[category]
[title]
魚・昆虫・西洋中世・猫・妖精の界隈でスポットライトを浴びているものとは?

専門書店では、今どんな本が売れているのだろう。
一般的な街の書店と異なり、専門書店にはAIの関連本や投資術、芥川賞・直木賞受賞作も平積みされていない。特定の領域に関心を持つ人たちの間では、何に注目が集まっているのか。「東京、ベスト専門書店10選」で取材した書店で、担当者や店主に聞いてみた。
都内の片隅で静かに始まっている、また進行中のトレンドを紹介していこう。
最初に訪れたのは、海や川の生き物、水辺の環境までフォローした書籍を置く「SAKANA BOOKS」。魚の中でも、サメや深海魚はファン層が厚いと科学技術コミュニケーターの肩書を持つ川村まなみは教えてくれた。
幼魚採集家で「幼魚水族館」の館長を務める「令和のお魚王子」こと鈴木香里武(すずき・かりぶ)の本も、人気があるという。また近年のトレンドとしては、タコやイカ、ウミウシなどの無脊椎動物に注目が集まっていると話す。
「昆虫文献 六本脚」の枝恵太郎が挙げたのは、幼虫・イモムシ・ケムシ・ガだ。かつては標本を作って並べる「コレクション」が、昆虫界隈(かいわい)を趣味とする人の主流だった。しかし現在は、「飼育」や「観察」を目的とするファンが増えているそうだ。
それを牽引(けんいん)しているのは、かつて「虫ガール」と呼ばれた女性たち。彼女たちは標本よりも、幼虫から成虫に育てる過程に魅力を感じている。それに伴って、イモムシやケムシに特化した図鑑が売れるようになった。
枝は日本蛾類学会の会長でもあるが、近年は女性の会員が増大しているとも教えてくれた。「もふもふ」は今や、犬や猫だけでなくガにも適用される。ケムシももふもふ、成長したガももふもふ――彼女たちは、毛の生えた昆虫を「かわいい」と捉える。書籍も学術的な図解だけでなく、ビジュアル的に親しみやすく、愛着を持てるような本が増えているという。
いずれの専門書店でも耳にしたのは、「女性」の存在だった。「山ガール」「虫ガール」という言葉がメディアに盛んに登場したのは、はや2010年代前半のこと。参入者は入れ替わり立ち替わりしながら、すそ野は確実に広がり進化し続けているのだ。
「山ガール」も、騒がれた当時はグループで山登りをすることが多かったが、「ブームが過ぎた現在、『ソロ登山』する女性が増えているようです」と、「石井スポーツ 登山本店」の冨田和濃(とみた・かずの)は話す。 山でも、虫でも、魚でも、女性のファンが定着し、彼女たちの視点から専門領域が活性化しているのかもしれない。
西洋中世の歴史・文化の書籍が揃う「書泉グランデ ヒストリ屋-das Schloss」でも、傾向は変わらない。自前の鎧の一種、コート・オブ・プレートに身を包んだ大内学は、「最近は鎧や騎士というよりも、女性が知りたいということの多い、服飾や庶民の生活にスポットが当たっている気がします」と話す。
また、トレンド予想を尋ねると、しばらく考えを巡らせた後、(印刷技術が普及する以前、人の手で文字や絵を書き写して作られた)「写本」が注目されているのでは、と答えてくれた。2024年に刊行された『中世ネコのくらし 装飾写本でたどる』という本が売れて、今度は2026年2月に『中世モンスターのはなし 装飾写本でたどる』が発売されることになった。気になる人は、同店を訪ねてみては。
猫の話題が出たところで、「猫本」専門の「Cat's Meow Books(キャッツミャウブックス)」ではどうだろう。
店主の安村正也は言う。「昔のざっくりとした『猫の飼い方』ではなく、最近は『
また、災害時にペットと一緒に「自宅避難」するためにはどんな備えをすればいいかという本もあり、災害が起きるたびに「防災」の本が飛ぶように売れていくらしい。
幾度の震災を経て、自治体によっては、ペットとの同行避難を断る避難所もある。「時の流れというか、世の中の動きに即したことも猫を通じて見える感じがします」と安村。書店は社会の鏡だが、専門書店はより鋭敏にそれを映し出すのかもしれない。
それであれば最後に、どこか浮世離れした感もある妖精界の様子を聞いてみよう。
妖精をテーマにした本が揃う「狐弾亭(こびきてい)」の店主・高畑吉男は、アイルランドの民俗学に詳しく、数百の民話が頭の中に入っているという特異な人物。『サブカルチャー妖精学』の著者でもある高畑の店には、新刊の漫画なども取り揃えるが、本人は民話や昔話に類する資料ばかり読んでいるそうだ。
出張時などに最近の漫画や小説を読むことがあるが、「ストーリーのひな形は民話や神話でかなり出来上がっていて、それを時流に合わせて変形し入りやすくしているのが、今のエンターテインメント小説や漫画だと思います」と言う。「原型はここにあって、最終的に行き着くのもここでしょう」と、ケルトや北欧の民話・神話の類書が並ぶ棚を指さしながら話してくれた。
移り変わる世相を高感度に反映するのも専門書店だが、変わることのない人の営みを捉えているのもまた、専門書店ということなのだろう。
関連記事
東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら
Discover Time Out original video