下瀬美術館
画像提供:Shimose A&R 株式会社 | 「下瀬美術館」
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心を揺さぶる美術館10選

建築・自然・アートが響き合う、感性をめぐる旅

Chikaru Yoshioka
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日常の喧騒(けんそう)を離れ、静かな時間の中で感性を研ぎ澄ます。そんな体験を与えてくれるのが、美術館という空間だ。建築そのものが語りかけ、作品が心に触れ、風景までもが芸術の一部となる。

ここでは訪れるだけで心が揺さぶられる、日本各地の特別な美術館を厳選して紹介したい。

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かつてミカン畑が広がっていた小田原市江之浦の地に、現代美術作家の杉本博司が設立した「小田原文化財団 江之浦測候所」が立つ。ここは、自然と建築、そしてアートが交わり、人類の意識の原点に立ち返って現代における芸術の意味を問い直す場だ。

敷地には、美術品を展示するギャラリー棟をはじめ、石舞台・光学ガラス舞台・茶室・庭園・門・待合棟などが点在し、それぞれが日本建築の歴史と伝統工法を継承している。来館者は建築群を巡ることで、日本文化の奥深さと技の系譜を体感できる。

素材には地元産の石材を用い、擁壁や庭園には「根府川石」や「小松石」を採用。庭園の景石には、早川石丁場群跡から出土した江戸城石垣用の原石を配置し、古代から近代に至る建築遺構や考古遺産が随所に息づく。

江之浦測候所は、単なる美術館ではなく、時間と空間、歴史と現代が交錯している。天空を測る古代人の視点に立ち返り、アートと人間の意識の源流を体感できるだろう。

なお、入場は日時指定の予約・入れ替え制で、2日前までに公式ウェブサイトから予約が必要だ。

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屋上から瀬戸内の多島美を一望できる、2023年開館の「下瀬美術館」。2024年に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が創設した建築賞で「世界で最も美しい美術館」に選出された。

建築は坂茂が手がけ、訪れる人の感性を揺さぶる空間が広がっている。海岸線に沿って建つ3棟の建物は、全長190メートルのミラーガラススクリーンに包まれ、水盤に浮かぶ展示室や四季折々の花々を映し込みながら、瀬戸内の風景と溶け合う。

可動式の壁を備えた企画展示室は、展示内容に応じて形を変え、坂が瀬戸内の島々から着想を得て設計。広島の造船技術を活用して水の浮力で動かせる仕組みとした、世界でも類を見ない建築作品だ。

また、自然を題材に多くの作品を残し、植物学者としても活動したアール・ヌーヴォーの巨匠であるエミール・ガレ(Émile Gallé)にちなんだ庭園も併設。彼の作品に登場する草花が、瀬戸内の気候に合わせて植栽されている。

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「鳥取県立博物館」から美術部門を独立させ、20253月に開館した「鳥取県立美術館」。設計は世界的建築家・槇文彦(19282024年)率いる槇総合計画事務所によるもので、「大御堂廃寺跡」を望む立地に、陽光あふれる開放的な空間を実現している。

鳥取県立博物館が収集してきた国内外の優れた美術品や、県ゆかりの作家、関連作家の作品を軸にコレクションを構成。今後は、鳥取の自然や風土を題材にした作品をはじめ、前田寛治や辻晉堂など郷土出身作家とゆかりのある国内外の作品も積極的に収集し、県の美術文化を未来へ継承していく。

館内は誰にでも開かれた公共空間として、展示や回遊を楽しめるほか、「アートを通じた学び」の拠点となる「アート・ラーニング・ラボ」も設置。美術と人、情報をつなぐ結節点として、来館者が美術を全身で感じられる場が広がっている。

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関東最北の宿場町・芦野の本陣跡に建つ「那須・芦野 石の美術館 STONE MUSEUM」は、建築家・隈研吾が手がけた石の建築芸術。かつて米蔵だった古い石蔵を、地元の芦野石で再生し、石の多様な表現を体感できる現代建築へとよみがえらせた。敷地全体が静寂と洗練に包まれたアート空間となっている。

館内には、石を50ミリメートルの薄さに切り出して積み上げた「石格子」や、6ミリメートルの大理石をはめ込んだ窓など、石の重さを感じさせない繊細な表現が随所に見られる。「石明りの部屋」では透ける光が石の文様を浮かび上がらせ幻想的な美を生み、「石蔵茶室」では高温で焼くと色が変わる芦野石や白河石が、静かな茶の空間を演出している。

米蔵だった建物を改修した空間「石蔵ギャラリー」は、丸太梁(ばり)が当時の面影を残し、壁には第二次世界大戦中の不発弾の痕が刻まれている。「石と水のギャラリー」では、石を抜き取って再構成した格子から光と風が通い、床には外の池とつながる水が張られ、内と外が呼応する穏やかな空気が漂う。

2001年にイタリアの「International Stone Architecture Award」を受賞。石が持つ冷たさを超え、温もりと柔らかさを感じさせる建築として、国内外から高く評価されている。

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「奈義町現代美術館(Nagi MOCA/ナギ モカ)」は、作品と建物が半永久的に一体化したユニークな美術館。世界的な建築家・磯崎新の設計により、1994年に開館した。

展示室は「太陽」「月」「大地」の3つで構成され、それぞれが土地の自然条件に基づく独自の軸線を持つ。南北軸を示す「太陽」、中秋の名月の22時を指す「月」、秀峰那岐山の山頂を向く「大地」という設計は、建築そのものを作品として体現している。

館内には荒川修作+マドリン・ギンズ(Madeline Gins)、岡崎和郎、宮脇愛子ら世界的芸術家による大規模な作品が建築と一体となって展示され、空間そのものがアートとして成立している。池に面した喫茶室からは、展示室と借景の那岐山を望め、光や季節の移ろいが作品と呼応する。

建築家と芸術家の共同制作によって誕生した同館は、建築と芸術の融合を公共施設として世界で初めて具現化した場所だ。

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「青森県立美術館」は、隣接する「三内丸山遺跡」の縄文のエネルギーを受け継ぎ、青森のアーティストたちの創造を未来へつなぐ拠点。建築は三内丸山遺跡の発掘現場から着想を得て、建築家の青木淳によって設計された。

地面が幾何学的に切り込まれ、その上に白いれんがの量塊が覆いかぶさる独特の構造。真っ白な「ホワイトキューブ」と土の床・壁が露出する「土」の展示室が対立と共存を生み、訪れるたび変化する空間を提供する。

美術館の中心にある4層吹き抜け「アレコホール」には、マルク・シャガール(Marc Chagall)が制作したバレエ『アレコ』の背景画全4点が登場。亡命先のアメリカで手がけた本作は彼の色彩美の集大成で、ホールは演劇やコンサートにも使われている。

西側には、美術館を象徴する作品として親しまれている、弘前出身の奈良美智による犬の巨大彫刻『あおもり犬』が立つ。どこか哀愁を帯びた表情が印象的で、大仏のように訪れる人を包み込む。

また南側には、奈良による高さ約6メートルのブロンズ像『Miss Forest/森の子』が展示。奈良自身がデザインした八角形のれんが建築「八角堂」に設置され、自然と調和するように静かにたたずむ。

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滋賀県信楽の自然豊かな山あいに位置する「MIHO MUSEUM」。創立者・小山美秀子(19102003年)の「美術を通して、世の中を美しく、平和に、楽しいものに」という願いから、多彩な日本美術とともにエジプト・西アジア・ギリシア・ローマ・南アジア・中国など世界各地の古代美術を収蔵している。

建築は、パリの「ルーヴル美術館」のガラスのピラミッドを手がけたイオ・ミン・ペイ(Ieoh Ming Pei19172019年)によるもので、桜に包まれた遊歩道、トンネル、橋を経て館内へと導かれる。

構想の源は中国古典『桃花源記』に描かれた桃源郷の物語。一人の漁師が芳香漂う桃花林の奥に理想郷を見つける幻想的な世界観を表現している。四季折々の自然・美しい建築・貴重な美術品が調和する、現代の桃源郷を体感できる場だ。

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  • Shimane

「足立美術館」は、「日本庭園と日本画の調和」を基本理念に、美の感動を追求してきた。訪れる人に、四季折々に表情を変える庭園の美しさを感じてもらい、その感動をもって、横山大観をはじめとする数々の名品を鑑賞してもらう構成となっている。

創設者の足立全康(あだち・ぜんこう)は、「庭園もまた一幅の絵画である」という信念のもと、生涯をかけて庭づくりに情熱を注いだ。約16万5,000平方メートルに及ぶ庭園には、枯山水庭をはじめとする多様な景観が広がり、周囲の山々を借景として取り込むその姿は、まるで生きた日本画のように映る。

足立はまず日本庭園の魅力を入り口に、多くの人が日本画の世界へと関心を広げ、「美の感動」に出合うことを願った。その思いは、庭園と作品を融合させた独自の美術館づくりにつながっている。

なお、大観の作品『紅葉』は毎年秋季限定で公開しており、2025年度の展示期間は11月30日(日)までだ。

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  • Toyama

複合施設「TOYAMAキラリ」に併設された「富山市ガラス美術館」。建物は、世界的建築家の隈研吾が手がけた。御影石やガラス、アルミなどの異素材を組み合わせた外観は立山連峰を思わせ、内部は富山県産の木材を用いたルーバーによって、柔らかな光と温もりに包まれている。

展示は国内外の現代ガラス美術が中心。約30点のコレクションを紹介する常設展のほか、富山ゆかりの作家約50点を展示する「グラス・アート・パサージュ」、デイル・チフーリ(Dale Chihuly)によるインスタレーションが観られる6階「グラス・アート・ガーデン」が空間を彩る。

企画展では、1950年代以降の現代ガラスの表現を多角的に紹介。来館者からは「ガラスには見えない」との驚きの声も多く、ガラスという素材の常識を覆しながら、その可能性を拡張する作家たちの挑戦が息づいている。

  • ミュージアム
  • Kagawa

瀬戸内国際芸術祭」の会場で、アートの島として知られる香川県の直島に、新たな美術館「直島新美術館」がオープン。同館は「ベネッセアートサイト直島」が企画・運営するの美術館の一つで、直島で安藤忠雄が手がける10番目のアート施設となる。

開館を記念する展覧会では、ベテランから若手まで、アジアの12組のアーティストが同館のために構想した新作や、代表的な作品を展示する。会⽥誠、村上隆、マルタ・アティエンサ(Martha Atienza)ツァイ・グオチャン(蔡國強)、Chim↑Pom from Smappa!Group、ヘリ・ドノ(Heri Dono)といった、国際的に活躍するアーティストの作品が鑑賞できる。

展示空間は地下2階、地上1階の施設内のギャラリーだけでなくカフェエリアや屋外の敷地などにも広がり、迫力満点だ。

大阪の美術館・建築なら……

  • アート

戦前期のモダニズム建築や日本最古の弁財天を祭る寺院から、オブジェ性の高い吸気塔、「世界を代表する20の建造物」として紹介された建物まで、大阪には見るべき貴重な建築物が点在する。文化施設やバーとして利用できる場所もあるため、豊かなデザインに囲まれながら、ゆったりとした時間が過ごせる。大阪の一度は訪れてほしい名建築を紹介したい。

  • アート

一度見たら忘れられない外観の「国立国際美術館」や、建築家の安藤忠雄が設計を手がけた文化施設「VS.(ヴイエス)」遊べて学べる体験型施設の「ダスキンミュージアム」など、定番の大型美術館から、さまざまな専門のミュージアム、新たなアートスポットまで、多彩なミュージアムをセレクト。大阪旅行の参考にしてほしい。 

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