ウィーン国立歌劇場『ばらの騎士』
Photo courtesy: Wiener Staatsoper / Michael Poehn|ウィーン国立歌劇場『ばらの騎士』
Photo courtesy: Wiener Staatsoper / Michael Poehn|ウィーン国立歌劇場『ばらの騎士』

東京、10月に行くべき舞台6選

十月大歌舞伎『義経千本桜』からウィーン国立歌劇場『ばらの騎士』まで

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テキスト:高橋彩子

芸術の秋は極上の舞台芸術を楽しんでみては。歌舞伎座では三大名作の通し上演の最終演目となる『義経千本桜』が楽しめるほか、大竹しのぶがリアを演じる『リア王』や、映画化もされた『焼肉ドラゴン』、舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」では、世界の演劇史にその名を刻む故ロバート・ウィルソン演出、フランスの俳優イザベル・ユペール主演の一人芝居『Mary Said What She Said』が上演される。

新国立劇場バレエ団による幸福感に満ちた『シンデレラ』、ウィーン国立歌劇場の来日公演となるオペラ『ばらの騎士』など、ジャンルを超えた不朽の名作舞台が目白押しだ。ぜひチェックしてほしい。

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錦秋十月大歌舞伎『義経千本桜』

錦秋十月大歌舞伎『義経千本桜』
画像提供:松竹株式会社

2025年、歌舞伎の三大名作の通し上演として『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』を上演してきた歌舞伎座に、いよいよ最後の演目『義経千本桜』が登場する。

源氏と平家が存亡を賭けて戦った「壇ノ浦の戦い」のその後を描いた本作。平家を滅ぼした立役者である源義経は兄の源頼朝から追われる身となり、滅ぼされたはずの平知盛、維盛、教経は実は生きていて幼い安徳天皇と共に身を潜め、復讐の機会を狙っているという設定だ。

船宿の主人・銀平になりすまして義経一行を迎え入れ討とうとする知盛、素行が悪く「いがみの権太」と呼ばれているならず者の権太、義経の愛妾でありながらも義経が都から落ち延びる際に同行を許されなかった静御前を護る佐藤忠信実は源九郎狐らを中心に、多彩な人間模様が繰り広げられる物語は、見どころ満載である。

月の前半をAプロ、後半をBプロとするWキャスト。いがみの権太を尾上松緑(Aプロ)/片岡仁左衛門(Bプロ)が演じるほか、佐藤忠信実は源九郎狐を市川團子(Aプロ)/尾上右近(Bプロ)、渡海屋銀平実は新中納言知盛を中村隼人(Aプロ)/坂東巳之助(Bプロ)など。詳細は公式ウェブサイトで確認しよう。

※10月1日〜21日/第一部は11時〜、第二部は15時〜、第三部は18時40分から/休演日は10日/料金は4,500円から(席によって異なる)

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新国立劇場/日韓国交正常化60周年記念公演『焼肉ドラゴン』

焼肉ドラゴン
2011年公演より 撮影:谷古宇正彦 提供:新国立劇場

在日朝鮮人としての自身のルーツを劇作に昇華している劇作家・鄭義信(チョン ウィシン)の代表作『焼肉ドラゴン』が再演される。2008年に韓国の「芸術の殿堂(ソウル・アーツ・センター)」とのコラボレーション企画として日韓キャストで初演されるや評判を呼び、2011年、2016年と上演を重ね、今回は日韓国交正常化60周年記念公演として4回目の上演となる。

描かれるのは、「大阪万博」が開催された関西都市の1970年をはさむ3年間。焼肉店を営む一家の運命を通して、表向きは高度経済成長期を迎えて美しく発展する日本の裏側で犠牲になった人々の存在をあぶり出す。

大阪万博が再び開かれ、かつ、移民や外国人労働者を巡って論争も巻き起こっている今こそ観て、日本の来し方行く末にも思いを馳せたいところ。とはいえ決して重苦しいばかりの世界ではなく、笑いもちりばめながら、魅力的な人間たちが生き生きと躍動する感動作だ。

10月の「新国立劇場小劇場」での公演後は韓国公演、全国公演と巡り、12月には「新国立劇場中劇場」で凱旋公演を行う。日韓キャストが国境を越えて届ける渾身の舞台は見逃せない。

※10月7日〜27日/開演は13時30分〜、18時30分〜(日によって異なる)/休演日は14、21日(9日は貸切)/料金は3,300円から(席によって異なる)

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Bunkamura Production 2025/DISCOVER WORLD THEATRE vol.15『リア王』

Bunkamura Production 2025/DISCOVER WORLD THEATRE vol.15『リア王』
画像提供:株式会社東急文化村

Bunkamuraが日本と海外のクリエイターの共同作業下、海外の戯曲を上演してきた「DISCOVER WORLD THEATRE」シリーズ。その第15弾として、シリーズ中最も多くのプロダクションを手がけているフィリップ・ブリーンの演出で『リア王』が上演される。

ブリテン王リアは老齢ゆえに退位し、3人の娘に国を分け与えることにして、娘たちに自身への愛情を言葉にするよう促す。長女ゴネリルと次女リーガンは歯の浮くような美辞麗句を並べ立てるが、末娘コーディリアはあまりにもシンプルな物言いしかせずにリアの怒りを買い、勘当されてフランス王のもとへ嫁ぐ。しかし長女と次女は父を疎み、虐げる。やがて、父を救いたいコーディリアがいるフランスとブリテンの間で戦争が勃発するが……。

シェイクスピアの四大悲劇『ハムレット』『オセロー』『リア王』『マクベス』の中で最高峰ともされる本作の主役はしばしば、名優がキャリアの頂点で演じる。今回そのリアを大竹しのぶが演じるということで、見逃せない。フィリップ・ブリーンの演出はイギリスの演出家らしく時代背景や登場人物の性格、台詞の意図などを丁寧に繊細に読み解き、構築していくもの。そうした作業があってこそ新鮮に浮かび上がってくる人間ドラマを味わおう。

※10月9日〜11月3日/昼の部は12時か13時から、夜の部は17時から(日によって異なる)/休演日は10、14、21、28日/料金は9,500円から(席によって異なる)

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舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」/芸劇オータムセレクション『Mary Said What She Said』

MARY SAID WHAT SHE SAID
© Lucie Jansch

劇作家・演出家の岡田利規のディレクションによる舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」が開幕。そのラインアップの一つとして、世界の演劇史にその名を刻む故ロバート・ウィルソン演出、フランスの俳優イザベル・ユペール主演の一人芝居『Mary Said What She Said』が上演される。

主人公は、イギリスの王位を巡って従妹であるエリザベス一世との争いに敗れ、処刑されたスコットランド女王メアリー・スチュアート。処刑前夜に彼女が思い巡らすこれまでの人生と、王としての、そして女性としての孤独、苦悩、心の拠り所などが語られていく。

筆者は2019年、ウィーンで上演された本作を観たが、凄絶なほど美しい舞台空間と、その中に屹立(きつりつ)し、高い強度でよどみなく台詞をまくし立てるユペールの迫力に80分間、圧倒され通しだった。

2025年8月に惜しまれつつこの世を去ったロバート・ウィルソン。色彩、光、影、フォルムに徹底的にこだわったその世界は、誰もが一目で彼の作品だとわかる斬新で独創的なもの。不世出の演出家と俳優のタッグによる舞台は必見だ。

※10月10日〜12日/開演は10日19時、11日14時と18時、12日14時から/チケットは5,000円から(席によって異なる)

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新国立劇場バレエ団『シンデレラ』

新国立劇場バレエ団『シンデレラ』
撮影:瀬戸秀美

誰もが知るおとぎ話『シンデレラ』。そのバレエ化の中でも最も知られているのが、イギリスの振付家フレデリック・アシュトンの手による舞台だろう。1948年の英国ロイヤル・バレエ団での初演以来、世界各地のバレエ団が本作を上演しており、日本では唯一、新国立劇場バレエ団だけがレパートリーとして上演を重ねている。

アシュトンならではの端正で美しい動き、ロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフのドラマティックな音楽、シンデレラに魔法をかける仙女と春夏秋冬の妖精たち、カボチャが姿を変えたきらびやかな馬車……。魅力あふれるその世界の中で、健気で心優しいシンデレラ、完全無欠な王子、男性ダンサーが演じる意地悪だがどこか憎めない義理の姉らが躍動する。

今回インタビューを行った米沢唯を含む5人のシンデレラが、それぞれの王子や姉らを相手に、それぞれ幸福感いっぱいの舞台で観客を魅了することだろう。

※10月17日〜26日/昼の部は13時か14時から、夜の部は18時か18時30分から(日によって異なる)/チケットは4,950円から(席によって異なる)

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ウィーン国立歌劇場『ばらの騎士』

ウィーン国立歌劇場『ばらの騎士』
Photo courtesy: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

ウィーン国立歌劇場が来日公演を行う。上演される2つのオペラのうち、今回紹介したいのはリヒャルト・シュトラウス作曲の『ばらの騎士』だ。

舞台は18世紀のウィーン。元帥夫人(マルシャリン)のマリー・テレーズは年下の青年伯爵オクタヴィアンと恋仲だが、自身の衰えを感じ、彼がやがて自分のもとを去って若い恋人を作るだろうと予感する。さて、金目当てで新興貴族ファーニナルの若い娘ゾフィーと婚約したいとこのオックス男爵から、婚約者に銀のばらを届ける使者を紹介してほしいと頼まれたマルシャリンはオクタヴィアンを推薦。するとオクタヴィアンとゾフィーは恋に落ちて……。

自身の老いを悟り、悲しみながらもそれに耐え、若い恋人たちのために毅然(きぜん)とした態度で一肌脱ぐマルシャリンの姿は胸を打つ。若い女性がヒロインとなることも多いオペラの中で、人生の曲がり角を迎え、それを受け入れていく彼女は、極めて特別な魅力を持ったキャラクターだ(もっとも劇中の彼女は30代なのだが)。

今回、そんなマルシャリンを歌うのは、カミラ・ニールント。新国立劇場の2007年の『ばらの騎士』でもこの役を演じ、2016年の『サロメ』の題名役も務めた。この2つの舞台で見せた卓抜した表現力と存在感は忘れ難い。同歌劇場の音楽監督フィリップ・ジョルダンの指揮、古き良きウィーンを描いたオットー・シェンクの演出。チケットは高額だが、一生の思い出の代金としては決して高くない。

※10月20日〜26日/開演は15時(26日のみ14時)から/チケットは26,000円から(席によって異なる)

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Contributor

高橋彩子

舞台芸術ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材し、「SPICE」「AERA」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆。第10回日本ダンス評論賞第一席。年間観劇数は250本以上。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜」を連載中。

東京でもっと芸術の秋を堪能するなら……

  • アート

2025年10〜11月にかけて、人気アニメや有名漫画の展覧会が多数開催される。連載40周年を迎えた『シティハンター』の大規模展、『デジモンアドベンチャー』と『おジャ魔女どれみ』の合同展など、注目のイベントが続く。

緻密で繊細な原画を楽しんだり、制作秘話をのぞいたり、空想の世界を自由に楽しもう。濃密なアニメ展示を体感してみては。

  • 演劇&パフォーマンス

酷暑もようやく陰りを見せ、2025年も徐々に秋の足音が近づいてきた。秋といえば読書の秋、食欲の秋、そして漫画原作舞台の秋……。「そんなの初耳だよ!」「聞いてないよ!」とにわかにダチョウ倶楽部と化す人もあろうが、とにかくそうなのである。秋こそ、2.5次元舞台を観るべき季節なのだ。

2003年、2.5次元舞台の先駆である『ミュージカル テニスの王子様』がスタートして以降、この日本独自のエンターテインメントは進化を遂げ、2023年には年間289万人を動員するビッグコンテンツに成長した。いまや2.5次元舞台は、漫画原作の実写映画と並び、あらゆる意味合いにおいて大衆の耳目を集めるカルチャーのひとつであろう。

今秋は『サイボーグ009』といったクラシックから、『チ。―地球の運動について―』など近年の大ヒット作まで、話題作がめじろおし。その中からおすすめの6作を紹介する。

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  • アート

秋風とともに、自然の神秘と科学の驚きに出合うチャンスがやってきた。恐竜や絶滅生物、宇宙の謎まで、東京・大阪で開催される注目の展覧会で、未知なる世界を体感しよう。

「大絶滅展―生命史のビッグファイブ」では迫力の化石と映像で地球の大事件を追体験。「わけあって絶滅しました。展」では絶滅生物たちの物語がユニークに語られ、「チ。―地球の運動について―」では地球の動きを肌で感じられる。五感で味わう発見の旅が待っている。

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