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春画の名作『蛸と海女』が歌舞伎町に登場、北斎と英泉の官能美に浸る特別展が開幕

5月31日まで、18歳未満は入場禁止

Kaoru Hoshino
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Kaoru Hoshino
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北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima | 『喜能会之故真通』(きのえのこまつ)』中の一場面『蛸と海女』
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ホストクラブやキャバクラが密集し、ネオンが街を照らし続ける歌舞伎町。性と欲望が入り乱れ、独特な空気が漂うこの街で、春画展が開催されているのを知っているだろうか。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima新宿歌舞伎町能舞台での展示風景

この街の新たな風物詩ともいえる春画展の第3弾となる「北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―」展が、2026年4月4日(土)から5月31日(日)まで開催されている。会場は、前回に引き続き「新宿歌舞伎町能舞台」と、現在休業中のホストクラブ「BOND」という、これまたこの街を代表する刺激的な場所だ。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima「BOND」での展示風景

世界で最も有名な春画が登場

これまでも本展は、巨匠たちの名作から手のひらサイズの「豆版春画」まで、多角的にその魅力を発信してきた。今回の見どころは、なんと言っても葛飾北斎の傑作『蛸と海人』の特別公開だ。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima『喜能会之故真通』(きのえのこまつ)』中の一場面『蛸と海女』

描かれているのは、2匹の巨大な蛸に捕えられ、恍惚の表情を浮かべる一人の海女。背景の余白を埋め尽くすようにびっしりと描かれた詞書(ことばがき)には、生々しい喘ぎ声や局部から生じるオノマトペで満たされている。人間の愛欲を包み隠さず描き出す北斎の筆跡からは、執念すら感じさせる。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshimaさまざまな絵師による「蛸と海女」の図を見比べる

タコと海女のテーマは、古事記の『玉取物語』という、海女が龍宮から宝を奪い返す伝説に着想を得たもの。数多くの浮世絵師がこのテーマで春画を描いており、会場では、歌川国芳や勝川春潮、月岡芳年が描いた三者三様のバリエーションが比較できる。

会場には『蛸と海人』のほかにも、北斎の貴重な春画が多数並ぶ。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima北斎が描いた12種類の性道具

そもそも江戸の春画は、版元の注文を受けてから制作されることが多かったという。画面から飛び出てきそうな躍動感あふれる構図に加え、生々しい肉体表現や一本一本描かれた体毛、複雑に重なり合う着物の描写など、春画には高度な技術が求められる。だからこそ、絵師たちにとって表現の限界に挑める格好のテーマでもあったのだ。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima葛飾北斎『会本佐勢毛が露(えほんさせけがつゆ)』(1824〜1829年頃)
北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima葛飾北斎『艶本婦多美賀多(えほんふたみがた)』(1801年)

もう一人の天才絵師

同展のもう一人の主役は、タイトルにも名を連ねる渓斎英泉(けいさい・えいせん)だ。北斎に比べればその名はまだ一般的ではないかもしれないが、彼は春画を語る上で欠かせない絵師である。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima渓斎英泉『画図玉藻譚(がずぎょくそうだん)』(1830〜1831年頃)

北斎より31歳若い英泉は、偶然にも北斎の家の近所で暮らしていた。北斎とは師弟関係ではなかったものの、たびたび北斎宅を訪ねては交流を重ねていたという。そして、北斎の大胆な構図や表現の幅を押し広げる発想に影響を受けつつも、やがて妖艶で刺激的な独自のスタイルを確立していった。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima渓斎英泉『艶本美女競(えほんみめくらべ) 下』(1822年)
北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima渓斎英泉『さよあらし 中』(1825年)

会場に並ぶ英泉の作品に目を向けると、アンニュイな表情をした女性はもちろんのこと、それ以上に、あらゆるモチーフをエロティシズムに変えてしまう発想力に圧倒される。鑑賞を終える頃には唯一無二の個性を持つ彼特有の世界観を見分けられるようになっているだろう。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima渓斎英泉『艶史比じ枕』(1838)
北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima渓斎英泉の春画には猫がよく登場する

そんな英泉の真骨頂が、BONDに展示されている『枕文庫』(1822年)だ。彼の代表作の一つである本作は、当時の医学書を模している点が、意外性があり興味深い。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima渓斎英泉『枕文庫』(1822年)

ページをめくると、子宮の中の様子や、陰毛の生え方のバリエーションが整然と並び、もはやエロティシズムよりも知的好奇心が上回っていると感じさせる。医学書にカモフラージュさせているこの一冊は、当時の人々にとっても手に取りやすく、空前のベストセラーになったそうだ。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima渓斎英泉『色自慢江戸紫』(1836年)

春の息吹とともに、人間の底知れない生命力を感じる

今回は開催時期が春ということもあり、会場には桜をはじめとする春のモチーフが背景に描かれた作品が数多く並ぶ。中でも目を引くのは、英泉による後期の名作『古能手佳史話(このてがしわ)』(1838年)だ。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima『古能手佳史話 天』(1838年)
北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima『古能手佳史話 人』(1836年)

極彩色の画面に、図鑑のように精密に描かれた動植物たち。しかし、目を凝らすとチョウの羽や花の雌しべが男性器や女性器に見立てられており、英泉が仕掛けた大胆な遊びに気が付くだろう。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima桜が舞う『夢多満佳話(むたまがわ) 下』(1823年)

オリジナルグッズにも注目

BONDでは、毎回センスが光るオリジナルグッズも見逃せない。今回新たに登場したのは、春画の名シーンを大胆に切り取った布製の「コースター」(1,300円、以下全て税込み)や、北斎が描いた江戸時代の性道具をプリントした「湯呑み」(1,500円)。現代的なテイストが絶妙にマッチしていてつい自宅に持ち帰りたくなる。

北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshimaコースター
北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshima湯呑み
北斎・英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―
Photo: Kisa Toyoshimaアパレルも豊富

回を追うごとに、熱量を増していく歌舞伎町の春画展。さまざまな生き様が渦巻く歌舞伎町で、北斎と英泉という2人の天才が放つエネルギーを感じてみては。

なお、北斎の『蛸と海人』の公開は、作品保護のため4月4日(土)〜12日(日)、5月1日(金)〜10日(日)の期間限定となっている。貴重な機会を見逃さないようにしてほしい。 

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