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2025年の夏はリバイバル上映が熱い。別に春先もゴールデンウィークも熱かったし、何なら年末や年明けだってきっと熱いのだろうが、とにかく熱いのである。
権利元会社がなくなったために長らく劇場で観ることが叶わなかった国産オフビートコメディーの金字塔『亀は意外と早く泳ぐ』が、20年の時を経て遂に再公開されるほか、マット・デイモンとベン・アフレック両氏の出世作にして1990年代を代表するヒューマンドラマの超傑作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』がスクリーンに帰ってくる。
不朽の名作がめじろ押し、てんやわんやの大騒ぎというありさまだ。本稿では8・9月に映画館で甦る名作たちの中から6本を紹介しよう。
『亀は意外と速く泳ぐ』(2005年)

石井克人の諸作や『木更津キャッツアイ』などに代表される、平成中期に人気を博したダルくてシュールな「脱力系」コメディーの金字塔にして、『ブラッシュアップライフ』や『HOT SPOT』などのバカリズムが脚本したドラマの先駆ともいえる傑作コメディー。20年の時を経て、ついにスクリーンにカムバックする。
上野樹里演じる平凡な主婦が、ひょんなことからスパイになるという荒唐無稽なストーリーを、たっぷりとした間感やハズしにハズした脱臼的展開で魅せる三木聡のセンスは、ゼロ年代邦画シーンに新たなる潮流を持ち込んだ。ブレイク前夜の蒼井優や、名バイプレーヤーとして頭角を表しつつあった松重豊の好演ぶりも注目したい。
「テアトル新宿」「ローソン ユナイテッドシネマ みなとみらい」ほかにて、8月8日(金)から全国順次公開。
『この世界の片隅に』(2016年)

1944年、海軍の街・呉(くれ)市に嫁いできた18歳の女性・すずの視線を通して、第二次世界大戦下における銃後の暮らしを活写した、エポックメーキングな超傑作。物資がない中でも工夫をこらし、明るく前向きに生きようと試みる人々の日常を優しくユーモラスに、そしてそのささやかな暮らしを破壊する戦火の恐ろしさを、水彩画のような筆致で丹念に描く。
日々の生活の中で起こる笑いや恋情を丁寧に描いた非ドラマチックな構成だからこそ際立つ、戦争の理不尽かつ圧倒的な暴力性。ものすごく笑えるシーンがたくさんあるのに、ものすごく切なくて悲しい、とにかくものすごい作品だ。
「109シネマズプレミアム新宿」「ユーロスペース」ほかにて、8月1日(金)から期間限定上映。
『リンダ リンダ リンダ』(2005年)

高校最後の文化祭で、ザ・ブルーハーツのコピーバンドをすることになった女子高生4人組の奮闘を描いた青春映画の超傑作。公開20周年を記念して、4Kデジタルリマスターでリバイバル上映する。
映画『カラオケ行こ!』のヒットも記憶に新しい、山下敦弘監督の出世作。巧みな長回し、的確な編集感覚、オフビートなユーモア、エモとドラマ性を排したリアルな日常感、小ネタをちりばめた舞台美術など、センスとアイディアとパッションが結実している。どこをとってもみずみずしい青春の高揚に満ちており、今観るだに全く古びていない。あと、劇伴がスマッシング・パンプキンズのジェームス・イハなのもすごい。
「新宿ピカデリー」「シネクイント」ほかにて、8月22日(金)から全国公開。
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1998年)

天才的頭脳を持ちながらも幼少期のトラウマゆえに荒んだ生活を送る不良青年と、最愛の妻に先立たれて失意に喘ぐ精神分析医の交流を描いた、ヒューマンドラマのウルトラ級名作。当時、まだ無名であったマット・デイモンとベン・アフレックが一躍脚光を浴びるきっかけとなった作品だ。
脚本もこの2人が手がけたもので、繊細な心理描写と胸を打つパンチラインの応酬は既に達人の域である。監督は『マイ・プライベート・アイダホ』などで知られるガス・ヴァン・サント。一見ラフなようでいて、その実計算され尽くした構図や色彩感覚は天才的だ。ダニー・エルフマンが担当した劇伴もすばらしい。
「新宿ピカデリー」ほかにて、9月12日(金)から2週間限定上映。
『コーヒー&シガレッツ』(2005年)

ジム・ジャームッシュの名作が、期間限定でリバイバル上映。全編モノクロで撮影された11場面から成るオムニバスムービーだが、ストーリーらしいストーリーは特になく、ただタバコを吸い、コーヒーを飲みながらしゃべるのみというシチュエーションコメディーだ。
ダラダラ会話劇の名手・ジャームッシュのセンスが冴え渡った脚本は、ファニーかつ洒落ていて何とも小気味よい。ビル・マーレイやケイト・ブランシェットなどのハリウッドスターから、イギー・ポップやホワイト・ストライプスといったミュージシャンまでほとんどが本人役で出演しており、どこまで演技か分からない点もまた面白い。
「新宿ピカデリー」ほかにて、9月26日(金)から1週間限定上映。
『ライフイズビューティフル』(1999年)

第2次世界大戦下のユダヤ人迫害を、ユダヤ系イタリア人の親子の視点から描いた傑作映画。多くの戦争映画とは異なり、全編コメディー調で構成されている。
ハイテンションギャグが炸裂しまくる前半部はまさにチャップリンの再来だし、収容所の生活を描いた後半部でも悲惨や陰鬱に重心を置きすぎず、ペーソスとユーモアを大量にちりばめているのだ。しかし、ムチャクチャ笑える映画だからこそ浮き彫りにされる、戦争の圧倒的な笑えなさがある。
ロベルト・ベニーニが監督・脚本・主演をつとめた本作は、アカデミー賞で7部門ノミネート。主演男優賞を射止めたベニーニは一躍時代の寵児となった。
「新宿ピカデリー」「キネカ大森」ほかにて、8月15日(金)から2週間限定上映。
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