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2025年7月18日(金)から8月31日(日)まで、渋谷のビーム ギャラリーで「恐怖心展」が開催中。インターネット発のホラー作家・梨、テクノロジーとホラーを融合させた体験を手がける株式会社闇、そしてテレビ東京の異色プロデューサー・大森時生がタッグを組んだ本展は、約10万人を動員した「行方不明展」に続く注目の展覧会だ。
今回のテーマは「恐怖心」。
「先端」「閉所」「視線」など、日常に潜むささやかな恐怖を題材に、空間・音・映像・触覚を駆使したインスタレーションが展開される。会場を巡るうちに、観客は他人の視線や異物の存在に敏感になり、自らの感覚と心理にそっと気づいていく。
入口に漂う不穏な雰囲気

エレベーターを降りると、ギャラリーのひんやりとした空気が肌にまとわりつく。その先の廊下には、顔を塗りつぶされた肖像写真が並ぶ。写真の下には「注射」「海」など、その人物が恐怖を感じる対象が小さく記されている。ここは、展覧会のイントロダクションとしての役割も果たしている。
入場列に並んでいる間も、電灯が不規則に点滅し、ホラー映画のワンシーンのような演出に心がざわつく。期待が高まる一方で、「怖いもの見たさに集まった自分は、もしかしてちょっと愚かなんじゃないか」と、後ろめたさに襲われる瞬間もあった。ワクワクと不安が入り混じる中、いよいよ展覧会が始まる。
まるで不安と嫌悪の博物館

会場内には、人が恐怖を感じるものと、それにまつわるストーリーが展示されている。恐怖心は、「存在に対する恐怖」「社会に対する恐怖」「空間に対する恐怖」「概念に対する恐怖」の4カテゴリーに分類されている。
たとえば「風船に対する恐怖心」の展示では、巨大な風船とともにこんなエピソードが紹介されている。「十数年前、テレビ東京のドッキリ企画で同型の風船が使用され、それを恐れたタレントが激しく取り乱し、映像はお蔵入りになった」というものだ。

着ぐるみや集合体、先端といった生理的な恐怖はもちろん、結婚や醜形、トレンドなど、現代を象徴するような「新しい恐怖心」も見受けられる。

五感に訴えかけてくる恐怖心

展示は「見る」だけで終わらない。触覚、嗅覚、音も使いながら、観客の五感に恐怖心を直接問いかけてくる。
「鏡に対する恐怖心」では、無数に割れたガラスの上に立つ体験ができる。もちろん安全に設計されているが、「なぜか足裏がチクチクする」と語る来場者もいた。

展覧会で印象的だったのは、怖いと思っていたものが怖くなく思えたり、気にも留めていなかった日常の中の風景が急に怖くなったりと自分の恐怖心が揺らいだことだ。同じ展示を見ている知らない来場者同士で「怖っ」という声が合うシーンもあり、恐怖の中にも人間らしい温かさも感じられる空間だ。
クリエーター陣に直撃

会場では、クリエーター陣の頓花と梨がインタビューに応じてくれた。頓花は「閉所」や「寝入り」など複数の恐怖症を持っており、そこから本展の構想が生まれたという。実は「行方不明展」以前から構想されていたプロジェクトでもあるそうだ。
一方、梨は恐怖症が一切なく、「チームとしてはバランスが取れていて、ちょうどよく制作できています(笑)」と語る。「この企画、勝ち確です」と自信をのぞかせた。
恐怖心の根底にあるもの

同展のパンフレットで作家の品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)は、「もし恐怖心を一切感じなくなったとしたら、それは幸福といえるだろうか」という疑問を私たちに冒頭で投げかけている。
会場でさまざまな恐怖心に触れていくうちに、恐怖がネガティブな感情ではなく、自分自身を形づくる一部だということに気付く。感情を押し込めたり、なかったことにするのではなく、「そういう自分もいる」と向き合うことで、見えてくるものがある。
この夏、渋谷で、恐怖の奥にある自分を見つめてみよう。
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『恐怖心展』
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