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4月10日~6月8日、没入型展示で世界の見方が変わる体験

「六本木ヒルズ」森タワーの52階にある「東京シティビュー」は、この1年ほど、松本零士や手塚治虫、『エヴァンゲリオン』といった作品を取り上げ、野心的な漫画・アニメ展の発信地としてじわじわと存在感を高めてきた。2026年の春、地上250メートルに位置する展望台が次に掲げるのは、覆面作家・魚豊による哲学的な作品『チ。 ―地球の運動について―』(以下、『チ。』)である。
『チ。』は2020年から2022年にかけて連載された漫画で、舞台は15世紀のヨーロッパ。当時、天動説は絶対的な教義として支配的であった。その常識に疑問を投げかけ、地動説という異端の思想を追い求めた人々の姿が描かれている。知への強い信念ゆえに、彼らは迫害や死の危険と向き合うことになる。
『チ。』は批評家から高く評価され、2022年には手塚治虫文化賞の最高賞である「マンガ大賞」を受賞。24歳という史上最年少の受賞を、魚豊は果たした。さらにマッドハウス制作によるアニメ版が、2024年10月から2025年3月にかけて放送された。
そして今回、『チ。』の世界が東京シティビューという場で新たに立ち上がる。来場者は東京都心を見下ろしながら、その先に広がる宇宙へと想像力を広げていく。
同展は、じっくりと展示に向き合うことが求められる。展望台という空間そのものを知的探究の場へと変えているのだ。『チ。』の物語と、東京シティビューの開放的な眺望、そして夜景の光が重なり合うことで、中世の天文学者と現代の観客とのあいだに通底する視点が浮かび上がる。
展示は緻密に構成されており、天文学、宇宙の構造、知の継承といったテーマが全体に織り込まれている。来場者は印象的なシーンやせりふの断片に導かれながら、初期天文学に宿る知的な熱量に触れ、「自分たちは何者なのか」という「存在」を揺るがすような緊張感を呼び起こされる。
同展の大きな見どころの一つが、虚構と現実を重ね合わせた視覚的な演出。大規模なインスタレーションでは、「東京タワー」を含む都市のスカイラインと、夜空を見上げる登場人物たちの姿が重ね合わされる。その表現は映画のようでありながら、同時に静かな思索を促し、中世と現代の時間の隔たりをあいまいにする。
来場者が作品世界に入り込めるインタラクティブな写真も展示。モノクロの線描で構成された空間は漫画のコマの美学をそのまま立ち上げたようなもので、観客は物語の内部へと足を踏み入れるようだ。こうした演出は、「知覚とは構築され、媒介され、変化しうるものである」という同展の核心的なテーマを強く印象づける。
これらの展示にさらに奥行きを与えるのが、「星空シアター」だ。プラネタリウムクリエーターの大平貴之率いるチームとの協働によって開発された。最先端の「MEGASTAR」システムにより、数百万の星々をスクリーンに360度映し出し、観客は中世の天文学者が思い描いた空から、科学的に描き出された広大な宇宙へといざなわれる。
この演出自体は漫画を直接再現したものではないが、『チ。』の物語を宇宙論的発見の歴史という、より大きな文脈の中に位置づける役割を果たしているといえるだろう。
本展は、単なる視覚的スペクタクルにとどまらない。『チ。』の知的核心、すなわち信念と証拠、権威と探究の間にある緊張関係にも踏み込んでいる。会場内の解説テキストには哲学者・谷川嘉浩をはじめとする現代の思想家による寄稿もあり、これによって物語は、より広い哲学的議論の中へと接続される。
そうした視点が与えられることによって、地動説を巡る歴史的な葛藤や知識がどのように生み出され続けてきたのかというダイナミズムについて、来場者は改めて考えさせられるだろう。
東京シティビューという会場の選択も、示唆に富む。大きなガラスに囲まれたこの空間では、視界は刻々と変化する。その中に『チ。』の世界観を重ね合わせることで、同展は都市の風景であれ星空であれ、「見る」という行為が常に解釈や歴史、信念と結びついていることを浮かび上がらせるのだ。
地上と宇宙のあいだに宙づりにされたような感覚の中で、同展は、作品の中心にある問題意識を空間的かつ感覚的な体験へと見事に転換している。
とりわけ真価を発揮するのは、夕暮れ時である。眼下で街の明かりが瞬き始めるその瞬間、見慣れたはずの都市のスカイラインは新たな意味を帯びて立ち現れる。そして空は、人間の好奇心や勇気と密接に結びついたものとして、より身近に感じられるようになるのである。
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