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1970年代から活躍するマルチメディアアーティストの日本初となる大規模個展

虎ノ門ヒルズ内にある「TOKYO NODE」で2026年9月26日(土)まで開催する「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」に行ってきた。
1970年代後半から活動する、アメリカ・ニューヨーク生まれのトニー・アウスラー(Tony Oursler)の日本初となる大規模個展である。アウスラーは立体物に映像を投射する表現スタイルを開拓したパイオニアであり、テクノロジーによる管理・監視システムとオカルティックな存在・現象を、「見えないもの」というカテゴライズで結びつけ、その欲望や不安について描き出すグロテスクな作風で知られている。
本展では、初期の代表作から今回のために制作された最新作まで約50点の作品と、アウスラーのインスピレーション源であるオカルトやスピリチュアルに関する膨大な資料群があわせて展示されており、科学と霊性が液状化した独特の世界観をじっくりと堪能できる。
BADなんだけどそれがちょっと気持ちいい
で、さっそくいきなり結論を述べてしまうが、かなり面白かった。少なくともオレはすげえ好き。失礼を承知で申し上げるなら「サイコ系マッドの頭の中」を体感するのに、これほどすぐれた展示はないと思う。
キャプションを読むと、テクノロジーがもたらすアイデンティティの変容に対する予期不安だとか、アメリカのフォークロアとしての擬似科学だとか、ちゃんと作品のコンセプトがしっかり言語化されているが、そういう言語理解を超えたキャッチーなインパクトがある。
「見ること」見られること」をメインテーマとして、静かな不安、じっとりとした恐怖、都市生活者の孤独、勘繰り、あらゆる不穏さを立体プロジェクションで表現したそれらは、まさに「BAD」である。「精神的グロ」といってもいいかもしれない。
デヴィッド・リンチの映画の、とくにめちゃくちゃリンチっぽい瞬間に似た手触りがある。BADなんだけどそれがちょっと気持ちいいみたいな感覚。ある種の不穏さや不気味さは、皮膚の内側がゾワゾワくるよーな謎の快感もともなっているものだけど、そういう快感を本展には感じた。
悪夢的なヴィジュアル
本展はいくつかのフロアから構成されているのだが、まず最初に登場するのが『スペキュラー(2021)』である。大小様々なサイズの眼球が吊るされていて、その眼にはときおりニュース映像らしきものがフラッシュバックしたりしている。なるほど、怖い。
続く『星(2026)』は、★マークの鏡面の内部に、着物姿の日本人女性がぎこちなく同じ動作を繰り返す映像が投射されていて、あたかも万華鏡のようになっている。そしてその向かいには、人間の目と口が投射されている背の高い黒猫がいる。やはり怖い。
続く『プライベート(1993)』はさらに悪夢的だ。通路にブラウン管テレビやら、作者本人の顔が投影された人形やら、不気味なオブジェやらが転がっていて、さらにはタバコやビデオテープのスケッチ画などが掲示されている。
その中でひときわ大きく目立っているのが「肖像権同意書」を模した布。この空間ぜんぶひっくるめて作品というわけだ。キャプションを読む限り、アウスラーという個人を形成するもの――愛飲するタバコやら仕事道具やらがそれぞれさまざまな形で並べられた上で、そのアイデンティティがメディア操作によって変容させられてしまうことの不安や恐怖を表現した作品らしい。
「そういうつもりでなかったもの」を「そういうもの」に変えてしまうテクノロジーの力に対して警鐘を鳴らす的なノリじゃないかと思うんだけど、まぁこれも相当怖い。マジキてんなって思う。インターネット登場前夜、1993年にこの感覚を表現してる先進性もハンパない。
絵画もマジキてる
いきなりスケール感のあるデカブツが連発したが、そうでない作品もたくさんある。印刷物や絵画や金属片などを組み合わせたフレームに左右反転させた映像を投射した『MUR(dusk)』などは、曼荼羅かつヴィヴィッドな、まぁひとことでいってドラッギー極まりない作品なのだが、キャプションを見ると「まるで薬を使わずに見る幻覚のよう」とか書いてあって、もう完全にそういうことなんじゃんやっぱりと思ったりした。
映像だけでなく絵画作品も結構あるのだが、それもすごくいい。アクリル絵の具で描かれた『ジータ(2025)』は、ちょっと童話的なムードもあるマッド感少なめの連作で、全体的におどろおどろしい本展の一服の清涼剤となっていた気がしなくもない。インスタレーションはマジでどれもイカれてるけど絵画作品は結構ポップな感じなのね~とか思ってたら、後半で登場した『女(2023)』とか全然超ヤバかった。
青空に透ける男女の顔面があり、そのど真ん中に大きく漢字で「女」って描いてあるという。インスタレーション系は全部ちゃんとキャプションで解説されてて、それ読んだら一応何となく納得できる感じになっていたけど、絵画作品は全然説明とかなかったから本当に意味不明だった。ただひたすらに何かがヤバかった。間違いなく何かが一位だけど、それがナンなのかはわからない感じの絵しかなかった。
家族の実話に基づく3Dの映像作品
あと二重のカーテンで仕切られた暗室で『計り知れないもの』という超常現象を巡る大作を上映しているのだが、これも相当だ。まず尺が86分ある。こういう展示の映像作品で、そんな長さのやつをまず見たことないからビビった。普通に映画の尺じゃん。
なんでも3D作品ということで、おそるおそる入室してみたが、なんかもう上映形態そのものが変だった。真っ暗な部屋の奥がガラス張りになっていて、さらにそのガラスの向こうには薄い半透明のスクリーンと普通のスクリーンが二枚重ねて吊るされてあり、別個の映像がダブりながら投射されている。
映像もマジで飛んでて、途中から10分程度みただけなのだが、オレが観たときはなんか数人の男女がテーブルを囲んで降霊術?みたいなのをやってて、デカいビーカーに蝋を流し込んだら、スカート履いてる女の人が急に開脚して股下から泥だらけの手が現れて、どこからともなくハイハイでやってきたジーさんがその股下に潜り込んで「神は存在する……」みたいなことを言ってた。
本当にデヴィッド・リンチのとくにリンチっぽいシーンが延々と続く的な作品だった。
インダストリアルとヴィヴィッドの融合
まぁそんな感じで強烈なビジュアルの数々によって、非現実的空間を心ゆくまでエンジョイできるワケだが、個人的にいちばんテンションが上がったのは今回世界初公開となる『空(くう)』である。
こいつはすごい、世界的ロックスターのデヴィッド・ボウイとの共作なのだ。アウスラーは1996年頃ボウイと親しくなったそうで、なんかボウイのステージ美術とかも手がけたりしていたらしいのだが、その縁から生まれたコラボレーションだそーだ。グレン・ブランカ(サーストン・ムーアの親玉みたいな人)が作曲した金属的なギターノイズが響き渡るフロアに、卵型のオブジェに投射されたデヴィッド・ボウイの巨大な顔面がいくつも鎮座しており、ボウイがひたすらなんかテキストを朗読し続けているという作品。
もうこれも意味とかは正直全然わかんなかった。タイトルから推察する限り、密教思想とかそのへんと関係あるのかもしれないが、インダストリアルとヴィヴィッド、テクノロジーとスピリチュアルが融合した超絶謎空間でしかなかった。 とまぁこんな具合に、ヤバ作品が嫌っていうほど骨身で味わえるBADな本展、ぜひマインドの準備をして臨んでみてほしい。かなりおすすめである。
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