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9月13日まで、デビュー作から最新作までキャリア全体を見渡す

銀塩写真をはじめ、建築、舞台芸術などジャンルを超えた作品を制作し、国際的に高い評価を得る現代美術作家・杉本博司。彼の回顧展「杉本博司 絶滅写真」が、2026年9月13日(日)まで京橋の「東京国立近代美術館」で開催されている。
国内では毎年、あるいは一年おきに展覧会が開催されている杉本の展覧会だが、写真作品のみで構成された大規模なものは、2005年に「森美術館」で開催された「杉本博司 時間の終わり」展以来21年ぶり。さらに同展は、デビュー作から最新作までを一望できる回顧展の形式とあって、大きな注目を集めている。
まず目に留まるのは、「絶滅写真」と銘打たれたタイトルだ。杉本はこれまでも人類文明の終焉(しゅうえん)を主題とし、作品を発表してきたが、同展ではデジタル化によって消えつつある銀塩写真に焦点を当てると同時に、作家自身の創作活動の最終章をも予見して名付けられたという。
銀塩写真全盛期に生まれ、その時代の終わりとともに作家人生の幕引きを見据える杉本。彼は現代美術家としてキャリアをスタートさせた半世紀以上前から「写真には写らないものもある、ということを、写真を撮って証明してみよう」という逆説的な命題を抱きながらシャッターを切り続けてきた。本来は現実を記録するメディアとされている写真を用いながら、「写真には写らないもの」を提示するその試みは、写真の本質や限界を問い続ける営みでもある。
会場では13のシリーズ、約60点に及ぶ作品を緩やかな年代順で展示。50年以上にわたる創作をたどりながら、それぞれの作品に異なる時間軸が閉じ込められている点にも着目してほしい。
ここからは、作品の解説や制作背景は最小限にとどめ、「なぜ今、この回顧展を観る意味があるのか」という視点から、その魅力を紹介する。
展覧会は、ニューヨークの「アメリカ自然史博物館」の精巧なジオラマを撮影したデビュー作から始まる。原始の様子を再現したセットに展示された剥製(はくせい)を大型カメラで捉え、モノクロ写真へ変換することで、まるで実物であるかのような新しい現実を作り出した作品だ。
この「ジオラマ」シリーズは、人権や人種差別の問題により長らく撮影が認められなかった最後の2点が2025年に解禁されたことで、ついに完結を迎えた。全作品が一堂に会する様子は、同展の大きな見どころといえよう。
映画一本分を長時間露光によって一枚の写真に納めた「劇場」シリーズも、ハイライトの一つ。映画館が黄金期の勢いを失いつつあった1970年代後半に同シリーズの制作を始めたことにもまた、失われるものへの意識が表れている点で興味深い。
「原始人の見ていた風景を、現代人も同じように見ることは可能か」という問いから生まれた杉本の代表作「海景」もまた、人類史的なスケールへと表現を拡張したという点でも重要なシリーズだ。太古の昔から変わることのない海を前にすると、思考は人類の起源へと引き戻されるとともに、文明のはかなさが意識される。
一方で、人間の知性や想像力が生み出した人工物へ向けた視線も興味深い。「観念の形」と題された章で展開する「ISSEY MIYAKE」や「COMME des GARÇONS」といった有名デザイナーの服飾を捉えた「スタイアライズド・スカルプチャー」シリーズや、モダニズム建築をあえてピントを外して撮影した「建築」シリーズは、杉本の表現に新たな奥行きと展開をもたらす作品群だ。
2026年に制作された最新作『CAMERA MAN』も見逃せない。これは、シャッター機構を組み込んだ眼鏡のような形状をした彫刻作品である。
「人生を晩年までやり過ごしてみると、(中略)人の一生という時間の単位が、感覚的に体感できるようになる」と語る杉本はこの作品で、自分自身をカメラに置き換え、1秒を人間の一生に置き換えて実感できる装置を構想した。時間そのものを可視化しようとする試みは、杉本が一貫して問うてきたテーマの到達点といえる。
「絶滅」という重く響くテーマを掲げる一方で、同展には杉本らしいユーモアもちりばめられている。各作品の横には、作品にまつわる杉本の軽妙な解説文に加え、和歌や狂歌が添えられており、視覚だけでなく、言葉を通して豊かな作品世界に触れられる仕組みになっている。
また、3階では「劇場・海景・スギモトノート」と題した特別展示を公開。杉本が作品を制作する上で書き留めたメモから彼の思考をたどれる貴重な機会だ。
銀塩写真が過去の技術になりつつある今、私たちは何を失おうとしているのだろうか。
目に見えないものをフィルムに焼き付けることを目指し続けた杉本の創作が、網羅的に観られる今回の回顧展。銀塩写真の時代の先にある表現の可能性を問いかける、まさに今観るべき展覧会だ。
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