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日本で進む「二重価格」論争—タイムアウト東京読者と英語編集部に意見を聞いてみた

賛成多数の理由とは

Kaoru Hoshino
編集
Kaoru Hoshino
テキスト:
Noriko Maniwa
Tokyo National Museum
Photo: Tokyo National Museum
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日本を訪れる外国人観光客の数は年々増加しており、日本政府観光局(JNTO)によると2024年には約3687万人と過去最高を記録した。2025年はさらに増加し、JTBなどの調査では4020万人に達すると見込まれている。政府はこうした勢いを背景に、2030年までに年間6000万人の訪日外国人観光客を迎えることを目標としている。

そんな中で話題になっているのが、訪日外国人観光客と日本在住者で物やサービスの価格を分けて設定する「二重価格」の導入を巡る問題だ。この議論は、オーバーツーリズムへの対応策としてだけでなく、観光地や事業者が持続的に運営していくための収益確保の手段として広がりを見せている。

一方で、価格の差を「差別」と受け取る可能性も指摘もある。海外では一般的な手法だが、日本ではまだ浸透しておらず、適切な説明や導入方法が課題となっているのが現状だ。また近年は、外国人観光客に限らず、市民・県民とそれ以外といった区分で料金を設定するケースも見られ、「線引きはどこにあるのか」という点が改めて問われている。

タイムアウト東京では、二重価格について賛成か反対か、あるいは別の意見があるのかを探るため、読者アンケートを行った。公式Xの結果は、賛成が84パーセント、反対が16パーセントで、公式Instagramは、賛成が85パーセント、反対・どちらでもないが7票で、賛成意見が多数という結果となった。

具体的には、「資金の使い道が明確なら賛成」「運営上問題ないなら賛成だが、全面的には賛成はしない」といった声が寄せられ、制度の透明性を求める意見が目立った。

また、外国にルーツを持ち、日本で生活する英語編集部のCからは、「もし、二重価格制度が外見だけを基準に運用されるのであれば、それは極めて差別的な慣行と言わざるを得ません。一方で、日本人・非日本人を問わず、すべての人に対して身分証明書の提示を求める制度であれば、議論の余地はあるかもしれないですね。」という意見が聞かれた。

実際に日本に住んでいるからこそ感じる違和感や矛盾を踏まえ、運用の公平であれば受け入れられるという、現場ならではの声と言えるだろう。

本記事では、2026年1月時点で全国で二重価格を採用、または導入を検討している施設をリストアップした。

国立博物館・美術館

東京国立博物館京都国立博物館奈良国立博物館九州国立博物館東京国立近代美術館国立工芸館京都国立近代美術館国立映画アーカイブ国立西洋美術館国立国際美術館国立新美術館

東京・上野の「東京国立博物館」をはじめ、訪日外国人観光客の来館が多い11の国立施設では、2026年以降に一般料金の2、3倍相当になる二重価格の導入を検討している。

例えば現在入館料が1,500円(以下、全て税込み)の「東京国立近代美術館」は、インバウンド向けとして4,000円を想定。英語表示や音声ガイドなど需要を考えての料金設定であり、IDを表示することで入館料が確定されるという。

国立新美術館
画像提供:国立新美術館

姫路城

世界遺産の「姫路城」は、インバウンド向けの二重価格の導入案が批判を受け、「地域住民価格」として調整している。2026年3月から、市民以外は現在1,000円(18歳以上)の一般料金を2,500円に変更予定だ。

姫路城は今後10年間で要する維持管理や修復費が約280億円と試算され、国や県からの補助金や市の財源を除いた約210億円を、入場料収入で賄うことを見込んでいる。 

Himeji
Photo: Vladimir Haltakov/UnsplashHimeji Castle, Hyogo

ジャングリア沖縄

2025年に開業した「ジャングリア沖縄」では、国内居住者6,930円、外国人観光客は8,800円の入場料という二重価格を実施。オフィシャルサイトでは日本語・英語・韓国語・中国語などのページで異なる入場料を表示している。また、入力した住所で料金が変わるというシステムも話題となった。

県内に住む4歳〜中学生(1人)は大人同伴で無料になるなど、期間限定での「県民割」も導入している。

ジャングリア沖縄
Photo: Hirota Aotsukaジャングリア ツリー

ジャパンレールパス

国内居住者よりも、海外からの観光客の方が有利な二重価格もある。

例えばJRグループ6社が共同で提供している「ジャパンレールパス」は、入国審査でパスポートに「短期滞在」と記載された外国人や条件を満たした海外在住の日本人を対象としたフリーパス。東海道・山陽新幹線の「のぞみ」など一部では別途料金が必要だが、普通車用の場合は7日間5万円、21日間10万円で日本各地のJRの鉄道に何度でも乗れ、自由に旅ができるのだ。

shinkansen
Photo: ポニー/PhotoAC

京都市地下鉄・京都市営バス

海外からの旅行者が殺到し、オーバーツーリズムが深刻化している京都市では、地下鉄やバスで観光客の運賃を高く設定する「市民優先価格」を導入予定。2027年度中の実現を目指す。

同時にキャッシュレス化も進め、居住者の識別にはマイナンバーカードを活用することを検討している。

Gion in Kyoto
Photo: Sorasak/UnsplashSannenzaka Slope in Kyoto

鹿児島市営施設

鹿児島市平川動物公園いおワールドかごしま水族館維新ふるさと館西郷南洲顕彰館鹿児島市立科学館鹿児島市立美術館かごしま近代文学館・かごしまメルヘン館旧鹿児島紡績所技師館(異人館)旧島津氏玉里邸庭園かごしま文化工芸村地域公民館サンエールかごしま(生活学習プラザ・男女共同参画センター)

鹿児島市では2025年10月から「いおワールドかごしま水族館」や「維新ふるさと館」などの14の市営施設で、市外からの利用者の入館・使用料を市民より高くする「市外料金」を導入した。

例えば「鹿児島市平川動物公園」では750円の入場料が、市外料金では1,000円になる。運転免許書などのIDのほか、市公式アプリのデジタル市民証(15歳以上が使用可)で市民であることを証明できる。

鹿児島市平川動物公園
画像提供:鹿児島市平川動物公園コアラの親子

まとめ

「おもてなしの国」としてのイメージがある日本において、提供される価値の差が付けられないサービスに二重の価格を設定することは、そのイメージを損なうのではないかという指摘もある。その解決策の一つとして、価格を「国籍」で分けるのではなく、居住者と非居住者という区分を採用することが重要だ。

その上で、観光などの一時的な利用者に対し、安全対策や施設の維持管理といった、観光によって生じる追加のコストを分担してもらうための調整であることを明記する必要がある。利用者側も、制度を理解するとともに、一人一人が互いの状況を尊重しながらサービスの利用が求められるだろう。

 

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