片岡メリヤス
Photo: Kisa Toyoshima
Photo: Kisa Toyoshima

インタビュー:片岡メリヤス

「かわいい」は世界を知るためのフィルター

Kaoru Hoshino
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ふわふわのボディに、どこか捉えどころのない表情。ぬいぐるみ作家の片岡メリヤスが生み出す、放っておけないたたずまいのぬいぐるみたちは、日本のみならず国外の人々をとりこにしている。

2011年の活動以来、ぬいぐるみ制作を軸に、ペインティングや自ら脚本・出演をこなす人形劇など、活動は多岐にわたる。2021年には「横浜人形の家」で活動10周年の集大成となる展覧会を開催。ユニークな世界観は、ソウルや台南での展覧会を通じ、国境を超えて多くのファンに愛されている。

制作の根底にあるのは、自然の観察や、自分にとっての「好き」を貫くこと。そして、何よりも素直でいることだという。その姿勢は素材への向き合い方にも表れている。制作過程で出るフェイクファーの端切れも「二度と出合えないかもしれない生地をギリギリまで大切にしたい」という思いから保管され、それらを縫い合わせることでまた新たな作品へと生まれ変わらせる。

片岡メリヤス
Photo: Time Out Tokyo『Time Out Japan Magazine』Special Issueの表紙

―制作を始めたきっかけを教えてください。

ぬいぐるみは「作ろう」と意気込んで始めたのではなく、子どもの頃からぬいぐるみが好きだから自然な流れで作っている、という感覚です。

私は勉強も運動も全然できない子どもで、周りの子が自分より先に成長して「自分を武装するもの」を一つずつ獲得していくのを見てきました。ですが、大人になってから私が作ったものを「欲しい」と言ってくれる人がいて、やっと世界が振り向いてくれたというか、救われたような気がしました。

片岡メリヤス
Photo: Naohiro Tsukadaターボくん

― 「ぬい旅」や「ぬい撮り」が広がっていますが、この現象についてどう感じていますか?

私は家でぬいぐるみとしゃべっているんですが、そういうことって普段あまり言えないじゃないですか。でも展示すると、お客さんが自分のぬいぐるみをこっそり見せて、その子がどういう子かを聞かせてくれるんです。

ぬい活は人と出会う一つのきっかけにもなるので、もっと広がればいいなと思いますね。

― ぬいぐるみ文化が広がっている、と感じる場所はありますか?

最近は、山にぬいぐるみを連れてきている人が確実に増えています。山って、荷物を減らすことが正義とされる場所ですが、それでもぬいぐるみを連れてくる人がいるのが面白いですよね。

私は登山が趣味で、「シンゴ」というぬいぐるみをよく連れていくのですが、過酷な場所だから一緒にいると安心するし、強風が吹いていても寝袋の中に一緒に入れると癒やされます。それに、シンゴは電源コードから栄養を取るんですが、疲れてもすぐに回復するので山向きなんです。

ぬいぐるみは、自立した世界を生きています。温泉宿を経営して従業員を雇っている子もいれば、毎晩お風呂に入れるよう要求してくる子もいるんです。持ち主とぬいぐるみがどのような関係なのか、そこには、その人の世界との関わり方までが見えてくるようで興味があります。

人形劇の様子
人形劇の様子

― 海外での展示のリアクションは?

実は、日本とあまり変わりません。私の展示に来てくださる方は、控えめな方が多いというか、いい人が多いんですよ。海外だと反応の違いがあるのかなと思っていましたが、実際は日本と似ていて驚きました。

ぬいぐるみは、はっきり言ってしまえば生命を持たない、生きていないものです。でも、お客さんは「生きていないもの」に対して命を感じようとする心がある人たち、物に愛情を持って接する人たちが多いですね。

片岡メリヤス
Photo: Kisa Toyoshima「ハエごめんなさい」展示風景

― 片岡さんにとって「かわいい」とは?

私は「かわいい」というフィルターを通して、世界を知ろうとしているんだと思います。親が子どもを大切に育てるのも、かわいいと思う気持ちがあるからでしょう。世界が形作られるために絶対に必要な感情です。

なぜここで生きているのかを知るためには、「かわいい」を知らなければ、その先へは行けない気がします。数学の式の中に「×かわいい」があってもいいくらい、大事なものだと思うのです。

日本語の「かわいい」は、英語の「Cute」よりもずっと範囲が広くて曖昧で、言葉にできない領域があるように感じます。最近では、以前なら気味が悪いといわれていたようなものまで「かわいい」に含まれるようになってきましたが、それも根っこでは「生命の震え」のような感情でつながっているのかもしれません。

― 行きつけの「かわいい」店を教えてください。

友人が経営するパン屋「シンボパン」は、内装がとてもかわいらしいだけではなく、小麦粉など素材にもこだわっているのに、そういうことをちゃんと言わない不器用さも含めて愛らしい店です。私は、「塩バターパン」や「ハムとチーズのサンドイッチ」が気に入っています。

シンボパン
画像提供:シンボパン

中野ブロードウェイ」にある「絵夢」は、小学校の頃から家族で通っている喫茶店で、おもちゃが好きな人にも通じる雰囲気があります。ここでは「ピラフ」一択で、ピラフ以外は食べたことがないかもしれません。味も雰囲気もずっと変わらなくて、行くと感動します。

絵夢
画像提供:絵夢外観

今後の展示情報

2026年5月22日(金):片岡メリヤス×井手健介 人形劇「温々うどん探偵Q~時のあんかけ~」/「森、道、市場」(愛知県蒲郡市)、2026年3月27日〜8月9日(日)企画展「スープはいのち」/「21_21 DESIGN SIGHT

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  • ショッピング
  • デザイナー

手刺繍(ししゅう)やラメ、色とりどりなイラストをあしらった生地ファンタジックな世界観で知られるブランド「TSUMORI CHISATO」。1990年に設立し、2003年には「パリコレ」デビューを果たすなど、その独自のスタイルで国内外から支持を集めてきた。海外では「詩的」「空想的」と評され、自らの感性を独特のフィルターで表現するデザインが注目されている。

ブランド創立35周年を迎えた今もなお尽きないインスピレーションの源を、デザイナーの津森千里に聞いた。

  • 映画

ピン芸人日本一を決める「R-1グランプリ」と、女性芸人ナンバーワンを決める「THE W」の2冠を達成。アメリカのオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」にも出場し、活動の軸足をアメリカへ向けている。テレビで「次にやりたいことは映画監督」と宣言したところ、それを観たプロデューサーから連絡があり、初監督作『禍禍女(まがまがおんな)』が誕生した。

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  • 音楽

鹿児島県の奄美大島生まれで、奄美民謡「シマ唄」をルーツに持つシンガーの城南海(きずき・みなみ)。2009年のデビュー以降、アルバムのリリースはもちろん、ディズニー実写映画『ムーラン』の日本版主題歌の歌唱なども担当してきた。

2024年には、イギリスのジャズドラマー、ユセフ・デイズ(Yussef Dayes)富士山の前で行ったセッションに参加。その後もイギリスの世界最大規模の野外フェスティバル「グラストンベリー・フェスティバル 2025」で共演を果たすなど、活動の幅を広げている。

そんな城が、2年ぶりとなるアルバム『ウタアシビ』をリリースした。同作は、城にとって初めてシマ唄を収録したアルバムでもある。新作についてはもちろん、故郷の奄美大島、そしてシマ唄への思い、ユセフ・デイズとの共演を経て生まれた変化など、じっくりと話を聞いた。そして、今春と秋に控えている全国ツアーにぜひ足を運んでみてほしい。

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