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岩佐十良

インタビュー:岩佐十良

「観光」は、世界平和の象徴

作成者: Time Out editors
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タイムアウト東京 >ポストコロナ、新しい日常。> インタビュー:岩佐十良

テキスト:堀 香織

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。

今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第3弾では、雑誌『自遊人』の編集、米や生鮮食品、加工品などの食品販売、里山十帖(新潟県南魚沼市)や箱根本箱(神奈川県箱根町)などの宿泊施設を経営&運営する自遊人の代表取締役、岩佐十良に話を聞いた。

※現在クラウドファンディングも実施中、公式サイトから確認してほしい。

 

観光業の破壊は、平和の破壊に

雑誌『自遊人』を作り始めた頃から、「豊かな暮らしの提案」と「メディアの価値」についてずっと考え続けてきました。雑誌編集、食品販売、宿泊施設の経営は、一見するとつながりがないように思えるかもしれませんが、私たちはこれらをモノの本質を追究し、新しいライフスタイルとして皆さんに提案、提供していく「リアルメディア」として捉えています。

当然ながらこの新型コロナウイルス感染症の影響により、宿泊施設は危機的状況にあります。里山十帖と箱根本箱は、4月末日までは通常通りオープンしており、「チャレンジ非接触」と称して、お客さんに接する機会を減らしながらも満足していただける仕組みを毎日試行錯誤しています。創業31年ですが、スタッフを一度も解雇したことがないのがちょっとした自慢なので、今回も解雇を一切せずに維持継続できる道を懸命に模索中です。

国が観光業や飲食業などに対し、補償が明確ではない中での自粛を申し渡していることには、正直絶望感しかありません。そのようなことをすれば、全産業に影響が出ることは分かっていたはず。実際、わずか1カ月で観光業や飲食業は瀕死の危機に直面しており、ほかの産業も同じ道を進む可能性が出てきています。経済を中心に発展してきた日本が、なぜこれほどまでにその経済を捨て、立ち直れそうもないところにまで突き進んでいくのか。まるでネズミが集団で海へと暴走しているようにしか私には見えません。

もしかするとそれも一つの人間の潜在的な反動なのでしょうか。人口が増え過ぎると世界的に病気が蔓延するなどとよく言いますが、新型コロナウイルス感染症はあくまできっかけに過ぎず、人間自体が大きな「疫病」にかかっているのではなかろうか。そうでないと、この経済無視の行動は説明できないと思うのです。

観光は「平和産業」の代表です。価格帯の高いレストランも同様ですが、世の中が豊かで平和でないと潤わない産業。逆説的に言うなら、これらの経済活動を中止してしまうのは、世の中の豊かさ、平和を破壊することにつながりかねません。 

東日本大震災の時も、宿泊施設こそありませんでしたが、食品販売は壊滅的となりました。交通網が途絶え、人々の消費行動が抑えられ、特に生鮮食品は保存がきかないので非常に苦しかった。しかし、いわゆるマーケットは存在したので、「この時期さえ乗り切れば未来は開ける」という希望が持てました。今回は、将来のマーケット自体が消失してしまうという恐怖、平和が失われるという恐怖があります。それは借金以上に苦しいことです。

分断が進む世の中で、自然界から学べること

アフターコロナに関しては、サステナブルな世界へかじを切ろう、自然と寄り添う暮らしを進めようという動きも少しは期待できるでしょう。しかしそれ以上に、所得の格差はより開き、富の一極集中もさらに進むだろうというのが私の見解です。なぜなら、このコロナ禍は、世の結束よりも分断を進めているからです。

人と人との物理的な接触がリスキーになっていく以上、物理的な分断が加速されるのは間違いありません。例えば出かける、出かけないということ一つ取ってもそうですし、営業自粛に対しての賛否、もうかっている職業とどん底に落ちている職業の差、国の利害関係なども分断し始めている。おそらく食料に関しても分断の可能性が高まるでしょう。

人は二度の世界大戦を経験し、賢くなったはずではなかったか。東西の冷戦時代を経て世界は平和の方向性に向かったのではなかったか。SDGsを合言葉のように言うこの時代、人々はさまざまなイデオロギーを認め合う寛容性を持ち得たのではなかったか。残念ながら、今回のコロナではいろんな対立軸、派閥的な分断が次々に起きている。これは明らかに人間力と社会組織力の劣化ではないか、と非常に暗澹(あんたん)たる気持ちになるのです。

そういう時に、慰みや癒し、励ましになるのが、やはりこの里山の風景です。この景色、自然の営みは全く変わっていません。オフィスの目の前では桜が満開を迎え、水仙や菜の花も見事な花を咲かせ、鳥はさえずり、新緑も芽吹いている。自然界にとってみれば、新型コロナウイルス感染症なんて関係ないわけです。唯一騒いでいるのが人間であって、自然界の花鳥風月は人間の滑稽さに呆れ果てているかもしれません。もちろんその滑稽な中に私も飲み込まれ、完全に翻弄されている。翻弄されている自分と、生命の営みを淡々と続ける自然を交互に眺めつつ、この差はいったい何なのだろうと考えてしまいます。

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新しい時代に適応するアイデアや知恵は地方にこそ生まれる

人間らしい豊かな暮らしを失わないために、私たちはこれからどのように襟を正して生きていけばいいのでしょうか。

一つの方法として、地方への引っ越しをおすすめします。年収は落ちますが、お金に縛られるということが本当に減ります。そして新しい生き方、世界の捉え方ができるようになります。 

弊社は16年前、東京都日本橋から新潟県南魚沼市に移ってきました。まさに当時「雑誌編集はテレワークでもできる」と考えたわけで、実際インターネット上の音声で東京との打ち合わせもできたし、写真や原稿を入稿することもできた。密に連絡を取らなくなった分だけ東京の仕事は減ったけれど、だからこそ「何をしたら稼げるのか」を必死に考えるようにもなった。その結果、新しいアイデアや知恵が生まれ、製品や場所ができ、新しい人間関係が構築され、世界が広がりました。 

そのような16年の実体験を通して感じるのは、「日本経済は地方が中心になって回っている」ということです。東京を中心に経済が回っているのではない。第一に、食糧は東京ではなくて地方で作られている。第二に、人口は地方から流出して東京に流入しているのであって、生んでいるのは地方である。つまり、経済の根幹となる食糧と人を生んでいるのは、地方なのです。 

だから私は今後も、今の仕事の延長線上を淡々と進もうと考えています。その先にこそ、アフターコロナの新しい時代に適応したアイデアや知恵が生まれてくることを信じて。そして地方が東京と対等に話ができる社会、地方が中心になってより良き未来を考えていける社会を作っていきたいと思っています。その点から言えば、このコロナはいい契機になるのではないでしょうか。 

お金と時間の使い方も変わっていくでしょう。「モノからコトへ」という時代があり、今は「コトからトキへ」と言われ、これからは「真の豊かさとは何か」を自身に問う時代になると考えます。コロナ禍によって、平和的に起きる革命なのか、暴動のような革命なのか分かりませんが、価値観が何がしかの形で大きく変わるでしょう。それが良い方向性で起こるかどうか、人の振る舞いが試されます。

これはスタッフにも最近よく話すことなのですが、分断による争いや価値観の違いが起きても、糾弾したり攻撃したり差別をしたりしないことが本当に重要です。一人一人が平和を大切におもんぱかっていけば、それこそインバウンドにしても観光にしても比較的早めに戻ってきてくれるのではないでしょうか。

こんな状況ではありますが、地方の時代が徐々にやって来ていることを感じています。皆さんが地方に移住し、新しいアイデアやコミュニティーが増えることを大いに期待しています。

岩佐十良
岩佐十良

岩佐十良(いわさ・とおる)

株式会社自遊人代表取締役、クリエイティブディレクター。1967年、東京都生まれ。武蔵野美術大学4年の時に、編集プロダクション、クリエイティブカラット創業のため退学。1990年12月に株式会社化し、代表取締役に就任した。2000年、雑誌『自遊人』を創刊。2004年1月、オフィスを新潟県南魚沼に移転し、2010年に農業生産法人自遊人ファームを設立。東日本大震災後の2012年5月には「廃業した温泉宿を引き受けないか」という依頼があり、施設を運営することによって震災で大打撃を受けていた食品の風評被害も払拭できるのではないかと思い至り、14年5月に宿泊施設、里山十帖(南魚沼市大沢温泉)をオープン。同年、グッドデザイン賞BEST100、ものづくりデザイン賞(中小企業庁長官賞)を受賞する。2018年8月、蔵書1万2000冊が全て購入できる書店機能を備えたブックホテル、箱根本箱(箱根市強羅温泉)、築100年以上の町屋をリノベーションしたメディア型ホテル、講 大津百町(滋賀県大津市)を開業。現在準備中の松本十帖(長野県松本市)、杉村、白光(ともに魚沼市銀山平)は今夏オープンを目指す。

自遊人が運営する、無添加、有機、オーガニック食材の通信販売『オーガニック・エキスプレス』では、土鍋などの台所用品、天然素材の寝具や衣類、産地直送の木工家具なども販売している。

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インタビュー:田川欣哉

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インタビュー:牧野友衛

トラベル

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里山十帖
里山十帖

「里山十帖おうちごはん」の滋味で心と体を癒す

ニュース レストラン

数カ月先まで予約が取れないことで知られる温泉宿、里山十帖 が取り寄せを開始した。滋養たっぷりのメニューを自宅で日替わりで楽しめる。 『自遊人』がプロデュースする里山十帖は、新潟の大沢山温泉にあるライフスタイル提案型複合施設。築50年以上の古民家をフルリノベーションし、モダンなデザイナー家具をコーディネイトした館内は唯一無二の空間だ。標高2000メートル前後の信越国境の山々を望む絶景風呂『湯処 天の川』、目に入る部分は全て総檜、総漆であり、雪の重さに耐える太い梁や柱が豪華な『早苗饗―SANAEBURI-』も圧巻だ。 大地の恵みを感じられる野菜や山菜をメインとした料理が忘れられず、田植えの春、長岡花火の夏、収穫の秋や雪景色の冬と、春夏秋冬を通じて訪れるリピーターも多いという。 『鯖のトマトにんじんカレー』や『新潟産うち豆カレー』『新潟の天然山菜ビビンバ丼』『雪室(ゆきむろ)キャベツの五目あんかけ』は、いずれも無添加、無化調で保存料は不使用。新潟魚沼の旬のオーガニック野菜は目にも鮮やかで、心と体を整えてくれるだろう。   里山十帖 魚沼産のコシヒカリ   そして、里山十帖の料理のメインデッシュは何と言っても魚沼産のコシヒカリ。朝食でも使っている南魚沼塩沢地域で収穫されたコシヒカリをはじめ、新潟の米も購入できる。 価格は1週間分で4,900円(1人7食分)、単品でも各1食800円で、毎週や隔週などで発送もできる。自宅でも忙しい日々を送るリモートワーク勤務中には、温めてごはんの上に盛り付けただけで完成する『里山十帖おうちごはん』が社員食堂の役目を果たすだろう。 雪国新潟ならではの伝統野菜や発酵食品などの食文化を楽しみつつ、栄養面をカバーできるのはありがたい。   里山十帖   食通が求めてやまない里山十帖の味覚を気軽に自宅で味わえるのは今。家で過ごす時間をより豊かにするためにも、『里山十帖のおうちごはん』で1週間を過ごしたい。 購入はこちらからできる。 テキスト:間庭典子 関連記事 『東京、テイクアウト&デリバリーガイド』 『東京、今こそ取り寄せたい「おやつ」便』

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