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2025年8月22日(金)から公開される、映画『大長編 タローマン 万博大爆発』。藤井亮の監督・脚本により、2022年にNHK Eテレの深夜帯で放送されていた5分枠のショートドラマシリーズ『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』の劇場版で、「1970年代に制作された特撮ヒーロー番組・タローマン」という架空の設定をベースに、芸術家・岡本太郎の言葉や思想を盛り込んだ、コメディー調のモキュメンタリー作品である。
ドント シンク、フィール!
大まかなストーリーは、「大阪万博」に沸き立つ1970年の日本に、反万博を掲げる謎の組織が現れ、なんやかんやあって、地球防衛軍(CBG)は万博を守るために2025年の未来へ旅立つ……。というものなのだが、正直言って話の筋はさほど重要ではないと思う。本作は、徹頭徹尾デタラメで型破りな演出を味わう、「ドント シンク、フィール!」な、異様さに満ちた劇映画である。

まず、「タローマン」というキャラクターからして変だ。岡本太郎のアティチュードが注ぎ込まれたこのヒーローは、好かれれば好かれるほど弱体化するため応援NGだったり、「やるな」と言われたことほどやってしまったり、そもそもの行動原理が世のため人のためではない。
彼のルールは、面白いか面白くないか、たったそれだけなのである。デタラメの権化であるタローマンは、正義や悪を超越した一種の神的存在として君臨し、最終的には実際に映画そのものを破壊するところまでやってのける。数多く存在する、昭和パロディーの特撮ヒーローの中でも明らかにぶっちぎりで異様な存在だ。
現代的なスピード感と昭和レトロの融合
そして映画そのものが「早い」。ワンカットが平均して5、6秒程度。というスピード感とカット数の多さは目まぐるしいほどだし、全編アテレコのセリフ量もかなりのもので、圧倒されるうちに気がついたら終わっていたという感じだ。5分尺のショートドラマなら分かるが、これを100分超の劇映画でやっているという時点で相当に異様である。
画面の主張の激しさも相当で、ミニチュア撮影やクレイアニメ、紙芝居、アイキャッチに至るまで多彩なレイヤーを駆使しながら猛スピードで移り変わる映像は、もはや観念奔逸的であり、「コレ、今何の話してるんだっけ?」と戸惑うほど。このジェットコースター感覚は、かの名作ギャグ漫画『ボボボーボ・ボーボボ』にも近接するセンスだと思う。

だが、目まぐるしくハイスピードで展開していく画面をつぶさに観察すると、一見チープではあるものの、決していい加減に作っているのではないことがよく分かる。全体的に強い美意識を感じる。
随所に挿入されるアイキャッチの微妙な手ブレ感とかちょっとしたハズしもきいているし、衣装や舞台美術にしても1970年代特撮水準のリアリティーをキチンと保っている。粒子の粗いローファイな質感も、一度ビデオデッキを経由したり、スクリーンに投射したものを再撮影したりするといったエイジング作業を行うことで生み出している。本作が単なる特撮パロディーコントにとどまっていないのは、こういった細かいコダワリによるところが大きいだろう。
キャスティングの妙
そして本作には、いわゆるスター俳優が出演していない。一般的に知名度があるのは、解説として冒頭と最後に登場するサカナクションの山口一郎ぐらいだろう。このキャスティングは単なる予算の都合もあるかもしれないが、れっきとした演出上の意図だと思う。
もし誰もが知るスター俳優が多数出演していたら、福田雄一や三谷幸喜の諸作のような、もっと「寒い」コメディーになっていただろう。俳優の演技も抑制がきいており、昔の映画やドラマ特有の「滑稽さ」を表現することに成功している。
昔の映画やドラマによくある、本人たちは至って真剣なのだが、物語や演出がチープであるがゆえに滲んでしまうあの滑稽さは、そのまんまやろうとしても100%滑る。極めて現代的なスピード感と巧みなハンドリングによって、オルタナティヴな形であの「滑稽さ」を見事に作り上げているのだ。それはおそらく製作陣に、1970年代特撮へのリスペクトがちゃんとあるからだと思う。
岡本太郎ってマジでいいこと言うよね
さて、ここまで触れてこなかったが、キモはなんといっても「岡本太郎」である。どんな人で何を成し遂げたかというのは到底ここには書ききれないので、知らない御仁は各自検索にあたってもらえばと思う。
本作のビッグミッションは「全ての根源」としてクレジットされている岡本の、言葉や思想を啓蒙することにある。かつて発言もしくは著した、ラジカルで強度に満ちたアジテーションの数々を、実に大胆に引用してみせる。

たとえば「『自分の足で踏み分け、イバラに顔を引っかかれる戦いを自分に課すのだ。スリルをただ窓越しに、他の世界のドラマとして垣間見るだけでいいのか』。そう岡本太郎も言っていた」とか「『怖かったら怖いほど逆にそこに飛び込むんだ。本当に生きるということは自分で自分を崖から突き落とす事だ』。そう岡本太郎も言っていた」てな具合に、随所に挿入される言葉たちを今聞くと、いや今だからこそさらに強烈に突き刺さる。
劇伴もクオリティーが高いが、岡本の発言をマッシュアップしたリリックで歌われるシャンソンやミュージカル調の楽曲などは、中毒性の高いメロディーも相まってどれも口ずさみたくなる。「もっともっと下手にやろう 今までの自分なんて蹴飛ばしてやろう やりたいこと やったこと それだけが自分なんだ」なんて、教科書に載せてほしいぐらいである。
シニアからキッズまでお薦め
本作は2025年を舞台にしているが、現在の2025年ではなく、1970年当時に想像されていたような未来世界として描かれている。幾何学型の建築物、透明なチューブ状の道路、全身タイツを基調としたヴィヴィッドな衣服、謎めいたガジェットがバンバン登場するさまは、「SF=ディストピア」という構図が定着してしまった現代において、とても新鮮に映る。
牧歌的で、ウサン臭い夢と希望が満載の、「古き良き未来」は、シンプルにニヤニヤ&ワクワクさせられる。1970年の万博リアルタイム世代のシニアから、TikTok世代のキッズまで楽しめるであろう、一見マニアックに見えてその実かなり間口の広い娯楽映画である。自信を持っておすすめする。
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