光と闇のクリスマス映画
Illustration: Lee Yuni

光と闇のクリスマス映画

SF、ホラー、ピンク映画まで、クリスマスが印象的な邦画をセレクト

Mari Hiratsuka
テキスト:
Mari Hiratsuka
Kisa Toyoshima
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タイムアウト東京 > 映画 > 光と闇のクリスマス映画

テキスト:後藤貴志
イラスト:Lee Yuni

クリスマスなんて嫌いだ。キラキラと輝くイルミネーションの「光」。その影で「闇」に身を潜め、独りポツリとつぶやいた。

今回、クリスマスが苦手な私が映画を選定した。それは、欧米ほどクリスマスが重要視されていない日本において、「闇」の側面からクリスマスという「光」にスポットを当てることによって、日本のクリスマスに新たな発見を得ようという試みでもある。

するとどうだろうか、セレクトした映画内でクリスマスは、人間の残酷さや矛盾を浮かび上がらせたかと思えば、人間の持つ根源的な美しさ、正しさを映し出す。クリスマスという「光」が人間の「闇」を浮かび上がらせ、「闇」は「光」を鮮烈にさせた。

悲しみ、慈しみ、喜び、怒り、そして再生。我々が備え持つ美しい感情の数々と可能性を、クリスマスが呼び起こし気付かせてくれる。

新たな発見とともに送る珠玉の10本を、今宵あなたへ。

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未来の想い出―ラストクリスマス―(1992)
Illustration: Lee Yuni

未来の想い出―ラストクリスマス―(1992)

監督:森田芳光

校庭をゆっくりと後ろ向きに歩く小学生たち。その頭上を飛行機の影が後退していく……。まるで『TENET』を観ているかのような映像。そう、時間が逆転しているのだ。

監督は『家族ゲーム』の森田芳光。特撮演出は『シン・ゴジラ』の樋口真嗣によるもの。王道のクリスマス映画でありながら、時を繰返す「ループもの」というところが面白い。

この映画の主人公、売れない漫画家の納戸遊子(清水美沙)はクリスマス翌日に突如死亡。目が覚めたら十年前に戻っていた。同じく過去に戻った友人の金江銀子(工藤静香)とともに人生をやり直す。

もし、過去に戻れたらどうするだろうか? 未来の知識を生かして金を稼いだり、失敗した恋人選びを必死に阻止するかもしれない。しかし、この映画を観て思ったことは、どんなに「未来の想い出」があったとしても、本当に大切なことを選び取るのはやはり難しいということだ。

きらびやかなバブルの時代、金でも名誉でもなく自らの心、本当の気持ちに従った時にこそ最高の人生をつかみ取れる。それこそが、クリスマスが彼女たちに与えた最高のプレゼントになるだろう。

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凶悪(2013)

監督:白石和彌

パチパチと爆ぜる炎の光が先生(リリー・フランキー)と須藤(ピエール瀧)、二人の横顔を暗闇から浮かび上がらせる。「いい匂いがする」「食いたくなっちゃうなぁ」とつぶやく二人が見つめるその先で、今まさに人間が焼かれている。「凶悪」、その二文字が頭に浮かんだ。

しかし、次の場面で二人はおどけたサンタに扮(ふん)し、家族を囲み暖かなクリスマスパーティに興じている……。先生も須藤も、家族のためには命を懸ける。そんな二人のターゲットにされるのは、社会から孤立した老人たちだ。

ノンフィクションベストセラー小説『凶悪―ある死刑囚の告発―』をもとにした本作。「生産性のない老人」を殺し、金へと換える悪魔の錬金術師の所業を暴いたのは一人のジャーナリストだ。事件を白日の下にさらすジャーナリストの藤井(山田孝之)は、ボケた母の介護に追い詰められる妻を蔑ろにしている。しかしこれは原作にはない、映画において脚色された部分だ。

社会で生きるため、時に家族や大切であった人を疎ましく思うことはないだろうか? この映画で加えられた脚色は、事件の根幹にある問題をあぶり出し、観る者の心の中の悪魔を浮かび上がらせるだろう。

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横道世之介(2013)

監督:沖田修一

1987年の新宿駅、一人の男がやってきた。名は横道世之介(高良健吾)。底抜けに明るい男である。この映画は世之介を中心に、学生時代の明るくきらびやかな様子と、16年後の現在の様子を対比的に描いていく。その中でも恋人である与謝野祥子(吉高由里子)とのやり取りは必見だ。

祥子との初めてのクリスマス。雪が降っていることに気づき外へと出た二人は、まだ誰の足跡も付いていないまっさらな雪の上にジャンプする。そして、初々しく抱擁しファーストキス。自分もかつてあったであろうそんな場面を思い起こして涙腺が崩壊した。しかし、よく考えたらそんな経験はなかった。映画とは不思議なものである。

青春時代のきらめきは初体験の連続で、それは雪の上に恋人と付けた足跡のように美しい。現在のパートの悲しい事実が対比となり、過去のパートはより一層輝きを増す。

今独りぼっちなあなたも、クリスマスにこの映画を観ればかつて存在した(かもしれない)きらめく体験ができるかもしれない。

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醜聞(1950)
Illustration: Lee Yuni

醜聞(1950)

監督:黒澤明

巨匠、黒澤明が描き出す感動の人間ドラマ。この映画の主人公は、三船敏郎演じる気鋭の画家である青江でも、山口淑子演じる美しい声楽家の美也子でもない。志村喬演じる貧しく卑しい弁護士、蛭田である。

彼は薄汚いゴシップで青江らを陥れた雑誌社を訴える立場にありながら、その雑誌社から汚れた金を受け取っている。とてつもなくひきょうな悪党に思えるが、そうではない。彼は本当に弱く小心者の人間なのだ。本当は正しいことをしたいと思っているが、目の前の誘惑にするりと取り込まれる。ついつい誘惑に負けてしまう自分も、この蛭田の行いが人ごととは思えなかった。

何度も誘惑に負け、その度に自分を責める蛭田。そんな蛭田と青江がクリスマスに下町の汚い飲み屋で一緒に過ごす。「来年こそは……来年こそはやるぞ!」という声と共に、スネに傷ある客たちとの『きよしこの夜』の大合唱。そして、ドブ川に映る夜空の星々を見つめながら、蛭田は改心することを決意する。彼が光輝く一番星になる瞬間を、ぜひ観てほしい。

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ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ(2009)

監督:根岸吉太郎

生きるのはなぜこんなにもつらく苦しいのか? そんな苦しみを抱える人にこそ、この映画を贈りたい。

戦後の混乱期、多額の借金を抱え浮気を繰り返し行きつけの飲み屋の金まで盗み、しまいには浮気相手と無理心中(未遂)……と、書いていてドン引きするぐらい人間失格な小説家、大谷(浅野忠信)。この映画はそんな大谷と妻の佐知(松たか子)との希望の物語である。

飲み屋の大金を盗んだ夫のため、人質となり働く佐知の所へ、キラキラ光る三角帽子に黒マスク、という派手な姿でやってくる大谷。その間の悪さ、おかしさはこの二人の関係を明確に表している。場末の店で佐知が叫ぶ「飲みましょう! クリスマスですよ!」

大谷とともに生きることで、ありとあらゆるものを失っていく佐知。しかし、全てを失った二人が迎えるラストシーンで感じるのは、絶望ではなく希望だ。この映画を観ればどんなにつらいことが起ころうと、生きることのはかなさや美しさに気付かせてくれるだろう。

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来る(2018)

監督:中島哲也

12月が近づくと街はクリスマスの装いに姿を変える。目を逸らそうとスマホに目をやれば、SNS上でも幸せそうな投稿が目に飛び込んでくる。爆発すればいいのに。きらびやかな情報は時に毒にもなり、私たちの心に闇を生み出す。

この映画はそんなあなた(と私)贈りたい最恐のクリスマス映画だ。新婚生活を送る田原秀樹(妻夫木聡)は、妻の香奈(黒木華)や子どもの知紗との幸せな生活をつづる「イクメンブログ」を熱心に更新する。素晴らしい同僚や親友に囲まれ、絵に描いたような生活を送っている。羨ましいなぁと思ってしまうが、実際はそうではない。

田原はその張り付いた笑顔の裏で浮気、妻への暴言、ネグレスト……。モデルルームのようなマンションに住みながら、ハリボテのような生活を送っている。そういった全ての虚飾を吹き飛ばすように、謎の怪異がやって「来る」のだ。

その実態は謎に包まれているが、登場人物の心の闇が実体化したものと言っていいかもしれない。前半のドロドロした人間の心理描写に嫌な気持ちになるが、その展開をバネに訪れるクリスマス当日の壮絶バトルは必見の展開。イクメン、マンション、親友……全ての虚飾を吹き飛ばした後に降る雪は、私たちの心の闇をきっと洗い流してくれるはずだ。

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ゴーストスープ(1992)
Illustration: Lee Yuni

ゴーストスープ(1992)

監督:岩井俊二

1992~93年にフジテレビの深夜枠で放映された『La cuisine』の中の一本(ほかにも同じく岩井俊二作『FRIED DRAGON FISH』がある)。ひょんなことからクリスマスに引っ越しをすることになった気弱な一郎(渡浩行)と、その引っ越し先に突如訪れた不思議な少女(鈴木蘭々)と外国人(デーブ・スペクター)とのやり取りを描く。

この作品で最も面白いのは、クリスマスに地縛霊と過ごすところだ。この世に恨みつらみを残した霊たちは孤独に現世をさまよっている。そんな霊たちに一年に一度、温かいスープを振る舞うことにより現世の恨みを忘れさせ、時に成仏させる。

そんな二人組に惑わされた一郎は、見知らぬ路地に迷い込む。しかし、そこはかつて愛した祖父が住んでいた家だった。祖父が亡くなった日、まだ幼かった一郎は祖父とともにスープを飲んだことを思い出す。その時、祖父の家に多くの霊たちが集まっていたのだ。

まだ純真だったころの記憶を取り戻した一郎は、冥界から遣わされた二人組と街を奔走する。パーティーの支度を整え、地縛霊たちと大騒ぎする彼らととともに過ごせば、きっとクリスマスを楽しめるはずだ。

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21st century girl(18才 下着の中のうずき)(2001)

監督:坂本礼

20世紀末から21世紀にかけて、どんな印象を持つだろうか? それは1999年に開設された匿名掲示板の2ちゃんねるや、2001年に公開された映画『リリィシュシュのすべて』が物語っているように、「つながり」や「死」というネガティブな印象と甘い気だるさを持つように思う。

この映画では20世紀の終わり、2000年のクリスマスから21世紀にかけて女子高生の自殺が連鎖していく様を描く。「生き続ける意味が見つからない」「歳をとって汚れる前に死にたい」漠然とした理由で死を選ぶ少女たちのことが理解できない……そう思うとしたら、私たちが大人になった証拠だろう。

誰かとつながってさえいれば死を免れることは可能だったのではないかと思ってしまうが、つながっているからこそ死を選ぶこともあるはずだ。自身を取り巻く世界から疎外感を感じるとき、同じ少女たちの死の輪に入る。自殺、その行為は純粋で潔くも思える

この映画で主人公の少女を死から引き止めるのは、もう若いとは言えない男の言葉である。
「長生きすることが幸せかなんて分からない。でも、今は死ぬな。死なないでくれ」

生きることに意味などないのかもしれない。しかし、それでも潔しとせず生き続けることで、意味ができるはずだ。

2000年代末のクリスマス彩る渋谷の街並み。そして、実際の映像が使用された21世紀を迎えた瞬間の渋谷スクランブル交差点。その熱狂の中にたたずむ二人を見つめながら、ただただ生きていこう。そう心から思える作品だ。

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復活の日(1980)

監督:深作欣二

世界中で未知のウイルスが発生。対策が取れずに人々は倒れ、孤立していく。このような状況が実際に起きた現在、何が本当に大切かを考えた人は多いのではないだろうか? この映画もパニック映画でありながら、人間にとって何が本当に大切かを問いかけてくる……。そう、つまり愛だ。

世界中で生き残ったのは各国南極観測隊の863人。その中で女性は8人のみ。人類存続のため、多くの男性の相手をさせられる女性たち。愛とは程遠い展開である。華やかなクリスマスパーティー会場では、誰の子か分からない赤子を抱いた女性たちがお通夜顔で並んでいる。そんな中、好きな女のために外で雪だるまを作っているのが本作の主人公、吉住周三(草刈正雄)だ。

クリスマスに彼が何をしているのか? 後悔しているのだ。南極行きを優先し、自らの子を宿した彼女を置き去りにして孤独に死なせたことを。吉住の作っている雪だるまは、地蔵にもマリアにも見える。それは、この映画が観る者の心を映し出す鏡の役割を持っていることの象徴だろう。

最後、アメリカの核ミサイルシステムが暴走。吉住は今度こそ大切な人を守るため、自ら犠牲になることを決意する。アメリカへと向かうもミサイルは止められず、南極基地は壊滅してしまう。愛を忘れた人類は滅びる運命だったのだ。

奇跡的に生き延びた吉住は旅に出る。果てしなく歩き続けたその風貌は、まるでキリストのようである。苦難の果てに再開する南極基地の生き残りの女性と子どもたち。その日こそ、人類にとって本当の「復活の日」の始まりなのであった。

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his(2020)

監督:今泉力哉

「好き」について映画を撮り続けた、今泉力哉による本作。ゲイでありながら玲奈(松本若菜)と子をもうけた渚(藤原季節)は親権問題でもめるなか、かつての恋人である迅(宮沢氷魚)の所へ子どもの空を連れ、突然やってくる。かつて迅は渚と別れた後、都会の世知辛さもあり田舎へと移住していた。

現代のセクシャルマイノリティの生きづらさを通して、働く女性のシビアな現実も同時に描く。この映画を観て感じたのは、男性や女性というカテゴリーに強く支配されて人を分類することの愚かさだ。ゲイであっても女性を愛し子をもうけることもある。子どもも大切だが、自らの仕事も大事な母親だっている。

じっと押し黙っていた迅と、天真爛漫(てんしんらんまん)に見えた渚の事実が露見し感情がぶつかり合うクリスマスシーンを転換点として、それぞれの関係性が浮き彫りとなる。本当に大切なものを選び取るために、奪い合うのではなく他者を尊重する選択をする渚。この映画を観たら、誰かにとってもっと寛容になれる。そう力強く思える傑作だ。

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後藤貴志

ライター

後藤貴志

大学在学中、ENBUゼミナールで映画を学ぶ。映画やドラマの制作部、配給会社などで働くも挫折。現在はトラックドライバーでありながら、シナリオやフィルムでの制作も行う。

クリスマスデート当日にコンビニで3時間も待ちぼうけ、偶然通りかかった友人であるアラビア人のベンツを洗車させられた結果、クリスマスが嫌いになった。

Lee Yuni

イラストレーター

Lee Yuni(李 潤希)

大学在学中から、イラストレーションやグラフィックデザインを用いたアートディレクションを始める。近年では映画や舞台などの宣伝美術、映像制作などアートディレクターとして活動する傍ら、映画、女の子やファッションをモチーフにしたイラストや漫画を制作。自身のイラストTシャツを販売することもある。


公式ウェブサイト

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今観るべき映画といったわけでもなく、全くもって自由に、東京をテーマに10の映画を選ばせてもらった。とは言え、東京の括りでは膨大な数の作品が対象になるので、ここでは「東京で実際に撮影されていること」「比較的近年の作品」そして主に「海外の監督の作品」を中心に紹介する。

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2010年代に公開されたLGBT映画5選
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2010年代、世界と日本で話題になった経験と回想をめぐる5編のLGBT映像叙事詩。私たちは過去に縛られては生きていけないが、過去を何度も回想し救済してあげること。過去は完全に終了してしまったことではなく、未来と同様に現在にも含まれていて、何度も物語し直す必要がある。そのことではじめて「いま」を生きることができる。

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