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現在「池袋パルコ」で開催中の、お笑いトリオ・ロバートの秋山竜次による「10周年 クリエイターズ・ファイル 胸やけ大博覧会」に行ってきた。2017~18年にかけて全国10都市を巡回し、累計25万人を動員した「クリエイターズ ・ファイル祭」をより一層パワーアップした体感型エンターテインメント展覧会、とプレスには記載されていたが、予想も期待も遥かに上回る、大変なシロモノだった。

こんなに面白い人がこの世にいるのか
わざわざ本稿で説明するまでもないと思うが、「クリエイターズ・ファイル」とはロバート秋山が、ファッションデザイナーからローカルテレビタレント、微生物、犬に至るまで、さまざまな分野のクリエーターにふんし、その仕事ぶりや人生観について語るという超人気シリーズである。

本展はそのクリエーターたちをあらゆるベクトルで紹介するという内容なのだが、控えめにいっても爆笑を通り越して感動、いやそれをはるかに超えて畏敬の念すら抱くほどのものだった。マジで盛りとか抜きで「こんなに面白い人と同時代に生きることができてよかった」とすら思った。

あるあるネタのオルタナティヴ
クリエイターズ・ファイルとは、端的にいえば、あるあるネタの究極形である。現代のお笑い史観において、あるあるネタの開祖はビートたけしとされている。1970年代末期に現れたツービートは「クラスに必ず一人はいるヤツ」や、「テレビドラマでありがちな場面」を毒性たっぷりに演じ、徹底的にコケにしてみせた。
「あるあるネタ」とは要するに批評である。日常にひそむ、誰もが見知っていながら見落としている人間の滑稽さを、的確に言い当ててみせるというのがあるあるネタの本質だ。
ビートたけしの名ギャグ「赤信号 みんなで渡れば怖くない」は戦後日本の精神性をたった1行で表現した、優れた批評である。そしてそれは批評であるがゆえに、「なるほど、たしかに!」と膝を打つ打力が強ければ強いほど、その笑いはより大きなものになるワケだ。

たけしはテレビというメディアを通して批評的ギャグを発信し続け、ついには日本人の価値観を書き換えるまでに至った。秋元康や糸井重里と並び、たけしは重厚な70年代を終わらせ、軽佻浮薄(けいちょうふはく)の80年代を到来させた立役者の一人であるといえよう。

話が盛大にスリップしたが、この「あるあるネタ」を、モキュメンタリーのレべルまで押し上げたのがクリエイターズ・ファイルなのである。秋山がふんするのはまったく架空の存在であるにもかかわらず、「こういうの、あるよね」と思わされる。
先日、『タローマン』の監督・藤井亮にインタビューした際に、「おもしろいウソを作るコツ」について尋ねたとき、「一つの突飛な嘘をいろんな方向から補強して支えてあげること」という回答があったのだが、秋山がやっていることはまさにコレだ。
無邪気な天才性が爆裂
本展は、そんなクリエイターズ・ファイルの10年間の集大成であり、秋山の無邪気な天才性が爆裂する、やりすぎなぐらいに超充実の内容である。
まず最初に、これまで秋山が演じてきた100人以上のクリエーターが勢揃いした狂気の部屋があるのだが、もうこの時点ですごい。一人一人の表情や立ち方からして全部違う。的確かつ多彩な演技プランによって、ちゃんと一個の人格を形成しているのだ。

たとえば鳥取市桜ヶ丘中学応援部のぼっちん君。「思春期特有の目」で有名なキャラクターだが、唇の脇にチョロチョロ生えたヒゲや、伸びかけたスポーツ刈りのあか抜けなさなど「田舎の男子中学生」の考証があまりにも高すぎる。すべてのキャラにこういったアイデアが無数にちりばめられており、秋山の俳優としてのポテンシャルの高さをまざまざと見せつけられた。

マジで全部面白いとしか言えない
そこから進んでいくと、各クリエーターのブースがあり、これはもうぜひ会場で観ていただきたいので詳細は省くが、マジで全部面白い。絵や写真、映像や人形などなど、あらゆる角度から襲い掛かる笑いの数々はどれも珠玉だし、フォトスポットも充実。

東洋の歌姫ことフェアリー・キーやフリーダンサーの杉尾モナハ美代子などのパフォーマンスが観られる「栗の間」や、伝説の寮母・藤木みず江のR-18コーナーなどギミックも凝っており、展示としてシンプルに楽しい。また、それぞれのブースには各クリエーターのサインがあるのだが、徳島のローカルタレント・津村屋コウジは「徳島大好き 東京嫌い」などと書きつけていたりして、そうした小ネタも見逃せないポイントだ。


個人的なところでいうと、トータルファッションアドバイザー・YOKO FUCHIGAMIが手がけたスニーカーが、中西俊夫のペインティング作品みたいで普通にムチャクチャカッコいいので驚いた。アルミはくのジュエリーデザイナー・SATORU IWABUCHIとかもそうだが、秋山が手がけるこの手の作品は、どれも下手したらカッコいいものばかりなので凄い。

物販も充実しまくり
物販もすんげぇ充実している。前述したYOKO FUCHIGAMIのTシャツやソックス、バンダナなどから、児童劇団えんきんほう所属の子役・上杉みちくんの大好物のたまごプリンに至るまで、ラインアップが幅広い。クリアファイルやアクリルスタンドなんかもおびただしい種類があり、ここだけで小1時間は軽く潰せそうな程である。


「胸焼け」を掲げるだけあって、アタマっから最後まで過積載レベルで笑いが詰まっている。
プロフェッショナルを感じた瞬間
最後にこれだけは書いておきたい。筆者はメディア関係者向けの内覧会に参加したのだが、スナックママ・矢崎すず子にふんした秋山による解説付き会場ツアーがあり、なんと秋山は1時間超にわたって、完璧に矢崎すず子に成り切っていた。

フツー、この手の演技型パフォーマンスというのは、たまに素に戻ったりして緩急をつけ、笑いを誘ったりするものだが、秋山は一瞬たりとも素を見せることなく、ダミ声のスナックママを演じ続けていた。マジでプロだと思った。きっとこの人は、ヒトを笑わせて楽しませることが好きで好きでたまらないんだろうなと思った。ロバート秋山という存在がますます好きになる、ものすごくすばらしい展示だった。
展示は2025年9月1日(月)まで開催。
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