タイムアウト東京 > 音楽 > 東京、レコードショップ店員に聞くトレンド2026
2026年も早くも半年が過ぎた。果たして今、どんなミュージシャンや作品が人気を集めているのか。
サブスクリプションサービスの再生数はもちろん一つの指標になるが、日々新譜だけでなく旧譜にも向き合い続けるスタッフたち、早耳のリスナー、DJが集まるレコードショップだからこそリアルな「シーン」が見えてくることもあるだろう。
本稿では、「2025年によく動いたタイトル」「新旧問わずこれから人気が出そうなタイトル」「2026年注目のアーティスト・アルバム・レーベル」について紹介。「東京、ジャンル特化型レコードショップ7選 」で取材したいくつかのレコードショップでスタッフに聞き、昨年を振り返りつつ今後の流れを予想してもらった。
気になる作品をチェックして、ぜひレコードショップに足を運んでみてほしい。
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じわじわと火の着いた近年作と変わらぬ人気の名盤たち
Photo: Akari Matsumura Manhattan Recordsのマネジャー・原田匡人
1980年の創業当初はジャズやファンク、現在はヒップホップ・R&Bを中心に取り扱っている老舗レコード店「Manhattan Records 」。同店では、DJのMarTとしても幅広いヴェニューで活躍するマネジャーの原田匡人に話を聞いた。「リリース直後ではなく、徐々に人気が高まることも増えた」という言葉と、より「人間らしさ」が求められるようになってきたのでは、という考察が心に残った。
―2025年によく動いたタイトルはありましたか?
ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の諸作品は、2025年2月の「スーパーボウル・ハーフタイムショー」出演以降よく動きました。兄弟デュオ「Clipse」の復活作『Let God Sort Em Out』もですね。あとは、プレイボーイ・カーティ(Playboi Carti)が新作『MUSIC』をリリースし、同世代の中で人気が頭一つ抜けたイメージがあります。
国内の作品では、やはりJJJの作品です。特に3枚目のアルバム『MAKTUB』は今売り切れてしまっています。あと、ヒップホップではないのですが、個人的には青葉市子の『Luminescent Creatures』を推していました。以前の作品でトラックメイカーのSweet Williamとコラボレーションしていたのですが、ジャンルを超えてナチュラルにクロスオーバーすることってすごく大事だと思うんです。
―新旧問わず、これから人気が出そうなタイトルはありますか?
ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)の最新作『Swag』は、彼が「コーチェラ・フェスティバル」にヘッドライナーとして出演したこともあり、動きそうな予感がします。
SZAが2022年にリリースしたアルバム『SOS』が日本限定で帯付きでリリースされ、こちらも注目です。同作の収録曲「Snooze」が映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』の主題歌になったのですが、「サブカル文脈」での再燃もあるのではないでしょうか。
あと、2026年で20周年を迎えるJ Dillaのアルバム『Donuts』の周年記念盤がリリースされました。加えて、Madvillainによる名盤『Madvillainy』も2025年に高音質盤がリリースされたのですが、この2枚はどんなタイミングでもなるべくストックを切らさないようにしています。
―2026年注目のアーティスト・アルバム・レーベルを教えてください。
ロサンゼルスのレーベル「Stones Throw Records」が30周年を迎えることもあり、注目しています。Anderson.PaakとKnxwledgeから成るユニット「NxWorries」によるアルバム『Why Lawd?』のように、別軸で動いているミュージシャンが交わっていていい化学反応が生まれているものをはじめ、素晴らしい作品が揃っているレーベルだと思います。
また、2025年はカセットテープがよく動いたのですが、2026年はCDも動き始めていて、中古CDのコーナーを増設しました。レコードに比べて安価というのはもちろんなのですが、それ以上に「あえてめんどうなことがしたい」「一手間をかけたい」というデジタルネイティブ世代のカルチャーが固定化してきたのかなと感じています。
配信サービスで聴くよりも音がいいですし、より「人間らしいことがしたい」と思う人が増えているのではないでしょうか。
レゲエの枠を超えて支持を集めるタイトルが人気
Photo: Keisuke Tanigawa ダブストア レコード マートの広報・森田志音
西新宿にある、ジャマイカの音楽全般を扱うレコードショップ「ダブストア レコード マート 」。中古はもちろん、「ジャマイカのモータウン」とも称されるレーベル「Studio One」のものをはじめ、600タイトル以上のレコードやCDなどの自社製品を扱う同店で、店舗スタッフでDJの松永泰隆と、広報の森田志音に話を聞いた。
―2025年によく動いたタイトルはありましたか?
定番ではあるのですが、Sister Nancyの「Bam Bam」の7インチの再発です。さまざまな楽曲でサンプリングされ、レゲエという枠を超えて支持される名曲ですね。弊社でプレスしているタイトルなのですが、国内にとどまらず、世界中で売れている印象です。
―新旧問わず、これから人気が出そうなタイトルはありますか?
King Edwards All Starsの「Prime Minister’s State」、Upcoming Willoesの「Lon Chaney」をはじめ、1960年代のスカが今年再発したのですが、店頭でもよく動いています。
―2026年注目のアーティスト・アルバム・レーベルを教えてください。
スコットランドのレーベル「Scotch Bonnet Records」は要チェックです。同レーベルからリリースされた、ローリン・ヒル(Lauryn Hill)の名曲をレゲエカバーしたMungo's Hi Fiの「That Thing (Doo Wop Mix)」の7インチは、すぐに売れてしまいました。
近年のトレンドは「BPMの幅広さ」
Photo: Keisuke Tanigawa Lighthouse Recordsのオーナー・森広康晴
2025年10月、渋谷からお茶の水へ移転したダンスミュージック専門店「Lighthouse Records 」では、オーナーの森広康晴に話を聞いた。「BPMの幅の広さ」がある意味今のトレンドかもしれない、とダンスミュージックに向き合い続けている人ならではの視点で語ってくれた。
―2025年によく動いたタイトルはありましたか?
ニュージーランド出身の兄弟デュオ・Chaos In The CBDによる、キャリア発のアルバム『A Deeper Life』はよく動きました。DJはもちろん、「家聴き」用にも売れた印象です。
―新旧問わず、これから人気が出そうなタイトルはありますか?
東京をはじめ、日本出身のミュージシャンを応援したい気持ちがありまして。DJとしても活動しているプロデューサーのTaiga Tokunagaによるディープハウス作品「Fleur」は内容が素晴らしく、プッシュしています。
あとは、レーベル「TEST PRESSING」からリリースされたOpal Sunnによる「LIQUID」は、前作「Elastic」に引き続き人気かなと。
―2026年注目のアーティスト・アルバム・レーベルを教えてください。
コロナ禍以前からじわじわと1990年代のレイヴやトランス系のリバイバルがあり、BPM120〜130ではなく、140、150を超えるようなトランスやテクノのようなものが人気な印象があります。逆に、スローなテクノを作る人もいる印象です。ディープハウスなど、王道のものはあまり変わらずですが、「BPMの幅広さ」が2026年といいますか、近年のトレンドなのかなと感じてますね。
2026年注目のレーベルでいうと、すでに人気が定着していますが、DJ MasdaとSo Inagwaによる「Cabaret Recordings」の動きは注視しています。同レーベルからリリースされた、香港のプロデューサー・Mr. Hoの12インチ「Team Player」は素晴らしかったです。
クラシックはステレオ盤の需要が増加?
Photo: Keisuke Tanigawa CLASSICUSの店主・木下慎
神保町にあるクラシック音楽専門のレコード店「CLASSICUS 」。店主の木下慎に話を聞いたところ、「正直クラシックにトレンドがあるのかと聞かれると、ジャンルの特性上難しいのですが」と前置きしつつも、丁寧に答えてくれた。
―2025年によく動いたタイトルはありましたか?
クラシック音楽はジャンルが広大なため「トレンド」と一口に言うのが難しく、「よく動いたもの」というのは簡単ではありません(笑)。最近では高額なレア盤が再発されることはよくあるのですが、近年の再プレスよりもオリジナル盤の方が音が良いことが多く、特定の再プレス盤が注目されることや、よく動く、いわゆる「ヒット作」のような盤はあまりないかもしれません。
―新旧問わず、これから人気が出そうなタイトルはありますか?
ここ最近は、いわゆるオーディオファイル盤、イギリス「DECCA」のSXL番号、「HMVレーベル」のASD番号、「COLUMBIAレーベル」のSAX番号などが結構売れていると思います。これらステレオの定番レコードは引き続き人気が続くのではないでしょうか。
また、当店はモノラル盤を求める方が多いのですが、最近はステレオ盤を求める方も増えてきたように思います。「演奏家の演奏をじっくりと聴く」モノラルに対して、ステレオは「交響曲などの管弦楽による、華々しいサウンドを聴く」というように、それぞれ違った楽しみ方があるのではないでしょうか。
―2026年注目のアーティスト・アルバム・レーベルを教えてください。
ちょうど今、「国立西洋美術館 」で6月14日(日)まで展覧会 が開催されているミカロユス・チュルリョーニス(Mikalojus Čiurlionis)でしょうか。リトアニアが誇る作曲家でもあり、画家でもあるという人物です。
アンビエントを自然に内包する作品たち
Photo: Akari Matsumura 春の雨 cafe & recordsのオーナー・中澤敬
アンビエントのレコードを中心に取り扱うレコード店兼カフェ「春の雨 cafe & records 」。同店では、静かな環境音楽はもちろん、クラブ寄りなものやアンビエントジャズなど、アンビエントのイメージを拡張するような作品をセレクトしている。オーナーの中澤敬は、インターネットラジオ「dublab.jp 」でプログラムを持つ人物だ。「アンビエントの要素を自然に取り込む作品が増えた」と、近年の流れについて話してくれた。
―2025年によく動いたタイトルはありましたか?
ベルリンの音楽家、ラルフ・ハイデル(Ralph Heidel)によるアルバム『anyways.onto better things』は本当によく動きました。レコードは売り切れてしまって、もうCDのみ在庫がある状態です。あとは、U.e. (Ulla) による『Hometown Girl』とDuval Timothy & CJ Mirra による『My Father’s Shadow』の2枚でしょうか。
国内の作品でいうと、岡田拓郎の『Konoma』とバンド・Tortoiseのギタリストであるジェフ・パーカー(Jeff Parker)が参加したことでも話題になった優河の『All the words you said』ですね。
―新旧問わず、これから人気が出そうなタイトルはありますか?
シンガーソングライターのジア・マーガレット(Gia Margaret)による新作『Singing』は、予約の段階でかなりオーダーがあったので、きっと2026年注目の一枚になると思いますよ。前作も素晴らしかったのですが、今作も間違いなく傑作です。
―2026年注目のアーティスト・アルバム・レーベルを教えてください。
サム・ゲンデル(Sam Gendel)をはじめとする、ジャズとアンビエントが自然に接続している「アンビエントジャズ」の流れは引き続き注目しています。レーベルでいうとイギリス・マンチェスターの「Gondwana Records」、アメリカ・シカゴの「International Anthem」ですね。Jeff Parker ETA IVtetの新譜『Happy Today』もたくさんオーダーする予定です。
先ほども名前を挙げましたが、優河や岡田拓郎、バンドのmaya ongakuなど、自身の音楽に自然とアンビエントの要素を取り入れている、素晴らしいミュージシャンたちが日本にもいます。彼らの動きもチェックしていきたいです。