柚木沙弥郎 永遠のいま
Photo: Kisa Toyoshima
Photo: Kisa Toyoshima

東京、11月から12月に行くべきアート展

個性豊かな注目の展覧会を紹介

Chikaru Yoshioka
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タイムアウト東京 > カルチャー > 東京、11月から12月に行くべきアート展

この季節の東京は、国内外のアートファンが注目するイベントが集中する時期。「アートウィーク東京」をはじめ、美術館やギャラリーでは話題の展覧会が一斉にスタートする。作品を通じて、いまの時代を映す多彩な表現に出合えるだろう。

厳選したアート展を紹介する「東京、11月に行くべきアート展5選」「東京、11月に行くべき無料のアート展11選」という記事も公開しているので、併せてチェックしてほしい。

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  • アート
  • 千葉

「千葉県立美術館」で「オランダ×千葉 撮る、物語る ーサラ・ファン・ライ&ダヴィット・ファン・デル・レーウ×清水裕貴」が開催。オランダ出身の若手写真家、サラ・ファン・ライ(Sarah van Rij)とダヴィット・ファン・デル・レーウ(David van der Leeuwによる日本初の展覧会であり、同館初の写真展となる。

ファン・ライとファン・デル・レーウは、アムステルダムとパリを拠点に活動。抽象的な構図や影、反射などを特徴とするストリートフォトで注目され、ファッションやエディトリアルの分野でも活躍する。2023年にはファン・ライが「ルイ・ヴィトン」のフォトブックシリーズ『ファッション・アイ ソウル』を発表した。

本展では、彼らがニューヨークで撮影した『Metropolitan Melancholia』と『Still Life』シリーズを中心に約80点を日本初公開。さらに、千葉ゆかりの古写真や、写真家で小説家の清水裕貴が記録した千葉の風景、関連資料、美術館所蔵の絵画コレクションなどを合わせた約220点を展示する。

  • アート
  • 上野

「東京都美術館」で、大正末期から現在に至る国内の5人の刺し手たちの活動を見つめる「上野アーティストプロジェクト2025 刺繍針がすくいだす世界」を開催。布地などに針で糸を刺し、縫い重ねる手法によって形作られた多彩な造形と表現に注目する。

針を布の表裏に通す反復の中で自分だけの世界に潜り込み、安らぎや解放をもたらす行為といわれる刺繍(ししゅう)。同時に、補修や装飾、信仰などを通じて各地で育まれ、異なる時代や土地の人々の暮らしを想像させる手わざでもある。

刺繍職人の家に生まれ、伝統の技に革新を重ねた平野利太郎(19041994年)。尾上雅野(19212002年)は、羊毛の糸で絵画的な刺繍を展開し、岡田美佳は記憶の風景を自由なステッチで描く。

また、自分の奥底に流れる時間や感覚を確かめるかのように、日々糸を刺し続ける伏木庸平。そして望月真理(19262023年)は、古布の再生と祈りから生まれたベンガルの針仕事「カンタ」に共鳴した。

それぞれが手を動かし、布の上にすくい上げた「かたち」と向き合うことで、シンプルな道具とともに続けられてきた刺繍の意味と可能性について考えらされるだろう。

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  • アート
  • 浦和

埼玉県出身で大正期に交流した写真家の野島康三(18891964年)と洋画家の斎藤与里(18851959年)。ともに明治後期から昭和中期にかけて表現者として制作を続ける一方、画廊経営者やコレクター、あるいは教育者としても日本近代美術の発展に寄与した。「埼玉県立近代美術館」では、そんな2人に焦点を当てた展覧会が開催される。

野島は、「芸術写真」と呼ばれた潮流の下、絵画からの影響を受けつつも写真ならではの表現を追究。写真家と写真館の経営者として活動するほか、自らが経営する画廊「兜屋画堂」や自邸での展覧会を開催し、美術品撮影なども手がけた。

斎藤はフランス留学を経て帰国後、西洋美術の思潮を吸収した作品を発表。やがて南画の影響を受け、日本の風土に根差した油彩画を追求し、晩年には伸びやかな表現を開花させた。

本展では、2人の交流を起点に各々の足跡をたどり、岸田劉生、萬鉄五郎、関根正二など関連作家の作品や資料も紹介。多岐にわたる活動を通じて同時代美術を支えた両作家の視点から、日本近代美術の一側面を浮き彫りにしていく。

東京の街に国内外から多様なアーティストやクリエーターが集結し、街に深く入り込み、地域の人々と一緒に作り上げていく国際芸術祭「東京ビエンナーレ」。3回目の今年は、「いっしょに散歩しませんか?」というテーマの下、街歩きを楽しみ、アート作品を味わい、街の歴史が刻んだその⾜跡を追いながら、東京の魅⼒を探究する。

会期中は、創建400年を迎える「東叡⼭ 寛永寺」と「エトワール海渡」のリビング館の2つの拠点展⽰のほか、6つのエリア(上野・御徒町、神⽥・秋葉原、⽔道橋、⽇本橋・⾺喰町、⼋重洲・京橋、⼤⼿町・丸の内・有楽町)に38組のアーティストが作品を展開していく。

なお、拠点展示会場での鑑賞にはチケットの購入が必要だが、公共空間の展示の多くは無料で体験できる。この秋は東京に深くダイブしよう。

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  • アート
  • 丸の内

「東京ステーションギャラリー」で、日本近代洋画の改革期に活躍した画家・小林徳三郎(18841949年)の初の大回顧展「小林徳三郎」が開催。約300点の絵画と資料で、小林の半生と画業の展開をたどる。

東京美術学校を卒業後、先駆的な絵画表現で注目を浴びたフュウザン会に参加し、出版の仕事や劇団「芸術座」の舞台装飾に携わった小林。洋画家として、イワシやアジといった魚を主題とした作品を数多く描き、周囲に強い印象を与えた。

40代半ばからは、自分の子どもたちや日常の光景を題材にした作品を多く制作。時にアンリ・マティス(Henri Matisse)を思わせる色彩と筆遣いの静物画も生み出す。晩年は自然風景に関心を向け、死の直前まで精力的に筆を握り、春陽展への出品を続けた。

注目は、メインビジュアルにもなっている長年行方不明だった代表作『金魚を見る子供』。1929年に「春陽会」第7回展で発表し山本鼎に絶賛された本作は、小林が息子を描いた家族像で、戦後しばらく所在が分からなくなっていたが、今年春に発見された。

「空気のはいった、生活のはいった何気なさにある」と表現される、小林による日常的な光景を堪能してほしい。

  • アート
  • 青山

「岡本太郎記念館」で、岡本太郎の空間表現への挑戦を多角的にたどる企画展「TAROの空間」が開催。太郎と空間との関わりを証言する多彩な作品や資料が集成するとともに、岡本が生活の場に送り込んだ作品群を紹介する。

自らの表現の土俵を空間だと考え、空間そのものを作ろうとした岡本。脳内座標が3次元の岡本は、歌舞伎の舞台を作り、ディスプレー空間をデザインし、野外広場を制作した。挙句に銀座の夜空にヘリコプターで絵を描き、池袋の駅前に巨大なクリスマスツリーを突き立て、万博会場に約70メートルの巨像を立たせた。

本展の目玉となるのは、撤去され現存しない建築作品『マミ会館』(1968年)を新たに40分の1スケールで再現した模型。絵画や彫刻の枠を超え、桁違いの規模で世界を構築しようとした岡本の、希少な空間感覚を体感できるだろう。

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  • アート
  • 原宿

浮世絵の専門家でもほとんど知られていない無名の絵師、歌川広景(うたがわ・ひろかげ)。しかし近年、雪道で豪快に転ぶ江戸っ子や、だるまの形をした雪だるまなど、「太田記念美術館」のSNSに投稿された広景の作品が大きな反響を呼んでいる。そんな同館で「歌川広景 お笑い江戸名所」が開催される。

広景は「東海道五拾三次之内」で著名な歌川広重の門人。しかし、活動期間はたった3年弱と短く、その正体は謎に包まれている。その広景の代表作が、幕末の江戸を舞台にした「お笑い江戸名所」ともいえるシリーズ「江戸名所道戯尽」だ。

会場では、本作全50点を一挙に公開。野良犬に魚を盗まれたり、そばを頭からかぶったり、タヌキやキツネに化かされたりと、江戸っ子たちの日常に起きた笑いのハプニングが満載で、浮世絵初心者でも気軽に楽しめるだろう。

さらに、広重のもう一人の弟子である二代歌川広重の作品20点も同時に展示する。広景のユーモラスな世界をたっぷりと堪能できる貴重な機会を見逃さないように。

  • アート
  • 鎌倉

「神奈川県立近代美術館 鎌倉別館」で、川口起美雄の半世紀に及ぶ創作の軌跡をたどる回顧展「川口起美雄 Thousands are Sailing」が開催。初期の代表作から初公開の最新作まで、新作10点を含む約40点の絵画とオブジェを一堂に展観する。

川口は、目に見えるものを描き、誰も見たことがない風景を現出する作家。ウィーンで学んだテンペラと油絵具の混合技法による作品は、独自の質感と寓意(ぐうい)が交錯し、その詩的な世界観は文学者や詩人にも高く評価されている。

1970年代以降、川口は「故郷を喪失したものたち」の旅の記録者として作品を描いてきた。その背景には、ウィーンで出会った国を追われた学生たちや、国内外の不安定な政治情勢があるという。居場所を求めてさまよう人々のために描かれた景色は、個人の記憶を超え、誰もが心のどこかに抱える懐かしさを呼び起こすだろう。

広大な幻想風景から、動植物をモチーフとした自画像、そして写実的表現。川口は作風を変化させながら、あまたの人々とともに旅を続けてきた。会場で新たな詩情を紡ぎ出す絵画世界を堪能してほしい。

なお、2025年11月3日(月・祝)は無料で鑑賞できる。

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  • アート
  • 原宿

「ワタリウム美術館」で開催される 「オスジェメオス+バリー・マッギー|One More 展」は、世界のストリートアートシーンをリードする2組による初のコラボレーション展。2001年の「ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」で世界最大級の壁画インスタレーションを手がけたバリー・マッギー(Barry McGee)と、ワシントンの「ハーシュホーン美術館」で大規模個展を成功させたブラジル出身の双子のアーティストデュオであるオスジェメオ(OSGEMEOS)が、街のリアルなエネルギーを会場に吹き込む。

4面LEDと鏡張りで構成されたアニメーションルームでは、無重力空間に浮かぶように作品が飛び交い、観る者を宇宙的な没入感へと誘う。また、街角のようなレコードショップのインスタレーションや、屋外の巨大壁画も登場。音楽や都市文化と響き合う彼らの表現は、遊び心とエネルギーに満ちている。

「君たちの世代が街を取り返す」というマッギーの言葉通り、自由でアナーキーな想像力の世界へと飛び込もう。

  • アート
  • 初台

2024年、101歳でその生涯を閉じた染色家・柚木沙弥郎。型染に新たな表現を切り開いた彼の作品は、自在でユーモラスな形と鮮やかな色彩が響き合い、力強い生命感を放ちながら、今も人々を魅了し続けている。

「東京オペラシティ アートギャラリー」での展覧会「柚木沙弥郎 永遠のいま」では、初期の型染布から101歳で手がけたコラージュまで、75年にわたる創作の軌跡を紹介。さらに、ゆかりある都市や地域を切り口に、柚木の歩みをたどる旅へと鑑賞者を誘う。

民藝運動の思想に出合い、芹沢銈介に師事して染色家として歩み始めた柚木は、挿絵やコラージュなどジャンルを超えて創作を広げた。身近な「もの」や日々の暮らしに見いだした喜びを作品に映し出す姿勢は、変化の時代を生きる私たちに、今を慈しむまなざしを思い出させてくれるだろう。

100歳を超えてなお人生を愛し、楽しんだ作家が残した、自由な造形と豊かな色彩の世界を堪能してほしい。

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  • アート
  • 表参道

「エスパス ルイ ヴィトン東京」で、ポップアートの旗手であるアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の個展が開催。初期の私的スケッチから、亡くなる前年に乱れ髪のかつらを被って証明写真機で撮った写真、さらに1980年代の集大成『Ten Portraits of Jews of the Twentieth Century』まで、自己像を巡る一貫した探求の軌跡を紹介する。

ウィッグとサングラスで謎めいた人物像を築き、そのイメージを巧みに活用して作品の人気を高めたウォーホルは、変装と自己演出の達人でもあった。写真やセルフポートレートでは多様なキャラクターを演じ、女装姿のポラロイドや数々の「Self-Portraits」は、外見を自在に操る彼の手腕を示すと同時に、アイデンティティーやイメージの意味を問いかけている。

また、人物を描くことは、生涯にわたるウォーホルの創作の核心であり続けた。映画スターや上流階級、アート界の著名人を題材にした膨大な肖像群は、やがて時代そのものを映す集合的ポートレートへと結実している。

証明写真機による『Self-Portrait』から謎めいた『The Shadow』まで、本展ではメディアにおけるウォーホル像の変遷と、技法や様式の発展をたどる。1950年代のボールペンによる若い男性のドローイングなど、めったに公開されない作品も並び、広告イラスト時代に培われた独自のスタイルを垣間見られる。

  • アート
  • 丸の内

「三菱一号館美術館」で、「アール・デコとモード 京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションを中心に」が開催。えりすぐりのアール・デコ期のドレス約60点や、帽子・バッグ・靴などの服飾小物に、国内外の美術館所蔵の絵画・版画・工芸品などを加えて展示する。

1920年代、世界を席巻した装飾様式「アール・デコ」は、流行の服飾にも浸透した。パリ屈指のメゾンが手がけたドレスには、幾何学的で直線的なデザインや精緻な装飾が施され、それは活動的で自由な女性たちが好む新しく現代的なスタイルであった。

見どころは、「ポール・ポワレ」「ランバン」「シャネル」といった、パリを代表するメゾンが手がけた1920年代のドレス。さらに、当時の流行を絵画や工芸、グラフィック作品と合わせて多角的に検証する。女性たちを彩ったジュエリーや腕時計、コンパクトなど、時代を映すアイテムの数々も必見だ。

現代にも影響を与え続ける、100年前のモードの世界を堪能してほしい。

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  • アート
  • 銀座

「シャネル ネクサス ホール」で、AIアートとエコロジーが融合する展覧会が開催。今世界のアートとテクノロジーが交差する臨界点で、リスボンを拠点に活動するアーティストのソフィア・クレスポ(Sofia Crespo)と、彼女がアーティストデュオとして活動するエンタングルド・アザーズ(Entangled Others)による最先端の作品を紹介する。

クレスポは、AIと生命科学の融合において独自の詩学を築いた。ニューラルネットワークを通して生成されたイメージは、虫の翅(はね)や植物の胞子、深海のクラゲのような形をしながら、どこか既視感を抱かせるが、決して見たことのないものたち。これらのフォルムは、AIが人間の観察力を模倣し、進化的な創造行為に踏み込む過程を可視化している。

エンタングルド・アザーズは、「もつれ合い」の概念を軸に、人間と非人間の関係をデータと想像力で再構築する。深海や植物、非線形のデジタル生態系などの複雑な振る舞いを、ビジュアルによる「シミュレーション」として提示する。

本展では、海中2000メートル以深の世界を探る『liquid strata: argomorphs(流動する海洋層:変態するアルゴフロート)』や、「存在しなかった自然史の本」をコンセプトにした『Artificial Natural History(人工自然史)』などの5シリーズを紹介。映像や彫刻、デジタルインスタレーションを通じて、断片的なデータと仮説から世界を読み解く科学と、詩的想像力の交差するビジョンを提示する。

彼らの作品で生成されるイメージは自然の代替ではなく、「人間が自然をどう見たいと願っているか」の深層を写し出す。絡まり、共鳴し、変容していくそれらのイメージは、現実世界の見え方を静かに揺さぶるだろう。

  • アート
  • 汐留

パナソニック汐留美術館」では、19世紀前半のビーダーマイヤーと世紀転換期という、ウィーンの生活文化における2つの輝かしい時代を取り上げる展覧会が開催。銀器・陶磁器・ガラス・ジュエリー・ドレス・家具など約270点の多彩な作品を紹介する。

両時代の工芸やデザインに共通するのは、生活に根ざした実用性と快適さ、節度ある装飾、自然へのまなざしと詩的な遊び心。本展では、これらの美意識を相互比較や空間構成を通して、体感できる。

19世紀から20世紀初頭のウィーンでは、オットー・ヴァーグナー(Otto Wagner)の「実用様式」に共鳴した弟子のヨーゼフ・ホフマン(Josef Hoffmann)らが幾何学的で機能的なデザインを展開。一方で1920年ごろには幻想的で装飾性豊かな作品も生まれ、多様な造形が広がった。

こうした革新の背景には、ビーダーマイヤー様式の簡潔さ・実用性・抑制の美があり、私的空間の美学と手仕事を土台に独自の「ウィーン・スタイル」が築かれた。

本展ではこうした「ウィーン・スタイル」を、デザインや工芸作品だけでなく、グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)やオスカー・ココシュカ(Oskar Kokoschka)による素描や肖像画、女性パトロン・文化人の活動、女性デザイナーの仕事にも注目して多角的に紹介。最終章では、そのスタイルが世紀末以降も受け継がれる様子を検証する。

ウィーンの生活文化の世界を堪能してほしい。

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  • アート
  • 六本木

「21_21 DESIGN SIGHT」で「TYPE-XIII Atelier Oï project by A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」が開催。スイスを拠点とするデザインスタジオ「atelier oï」と、服作りを超えて素材や技術の可能性を探求してきたブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」が協業し、「一枚の布」と「一本のワイヤー」を融合させた新しい照明器具を生み出した。

会場では、20254月の「ミラノデザインウィーク」で発表され、大きな反響を呼んだプロトタイプを中心に再構成した内容を日本で初披露。両者が重視する「ものづくりのプロセス」を軸に、視点や技術を交差させながら絶え間なくアイデアを交換することで実現した照明シリーズ「O Series」と「A Series」を展示する。

衣服の枠を超え、布の可能性を照明デザインへと拡張した、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEならではの美しさと機能性を体感してほしい。

  • アート
  • 京橋

「アーティゾン美術館」で、「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着」が開催。世界のアートシーンで注目される2人のアーティスト、山城知佳子と志賀理江子がコレクションを独自の視点で再構成し、作品との響き合いから新たな解釈を生み出す。

タイトル「漂着」には、偶然性と必然性、外からの流入と内からの応答という二重の意味が込められている。本展では、沖縄と東北という異なる土地に根ざし、歴史や記憶に向き合ってきた2人の作家の軌跡と重ねながら、記憶や災害、移動、再生といったテーマをコレクションと交差させ、展覧会全体を一つの「漂着地」として体験できる。 


さらに、本展のための新作を公開。山城は沖縄、パラオ、東京大空襲の記憶を映像で結び、語りや歌、祈りを交錯させて、歴史の複層性を映像インスタレーションとして編み上げた。

志賀は、東日本大震災以後の復興開発で揺れ続ける人間精神や社会、コミュニティーの姿を、宮城県北部であらゆる意味に自在に使われる「なぬもかぬも」という言葉を起点に批評的に捉えつつ、独自の物語によって紡ぐ。高さ約4メートルの写真絵巻を空間全体に展開し、鑑賞者に没入的な体験をもたらす。

両作家の意欲作は主題を深めつつ新たな展開を示し、スケールの大きなインスタレーションによる強い視覚・聴覚体験と、深い思索を促す表現の力が見どころだ。新作とコレクション作品との出合いを通じて、複雑で困難な現実に対するまなざしと、芸術の力を再考する場を感じてほしい。

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  • アート
  • 銀座

世界を舞台に活躍したアートディレクター、デザイナーとして広く知られている石岡瑛子(19382012年)。その作品とともに、表現者としての彼女の言葉もまた、観るものを強くインスパイアする力に満ちている。

20239月、北九州市からスタートした「石岡瑛子 I デザイン」展は、茨城・兵庫・島根・富山を巡回し、20256月にその幕を下ろす。生涯にわたり全身全霊をかけて表現し続けた石岡の熱量に、年齢や職業に関係なく、胸を熱くする来館者は少なくなかった。

「メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド(MMM)」で開催する本展では、この巡回展のごく一部を縮小再現して紹介する。どのような環境でも失われることのない石岡の熱量と、クリエーティブの神髄を感じ取ってほしい。

  • アート
  • 表参道

食と植物の視点から、人が生きるために不可欠な衣食住の未来へと思いを巡らせる場としての展覧会「衣・食植・住」。衣と住に続くシリーズの締めくくりとして、「食」にフォーカスした展示が「GYRE GALLERY」で開催される。

本展では、料理人の野村友里が、植物と土に食の根源を見いだし、生命の循環の中で食と人の関係を探る。「Life is beautiful」というタイトルには、生産者との関わりを通じて培った視点から、現代にふさわしい「食」と「生きる」在り方を問い続ける姿勢が込められている。

日本では古来、大麻や稲が衣・食・住に幅広く用いられてきた。なかでも「米」は、衣食住全てに関わり、命を守りつなぐ植物として暮らしを支えてきたもの。本展では、その米を改めて食の視点から捉え直す。

稲わらを用いて衣服や家具を制作するアーティストや、土から食材を育て器を生み出す陶芸家など、多様な表現者の作品を紹介。「日本人はなぜ米を食べるのか」という根源的な問いを見つめ、未来への可能性を探っていく。

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  • 乃木坂

平成が始まった1989年から2010年。冷戦の終結とグローバル化の進展により、国際的な対話が広がりを見せた20年間に、日本ではどのような美術が生まれ、どのような表現が世界へと発信されたのか。数多くの実験的挑戦は、時代、社会の動向を取り込むプリズムとなって、さまざまな問いかけを含んだ作品へと反射されていった。


「国立新美術館」では、国内外50以上のアーティストの実践を通して、その多様な表現の軌跡をたどり、そして検証する展覧会が開催される。香港にあるアジアの現代視覚文化のグローバルミュージアムエム プラス(M+)」との協働キュレーションにより、ナショナリティとーいう枠を越えた批評的な視座が提示され、日本で生まれた美術表現を多層的に読み直す。

経済的繁栄によって国際社会で知名度が高まる日本をプラットフォームに、社会構造の変化を反映する新たな表現が生まれた約20年間。本展では、相次ぐ美術館の開館やオルタナティブスペースの興隆、アーティスト・イン・レジデンスや芸術祭の活況といった、美術を支える土壌が豊かになる中でどのような作品が生まれてきたかを追う。

また、日本を起点に核や戦後の問題と向き合う作品、他者との関係を通じアイデンティティを問う試み、コミュニティーの中で新たな関係性を構築するプロジェクトなど、日本のアートシーンを彩った革新的な表現にも光を当てていく。

「戦争の記憶に向き合い読み直す視点」「ジェンダー、ナショナリティ、日本文化の再解釈」「共同体や新しい関係性の可能性を探る」といったテーマにより、鑑賞者は複数の視点を横断的に体験できるだろう。

時代のリアリティーを映し出す美術表現を垣間見よう。

  • アート
  • 白金台

ヴァン クリーフ&アーペル」のハイジュエリーを通じて、アール・デコ博覧会の100周年を祝う展覧会「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル — ハイジュエリーが語るアール・デコ」が、「東京都庭園美術館」で開催。アール・デコの輝きに浸る、詩情と革新をまとったハイジュエリーが白金台に咲き誇る。

舞台は、アール・デコ様式の粋を今に伝える「旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)」。約250点にも及ぶジュエリー、時計、工芸品の中には、1925年にパリで開催された「現代装飾美術·産業美術国際博覧会(通称 アール·デコ博覧会)」でグランプリを受賞した『絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット』も登場する。本館では、1910年代から1930年代にかけて制作されたアール・デコ期の作品たちが、時代を超えて観る者の心を照らすだろう。

新館では、現代まで受け継がれる「サヴォアフェール(匠の技)」にも注目。見どころの一つは、ヴァン クリーフ&アーペルが1933年に特許を取得した「ミステリーセット」と呼ばれる宝飾技法で、石を留める爪を表に見せずに宝石の滑らかな質感を実現している。5つの庭園を巡るように動植物モチーフの繊細な作品が幻想的な世界をつくり出す。

フラットデーとして全ての人が安心して楽しめる環境づくりのため、入場制限を行っており、10月22日(水)は「ゆったり鑑賞日」を実施。また、11月5日(水)の10〜15時には、ベビーカーでの入館が可能な「ベビーアワー」も行う。チケットは全日程において日時指定予約制なので、詳細は公式ウェブサイトを確認してほしい。 


なお、11月21日(金)・22日(土)・28日(金)・29日(土)、12月5日(金)・6日(土)は20時まで開館している。

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  • アート
  • 原宿

Galerie GEEK/ART」で、現代美術家・ジュエリーデザイナーのスズキエイミによる新作個展が開催。「Polyphony(多声性)ーあなたがもし、私だったらー」をテーマに、大理石や木材へのプリントを試みた新作を含む、心と身体に焦点を当てた作品群を紹介する。

スズキはこれまで「生」「偏見」「祈り」をテーマに、古典美術にコラージュやペインティングを重ねた作品を数多く発表してきた。「名画の中の人体はどうなっているのか」という解剖学的な好奇心から生まれるモンタージュには、内臓や骨といったモチーフが登場する。それは古典芸術への敬意を土台にしながら、「芸術のための芸術」と真摯(しんし)に向き合う試みでもある。

会場では、ギリシャ神話の三美神をモチーフに、重厚な大理石へプリントを施した新作をはじめ、心臓を建築のように構造分解し、木材にプリントした作品などを展示。一見無機質な質感の中に、確かな温もりを宿す作品群が並ぶ。

また、スズキのジュエリーブランド「eimiess」の販売も行う。ジャンルを横断し表現を続けるスズキの多彩な世界を堪能してほしい。

  • アート
  • 恵比寿

「東京都写真美術館」で、日本を代表する写真家のグループ展「総合開館30周年記念 作家の現在 これまでとこれから」が開催。国際的に活躍する、世代の異なる5人の作家の現在とこれまでの作品を紹介し、これからの写真・映像表現の可能性を探る。

出品作家は、石内都、志賀理江子、金村修、藤岡亜弥、川田喜久治。収蔵作品を軸に、これまでの作品に加え、新作・近作も合わせ一堂に公開する。

また、戦後80年、昭和100年という節目の年に、写真表現を通して何が見えてくるのかを問う。被爆者の遺品を撮影した石内の『ひろしま』、現在の広島を撮りながら「ヒロシマ」を見つめた藤岡の『川はゆく』、昭和の終わりの天体現象を一つの題材とした川田の『ラスト・コスモロジー』など、それぞれの視点を通して、問いに迫っていく。

なお、2026年1月2日(金)・3日(土)は入場無料で鑑賞できる。

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  • アート
  • 池袋

20252月に新たな王墓が発見されるなど、古代エジプトへの関心が再び高まっている昨今。「古代オリエント博物館」では、秋の特別展「やっぱりエジプトが好き♡ 昭和のニッポンと古代のエジプト」が開催される。

日本でのエジプト人気といえば、1965年に東京・京都・福岡を巡回し、計290万人以上を動員した「ツタンカーメン展」が知られている。しかしその前から、日本では古代エジプトのモチーフがデザインに取り入れられ、日常生活の中で親しまれてきた。

本展では、「北名古屋市歴史民俗資料館」の所蔵品を含む約200点を紹介。1950年代後半から1970年代前半(昭和3040年代)に広がった「エジプト柄ブーム」を手がかりに、布・紙・陶磁器・木工・金属、さらにはサブカルチャーに至るまで、古代の意匠が息づいた時代を振り返る。

そこから、当時の人々が抱いた古代エジプトへの憧れや、暮らしの中に表れた美意識を、現代の視点で再発見することができるだろう。

  • アート
  • 天王洲

「ワットミュージアム(WHAT MUSEUM)」で、現代日本の絵画におけるリアリズムを牽引(けんいん)する画家、諏訪敦の大規模個展が開催。ヌードと頭蓋骨を組み合わせた初期の傑作、亡き人々を遺族からの依頼で描いた肖像画、自身の家族を見つめたシリーズなど、代表作から最新作まで約80点を通し、画業の変遷を多角的に紹介する。

コロナ禍以降、「人間を描きたいという気持ちを失ってしまった」と語る諏訪。大型絵画の『汀にて』は、新型コロナウイルス感染拡大で、モデルを使った対面の制作ができなくなった諏訪が、家族を介護しながら自宅アトリエで進めてきた静物画研究の集大成だ。古い骨格標本、プラスター、外壁充填材などアトリエで見いだした材料でブリコラージュした人型が描かれている。

また、『汀にて』の制作過程に密着し、記録したドキュメンタリー映像を上映。アトリエの風景や、諏訪の緻密な作画プロセスを美しい映像で鑑賞できる。

さらに、芥川賞作家の藤野可織が、制作に没頭する諏訪のアトリエを度々訪問し、その絵の印象を元に掌編小説を書き下ろした。小説はハンドアウトに印刷して鑑賞者に配布。諏訪が「死んで静まっているもの」と語る静物画たちがどんな物語となるのか、絵画と文芸のコラボレーションに期待したい。

肖像画家が再び人間を描けるようになるまでの、克服の過程を開示する本展。「見ること、描くこと」を己に厳しく問い続けてきた諏訪の、現在進行形の思索と創造を目撃してほしい。

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  • アート
  • 乃木坂

真に色彩豊かなジュエリーの傑作を創出したことによって、色彩を独自の芸術形式へと変容させた唯一のハイジュエラーといえる「ブルガリ」。その色彩を操る唯一無二の手腕に光を当てる展覧会が「国立新美術館」で開催される。

「ブルガリ・ヘリテージ・コレクション」と個人コレクションから選び抜かれた色彩のマスターピースというべき約350点のジュエリーは、メゾンの始まりから現在までを跡付けつつ、イタリアと日本の深いつながりを浮き彫りにする。宝石と貴金属を自在に操るメゾンの卓越した技量も堪能できる。

また、現代の3人の女性アーティスト、ララ・ファヴァレット(Lara Favaretto)、森万里子、中山晃子が、それぞれ色彩についての考察に基づく作品を展示する。

会場デザインは、ブルガリと、妹島和世と西沢立衛の建築家ユニット「SANAA」、イタリアのデザインユニット「フォルマファンタズマ」が協働して手がける。古代ローマの浴場のモザイクのパターンに着想を得たデザインコンセプトは、曲線的なフォルム、洗練された半透明の素材、色彩の効果を通して、鑑賞者を色彩の世界を巡る感覚の旅へと導くだろう。

ハイジュエリー、コレクションのクリエーション、現代アート、アーカイブからの資料、そして没入型のインスタレーションが取り混ぜられた本展は、さまざまな創造性と心を揺さぶる体験が次々と現れる万華鏡のような展覧会だ。国内におけるブルガリの展覧会としては10年ぶり、過去最大のスケールとなるので見逃さないでほしい。

  • アート
  • 銀座

イッセイ ミヤケ ギンザ | キューブ(ISSEY MIYAKE GINZA | CUBE)」で、2010年に誕生したブランド「132 5. ISSEY MIYAKE」による展示「折りから生まれる かたちと思考」を開催。衣服の造形の根幹にある「折り構造」に焦点を当てながら、ブランドの創造のアプローチを多角的に紹介する。

132 5. ISSEY MIYAKEは、「明日のものづくり」を探求する理念の下、三宅一生と「リアリティ・ラボチーム」の取り組みから生まれた。再生ポリエステルをはじめとするサステナブルな素材開発と、立体折り紙の構造原理をかけ合わせ、素材とパターンの両面から衣服の新たな可能性を切り開いている。

会場では「幾重にも折りたたまれた布の一端を持ち上げると、回転しながら立ち上がり、衣服として形を成す」という、造形の美しさと驚きが交差する変容のプロセスを、折りの動きを視覚化したインスタレーションとして展示。併せて、原料のリサイクルから糸、布、そして衣服へと至る工程を、映像と実物資料を通してひもとく。

リアリティ・ラボチームの思考と実践、そして日本各地の職人たちとの協業によって培われた技術の軌跡をたどりながら、目に見える造形の背後に広がる創造の深層に光を当てる本展。衣服という概念を開き直す、その世界をぜひ体感してほしい。

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  • アート
  • 京橋

京橋の「クリエーティブ ミュージアム トーキョー(CREATIVE MUSEUM TOKYO)」で、葛飾北斎の「HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」が開催。現代の漫画やアニメーションの表現の原点ともいえる作品に着目した新しい展示演出で、200年前の「北斎のしわざ」を体感できる。

90年の生涯で3万点もの作品を残し、93回の引っ越し、30以上の画号を使い分けた自由奔放な生きざまを貫いた北斎。驚くべき画力と発想力、ダイナミックな構図と超絶技巧の描写、ユーモアと遊び心にあふれ、見えないものさえも描き尽くした。作品は、集中線・効果線、爆発や閃光(せんこう)、波や風などの自然現象、時間の経過、妖怪や幽霊、略画と一筆画、ギャグ描写、アニメ風原画など、さまざまな切り口が用いられている。

本展では、質・量ともに世界一として知られる浦上コレクションの『北斎漫画』全15編をはじめ、多彩な読本(よみほん)の挿絵、大波で知られる『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』、自らを「画狂人」と称した晩年の傑作『富嶽百景』全3編・102図など、出展作品は総数300点を超える。

また、北斎の最晩年80代前半に「毎日、新たに魔物を蹴散らす」ことを願い、日課として獅子や獅子舞などを描き続けたのが、200図以上残される『日新除魔図』。その存在をこれまで知られることがなかった16図が新たに発見され、斬新で魅力的な肉筆画が初公開される。

さらに、スペシャルコンテンツとして、日本屈指のアニメーターが、『踊独稽古』、『北斎漫画』から「雀踊り」と「武芸(棒術)」の3本をアニメーション化したものを特設ミニシアターで紹介する。貴重な機会を見逃さないでほしい。

  • アート
  • 神谷町

言わずと知れた、唯一無二の画力を持つダウンタウン・浜田雅功。過去にテレビ番組やメディアで取り上げられる度に大きな話題となった浜田のアートは、さまざまな芸能関係者やアーティスト、視聴者に大きな衝撃を与え続けてきた。

「麻布台ヒルズ ギャラリー」では、そんな浜田による初の個展「空を横切る飛行雲」が開催。お笑いのみならず、音楽・ファッション・俳優業など、これまで多様なジャンルでそのクリエーティブを発揮してきた浜田の、アートの世界での大いなるチャレンジが始まる。 


展覧会のクリエーティブチームには、高須光聖、北原和規、浅田政志、dot architectという、浜田の才能を認める実績豊かなデザイナーやクリエーターが集結。会場で浜田のアートとその世界観から受けた衝撃は、「飛行雲」のように、観たものの脳裏に残り続けるだろう。

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  • アート
  • 銀座

この秋、「ギンザ シックス(GINZA SIX)」の中央に位置する吹き抜け空間に、イギリスを代表する世界的な現代美術家のジュリアン・オピー(Julian Opie)の最新作「Marathon. Women.」が登場。同空間初の「動き」のある本作は、作家自身にとっても初めての、「宙に浮かぶ」映像の大型インスタレーションとなる意欲作だ。

シンプルな表現で伝統的モチーフを描くスタイルが、アート界だけでなく広いカルチャーシーンでも高く評価されるオピー。本作は、空間に浮かぶように設置されたLEDサイネージを舞台に、カラフルでシンプルな線で描かれたランナーたちの姿がそれぞれのスピードで駆け抜けていく。

展示環境そのものに強い関心を持ったオピーが、にぎやかな空間において意味を持ち、かつ自然に溶け込むような作品を目指して制作した。スクリーン上を果てしなく走り続ける動きを、4フロアから多角的に鑑賞できる。

なお、展示期間は2026年秋までを予定している。「走る」という人間の本能的な動きが空間全体に浸透し、圧倒的な躍動感と没入感をもたらすだろう。

  • アート
  • 渋谷

「東京都渋谷公園通りギャラリー」で、独自の発想や表現方法により、近年国内外で注目される6人の「アール・ブリュット」の作家を紹介。コピー機を写真機のように使って制作するポートレートや、広告チラシの切り抜きを絵の具のようにして描く絵画、使い終わった割り箸の巨大オブジェなど、「ブリコラージュ」の手法で唯一無二の作品が並ぶ。

ブリコラージュとは、身の回りにあるものを即興的に組み合わせてできる創作物や、ものづくりの作法・思考法を表す。手元にある日常品や偶然そこにあったもの、一度は捨てられたものなどが、従来の用途や役割から離れて転用されることで、新たな創造へとつながる。

作家たちの「ブリコラージュ」が生み出す、ありふれたものの思いがけない姿形。そこには作家それぞれの人生の手跡が色濃く残されている。

会場は、街の風景に馴染んで普段意識されない、道端の断片やカーブミラーなどの形からインスパイアされた「既知との遭遇」をコンセプトにする。作品と遭遇し、既に知る何かと新たに出合い、作り手の「生きる方法」にも触れる機会となるだろう。 

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  • アート
  • 府中

浮世絵、日本画、現代アート――日本には魅力的な猫の絵がたくさんあるが、中でも、独特の存在感を放っているのが、近代洋画の猫だ。ツンとすましたおしゃれでモダンな猫、あえて素朴に表した猫など、洋画家たちは多彩な猫の絵を描いてきた。

そんな猫というモチーフを、洋画の魅力的なテーマへと押し上げたのが藤田嗣治。1920年代のパリで脚光を浴びた『乳白色の裸婦』の側に1匹の猫を描き、さらに、まるで自分のサインのように自画像に入れたことで、猫は欠かせないモチーフとなっていた。

「府中市美術館」では、「フジタからはじまる猫の絵画史 藤田嗣治と洋画家たちの猫」が開催。藤田の『裸婦の横の猫』を出発点に、西洋とは違う日本の猫の絵の歴史も背負い、猫というモチーフから新たな道を見いだそうとした日本の洋画家26人の作家による作品を紹介する。

見どころは、藤田の「猫」の作品群。裸婦の横に猫を描き込んだ初期の作品から、藤田の猫人気を物語る『猫の本』、戦時下の混沌(こんとん)を象徴する猫の乱闘、そして最後まで手元に残した一枚までもが大集合する。

また、「絵画の主役は人物」という芸術観から動物絵画の少なかった西洋と、人と動物は同じ心を持つという仏教の教えを背景に、動物絵画の宝庫であった日本を比較。その奥にある動物観の違いを探っていく。

さらに、藤田以降の猫の絵に大きな展開をもたらした、猪熊弦一郎の傑作群も見逃せない。最大級の油絵から、ユニークな猫がびっしりと描かれたスケッチブックの一葉まで、猫の作品15点が並ぶ。

なお、2025年1011日(土)13日(月)は誰でも無料で入場できる。

  • アート
  • 恵比寿

「東京都写真美術館」で、ポルトガルを代表する映画監督のペドロ・コスタ(Pedro Costa)による、日本最大規模で東京で初となる美術館での個展が開催。近年、映画だけでなく世界各地で展覧会も開催し、表現の領域を広げるコスタの集大成ともいえる展覧会だ。

ドキュメンタリーとフィクションの境界を揺るがす独自の映像表現で、現代映画の最前線を切り開いてきたコスタ。本展は、コスタが10代の頃に出合い、深い影響を受けたスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)の1973年のアルバム『Innervisions』と同名のタイトルを掲げる。音楽を通して社会と個人の関係に迫ろうとしたこのアルバムの精神は、彼の映像制作の方法論とも深く響き合っている。

会場では、ポルトガルで暮らすアフリカ系移民の歴史を照らし出した『ホース・マネー』など、コスタ作品において重要な役割を担う登場人物たちや、彼らが生きる場所に関わる映像作品などを紹介。コスタの映像表現とその背景にある歴史的・社会的文脈に触れることで、「インナーヴィジョンズ」という主題を考察していく。

映像・写真・音が交錯する展示空間を歩きながら、その断片を鑑賞者の手で編み直すように体験できる本展。映画とは異なる鑑賞体験を楽しんでほしい。

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  • アート
  • 清澄

「東京都現代美術館」で、ニューヨークを拠点に国際的に活躍する注目のアーティスト、笹本晃(ささもと・あき)の個展が開催。初期の代表作から、キネティックな要素が強まる近年の作品まで、笹本の約20年にわたる活動を概観する。

笹本は、2000年代半ばからパフォーマンス、ダンス、インスタレーション、映像など、自身のアイディアを伝えるのに必要なメディアを横断的に用いた作品を手がけてきた。特に自ら設計・構成した彫刻、装置、造形物を空間に配してインスタレーションを創り出し、その中で自身がその環境の構成要素の一つとなって即興的なパフォーマンスを行うスタイルで広く知られている。

会場では、写真や立体作品、パフォーマンス時に生み出されるダイアグラム、映像作品、そして代表的なパフォーマンス・インスタレーション空間の再構成などによって、笹本作品のテーマや手法の変遷を、さまざまな角度から紹介していく。

また、10月中旬、11月上旬には、インスタレーション空間の中でアーティスト自身が即興的に行うパフォーマンスを実施。2010年の「ホイットニー・ビエンナーレ」で初めて発表した『ストレンジ・アトラクターズ』から、2024年に香港で発表した『Sounding Lines』、本展のための新作を組み合わせた新たなパフォーマンスまで、新旧の4作品が一堂に会する。造形とパフォーマンスの関係を探究し、独自の実践を重ねてきた異才とその作品を目撃してみては。

なお、リーズナブルな一般2枚のツインチケットも、チケットカウンターでのみ2500円で販売しているのでチェックしてほしい。

  • アート
  • 清澄

「東京都現代美術館」で、アジアを中心に15を超える国と地域を拠点に活動するアーティストが一堂に会する国際展「日常のコレオ」が開催。各地の社会的、歴史的文脈を起点とした絵画・写真・インスタレーション・映像といった、現代美術の幅広い表現を紹介するだけでなく、参加と対話を伴うパフォーマンスやワークショップも数多く展開する。

国内で初めて発表される作家・作品も多数の本展。ジェンダー規範に基づく家庭から美術館のような制度的空間、ムンバイや沖縄などの都市空間に至るまで、異なる場所における人々の営みや身ぶりに着目し、変容をもたらす主体性の現れを探求する。

また、美術館が位置する深川・木場を取り上げたパフォーマンスや、東京近郊の移民コミュニティーに関する参加型作品など、東京でのリサーチを元に制作された新作を多数発表。アーティストと鑑賞者がさまざまな形で集い、視点を共有しながら、それぞれの「日常」の域を問い直す契機を創出していく。パフォーマンスとワークショップの日程は、公式ウェブサイトを確認してほしい。

なお、リーズナブルな一般2枚のツインチケットも、チケットカウンターでのみ3,500円販売している。 

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  • アート
  • 絵画
  • 上野

フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)が生み出した膨大な数の作品がどのように保管・継承され、現代まで伝えられてきたのか。ゴッホの家族によって受け継がれてきたコレクションに焦点を当てた展覧会が開催される。

会場では、初期から晩年までの代表作を含む30点以上の絵画に加え、日本初公開となる貴重な手紙4通も展示される。これらの作品は、画商として兄フィンセントの活動を支えた弟、テオドルス・ファン・ゴッホ(Theodorus van Gogh)によって管理されていたものだ。

テオの死後、作品の管理を引き継いだのは妻のヨハンナ・ファン・ゴッホ=ボンゲル(Johanna van Gogh-Bonger)。彼女は回顧展の開催や、テオとの往復書簡の出版などを通して、義兄フィンセントの芸術的価値を世に広めることに尽力した。

ヨハンナの死後は、テオとヨハンナの息子であるフィンセント・ウィレム・ファン・ゴッホ(Vincent Willem van Gogh)がコレクションを受け継ぎ、フィンセント・ファン・ゴッホ財団を設立。作品の散逸を防ぎ、その保存と公開に力を注いだ。

ゴッホの芸術は、家族の献身的な努力によって守られ、100年以上を経た今もなお、多くの人々の心を打ち続けている。本展は、作品の魅力だけでなく、それを支えた家族の思いにも触れられる貴重な機会となるだろう。

  • アート
  • 銀座

一卵性双子のユニットで活動するアーティスト、髙田安規子・政子による展示が「資生堂ギャラリー」で開催。新作とこれまでの作品の再構成を含む約20点が展示される。

空間や時間の「スケール(尺度)」をテーマに、身近にあるものをはじめ、環境に手を加え、変容させる作品を手がける髙田安規子・政子。リサーチを元に、特性を生かした展示をすることでも知られている。

本展では、資生堂の社名の由来でもある「万物資生」の考えを起点に、生命やその成り立ち、進化の歴史を時間の層として描き出す。同時に、自然の法則で宇宙までつながる時空間をスケールとともに巨視的・微視的に捉え、可視化することを試みる。

たとえば、本を積み重ねて地層に見立てた新作『Strata』。地層は、生物の生態や自然環境の情報が刻み込まれた「歴史書のようなもの」という例えから着想を得た作品だ。展示室の床から踊り場の床下までつながる本棚に、約500冊の本とその間に鉱石や化石を配置。生物の誕生から人新世までの時と知の連なりを表している。

異なる視点で、自然界を含めた人類全体の共存共生と持続可能性を考えるきっかけとなるだろう。

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  • アート
  • 箱根

イギリスのサフォークを拠点に活動し、国内でも高い人気を誇るライアン・ガンダー(Ryan Gander)の個展が、箱根の「ポーラ美術館」で開催。日本初公開の最新作を含め、館内のさまざまなスペースで、全18点におよぶ作品の数々を紹介する。

日常の中に潜む物語や多層的な意味を、知的な遊び心と鋭いユーモアを交えながら表現するガンダー。人間の言葉を話すカエル、読めない時計や仮想の国旗、ある兄弟の偽りの歴史など、作品は極めて具体的でありながら、捉えどころのない神秘に満ちている。

「アートの目的はコミュニケーションではなく、触媒として曖昧さを提供すること」と作家が語るように、作品の意味は固定されていなく、解釈と連想のプロセスによって、新たな物語が創造される。

見どころは、家族とともに生み出された作品の数々。ガンダーの子どもたちの声が作品に使用されていたり、ガンダーの父親による手書き文字が描かれていたりする。

また、ガンダーが生み出した新たな動物たちにも注目だ。館内のさまざまな場所にすみついた、不思議な動物たちを探しに行ってほしい。

  • アート
  • 箱根

「ポーラ美術館」で、フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh、1853〜1890年)をテーマとした展覧会が開催。今日に至るまで、芸術家たちがゴッホからの影響を糧としながら、それぞれの時代にふさわしい新たな情熱をどのように生成してきたのかを振り返る。  

わずか37年の生涯の中で、数多くの絵画を制作したゴッホ。その名声を築き上げているのは、うねるような筆触と鮮やかな色彩による独自の様式、そして、劇的な生涯に対する評価であるといえる。

ゴッホの作品や芸術に一生をささげたその生き方は、美術に関わる者たちの心を揺さぶるだけではなく、文化、そして社会といった広範な領域にインパクトを与えた。

会場では、異なる地域で描かれたゴッホによる油彩画や、ゴッホに影響を受けた作品として、戦前の画家から岸田劉生、前田寛治、中村彝などを展示する。

また、歴史上の人物や芸術作品に扮装(ふんそう)したセルフポートレートで知られる森村泰昌から、福田美蘭、桑久保徹、オランダ在住の映像作家であるフィオナ・タン(Fiona Tan)まで、多様性にあふれた現代におけるゴッホの変奏曲を紹介する。

見る者の心を揺さぶるゴッホ作品の魅力に迫る本展。ぜひ足を運んでほしい。

もっとアート散歩をするなら……

  • アート
  • 公共のアート

無数の美術館やギャラリーが存在し、常に多様な展覧会が開かれている東京。海外の芸術愛好家にとってもアジアトップクラスの目的地だ。しかし、貴重な展示会や美術館は料金がかさんでしまうのも事実。

そんなときは、東京の街を散策してみよう。著名な芸術家による傑作が、野外の至る所で鑑賞できる。特におすすめのスポットを紹介していく。

  • トラベル

東京には魅力的なアート展示や、パブリックアートなどがある。しかし建物が密集しているため、大規模なアート施設を新たに造ることは困難だろう。希少な絵画やサイトスペシフィックなインスタレーションを観たいのであれば、千葉、神奈川、埼玉といった近隣の県へ日帰りで出かけるのもいいかもしれない。

自然の中でリラックスしてアートに触れることができる休日に訪れたいアートスポットを紹介する。

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ここではタイムアウトワールドワイドによる、ピカソやミロ、村上隆などの作品を楽しめる世界の「アートレストラン」を紹介。美術館に行く代わりに、レストランを予約してみるというのもいいかもしれない。

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