新文芸坐
Photo: Keisuke Tanigawa

「残すために変化する」新文芸坐のリニューアルオープンにかける思い

新文芸坐支配人とマネジャーへインタビュー(前編)

編集:
Genya Aoki
寄稿:
Yuuki Mochizuki
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タイムアウト東京 > 映画 >「残すために変化する」新文芸坐のリニューアルオープンにかける思い

映画ファンに長く愛されている池袋の名画座、新文芸坐が2022年4月15日(金)にリニューアルオープンする。今回の改修では、館内の音響や映写設備を一新した。

新文芸坐オリジナルの音響システムである『ブンゲイ・フォニック・サウンド・システム(BUNGEI-PHONIC SOUND SYTEM)』や最新の映写機である4K RGBレーザープロジェクター『CP4430-RGB』、セバートソン社製のパーフォレーション(穴)のないスクリーン『SAT-4K』などを導入。今まで以上に映画の魅力が体験できる空間に進化を遂げた。

新文芸坐を経営するマルハンL&A営業部営業部長兼新文芸坐支配人の高原安未と、マネジャーの花俟良王(はなまつ・りょお)に、今回のリニューアルに対する思いを聞いた。

後編はこちら

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残した部分にこそ意義がある
(左)新文芸坐マネジャーの花俟良王、(右)マルハンL&A営業部営業部長兼新文芸坐支配人の高原安未(Photo: Keisuke Tanigawa)

残した部分にこそ意義がある

―今回、リニューアルオープンすることになった経緯を教えてください。

高原:弊社は2000年以降、新文芸坐の経営を担ってきたのですが、これまで大きな改修は実施していません。そして、ついに改修するにも数カ月の期間が必要な空調の不具合が発生してしまいました。これまで大きな投資もなかったことから、日本の映画産業を見守ってきた新文芸坐の20~30年先を見据えて空調以外の設備も改修することに決まり、今回しばらく休館することになりました。

―設備が一新されましたが、特に注目してほしいポイントは?

花俟:今回、独自の音響システムを導入したのですが、とにかく音響面がとんでもないことになっています。スピーカーの調整を行っていた際、低音が強力で、スクリーンが揺れてしまってちゃんと上映ができない、という事態が起きました。サウンド面においては、これまでにない体感になったのではないでしょうか。

また、あえて残した部分にこそ意義があると考えています。国内名画座では初めて4Kレーザープロジェクターを導入したのですが、一方で映画誕生以来の規格である35mmフィルムでの映写も健在です。最新鋭の設備による映像だけではなく、従来通りのレトロな映像という両極端な映像を楽しめる映画館になりました。

高原:ロビーのレイアウトにも注目してほしいですね。以前は入ってすぐに受付があり、少し入りにくい感じがあったのですが、遊びに来やすいようにロビーの配置を変更しています。ロビー内には(イラストレーターの)和田誠さんの絵が展示されており、小規模ではありますがミュージアムのような雰囲気になりました。

ほかにも、映画関連のアイテムやさまざまなクリエーターのサインを飾っており、映画観賞が目的ではなくても楽しんでもらえる空間になったと思います。

名画座文化を残すための変化
Photo: Keisuke Tanigawa

名画座文化を残すための変化

―新文芸坐は今回リニューアルしますが、その一方で2022年7月に岩波ホールが閉館するなど、名画座は減少傾向にあります。この時代の流れについてどのようにお考えですか?

花俟:かつて名画座は日本中のあらゆる街に建っていましたが、現在では全国に数えるほど。徐々に「名画座」という文化が衰退している現状は当然気にかけていました。

その上、コロナ禍の影響でサブスクリプション制の動画配信サービスによる映画視聴が定着。名画座によく来館していたお客さまも「不要不急」の号令の下、新しい生活習慣が一般化し、ますます名画座から離れてしまいました。残念な気持ちもありますが、「仕方がない」とも思っています。

従来のやり方にとらわれず、挑戦し続けなければ、名画座文化を紡げないことは理解しており、そのための変化が今回のリニューアルオープンにつながりました。

―変化することが名画座という文化を守ることにつながる……。

花俟:先ほど一新した音響についてお話しましたが、(リニューアル前の)新文芸坐の音響は音の違いが分かる人はもちろん、そうでない人が聞いてもそのすごさが感じられる、現場ではある意味一つの「到達点」にあったんです。そのため、音響システムの変更には怖さがありましたね。しかし、音響や映写機会社の担当者さんとも「過去の設備を超える」という共通認識を持ち、変化する道を選びました。

―かなりいばらの道な気もしますが。

花俟:映画館の音響は育てていくものなのかな、と思います。気温や湿度はもちろん、お客さまの入りや服装など、さまざまな要因によって微妙に変化します。ですので、リニューアルオープン後は、いろいろなシチュエーションの音の出方を経験することにより「こういう時はこう響くのか」といったノウハウを積み重ね、技師長と共に新文芸坐の新しい音響づくりを目指します。

なにより、「お客さまと作り上げていきたい」という気持ちが強くあり、ぜひ一緒に新文芸坐を育てていきたいです。

―チャレンジングな姿勢を感じますが、そもそも新文芸坐自体が前衛的な映画館なのですか?

高原:新文芸坐には、その前身となる「人生坐」という映画館がありました。人生坐は1948年に開館し、「人の世を坐る(まもる)」という信条を持っており、戦後の日本を活気づけるために大きな役割を果たしました。例えば、映画の上映だけではなく、落語や演劇なども実施し、とにかく「面白いことを届けること」に尽力した過去があります。今現在、同じ場所で営業していることに強い縁を感じており、新文芸坐が挑戦的なのは歴史的な側面も強いのかもしれません。

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値上げの狙いとは?
チケットはオンライン購入できる全席指定制(Photo: Keisuke Tanigawa)

値上げの狙いとは?

―音響以外のチャレンジはありますか?

高原:特に挑戦的だったことが料金ですね。基本的に名画座は1,000円ちょっとで映画を2本見ることができます。正直、1,000円で4時間も過ごせる場所はほとんどありません。私は2021年6月から現職に着任したのですが、当時から「1,000円以上の価値があるのにもったいない」という気持ちが強くあったのです。

そして議論を重ねた結果、2本立ての場合は一般1,700円、各種割引1,300円、友の会1,150円(別システム移行のため新規受付なし)という料金にしました。名画座という文化を残していくためにも、名画座全体でも値上げの機運が高まってくれるとうれしいです。

花俟:チケットに関しては、オンライン購入できる全席指定制にしたり、2本立て上映を連続ではなく朝と夜に分けて観られるようにしたりなど、さまざまな変更に踏み切りました。

名画座といえば「自由席で2作品を連続で見る」というイメージが根強いですが、時代とライフスタイルの変化を加味した上での決断です。当然、値上げも含め従来の名画座のスタイルとは異なるため、批判的な意見もあるでしょう。

ですが、先日「うまい棒が10円から12円に値上げする」というニュースを見た際、株式会社やおきんさんが「ちゃんと利益を出すことで、駄菓子文化の存続と発展に努めていきたい。やおきんの、2円分の決意です」という声明を出されてとても共感したのですが、新文芸坐としても「名画座をなくさないための変革、値上げ」であることをご理解いただければ幸いです。

映画観賞以外の楽しみ方も
和田誠が手がけた映画作品にまつわるイラストがロビーに展示されている(Photo: Keisuke Tanigawa)

映画観賞以外の楽しみ方も

―「挑戦」という意味では、4月17日(日)~6月2日(木) にオープニングイベントとして『劇場都市としまエンタメシアターin新文芸坐』を実施しますね。

高原:今回、リニューアルオープンということで、今まで通り新文芸坐を愛してくれているお客さまはもちろん、「新文芸坐を知らない人に一度は足を運んでほしい」という思いからイベント実施を決定しました。

もともと、池袋はサブカルチャーに精通した街ということもあり、豊島区がバックアップしてくれたことも大きいです。今現在、6月以降のイベントはまだ決まっていませんが、イベント面でも挑戦していきたいので(企画したい企業や団体の人は)ぜひ声をかけてください。

―レンタルスペースの貸し出しも実施されましたね。「こんな風に利用してもらいたい」といったイメージはありますか?

高原:「新文芸坐を思い出の詰まった場所、思い出に残る場所にしてほしい」という思い、さらには、映画観賞だけではなくお客さまに寄り添える場所にしていきたいです。

個人的には「映画好きのカップルが結婚式の2次会として利用する」ということを妄想しています。好きな映画を上映したり、なれ初め映像を流したりなどの用途でスクリーンを活用してほしい。

また、貸し切りサービスはほかの映画館でも実施されていますが、新文芸坐ではロビーエリアも解放しています。立食パーティーのように利用できるほか、歓談できるスペースとしても楽しめますので、ぜひ検討してもらえるとうれしい限りです。

花俟:新設の照明設備はLEDが天井全体に搭載しており、クラブのような仕様になっています。配給会社の許諾をもらえれば、映画の銃撃シーンに合わせて照明をバチバチ光らせたいですし、映画音楽のDJイベントもやりたいと思っています。これまでにない角度から音や映像を楽しんでもらい、映画館の可能性を感じてほしいですね。

挑戦は簡単なことではない。とりわけ、長い歴史を持つ新文芸坐にとって、その覚悟は並大抵ではなかっただろう。設備だけではなく、料金体系などさまざまな決断を語る中に、リニューアルオープンに向けた熱い意気込みを感じた。今最も注目すべきエンタメスポットである新文芸坐に足を運びたくなる。

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※2022年4月15日リニューアルオープン

池袋駅東口にある、比較的規模が大きい名画座。日本映画からハリウッド映画まで幅広いジャンルの作品を上映しており、通常は2本立て上映が行われているが、毎週土曜にはオールナイト上映も行っている。

リニューアルで館内の音響や映写設備を一新。4Kレーザーと35ミリフィルムの両方が楽しめる映画館に生まれ変わる。

このほか、「国際アート・カルチャー都市」をうたう豊島区や池袋駅周辺の立地を生かした「劇場都市としまエンタメシアターin新文芸坐」を始動。新文芸坐を会場に、ゲストトークイベントやアニソンライブなどを開催する。

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