杉田万智 個展「灯火」
参考作品《WE ARE ALL HUMAN No.4》2024年, F30, キャンバスに油彩 | 「杉田万智 個展『灯火』」
参考作品《WE ARE ALL HUMAN No.4》2024年, F30, キャンバスに油彩

東京、7月に行くべき無料のアート展12選

毛利悠子のヴェネチア・ビエンナーレ帰国展、杉本博司の『海景』シリーズ、奈良美智によるキュレーション展など

Chikaru Yoshioka
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2026年7月、街はアートによってより自由に開かれていく。

「横浜美術館」で開催される毛利悠子の「ヴェネチア・ビエンナーレ」日本館で発表した作品の帰国展をはじめ、奈良美智がキュレーションするセラミック表現の可能性を探る試み、杉本博司の視線を通して人類史を超えた生命の時間に思いを巡らせる展示などを、入場無料で楽しむことができる。リストを片手に街を歩けば、見慣れた風景はやがて静かにアートへと変わっていくだろう。

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「ギャラリー小柳」で、「杉本博司 海景 江之浦|前写真、時間記録装置」展が開催。「小田原文化財団 江之浦測候所」から撮影された「海景」シリーズの第1作から2026年の最新作までを一堂に展示するほか、杉本博司自身が収集した化石を撮影し、プラチナプリントで制作した「P.P.T.R.D.」シリーズも並ぶ。本展は、「東京国立近代美術館」で開催中の回顧展「杉本博司 絶滅写真」に合わせて企画された。

写真・建築・造園・彫刻・舞台芸術・書など、多様な領域で活動を展開する杉本。その創作の原点には、半世紀にわたって探求を続けてきた銀塩写真があり、「海景」はその代表作の一つとして知られる。水平線を中心に、海と空のみで構成されたミニマルな画面は、銀塩写真ならではの無限の階調によって生み出され、人間の視覚を超えるような静けさに満ちた世界を映し出す。

「古代人が見ていた風景を、現代人も見ることは可能なのだろうか」という問いから生まれた本シリーズは、太古から変わることのない空と海を通して、人類の意識の原点をたどる試みでもある。自身の「原風景」と語る相模湾を望む江之浦測候所からの撮影は2022年に始まり、漁船やボートが出ない元旦にのみ行われる。この制作は、新たな年を迎える杉本の習慣となりつつある。

また、長年にわたり化石を収集してきた杉本は、人類誕生以前の過去を正確に記録していた化石を「写真以前の時間記録装置」と捉え、それらを再び写真として定着させた「P.P.T.R.D.Pre-Photography Time-Recording Device)」シリーズを制作。会場では、プラチナプリントが醸し出す質感と豊かな階調のプリントを鑑賞できる。

杉本のまなざしを通して、人類の歴史を超えた生命の時間に思いを巡らせてみては。

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国内外で目覚ましい活躍をみせるアーティスト、毛利悠子。2024年の第60回「ヴェネチア・ビエンナーレ」の日本館で発表した個展「Compose」は各国のメディアで大きな反響を呼んだ。その展覧会を元に再構成された帰国展が、「横浜美術館」で日本初公開される。

毛利は、磁力や重力、空気の揺らぎといった自然現象を手がかりに、身のまわりの人工物や自然物、機器を組み合わせたインスタレーションを制作してきた。不規則な動きやノイズ音を生み出す作品群には、目に見えないエネルギーの循環やもの同士の関係性といった自然の摂理がユーモアを交えて表現されている。

本展では、「水」を主要なモチーフとして展開し、ベネチアと横浜という二つの水の都を結ぶ。コロナ禍や各地で続く紛争など、分断が深まる現代社会を背景に、「共存」や「共生」の在り方を問いかける。

展示は二つのシリーズによって構成。一つは、東京の地下鉄構内で目にした水漏れと、それに対処する駅員たちの即興的な工夫から着想を得た『モレモレ』。身近な日用品を用いて、水が循環する独自のシステムを立ち上げる。もう一つは、果物が朽ちていく過程を扱う『デコンポジション』で、電極を刺された果実の水分量の変化が、不規則な光や音となって現れる。いずれも水の循環や変容を可視化する作品であり、光や音、匂いを伴いながら鑑賞者の五感へと働きかける。

会場となる「ギャラリー9」は、新設されたガラス張りの展示室だ。自然や日常とアートを結びつけ、絶えず変化する現象に目を向ける毛利の作品は、刻々と移ろう光や風景を取り込むこの空間と響き合い、新たな表情を見せるだろう。

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20世紀を代表する家具デザイナー、ジョージ・ナカシマ(George Nakashima19051990年)。自らを「ウッドワーカー(木工家)」と称し、木の声に耳を傾けながら、生命に謙虚に向き合い家具作りを続けた。木を植生の段階から理解し、その個性を見極めて木取りを行うことで、家具としての「第二の生」を与えるべく、手と魂を存分に働かせてものづくりに取り組んだ。

その創作の原点は、若き日に学び、レーモンド事務所などで経験を積んだ「建築」にある。「Gallery A4(ギャラリー エー クワッド)」で開催の本展では、ナカシマが約30年をかけて家族とともに築き上げた仕事と生活の場「ジョージ・ナカシマ・ウッドワーカーズ」をはじめ、これまであまり知られてこなかった建築作品に焦点を当てる。

ナカシマは第二次世界大戦中に日系人収容所に抑留された経験があり、世界平和を強く願った人物でもある。晩年には祈りを込めて「平和の聖壇」を制作し、その理念は娘のミラ・ナカシマ・ヤーナル(Mira Nakashima-Yarnallへと受け継がれている。

見どころの一つは、アメリカ・ニューホープに築かれたジョージ・ナカシマ・ウッドワーカーズ。広大な敷地に点在する個性豊かな建築群を、貴重な写真資料とともに紹介する。また、戦前にインドで現場監理を務めた「ゴルコンダ」(1939)や、戦後に手がけた京都の「カトリック桂教会」(1965)など、建築作品も詳しく解説する。

会場ではナカシマがデザインした椅子やベンチなど家具を展示。実際に椅子に座ることができる体験コーナーも設けられ、ナカシマのデザインと座り心地を体感できる。

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KOSAKU KANECHIKA 天王洲」で、セラミック表現の可能性を提示する試みとして、奈良美智によるキュレーション展「地層の胎動」が開催。植松永次、桑田卓郎、坂本紬野子、安永正臣の4人による作品約30点で構成される。

陶芸を自身の表現領域としても探求する奈良。彼は「一つの作品が置かれるだけで、その周囲の空気までも立ち上がるような作家」として4人を選出した。本展に寄せて、次のように述べている。

「彼らの作品は、完璧なフォルムや美しい釉調(ゆうちょう)を目指すのではなく、『未完であること』『制御しきれないこと』『壊れうること』を内包しながら、それでもなおここに在る、という強度を持っている。陶という素材が持つ原始的な重さと、作家の個人的な記憶や身体性が、表層を突き破って立ち現れる瞬間を、私はこの展覧会で彼らと共有したかったのだ」

陶芸の根源的な要素を内包しつつ、工芸と現代美術の枠組みを横断する作品群は、複層的な鑑賞体験をもたらすだろう。完成された様式や技巧に捉われない奈良の視点は、本展に参加する作家たちの造形と深く呼応している。

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「ギンザ・グラフィック・ギャラリー」で、スイスのグラフィックデザイナー、活版印刷職人、作家のダフィ・クーネ(Dafi Kühne)による企画展「ダフィ・クーネ:ポスターを構築する―形をつくる、版をつくる、表現をつくる―」が開催。「PDFが最終成果物としてスタジオの外に出ることはない」という信念の下、全てのポスターをアナログの活版印刷機で制作するクーネの作品と制作プロセスに迫る。

クーネは、アナログとデジタルの技術を組み合わせながら、音楽やアート、建築、演劇、映画、プロダクトなど多様な分野のポスターを制作してきた。スイスアルプスの麓に構える自身のスタジオには、総重量40トンにも及ぶ印刷機や活字をはじめとする設備が並び、それらを駆使して複雑な工程を経ながら一枚一枚を刷り上げている。

金属活字や木活字、手彫りのリノリウム版といった伝統的な素材や技法を用いる一方で、自ら活字を鋳造することもある。また、既存の道具を使うだけでなく、自作の道具や改良を加えた印刷機を取り入れるなど、伝統と現代技術を融合させながら独自の表現を追求している。

デザインから印刷までの全工程を自ら設計し、形にするクーネ。本展では、完成したポスターに加え、制作の過程で残された痕跡にも焦点を当てている。人の手によるものづくりの可能性を改めて実感できるはずだ。

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「ポーラ ミュージアム アネックス」で、現代美術家の束芋による展覧会「束芋画 国宝」が開催。2017年から2018年にかけて朝日新聞で連載された、吉田修一による小説『国宝』のために制作した挿絵全500点を、前後期に分けて紹介する。

束芋は、浮世絵を思わせる色彩と独特のリズムを持つ手描きアニメーションを用いたインスタレーションで知られる。何気ない日常風景の中に現代社会のゆがみや人間の心理を織り込み、シュールな世界観を描き出してきた。近年は自身の内側にある記憶や、身近な物質がまとう時間などをテーマに制作を続けている。

『国宝』の挿絵制作では、まず墨による線画を描き、その後、小説の物語を読み込みながら場面ごとの感情や空気感を色彩として重ねていった。線の上に色を置く過程には、物語世界だけでなく、その時々の自身の感覚や身体性も自然と反映されていたという。

本展に当たり束芋は、新聞掲載時にはデータ上で合成していた色彩部分を、和紙に描かれた線画の上に改めて着彩し作品を完成させた。約10年前に描いた線やイメージを手がかりに、当時の感覚を現在の身体で呼び起こしながら色を重ねる行為は、作品と再び向き合う時間であると同時に、新たな発見をもたらす体験でもあったという。

新聞という日々更新されるメディアの中で生まれた作品を通して、過去と現在、文学と美術、記憶と身体感覚が交差する本展。物語とイメージが響き合いながら立ち上がる、束芋ならではの世界観を体感できるだろう。

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イスラエル出身でニューヨークを拠点に活動する現代アーティスト、ニール・ホッド(Nir Hod)による個展「Flowers of Memory」が、「KOTARO NUKAGA 天王洲」で開催。。彫刻・映像・絵画など多様なメディウムを横断しながら、美しさと退廃、セクシュアリティー、喪失、そして失われゆく純粋さといったテーマを探求してきたホッドによる「100 Years Is Not Enough」シリーズを発表する。

 本シリーズの絵画は、リネンやキャンバスに油彩とクロームを重ね、酸やアンモニアによる化学反応を経て独特の表情を生み出す。銀色に輝く鏡面には花々が咲き誇る楽園のような情景が浮かび上がり、鑑賞者自身の姿や気配もまた作品の一部として映し込まれる。風景画というジャンルを起点としながら、絵画の表面を光と記憶が降り積もる場として再構成する試みだ。

 こうした制作の在り方の背景には、美と崩壊が同じ画面の中に共存するというホッドの一貫した関心が息づく。作品は鮮やかな美しさをたたえながらも、どこか不穏な気配を漂わせ、時間や記憶、喪失といった感情の影を忍び込ませる。その相反する要素の共存こそが、初期作から現在のシリーズへと連なる表現の核となっている。

作品は単なる風景表現を超え、鑑賞者の内側に眠る記憶を呼び覚ましながら、見るという行為そのものに新たな視点をもたらすだろう。

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  • 渋谷

「Bunkamura Gallery 8/(ブンカムラ ギャラリー ハチ)」で、写真展「STILL/LIFE 静寂の余韻に」が開催。清水裕貴、スクリプカリウ落合安奈、鈴木のぞみ、頭山ゆう紀、中井菜央、細倉真弓、𠮷田多麻希の7人の女性写真家が参加する。

日々の生活は出来事や情報にあふれ、私たちの内面もまた感情や思考で絶えず揺れ動いている。しかし、その喧騒(けんそう)の中にも、ふと訪れる静かな瞬間がある。その静寂は、人を自分自身へと立ち返らせ、生きることの意味や本質について深く問いかけてくる。

本展では、「生きること(LIFE)」と「静けさ(STILL)」が交わる地点に焦点を当て、それぞれの作家がその感覚を独自の視点で掘り下げていく。作品に宿る静寂の余韻は、孤独や困難の中にあっても、「それでもなお(STILL)」「生きること(LIFE)」の可能性をそっと提示している。

なお、本展は「ヒカリエホール」で行われる「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展との連動企画として、同時期に開催される。

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NANZUKA UNDERGROUND」で、アーティストの村松佳樹による新作個展「NO SEQUENCE」が開催。絵画12点、ドローイングコラージュ3点、映像作品1点からなる新作群を発表する。

写真・手描き・コマ撮り・実写・クレイ・コラージュなど多様な手法を横断しながら、映像作品を中心に制作を行う村松。音楽グループのビジュアルワークや国際的なアートフェアへの参加など、芸術と商業の領域を往還しながら活動している。

その関心は、エドワード・マイブリッジ(Eadweard Muybridge)の連続写真やドイツ表現主義映画といった古典的映像表現から、ノーマン・マクラレン(Norman McLaren)の抽象フィルム、カルト映画やB級ホラー、実験映像、GIFアニメーションにまで及ぶ。さらに、人間の形状や温度を記憶し、映像的な余韻を残す家具やソファといった日常的な事物に宿る「時間の痕跡」にも向けられている。

また作品は、ジャポニズム、象徴主義、シュルレアリスムといった美術史的文脈から、現代のゲームカルチャーや漫画、映画表現までを多層的に取り込みながら構築。こうして、異なる時代や文脈に属するイメージの断片が、独自の映像的文法へと再編されていく。

ソーシャルメディア時代にあふれる断片的な視覚情報や時間感覚を再編集し、連続性そのものを問い直す試みとして、村松の作品は現代のイメージ環境を映し出している。

  • アート
  • 虎ノ門

虎ノ門の「art cruise gallery by Baycrew’s」で、美術家・佐藤雅晴(19732019年)の個展「REALUNREAL」が開催。現代美術や映画、アニメーション、メディアアートの境界を横断した佐藤の初期作品から晩年の作品まで、映像と平面作品を織り交ぜた27点を紹介する。

佐藤は、日常風景をビデオカメラで撮影し、その映像をトレースして再構築する「ロトスコープ」の技法を用いた作品で知られる。見慣れた風景でありながら、どこか夢の中のような静けさと不穏さをまとった世界を描き出し、「存在/不在」「記憶」「不安」「時間」といったテーマを掘り下げてきた。

作品を前にすると、鑑賞者は「これは現実なのか、それとも描かれた世界なのか」という知覚の揺らぎを体験することになる。その感覚は「見る」という行為そのものへの問いへとつながっていく。

本展では、映像や平面といった作品カテゴリーを横断しながら、「見えているものは本当にそこに存在しているのか」という、佐藤作品に通底する感覚に焦点を当てる。何気ない日常の風景の中に潜む強い詩情や、静かに立ち上がる違和感を通して、記憶された自分と実在する自分の間を見つめ直す機会となるだろう。

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  • 京橋

Gallery & Bakery Tokyo 8分」で、気鋭のアーティスト・杉田万智による個展が開催。現代社会に存在する「境界線」や土地の記憶をテーマに制作を続ける杉田の新作を紹介する。

杉田はこれまで、人間が生み出す「光」と、人々の行く先を示す「看板」をモチーフに、理想の世界を表現してきた。近年は、日本の民族や人権を巡る問題、社会に横たわるさまざまな「境界線」へと関心を広げ、自ら各地を訪れながら、その土地に刻まれた歴史や記憶、人々と動植物との関係を見つめている。

宗谷から望むサハリンとの距離感、街に残るアイヌ文様、沖縄と本土、与那国島と台湾の往来の歴史、土地に根付く動植物と人々の営み。本展では、杉田が各地で出合った風景や記憶の断片を一つの画面に描き出した新作群が並ぶ。「境界線」を問い直しながら、どこまでも続く一本道のようなネオンの光と、その背後に隠された現実を浮かび上がらせる。

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  • 代官山

アーティストの三宅哲平は、これまで土地に刻まれた地質や鉱物の断面を手がかりに、日常の背後に流れる時間や歴史を見つめてきた。LURF GALLERY」で開催される個展「圏外」では、福岡県飯塚市の炭層と千葉県中央部の山砂層に着目し、自然の長い時間と人間の営みが交差する場を探求する。

石炭は数千万年前の植物が長い年月をかけて変化したものであり、日本の近代化を支えた重要な資源でもあった。一方、千葉の山砂は首都圏の都市開発を支える存在であると同時に、その採掘によって土地の風景を大きく変えてきた。三宅はこうした物質の背景にある時間や歴史をたどりながら、私たちが立つ現在の足元に幾重にも積み重なる土地と時間の層を浮かび上がらせる。

タイトル「圏外」には、情報があふれる現代において、認識や関心の外側にあるものへ意識的に目を向けるという意味が込められている。三宅のまなざしを通して、外側にある時間や歴史、他者の存在に触れながら、新たな気づきや発見の可能性に出合ってほしい。

夏の予定を立てるなら……

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