし、本作で描かれる悲劇であり見どころとなるのは、彼がいくら明確な態度を取ろうとも、結局は1人の男が抱えるには問題が大きすぎるということだ。ダニエルや、いたる所にいる彼のような人間は、裏切りを警戒するケイティのような存在を必要とする。地域社会、慈悲深い政府、そして仲間を必要とするのだ。ケイティは自尊心があり表向きはしっかりしているが、食糧援助を行うフードバンクにおいて彼女が公衆の面前で仮面を脱ぐシーンは最も衝撃的に描かれていた。2001年の『ナビゲーター ある鉄道員の物語』を発表して以来、最も控えめで実直なスタイルを取る作品かもしれない。ケン・ローチ監督が過去20年の間に制作した多くの作品と同様にポール・ラヴァティが脚本を手がけており、暖房設備のない部屋を暖める方法(窓に気泡シートを取り付ける、キャンドルを使って即席ヒーターを作るなど)を取り上げるなど、彼のリサーチャーとしての鋭い嗅覚を証明するような細かい場面が描かれている。中国から輸入した怪しいスポーツシューズを販売するダニエルの若き隣人についての脇筋のストーリー(これもリサーチで判明した事実だろう)は余計な気もするが、本作には明確かつ純粋なミッションが感じられた。  2017年3月18日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町ほかロードショー公式サイトはこちら   原文:DAVE CALHOUN翻訳:小山瑠未   © Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Br

タイムアウトレビュー
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エディターズ・ピック

2017年に公開が待ちきれない映画20
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2017年に公開が待ちきれない映画20

タイムアウトロンドンにて、2017年に公開される映画50本が紹介された。タイムアウト東京ではそのなかから注目の作品を、邦画も加えて20本紹介する。今年も、SF映画の金字塔『ブレードランナー』の続編や、マーティン・スコセッシが20年以上の構想を経て完成させた『沈黙』、オリジナルキャストが再集結する『トレインスポッティング2』など見逃せない作品が揃う。リストをチェックしながら公開を待とう。  

一度は行きたいミニシアター5選
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一度は行きたいミニシアター5選

映画を観たいときは、作品ありきで近所の上映館を探す。目当ての作品を観終えたら、劇場を後にする。しかし、映画館だって、DJバーやブックカフェのように、なんとなく居座ってみたり、訪れることそのものを目的にしたり、仲間と入り浸る口実に使えてもいいはずだ。  本記事では、東京近郊に点在する個性際立つミニシアター5軒を紹介。いずれも、プログラムから上映スタイル、内装まで、独自の営業方針でメッセージを発し、映画を通した人々の交流空間として、新しい映画鑑賞の形を提示している劇場だ。地元住民でない限り行きつけにするには少々遠方だが、小旅行の目的地と思って訪ねてみれば、素敵な出会いが待っているに違いない。

ベストLGBT映画 50選
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ベストLGBT映画 50選

『The 50 best gay movies: the best in LGBT film-making』と題して、タイムアウトロンドンでLGBT映画のベスト50が紹介された。同ランキングは、LGBT文化のパイオニアであるグザヴィエ・ドラン、キンバリー・ピアース、ブルース・ラ・ブルース、トッド・ヘインズ、ジョン・ウォーターズらが挙げたベスト10をもとに作成された。 1位に選ばれたのは、カウボーイ同士の悲恋を描いた名作名作『ブロークバック・マウンテン』。そのほかにも、2013年にカンヌの最高賞パルムドールを獲得したことでも話題になった『アデル、ブルーは熱い色』、「ドロシーの友達?(彼はゲイ?)」という言葉も生み出したLGBT映画の古典『オズの魔法使』などがランクイン。LGBTとくくらずとも映画として素晴らしい作品が数多く選ばれているので、何を観るか迷った時の参考にしてほしい。

心に残る青春映画 50
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心に残る青春映画 50

あの時代を振り返る。さらば青春の光、ランブルフィッシュ、KIDS/キッズ、ドニー・ダーコなど青春を感じる映画を紹介

インタビュー・アーカイブス

インタビュー:塚本晋也
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インタビュー:塚本晋也

マーティン・スコセッシ監督が1998年に原作を読んで以来、映画化を熱望してきた、新作『沈黙-サイレンス-』がついに完成した。遠藤周作のキリスト教文学を原作とする同作品は、江戸時代初期に日本を訪れたポルトガル人宣教師たちの視点から、キリスト教弾圧の内面を、文化の衝突や信仰のあり方の違いを交え、人間の弱さ、神の不在を問う作品だ。本作で、敬虔なカトリック信徒のモキチ役を演じた、映画『鉄男 TETSUO』、『東京フィスト』、『野火』などの監督としても知られる塚本晋也に本作への思いを聞いた。

インタビュー:半野喜弘
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インタビュー:半野喜弘

パリを拠点に、映画音楽からエレクトロミュージックまで幅広く世界で活躍し、アジア映画の名匠たちの映画音楽を手がけてきた音楽家、半野喜弘の初監督作品『雨にゆれる女』が2016年11月19日(土)より公開される。本作は、本名を隠し別名を名乗って暮らす男(青木崇高)と、その男のもとに預けられた謎の女(大野いと)が、本当の姿を明かさないまま、次第に惹かれ合っていく姿と、悲しい運命の皮肉をサスペンスタッチで描いた作品だ。音楽家である半野が映画という表現にどのように向き合い、映画『雨にゆれる女』 は産み出されたのだろうか。 ーまず、現在パリに住まれているということで、移住されたきっかけなどを教えてください。 音楽の影響を受けたヨーロッパで音楽をやろうと思ったことがきっかけです。そして、大きな理由としては、当時自分のやっていることが偽物ではないかというコンプレックスがあって、それを確かめたいという気持ちがありました。実際に現地の人々に向けて音楽をやってみて、それが本物なのか偽物なのか確かめたかったんです。 ー音楽活動はいかがですか、アーティストとして活動しやすい環境でしょうか。 僕は、映画音楽以外には、テクノ、ダンスミュージックをやっていて、その一番面白いシーンがあるのはヨーロッパだと思うんですよ。あと、木曜にチリのサンティアゴ、金曜にブエノスアイレス、土曜にサンパウロと移動して、翌週にはメキシコに行って、など海外で公演をすると、呼んでくれた人はもちろん、僕を知っていて呼んでくれるのですが、来たお客さんの9割くらいは僕を知らないことが多くて、それが面白い。日本だと知ってもらっている前提がある。その前提がないのでだめだったらだめ、良かったら良いという反応がダイレクトに伝わってきて、自分のことを確かめられる環境だとは思います。 ー今回の映画はどのようなきっかけで制作することになりましたか。また、青木崇高さんを主演に選ばれた理由を教えてください。 ここ、5、6年ずっと映画を撮りたいと考えていて、ついに作る機会が巡ってきたという感じでしょうか。青木崇高とは、パリで偶然出会って、その10数年後に東京で再会しました。そのときに、俳優になった青木と2人で何かやろうと話していたこともあって。なので、主演は青木にお願いしたいと最初に思い浮かびました。 ー印象に残っている撮影でのエピソードはありますか。 すべてがそうなんですが、特に印象的なことが2つありました。 1つは、撮影前に青木と2人だけでリハーサルをしたときです。そのときに、演技ではなく人として、その場にいたときに主役に見えるようにしてほしいと頼みました。芝居うんぬんという事ではなく、存在そのもの、何もしなくても主演である健次であって欲しかったのです。2人で、飯田健次はどんな男で、どういう風にそこに立っているのだろうと考え、シーンを延々と繰り返しながら健次を作り込んでいきました。 そして2つ目が、撮影中盤くらいに、テーブルを左に回るというシーンを撮っていたときです。青木が「監督すいません、左に回れないんです」って言ったんです。理由を聞くと、「健次は左の方に回らない気がします」って。もうそのときには、僕は青木を健次だと感じていて、スタッフに話してカメラの位置などをすべて変えました。僕が思っている以上に彼が、健次という人になっていたので、本人ができないことを僕たちの都合に合わすことはできなかったんですね。

インタビュー:クエンティン・タランティーノ
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インタビュー:クエンティン・タランティーノ

10作品を作ったら引退すると表明している、クエンティン・タランティーノ監督。最新作の名作西部劇『ヘイトフル・エイト』は、8作目だ。ハリウッドで最も妥協しない男は、本当に監督業から身を引くつもりなのか。 本インタビューが行われたのは、12月初旬のビバリーヒルズホテル。タランティーノは、機関銃のような早口で、最新作について語ってくれた。今作『ヘイトフル・エイト』は、南北戦争後のワイオミング州が舞台の西部劇。猛吹雪の中ロッジに閉じ込められた、カート・ラッセル、サミュエル・L・ジャクソンらが演じる賞金稼ぎを含むクセ者たちを軸に、偏見についてのストーリーが展開する。 2014年初めに新作映画の脚本が流出し、激怒したタランティーノは製作中止を発表。その後、ファーガソンでマイケル・ブラウン射殺事件が起こった。その約2年後に満を持してアメリカの人種にまつわるシーンが書き加えられた本作が公開されることになった。20年以上の映画監督キャリアを持つタランティーノは、計10作品を撮り終えたら引退すると表明しており、本作は8作目だ。こんなに映画を愛している男が、どうして引退することができるだろうか。

インタビュー:ダニエル・クレイグ
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インタビュー:ダニエル・クレイグ

ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)の1日の始まりを教えよう。ハチミツ入りのダブルエスプレッソを2杯と、ポーチドエッグをのせたトースト。そして、ダブルエスプレッソをもう1杯。基本的にはカフェインに次ぐカフェインと、その衝撃を和らげるためのハチミツをとるのだ。7月に会った時、8ヵ月間にわたる壮大な『007 スペクター』の撮影を4日前に終えたばかりで、クレイグは疲労を回復させるためのものならすべて必要としている状態だった。本作のため、ロンドン近郊のパインウッドスタジオやメキシコシティ、モロッコ、オーストリア、アルプス、ローマを飛び回っていたのである。 ダニエル・クレイグがボンドに扮するのは4度目であり、サム・メンデス監督とタッグを組むのは10億ドルの興行成績を記録した『007 スカイフォール』に次いで2度目である。彼は『スペクター』がスタイリッシュでクラシックなボンド映画になるだろうと考えている。一瞬、青い瞳に恐怖の影がよぎった。「まったく、この業界で傲慢になるってことは恐ろしい」。そして、内なる熱意を抑えながら彼は語った「この作品が成功するのを祈るばかりだよ」と。プレッシャーは感じられなかったが、もう1杯ダブルエスプレッソが必要なのだろう。  

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ラ・ラ・ランド
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ラ・ラ・ランド

若き監督デイミアン・チャゼルが、アカデミー賞を受賞した映画『セッション』に続き、『ラ・ラ・ランド』を完成させた。本作は、ロマンチックかつスタイリッシュで、果てしなく独創的な最高傑作だ。大人向けのミュージカル映画とも言える本作は大袈裟に描かれておらず、それどころか、ジャック・ドゥミ監督による映画『シェルブールの雨傘』やスタンリー・ドーネン監督による映画『雨に唄えば』にも通じるような作品が、ロサンゼルスに広がる半分夢のような世界で描かれており、ロマンチックな愛の浮き沈みをいかにもハリウッドらしい陽気な寓話として凝縮させている。恋に落ちる主人公たちを演じるのは、人気俳優の2人。ライアン・ゴズリングはジャズ純粋主義者の売れないピアニストで自分の店を持つことを夢見るセブ、エマ・ストーンは映画スタジオのカフェで働きながら女優を目指す快活なミアを演じる。冬から秋、そしてまた次の冬を迎えるまでの物語が描かれており、その間に2人は出会い、口論し、戯れ合い、恋に落ち、それぞれの情熱と恋愛の間に生じる葛藤と向き合うことになる。本作で描かれるロサンゼルスの風景は、ジャック・ドゥミ監督と画家エドワード・ホッパーの融合だと表現できるかもしれない。すべてが淡い色調で描かれ、柔らかな光や薄明かり、街灯が映し出される。セットで再現されているが、時代を越えて1950年代の雰囲気がどことなく漂う。まるでミュージカルの黄金期が、独自のタイミングで訪れているようだ。夢心地でありながら横目で劇中劇のように見つめる視点がもたらされており、デヴィッド・リンチ監督が手がけた映画『マルホランド・ドライブ』、あるいはテレンス・マリック監督が手がけた映画『聖杯たちの騎士』のような歪んだ作品に少々通じる。しかし本作は、もっとずっと楽しくて寛大な作品だ。芸術にかける情熱と陶酔するような恋愛は共存が可能であるように描かれ、歌やダンスへの転換が大真面目かつ楽しく描かれている。 公式サイトはこちら 2017年2月24日(金)より全国公開テキスト:DAVE CALHOUN翻訳:小山瑠美© GAGA Corporation. All Rights Reserved.

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エヴォリューション
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エヴォリューション

ルシール・アザリロヴィック監督が描いた、忘れがたいほど奇異な物語の舞台となったのは、フランス沖のどこかにある人里離れた島だ。その島では、白い眉と黒い瞳を持った女性たちが少年たちを育てており、父親たちはどこにも見当たらない。昼には少年たちが珊瑚礁の広がる海へ泳ぎに行き、夜になると母親が彼らにドロドロに凝固したイカ墨のような液体を食べさせ、痩せ細った腕に薬と称する催眠作用のある粘液を注射する。ある夜、好奇心旺盛な少年ニコラ(マックス・ブラバン)は、なんとか投薬に耐え、母親(ジュリー=マリー・パルマンティエ)と暮らす質素な家から抜け出す。そして、彼が母親を追って海岸に出たところから、すべては奇妙な方向に進み始めるのだ。 少女たちの世界を描いた映画『エコール』を発表してから10年たったが、ルシール・アザリロヴィック監督は、まるでその間ずっと悪夢を溜め込んでいたかのように思える。長時間にわたる言葉のない静寂、恐怖をともなう緊迫、抽象的な映像美が描かれる本作には、ニコラが夜に抱く好奇心と、我々に根付いた原始的な不安をもって、その暗く神秘的な世界を見つめていた。物語の大筋が理解しやすく描かれながらも、美しい海の映像とデヴィッド・クローネンバーグ的なボディホラーが渦巻くなかで、そのドラマチックな質問に対する答えは海底に沈んでいく。 もし本作のテーマに一貫性があるとすれば、ルシール・アザリロヴィック監督が自律性を持つ男性の身体を裸にする傾向だろう。女性のキャラクターは、いわゆる意図を隠し持つ妖婦であり、夫や息子が感じる一般的な不安から生まれている。出産の不安というものを本来は無視する余裕があるべき性別に強制させることで、最もおぞましい場面が描かれていた。本作で遠回しに描かれるのは、想像と現実の境界が曖昧で、自分が理解できないものはすべて素晴らしいと同時に恐ろしいと感じた幼少時代への回帰だろう。 公式サイトはこちら 2016年11月26日(土)渋谷アップリンクほか全国順次公開 テキスト:DAVID EHRLICH 翻訳:小山瑠美

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スター・トレック BEYOND
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スター・トレック BEYOND

『スター・トレック BEYOND』は、観客を興奮させ、笑顔にさせるために、映画製作者たちが努力しているのが伝わってくる作品だ。1998年製作の『スター・トレック/叛乱』以降のシリーズにおいて、クラシックなテレビドラマのエピソードに1番近いように感じる。 本作では、エンタープライズ号は不時着した宇宙船の謎を追って探索に出発するが、無数の飛行物体の急襲を受け、岩に覆われた危険な世界でクルーは散り散りになる。そこで英雄的な活躍を見せるのが、カーク(クリス・パイン)とスコッティ(サイモン・ペッグ)。脚本も共同で手がけるサイモン・ペッグは、自身の役回りを著しく高めている。一方で、スポック(ザッカリー・クイント)は、適切に知性に訴えながら、自らの人種の未来を恐れ、先人の死について悲しみに暮れている。前作までスポックを演じた故レナード・ニモイを追悼しており、感動せずにいられない。また、撮影後にチェコフ役のアントン・イェルチンが悲劇的な死を遂げたのは記憶に新しいが、彼にも追悼の意を表している。 しかし、それでも喜びで舞い上がる雰囲気が前面に出ている作品だ。最初にクルーが惑星に足を踏み入れて以来、生き生きとした感覚で冒険や仲間とのつながりが描かれる。映画『ワイルド・スピード』シリーズを手がけるベテランのジャスティン・リン監督は、前作まで監督を務めたJ・J・エイブラムスを超える真のアクション映画の監督であり、戦闘シーンでは雷鳴のような轟音がとどろき、重力に挑む宇宙基地でのシーケンスは驚異的に描かれていた。 弱点となるのは、悪役だろう。イドリス・エルバがトカゲのような顔を持つ精神病質者クラルを熱演するが、彼は理不尽な怨念に突き動かされて戦う筋骨隆々の戦士の1人に過ぎない。ストーリーが揺らぐような矛盾点もいくつかある。しかし、全体を通して楽しく、気の利いた言葉、殴り合い、爆発、追跡、そして目を見張る効果に溢れ、お祭り騒ぎのような作品である。 公式サイトはこちら 2016年10月21日(金)全国ロードショー テキスト:Tom Huddleston翻訳:小山瑠美

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エクス・マキナ
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エクス・マキナ

理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士は、「人工知能の進化は人類の終焉をもたらす可能性がある」と警告している。現状では、ロボットが人工知能であるかどうか判定する「チューリングテスト」で、人間が人と会話していると騙されるレベルまでは、テクノロジーは進化していない。しかし、脚本家、小説家であるアレックス・ガーランドの監督デビュー作『エクス・マキナ』では、まさにそのテクノロジーが誕生する瞬間が描かれるのだ。 本作で、完全な人工知能の誕生については、かなり内密に描かれる。優秀なプログラマーのケイレブ(ドーナル・グリーソン)は、彼が勤務するシリコンバレーの企業を経営する巨万の富を築いたカリスマ社長(オスカー・アイザック)が所有する山間の別荘を訪れることに。ケイレブに与えられたタスクは、上司の新たな発明のテストに協力することだ。LEDが光を放ち、サーボメーターを装備したロボット「エヴァ」(アリシア・ヴィキャンデル)は、しなやかな女性の体型と、天使のように美しい容貌を持ち合わせていた。ケイレブは説得を聞かず、エヴァに夢中になり、彼女と気まぐれな大酒飲みの発明家との関係を知るにつれて彼女の将来を心配するようになる。 この物語には、ロマンスとディストピア、そしてスリラーの要素が含まれている。アレックス・ガーランド監督によってアートシアター系映画の進度で展開し、思慮に富んだ人間と機械の対話が続くことで、観客は筋道が浮かび上がるまで待つことができる。なによりも、アリシア・ヴィキャンデルが演じる魅力的なアンドロイドからは、目が離せなくなってしまうだろう。しかし、突然に停電が起きるなど、露骨なまでに意外な展開やぎこちない進展が見られ、ストーリーから信憑性が失われていた。もう少々高度な知能が備わっていれば、おそらく仕上がりも改善されただろう。 公式サイトはこちら 2016年6月11日(土)新宿シネマカリテほか全国ロードショー テキスト:TREVOR JOHNSTON翻訳:小山瑠美 (C)Universal Pictures

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