デボラ・クラーク
デボラ・クラーク

イギリスのホテル経営者に聞く、これからのホスピタリティー業界

再開に向けたポストコロナの新たな指針

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タイムアウト東京 >ポストコロナ、新しい日常。> インタビュー:デボラ・クラーク

テキスト:ロブ・オーチャード
翻訳:トノタイプ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。

今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第9弾では、イギリスでホテルを経営しているデボラ・クラークに、新型コロナウイルス感染症がホスピタリティー業界にもたらした影響とホテル経営者たちが進むべき道について聞いた。

アフターコロナ、ビジネスの展望

私たちのブティックホテル、サザンヘイハウスは、国内外からの観光客に人気のエリア、デボン州のエクセターにあります。このホテルの予約は3月に減少し、政府が公式にロックダウンを発表した時にはすでに、一時的にホテルを閉めることを決めていました。ですから、政府の指示は必要なかったのです。

サザンヘイハウスは、比較的静かな街にある小さなブティックホテルで、業界では異例の存在と言えるでしょう。とても安心して過ごせるような場所なので、制限が緩和されれば、実はプラスになると考えています。客室数は12室。顧客を個人として扱い、個々のニーズに対応することにこだわり続けてきました。

これまでは、イギリス国内と国外からの顧客が半々くらいでしたが、これからは明らかに変わるはずです。しばらくは国内にシフトしていくことになるのではないかと思います。ただ、価格帯が高く、法人利用は見込めないでしょう。私たちには、このホテルを我が家のように思って、月に1、2回は来てくれる、非常にロイヤルティーの高いビジネス客がいました。もっと頻繁に利用してくれる客層は、大学生の子息を持つ、親御さんたちです。大学都市であるエクセターは、イギリスのほかの大学都市と同じ立場にあり、衰退傾向にある大学ビジネスにとても依存しています。このビジネスモデルが少しでもあるなら、何とか続けていかなければなりません。

営業再開に向けた新たな運営ルール

以前所有していたホテルを売却したため、借金がないという点では、私たちは本当に幸いでした。資金面では安定しており、ホテルの工事プロジェクトの先を見据えて実際の予算を組みました。

その工事プロジェクトは、ホテルが閉じている間に進めていましたが、かなり素晴らしい拡張となりました。休んでいる間に取りかかれたのは、かなり幸運でした。ホテルを営業しながら工事を進行するのは非常に難しく、時間がかかってしまいますから。

同時に、ホテルの営業再開に向け、新たな運営ルールについても考えてきました。それは、手指消毒剤の設置はもちろん、キッチンに入るのは一人に、ビュッフェも中止、ルームサービスはドアの外へ置く、メニューはQRコードで読み込む形式に、部屋についての説明も個別に案内する代わりに動画を見てもらう、こうした準備全てです。

私は本質的に楽観主義者です。そうでなければホテルにはいないだろうと思います。人々は自分の力で問題なくリスクを判断できるだろうと思っているのです。ホテル業界では、あらゆる領域のリスク評価を継続的に行っていて、降りかかってくるリスクと常に向き合わねばなりません。今回の新型コロナウイルス感染症は深刻ですが、これまでも私たちはホテルのあらゆる場所をチェックしてきました。ですので、ある意味では、その警戒レベルを強化するだけとも言えるのです。

この点でも、小さなホテルであることがメリットになるでしょう。顧客の様子を逐一把握することで可能ですし、もし心配されている方がいれば、ホテルの講じている対策を説明することもできます。しかし、私が一番望んでいるのは、私たちが料理やベッドメイクをして、顧客にはリラックスしてもらうこと。そのように私たちが万事うまく差配していることを知ってもらい、顧客に心強く思ってもらうことが最も望ましいのです。

今回の増築では、一休みできる場所を増やしました。床にソーシャルディスタンスの目安となるサインを付けるつもりはありません。個人的には、あのようなやり方は、生身の人間にするべきこととは正反対で、ホスピタリティー業界においても真逆のことだと思います。テーブルとテーブルの間にスクリーンを設置するようなことは、誰の体験も豊かにしないでしょう。人には分別があるので、できる限り重くならないようして、顧客が本当に安心できるようなことをしていこうと思います。

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岐路に立つホスピタリティー産業

ホスピタリティー産業は今後、二つの道のどちらかに進むと思います。私たちは自分たちの考え方を変えずに、価格を切り下げることはしていません。一方で、規模があるホテルチェーンは積極的に価格を下げる必要が出てくるでしょう。そして、顧客側が自身でリスクを判断し、どのレベルのサービスへ料金を払うかを決めることになると思います。

イギリスのホスピタリティー業界では、ロックダウンが解除された後は、誰も遠くには行かなくなるので、国内が盛況になるだろうといううわさがあります。人々は、自宅から1、2時間以内で行ける、短時間の移動を求めるようになるかもしれません。その点では、我々のホテルはぴったりなのです。

もう一つの傾向は、人々が自分のお金の使い方を非常に賢明に選ぶようになるということです。私自身はこれまで、オンライン旅行代理店や割引コードなどのプロモーションが好きではなかったですが、真の価値がどこにあるのか、みんなが気付くようになったらいいと思っています。そのことで、人々は、自身のお金を複数の第三者への手数料としてではなく、サービスを提供する人へ直接の対価として使っていることを実感できるのではないでしょうか。

ロックダウン後、消費者が本当の違いに気付いてくれることを、私は心から願っています。それが、衛生的なこと、デザインについての細かいこと、あるいは飲み物を提供する人の性格であっても、重要なことに変わりはありません。なぜなら、どこで、なぜ、お金を使っているのか、これまでよりも意識するようになるからです。

知性と楽観主義で再出発する

このロックダウン期間中に現在の仕事の成功はスタッフのおかげだということに気づけたのは本当に大切なことでした。彼らはこの仕事にとって不可欠な人たちであり、私たちと長い時間を一緒に過ごしてきてくれました。

彼らは皆、働くことができないことに不満を感じています。不満の一部は、政府の関心事の中では、ホスピタリティー業界が後回しにされていることから生まれているのです。ヨーロッパの多くの国では、人間性と人間関係の必要性を認識し、早くからレストランやバー、カフェの再開に力を入れてきたのですから。

誰もが再出発のための戦略を持っていることでしょう。しかし、一つはっきりしているのは、政府が作り上げた混乱を人々は当然のように無視しているということです。そして、自分たちで自身の道を切り開き、自身のビジネスの精査を見て、知性と楽観主義でそれにどう対処していくかを考えているのです。

デボラ・クラーク
Deborah Clark

デボラ・クラーク

元航空機ファイナンスの弁護士。2001年に夫のトニーとともにバーグ島ホテルを購入、同ホテルの事業を大成功に導き、2018年にロンドンを拠点とする合弁企業へ売却した。2010年には、エクセターの中心部にあるサザンヘイハウスを購入し、地元の歴史と趣を感じさせるシックなブティックホテルへと発展させている。また、ナンバーナインエグゼ(Number Nine Exe)というオフィススペースのオーナー兼デザイナーを努め、ジョージ王朝時代式のタウンハウスをオープンプランで使える、現代的でユニークな空間へ生まれ変わらせたことでも成功を収めた。

  • Things to do

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。ここではアーカイブを紹介していく。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第1弾では、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブに精通し、プロダクト、サービスからブランド構築まで幅広く手がけるTakram代表の田川欣哉に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第2弾では、世界最大の旅行プラットフォーム、トリップアドバイザーの日本法人代表取締役を務める牧野友衛に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第3弾では、雑誌『自遊人』の編集、米や生鮮食品、加工品などの食品販売、里山十帖(新潟県南魚沼市)や箱根本箱(神奈川県箱根町)などの宿泊施設を経営&運営する自遊人の代表取締役 、岩佐十良に話を聞いた。 ※現在クラウドファンディングも実施中、公式サイトから確認してほしい。  

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  • トラベル

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第4弾では、岐阜県飛騨古川にて、里山や民家など地域資源を活用したツーリズムを推進する、美ら地球(ちゅらぼし)代表取締役の山田拓に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第5弾では新宿、歌舞伎町の元売れっ子ホストで現在はホストクラブ、バー、美容室など16店舗を運営するSmappa! Group会長の手塚マキに話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第6弾では、ウェブデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティーデザイン、空間デザインなど年間300件以上のプロジェクトを手がけるロフトワーク代表取締役の林千晶に話を聞いた。

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音楽界の先駆者であり、ユネスコの親善大使でもあるジャン・ミシェル・ジャールが、4月に行われた第1回『レジリアート(ResiliArt)』に参加した。ユネスコが主催する『レジリアート 』は、新型コロナウイルス感染症が世界的流行している現在の、そしてポストコロナ時代のクリエーティブ産業について、主要な文化人が語り合うバーチャル討論会だ。 シリーズ第7弾では、ORIGINAL Inc. 執行役員でシニアコンサルタントを務める高橋政司が、ジャン・ミシェルに新型コロナウイルス感染症の大流行がアーティストにもたらした課題、この危機でクリエーティブ産業がどう良くなる可能性があるのか、などについて聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第8弾では、Toshiko Mori Architectのファウンダーで、ニューヨーク在住の森俊子にコロナ危機が起きて以来の生活を形づくるデザインの役割について話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第10弾では、現在WIRED CAFEを筆頭に国内外で約80店舗を展開、カフェ文化を日本に浸透させた立役者であるカフェ・カンパニー代表取締役社長の楠本修二郎に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第11弾では、イギリス帝国戦争博物館の館長で、国立博物館長評議会の会長を務めた経験も持つダイアン・リースに、世界中の博物館が新型コロナウイルス感染症の流行にどう対応すればいいかについて聞いた。

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  • ナイトライフ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビューシリーズを行っている。 第12弾は、風営法改正やナイトタイムエコノミー推進におけるルールメイクを主導してきた弁護士の齋藤貴弘だ。国内外の音楽シーンやカルチャーに精通する齋藤に、日本のナイトタイムエコノミーや文化産業が直面する現状、そして、そこから見える日本の新しい文化産業の可能性を聞いた。

  • Things to do

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画を連載している。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第13弾では、廃棄物処理事業者として都市のごみ問題と向き合ってきた日本サニテイション専務取締役の植田健に、コロナ危機下の東京におけるごみ問題にどのような変化が起き、ポストコロナ時代のごみ処理にとっての課題は何か、話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画を連載している。 緊急事態宣言下、外出自粛要請が出された東京都心は、ゴーストタウンのように静まり返った。そこで改めて浮き彫りとなったのが、過密都市東京の抱える課題だ。あらゆるものが密に集まる都市のリスクとは何か。人々が快適に暮らし、働き、楽しむ理想的な街の姿とはどのようなものなのか。シリーズ第14弾では、都市空間の在り方を問い直し、さまざまな実験的アプローチで新たな空間価値を提案し続けるライゾマティクス・アーキテクチャー主宰 、齋藤精一に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビューシリーズを行っている。 第15弾はロンドンのタイムアウト編集部からニューヨーク在住の気候科学者ゲルノット・ワーグナーにインタビューを申し込んだ。ニューヨーク大学准教授として活動する気鋭の研究者が、新型コロナウイルス感染症による危機が地球に与える影響について語ってくれた。

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