ペドロ・コスタ「溶岩の家」&
アンドレ・プリンシペ「内なる海」
『ペドロ・コスタ「溶岩の家」&
アンドレ・プリンシペ「内なる海」』Casa de lava - Caderno page #4 ©︎Pedro Costa, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery
『ペドロ・コスタ「溶岩の家」&
アンドレ・プリンシペ「内なる海」』Casa de lava - Caderno page #4 ©︎Pedro Costa, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery

東京、8月に行くべき無料のアート展9選

この夏をスペシャルにする厳選した展示を紹介

Chikaru Yoshioka
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タイムアウト東京 > カルチャー > 東京、8月に行くべき無料のアート展9選

胸に響き、心に刻まれる作品との出合いは、日常に新たな視点や余白、奇妙さ、神秘性などをもたらす。この夏もそんな忘れがたいアートと巡り合うべく、本記事では2025年8月に都内で開催する入場無料の展示を届ける。

「資生堂ギャラリー」での一卵性双子のアーティストユニットである髙田安規子・政子による展示や、森山大道と細江英公の写真展ペドロ・コスタとアンドレ・プリンシペによる2人展など、見逃せないものをセレクトした

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  • アート
  • 銀座

移転を記念し、銀座の「和田画廊」では、こけら落しとして森山大道と細江英公の写真展が開催される。

作家・坂口安吾の短編小説『桜の森の満開の下』と、1972年にカメラ毎日に掲載された森山の『桜花』からの作品、そして新たに撮り下ろした桜の写真を編集し、グラフィックデザイナーでパブリッシャーでもある町口覚が造本するという企画によって誕生した『Daido Moriyama: Ango』。本展では、『漆黒の桜』をはじめ同書に収録されたえりすぐりの作品を展示する。

また、三島由紀夫生誕100周年となる今年。会場で紹介する細江の代表作『薔薇刑』が撮影されたのは、1961〜1962年であった。細江は当時28歳、その助手を務めていたのは22歳の森山であり、生々しい三島の肉体とエロティシズム、細江の捉えたその世界観は今でも熱狂的な人気を誇る。

新天地での初展覧会に足を運んでほしい。

  • アート
  • 銀座

「Akio Nagasawa Gallery Ginza」で、ポルトガルを代表する映像作家のペドロ・コスタ(Pedro Costa)と、アーティスト・映画監督・編集者であるアンドレ・プリンシペ(André Príncipe)による2人展を開催。コスタが1994年に発表した長編第2作目『溶岩の家(Casa de Lava)』の制作過程で作成したスクラップブックを基にした写真作品と、プリンシペによる近年のプロジェクト『内なる海(Mar Interior)』を中心に構成される。

コスタは『溶岩の家』の準備段階において、絵画や写真、手紙、新聞記事、落書き、文学の引用、ポートレイトなど多様なイメージをスクラップブックにまとめた。映像に先立って存在したこの「視覚的シナリオ」は、映画のトーンを形成する上で重要な役割を果たしている。

両作家は長年にわたり親密な関係を築いており、コスタの作品集をプリンシペが主宰する出版社で刊行するなど、互いの制作に深く関わってきた。8月30日(土)には、2人によるサイン会も開催予定だ。

なお、8月28日(木)からは「東京都写真美術館」でコスタの大規模個展「ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ」も開催されるので、併せて楽しんでほしい。

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  • アート
  • 谷中

スカイ ザ バスハウス(SCAI THE BATHHOUSE)」で、高い完成度を追求する具象彫刻に一貫して取り組んでいる彫刻家・鈴木友昌の新作群を発表。その土地・社会で出合う「モデル」にこだわり、リアルへの忠実さを軸に制作を重ねてきた鈴木が今の東京を切り取る。

服のしわ、シャツのボタン、アクセサリーといった細部にまで神経の張り巡らされた、ファッショナブルで個性的な木彫像は、現代美術的文脈において異彩を放つ。「ファッションを切り口に現代を捉えようとしてきた」と鈴木自身が語るように、流行をまとう彼らの姿とその精緻なディテールは、近距離で観察のまなざしを向けた途端、木の繊維のざらつきとともに眼前に立ち現れる。

展示室に点在する4体の像は、日本のカルチャーに憧れ、あるいは失われた民主主義を求めて東京に集った若者たちの、縮尺された写像を含む。そして、東京という大都市の「今」を、鮮烈な現実感とともに鑑賞者に訴えかけるだろう。

また、台座なしで作品を空間に置く実践は、建築と彫刻、または鑑賞者との関係を再構成する試みでもある。その配置は、視線を交わすことのない孤立した人物たちを通じて、都市の中で埋没し、孤独に生きる我々自身の姿を映し出すかのようだ。

  • アート
  • 渋谷

パルコミュージアムトーキョー(PARCO MUSEUM TOKYO)」で、これまで人間の輪郭と現象のに揺らぐ、不定形で非人間的な存在を描いてきた山中雪乃の個展が開催。タイトル「Eclipse」をテーマに、新作約10点の平面作品を発表する。

山中は、具象と抽象、身体と空白、自己と他者、その間に浮かび上がる「なにか」に触れるようにして、描くという行為を通して可視と不可視の境界を探ってきた。新作は、絵画表現の中で行われる筆のストローク、たれ、かすれなどに加え、影を呼び出し、一部の光を遮ることで別の像が浮かび上がる現象を期待して制作されている。

これまでの表現に加え、新たに影や反転、奥行きのレイヤーが加わることで起こる、明瞭さと不確かさが同居する感覚を楽しんでほしい。

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  • アート
  • 銀座

一卵性双子のユニットで活動するアーティスト、髙田安規子・政子による展示が「資生堂ギャラリー」で開催。新作とこれまでの作品の再構成を含む約20点が展示される。

空間や時間の「スケール(尺度)」をテーマに、身近にあるものをはじめ、環境に手を加え、変容させる作品を手がける髙田安規子・政子。リサーチを元に、特性を生かした展示をすることでも知られている。

本展では、資生堂の社名の由来でもある「万物資生」の考えを起点に、生命やその成り立ち、進化の歴史を時間の層として描き出す。同時に、自然の法則で宇宙までつながる時空間をスケールとともに巨視的・微視的に捉え、可視化することを試みる。

たとえば、本を積み重ねて地層に見立てた新作『Strata』。地層は、生物の生態や自然環境の情報が刻み込まれた「歴史書のようなもの」という例えから着想を得た作品だ。展示室の床から踊り場の床下までつながる本棚に、約500冊の本とその間に鉱石や化石を配置。生物の誕生から人新世までの時と知の連なりを表している。

異なる視点で、自然界を含めた人類全体の共存共生と持続可能性を考えるきっかけとなるだろう。

  • アート
  • 銀座

「ポーラ ミュージアム アネックス」で、国内外で活躍する美術家・中村萌の展覧会「connect connect」が開催。作品や心、記憶と未来など、さまざまなつながりをテーマに、新作を含む木彫と平面作品約10点を展示する。

中村は主にクスノキの丸太を用いて、心にひそむ姿かたちや、遠い記憶のかけら、植物や自然などをモチーフにした作品を制作する。繊細な表情と静かなたたずまいは、作品に独自の生命観をもたらし、素材の温かみが鑑賞者の記憶を呼び起こして、どこか懐かしい感情を誘う。

作品を通じて「自身の中のつながり」を見つめ直すきっかけとなるだろう。

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  • アート
  • 京橋

画家・佐野凜由輔の新作個展「ZOOOOOOOOOOOOM / FACE」が、京橋の「ギャラリー アンド ベーカリー トーキョー(Gallery & Bakery Tokyo)8分」で開催。「顔」をモチーフに記憶の断片を描く、『フェイスシリーズ』を中心とした新作を発表する。



佐野は、2016年にニューヨークへ渡った後、3カ月の滞在中に現地アーティストのアシスタントを務め、画家としての道を歩み始めた。2018年に開催した初の展覧会から、規則性のない具象性と抽象性が共存する構図をさまざまな素材やレイヤーによって表現する『ZOOM(ズーム)』というコンセプトに込め、精力的に作品を描き下ろし続けている。

書籍『暗幕のゲルニカ』にインスパイアされた本展最大の大きさを誇る作品は、鮮やかな色彩感覚と圧倒的迫力によって鑑賞者を世界観に引き込む力を持つ。この夏、力強い佐野の作品を体感してほしい。

  • アート
  • 神楽坂

神楽坂の「エイトエイコ(eitoeiko)」で、台湾のアーティスト、チェン・チンヤオ(陳擎耀)による個展「戦場の女」が開催。笑いやユーモアを交えながら、時代と流行、社会制度に言及する作品を制作するチェンの新作を発表する。

本展では日本統治時代の台湾に生まれた女性画家、チェン・ジン(陳進、1907〜1998年)の作品を引用し、日本・中国・台湾という国の現在地を示す。チェン・ジンが1945年に描いた『眺望』では、地下防空壕(ごう)の出入口から上空を望む女性の姿が描かれている。

同作品を踏まえて、チェンはそこに現在の社会状況を映し出した。過去の美術史を掘り起こし、現在の安全な日常生活は政治や外交といったものと切り離すことができないことを、改めて思い起こさせるだろう。

なお、8月12日(火)〜15日(金)は休廊なので注意してほしい。

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  • アート
  • 六本木

辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている写真家・石川直樹の写真展が「フジフイルム スクエア」で開催。23年間にわたる石川のヒマラヤでの足取りを、大きく引き伸ばされた約70点の写真群によって振り返る。

本展のタイトルが示す「14座」とは、ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈にまたがる8000メートル峰の14の山々を指す。23歳の時に初めてチベットの地に降り立ち、ヒマラヤへの長い旅への第一歩を踏み出した石川。2001年のエベレスト遠征を皮切りに、8000メートル峰14座に登りながら撮影を続け、2024年のシシャパンマ登頂により、14座の完全登頂を達成した。

本展は、最初の遠征で撮影されたポジフィルムをはじめ、展示作品の多くが初公開だ。地球上のあらゆる地域を旅してきた、石川の生の記録を垣間見てほしい。

夏のカルチャーイベントなら……

  • アート

本記事では、そんな時を過ごすべく2025年8月に行くべきアート展を厳選して紹介する。ポルトガルを代表する映画監督のペドロ・コスタ、ニューヨークを拠点に国際的に活躍する笹本晃、草間彌生・河原温・杉本博司などの作品を紹介する現代美術展など、注目のものをピックアップした。

  • Things to do

本記事では、8〜9月に開催に行くべき本にまつわるを5つ紹介。プロからアマチュアまでのオリジナル小説・漫画などに出合える大規模な即売展示会や、中央線沿いの古本が集結する古本フェス、150以上の作り手による紙雑貨の祭典など、本にまつわる個性的なイベントが盛りだくさん。好奇心を刺激する一冊を見つけに出かけよう。

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