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田川欣也

インタビュー:田川欣哉

デザインの力で社会を再構築する

作成者: Time Out editors
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タイムアウト東京 >ポストコロナ、新しい日常。> インタビュー:田川欣哉

テキスト:庄司里紗

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。

今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第1弾では、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブに精通し、プロダクト、サービスからブランド構築まで幅広く手がけるTakram代表の田川欣哉に話を聞いた。

物理世界から引き離されて、初めて見えたこと

コロナ危機によって世界は今、大きく変容しています。あらゆる物理的な接触が避けられ、在宅勤務が当たり前になり、家族と過ごす時間が増える。私自身にとっても、それはこれまでの人生で味わったことのない大きな変化といえます。

一方、Takramとしてはコロナ危機の前から業務のデジタルシフトはかなり進んでいて、これまでも海外とのオンラインで会議やリモートワークは日常的に行っていました。しかし、そんな私たちでさえ、やはり「ビジネスの軸足は物理世界にあった」ということを強く実感しています。

それはつまり、組織としてビジネスを進めていく際、私たちは前の世代の人々が試行錯誤して編み出した最適な仕組みを無自覚に活用していた、ということです。そもそも快適なオフィスがあり、会議室があり、それぞれに机と椅子があるのはなぜなのか。昼休みが1時間と決まっているのはなぜなのか。それは人が集まって働くようになった産業革命以降、誰かがオフィスや昼休みを「発明」したからにほかなりません。これまで全く意識しなかったけれど、そういった働く場のベストプラクティスは常に発明され、ひっそりと改善され続けていたわけです。コロナ危機によって、改めてそのことに気付かされました。 

と同時に、そういう部分にこそ、ポストコロナ時代にデザインが果たすべき役割のヒントがあると思うのです。そもそもデザインとは、人間と人工物の間にある融合し得ない断面を滑らかに接合し、より快適に使えるようにするための手法です。コロナ危機によって人間と物理世界の距離が広がった今、人間の身体と人工物との間のギャップは、極大化しつつあります。その不一致をできる限り埋めるためには、これまでに僕らが築き上げてきた社会インフラや知識を大きく見直し、デザインの力で再構築する必要がある。僕はそう思っています。

イノベーションは、不安定な揺らぎの中から生まれる

そういう動きは、すでに世界各地で始まっています。例えばウイルスの感染拡大が深刻なアメリカでは、ドアノブからの接触感染を防ぐため、ドアを肘で開けるツールの開発や、足で開ける補助具の設置が進んでいます。すでに最適化が終わったはずのドアノブの形状に、再びイノベーションが起きている。「車輪の再発明」ならぬ「ドアノブの再発明」が現実に行われているわけです。

日本でも病院に行かずに受診できるオンライン診療や、釣り銭の受け渡しが不要なキャッシュレス化などが、これまでとは比べものにならないスピードで進んでいます。このように、あらゆる領域においてイノベーションが加速することは、ポストコロナ時代の数少ない希望の一つかもしれません。

環境が不安定に揺らぐときこそ、新しい何かが生み出される。そのような現象は、これまでの地球の歴史上においても、何度も起きてきました。例えば生物学では、異なる生態系が接する場所、例えば波打ち際のような場所で生物多様性が増す現象を「エッジ・エフェクト」と呼んでいます。僕らの社会も、今まさにコロナ以前の世界とコロナ後の世界の狭間で揺らいでいる。そんなエッジ化する社会には、多様な種を育む波打ち際と同じく、新たなモノやコトを生み出すダイナミズムが潜んでいるのではないでしょうか。

コロナ危機が終息するまでの期間については諸説ありますが、私自身は最低でも2年はこの状況が続くと考えています。2年という猶予は、社会のシステムが根底から変容するのに十分な時間です。つまり、刻々と状況が変化し、昨日の正解が今日の正解とは限らない不安定化した社会に、私たち自身も適応していかなければならない。社会を俯瞰し、常に変化する解をパラメータ(変数)のように切り替えながら行動する。これからは、そんなメタシステムを社会に装備していかなければなりません。

不安定に揺らぐ社会で、私たちはどう適応すべきなのか。それぞれに確からしく見える仮説の中から、毎回正しいものを選ぶことは非常に難しい。しかしながら、イノベーションは多様な思考の間を高速に行ったり来たりする中でこそ、生まれやすいものでもあります。Takramでは、それを「振り子の思考」と呼び、プロジェクトを進める上での基本的なアプローチとして重要視してきました。

言い換えれば、様々な意見や考え方を融合させるのではなく、それぞれの仮説を尊重しながら、振り子のようにその狭間を揺れ動く。そうすることで、試行錯誤や朝令暮改を繰り返しながら最も確からしい答えにたどり着くという考え方です。コロナ危機を巡るさまざまな議論にも、同様のことが言えると思います。多様な解を検討し、トライアル・アンド・エラーを繰り返しながら、リスクを最小化し、可能性を最大化するための道筋を探っていく。私たち一人一人が、この危機をポストコロナ時代の新しい社会システムづくりの機会として積極的に活用していくべきだと思っています。

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ポストコロナ時代に求められる「同期性」

私たちTakramは、これまでもデザインやテクノロジーの力で社会にオルタナティブなソリューションを提供してきました。そんな私たちがポストコロナ時代の社会に貢献できることは、揺らぎ続ける環境の中から斬新なアイデアを生み出し、それらを社会に実装していくことだと思っています。

詳しくお話することはできませんが、ポストコロナ社会を見据えたプロジェクトがクライアント企業との間で、すでにいくつも立ち上がってきています。それは、接触機会を避けつつ行う新しいエンターテインメントの形であったり、非対面でも違和感なく行える質の高いサービスの形であったり、正しい情報を分かりやすく多くの人に伝える情報プラットフォームの形であったりします。

また、物理世界からデジタル世界へのシフトが進む中、急増する非対面サービスには、UX(ユーザーエクスペリエンス)に改善の余地があるものが多数見受けられます。例えば、緊急を要する助成金の申請方法が非常に複雑だったり、新型コロナウイルスへの感染が疑われても保健所に電話がつながらなかったりする。こうした状況が改善されなければ、公衆衛生にも悪影響を及ぼし、市民の不満も募ります。UXの視点があれば、そんなことは容易に想像がつくはずですし、最優先で改善すべきポイントだと分かるでしょう。非対面であるからこそ、ユーザーに寄り添う想像力が一段と求められる。それはポストコロナ時代に欠かせない視点だと思っています。

コロナ危機が終息しても、しばらくは人と人が対面するサービスや集まって何かをするイベントは難しい時代が続くはずです。しかし、人々が同じ場に集い、共に時間を過ごすことには、依然として素晴らしい価値があります。音楽やスポーツのイベントが代表的ですが、このようなリアルなコミュニティーが人々の生活に与える影響は非常に大きいといえます。人々が同じ場所に集まり、歌を歌ったり応援をしたりする、つまり同時に同じ動作をするという行為は、大きな一体感を生む。この同期性や同時性にこそ、大きな価値があるのです。

しかしながら、インターネットはその部分が非常に不得意なんですね。ライブ配信やオンラインゲームなどはありますが、数万人規模でリアルなコミュニティーと同様の一体感を得られるコンテンツは、インターネット上にまだまだ少ないのが現状です。だからこそ、今後は同期性の強いコンテンツがどんどん開発されていくでしょう。ある意味、そこはポストコロナ時代のフロンティアと言えるかもしれません。

物理世界から離れた場所で、人々はどのように「つながり」や「一体感」を得ていくのか。人類にとって大きなチャレンジになると思いますが、Takramとしては得意とするデザインやエンジニアリングの技術でそのような挑戦をどんどんサポートしていきたいと考えています。

 

田川欣哉
田川欣哉

田川欣哉(たがわ・きんや)

Takram代表取締役。1976年、東京都生まれ。東京大学卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了(2018年に名誉フェロー授与)。2006年、Takram設立。主な仕事に日本政府の地域経済分析システム「RESAS」のプロトタイピング、メルカリのデザインアドバイザリなどがある。経済産業省産業構造審議会 知的財産分科会委員。

著書に『イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き』(田川欣哉・著/大和書房)がある。イノベーションを生むスキルとしてのデザインを、ビジネスパーソンやエンジニアが理解し、身に付けるための方法をわかりやすく解説した入門書。

著書の詳しい情報はこちら

イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き

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origami PRODUCTIONS
origami PRODUCTIONS

origami PRODUCTIONSの支援が示す、コロナ収束後の道筋

ニュース 音楽

「文化は良き時代において享受されるぜいたく品ではない」「アーティストは生命の維持に必要不可欠な存在である」。この言葉は、ドイツのモニカ・グリュッタース文化相がコロナ禍における文化支援について語った時のものだ。 日本では、4月7日に発表された緊急事態宣言に際して、108兆円規模の経済対策が用意された。そこには事業者向けの支援策もあり、「個人事業主は上限 100万円の範囲内で、前年度の事業収入からの減少額を給付」する旨が明記されている。フリーランスのクリエーターやアーティストも受けることができる補償がようやく整備されつつある。 しかし、クラスター発生のリスクが高いとされる「3密」空間であるナイトクラブやライブハウス、劇場、ギャラリーを活動の場にしてきたアーティストたちは、最長で来年の夏から秋ごろまでステージでの活動を自粛または制限し続けなくてはいけない可能性がある。もしそうなった場合、補償だけを頼りに食いつなぐことはできない。なにか新たな道筋が必要だ。 先の支援策が発表される数日前、ある音楽プロダクションが2つのプロジェクトを発表し、話題となった。 そのプロダクションとは、OvallやKan Sano、mabanuaら、ジャズやソウル、ヒップホップをバックグラウンドに持つ人気プロデューサー、ミュージシャンが所属しているorigami PRODUCTIONSだ。  origami PRODUCTIONS プロジェクトの一つは、ライブができなくなり収入源を断たれたアーティストに向けて、同プロダクションに所属するプロデューサーやミュージシャンたちの楽曲を版権フリーの素材として無償提供する『origami Home Sessions』。もう一つは、代表の対馬芳昭が自己資金の2,000万円を音楽シーンに寄付する目的で立ち上げた『White Teeth Donation』である。 大きな反響を呼んだこれらの企画は、コロナ以前から対馬のなかにあった音楽業界に対する問題意識がベースになっているという。2,000万円の資金は、業界のシステムや意識の構造改革のために自らが行動できるようにと、かねてから貯めていたものだ。 窮地をしのぐだけでなく、文化を守るためのプロジェクトはどのような道筋を作るのか。対馬にプロジェクトの経過について、そして今後の展望について聞いた。 拡散するコラボ音源、継続的な収入源にも 3月30日にスタートした『origami Home Sessions』は、すでに多くのコラボレーション音源を生み出している。この斬新なプロジェクトがすんなりと受け入れられ拡散されたのは、もちろんプロダクションの所属アーティストたちの人気によるところも大きいが、それと同時に作り手目線での「使い勝手の良さ」がしっかりと想定されていたことにある。 「このプロジェクトのメリットは、アーティストが録音物をオンラインにあげてその場ですぐに利益化できることです。また、利益のためだけでなく、遊びやプロモーションとしてデモ段階のものをアップして楽しんでもらう。その上で、良い反応が得られたら本格的に録音するなど、さまざまな使い方ができると思います。 ファンにとっては、同じ曲をさまざまなシンガーやラッパーが歌い、ミュージシャンが演奏を重ねる様子を楽しむことができます。みんなを巻き込み、かつ家にいながら楽しめるものなんです」 mabanua (マバヌア)さんのビートをアレンジし歌いました本日よりYouTubeとhttps://t.co/GYsE4B7dgXSoundCloudで配信htt

Aviointeriors
Photograph: Aviointeriors

ポストコロナ時代、航空機の座席はこうなる? イタリア企業がプロトタイプを発表

ニュース トラベル

世界がコロナ収束後の生活を少しずつ取り戻すことを模索している。その中で、「多くのことがこの数カ月で変わる。何が普通なのかも変わるだろう」という考え方が支配的だ。 特に、現在の状況で打撃を受けている産業の一つである航空機関連産業の各社は、これまでの計画を見直す必要がある。人々がソーシャルディスタンスを取ることを求められる社会では、空の旅に確実に厳しい視線が注がれる。本質的に、航空機は人を長時間密集させて運ぶように設計されているからだ。 ここで、ではどうすれば安全な空の旅が可能になるのか?という疑問が浮かぶ。 航空機の座席や内装の設計、製造を専門とするイタリアのアビオンインテリアズ社は、ポストコロナ時代の旅行を想定した二つの新たな提案を通じて、問題解決のための口火を切ってくれた。同社の目標は、旅客収容能力を失うことなく、ソーシャルディスタンスを保つことができる機内レイアウトを作ることだ。それは、そう単純な仕事ではない。 一つ目の提案では、中央の座席が後方に回転し、すべての乗客がプラスチックのシールドで囲まれることを想定している。このプロトタイプの名前が秀逸だ。表と裏に顔を持つローマの神にちなんで ヤヌス(Janus)と命名された。もちろんこのプラスチックは、通路を歩く人を含む近くの乗客への呼吸によりウイルスが広がるのを防ぐことを目的としている。   Photograph: Aviointeriors       Photograph: Aviointeriors   二つ目の提案では、取り外し可能なシールドをフィーチャーした。これを各座席に取り付けることで、乗客同士が守られる。 グラセイフ(Glassafe)と名付けられたこのシールドは、理論的には各航空機への導入が容易なため、各航空会社は現在の機体を維持したまま機内でのウイルス対策を強化できる。このシールドはカスタマイズも可能だ。肩の部分を切り抜いたり、使う材料を変えて透明度を変えたりするなど、各航空会社の自由度は高くなる。   Photograph: Aviointeriors   もちろん、これらは単なる提案だ。コストはどれくらいか、後ろの座席の人はどれくらい安全か、食事はどのように提供するのか、今の緊急時の対策は適応されるのか。こういった質問や懸念にまだまだ対処する必要がある。 でも、我々は興奮し、感謝している。この厳しい時代に、世界を少しでも良くしようと努力している人々の壮大な創造性を目にできていることに。 原文はこちら   関連記事 『タイムアウト東京 #StayHome Survey 旅行編』 『支援募集中のホテル、旅館リスト』

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