Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawa | 渋谷・富ヶ谷にアトリエを構えるKazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawa

東京のオープンアトリエを巡る:革作家・Kazuya Fujisaku

渋谷・富ヶ谷に広がる「楽しい」と「好き」を追い求める世界

Chikaru Yoshioka
テキスト: Akiko Mori
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「代々木公園」からほど近い住宅地、低層マンションの1階に革作家・Kazuya Fujisakuのアトリエがある。アイアン製の門を開けると大きなシンボルツリーが出迎え、鮮やかな花が目を引く。その中庭を囲むように部屋が並んでおり、その一室でFujisakuは制作する。

Fujisakuは、2014年に革作家として独立。渋谷の富ヶ谷にアトリエを持ち、機能的で洗練されたデザインのバッグや小物から、動物や自然物にインスピレーションを得たクッション、アートピースまで手がけている。

大学で経済学を学んだ後、迷うことなく「楽しい」方へ。自ら大きくかじを切って歩んできたFujisakuの作家としての源流を探りながら、彼の「好き」が詰まったアトリエの魅力に迫る。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawaゆっくり5〜6人座れる作業台が中央に配されたアトリエ

アトリエのドアを開けると、Fujisakuの笑顔とともに、革のなんともいえない香りが広がる。都会のど真ん中にアトリエを構えたのは2年前。そろそろ飽きてきたので「今度は自然豊かな田舎に行きたいなぁ」と笑う。Fujisakuの選択基準はいつも「楽しいかどうか」「好きかどうか」。それが彼の革作家人生を形作ってきた。

主に手がける革製品はバッグ類。最近は長年探求してきたリュックサックの形が完成し、シンプルで計算された独特のフォルムに彼の美意識が凝縮されている。また、自然の造形美を意識した作品も展開しており、都会的なデザインの中にネイチャーイズムが潜む格好良さがあって固定ファンも少なくない。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawaシンプルな中にも都会的センスがひかるFujisakuのバッグ類

彼のものづくりは、作家としての出発点がそうであったように、常に「こういうのがあったらいいな」という買い手目線だ。一度バッグを購入したユーザーは、その使いやすさからオーダーでリピート注文する人も多い。

一般的なレールから外れてしまえば楽になる

ーなぜ、革作家の道に?

子どもの頃から妙に野球のグローブに引かれていたんです。手触りはもちろんですが、ひもで調節することで形が変わり、用途に幅ができるところが魅力的でしたね。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawa制作に使用する道具類

大学に進学し、普通にネクタイを締めて就職活動もしましたが、このまま皆と同じように就職していいのかと違和感を覚えていました。ちょうどその頃、やたらと楽しそうに人生を歩んでいる大人に出会い、自分もやりたいことをやって楽しい人生を送りたいと思うようになったんです。将来への「不安」よりも、「人生を楽しみたい」という気持ちが勝ってしまいました。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawaミシンが並ぶ

そんな時、友人が革細工を楽しんでいて、見よう見まねでポーチを作ってみたらとても楽しくて。その後、初めて作ったバッグで完全にその魅力に引き込まれました。作っては友達にプレゼントしたりして、自分が好きで作ったもので人に喜んでもらえる経験は大きかったですね。

ー革作家として独立を決めたのは?

遊びで、作り初めてすぐに作品をfacebookにアップしたんです。それを見て友人や知り合いがオーダーしてくれました。月の生活費のミニマムコストを計算して、その額を稼げるようになったらバイトを全部辞めてやろうと考えていました。

当時それが8万円だったんですが、それを上回った時に即辞めることを決めましたね。今振り返れば無謀でしたが、その時の勢いも大事だったかなと思います。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawaアトリエの風景

それに、この世の中には、自分が格好いいと思うものを同じように格好いいと思ってくれる人が必ずいると思って。だから、そういう人に出会いたくて、自分のこだわりや「好き」と思うものをコツコツと発信し続けました。すると、全く知らない人が僕の作ったものに共感してくれるようになり、少しずつ世界が広がっていったんですよね。

ー革作家だけで食べていけるかな、という不安はなかったんですか?

はじめのうちはすごく感じていたのですが、色々と考えを巡らせているうちにあることに気がついたんです。「与える」ということをしていれば大丈夫なんだ、と直感的に感じました。そしたら自然と不安が少なくなっていくのを体感して。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawaアトリエの応接スペースでもあるソファーで話すFujisaku。

人から「Take」を求めていると、不安が押し寄せてきます。「この商品をどれだけの価値で買ってくれるんだろう」とか、もらうことばかりに思考が向くと楽しくないし、不安にもなります。

でも、「どう工夫すれば喜んでもらえるかな」とGiveの内容を考えていると楽しくなる。これは創作に限らず、人に親切にするなど、日々のささやかなことも全てGiveを中心に考えると、心が穏やかになります。創作する上でもとても大切なことですね。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke TanigawaKazuya Fujisaku

それと、僕はいつも楽しい人生を創っていきたいという思いが強いので、自分の好きなことをやりたいようにやっていくにはどうしたらいいだろう?といろいろ考えるのも好きなんです。

革作家としての転機

Fujisakuが作家として大きく飛躍したのは、2015年、「伊勢丹 新宿店」での展示販売会だった。彫金作家の秋濱克大、油彩画家の大和田いずみと3人でコラボレーションブランド「F line(エフライン)」を作り、手作りの一点ものを製作。Fujisakuは縫製とデザインを担当した。

この展示会は、伊勢丹 新宿店がリニューアルした後のフロアで「最高の売上記録」を達成して大成功を収め、Fujisakuの認知度は一気に上がる。

ー月8万円の決意から、翌年には大きく飛躍されたんですね?

コラボさせていただいたお二人は、僕よりも20歳ほど年上で、知名度も高い方々です。秋濱さんは金属で羽根を作っていらっしゃるのですが、それを僕のバッグに付けたいとオーダーしてくださいました。

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Photo: Keisuke Tanigawa一枚の革を使って、生き物の作った巣を表現したトレイ。オブジェ的にも

ー革作家として大切にしている、創作の源を教えてください。

僕は専門的な学校で学んだ経験もないし、誰かに教わった経験もない。けれど、それが僕には向いていたと思います。正解を知らないので自由に作ることができました。元々、革作家になろうというよりも、自分が欲しいと思うものを制作していたら楽しくなってのめり込んでいたので、今でも買い手目線の方が強くて、パッと見てかっこいいとか使いやすいとか「自分が欲しいと思えるものを作る」という感覚はすごく大切にしています。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke TanigawaKazuya Fujisaku

ギャップを楽しむ

また、考えることと感じること、自然と都会など、相反する二元の世界を行き来し、それらをミックスすることを意識的に行っています。普段、用途のあるバッグや小物を作っていると、「どんな人が使うのかな」「もっとこうした方が喜ばれるかな」など、頭でいろいろ考えることが多くなります。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawaアクリル絵の具でペイントされたり、古代の模様が刻印されている

そうすると、逆にまったく頭を使わず、感じるままに作ってみたくなり、川で拾った石に革を巻いたり包んだりした作品を展示販売したこともあります。いわば、役に立つものと役に立たないものですが、どちらか一方に偏らないように意識的に行き来しています。左脳と右脳をバランスよく使う感覚ですね。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawa革で巻かれた石。石の丸みに革がなじむ

子どもの頃からの「好き」を大切に

あと、子どもの頃からインディアンの文化が好きで、自然の造形物やそれを生かしたものづくりに興味があるんです。石に鳥の羽を刺しただけの作品で展示会を開いたこともありました。革作家だけど、別にそれだけじゃないかなと思います。それに、石も羽も自然が作ったものだけれど、人が羽を石に刺すという行為が「Art」だなって。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawa石に鳥の羽を刺した作品

最近は自然豊かな田舎にこもり、綿や麻にアクリル絵の具でペインティングして、自分の感性に向き合うこともしています。そうやって相反するギャップのある世界を自由に行き来したり、やってみたいことを心の赴くままにやってみたりすることが、僕の創作の源かもしれません。

アトリエに広がるお気に入りの世界

そんなFujisakuのアトリエには、革で巻かれた石がモビールとして空中に浮かび、グリーンが心地よく配置されており、リクガメがこちらをのぞき込む。間接照明で都会的な光の演出をしているコーナーもある。全てのものが何気なく存在しているようで、実は計算されている空間のようだ。

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Photo: Keisuke TanigawaFujisakuのアトリエにいるリクガメのヘイ

特に、秘密基地のようなガラスの棚には、各地で集めた彼のお気に入りが並んでいる。「『ここに入れられる分は何を買ってもいい』というマイルールを決めてからは、好きなものを買う気持ちが楽になりましたね」と笑う。

Kazuya Fujisaku
Photo: Keisuke Tanigawa秘密基地のようなガラスの棚

オープンアトリエやワークショップも

Fujisakuのアトリエはオープンアトリエとしても開かれており、彼の作品を手に取って見ることができる。実際に触れて「Fujisakuワールド」に浸りながら、お気に入りを見つけるのも楽しいだろう。

また、時折ワークショップも開催しており、実際に革の小物などを作ることもできる。「ものづくり自体も楽しいですが、余計な思考が静まり、デザインによって感性が磨かれ、普段やらない作業で脳に新たな刺激がもたらされます」とFujisakuは語る。仕上げはFujisakuが行い、作品は郵送される仕組みだ。

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Photo: Keisuke Tanigawaアトリエの風景

Fujisakuのアトリエを訪れると、自分の人生にも「好き」と「楽しい」をもっと増やしてみたくなるだろう。革のお気に入り商品に出合うだけでなく、彼の人生の歩み方にも触れてみてほしい。オープンアトリエとワークショップの開催日程は、Instagramでアナウンスされる。

9月17〜23日に松屋銀座で「第17回 銀座・手仕事直売所」を開催

松屋銀座」8階の「イベントスクエア」では、Kazuya Fujisakuの作品に出合える展示会「第17回 銀座・手仕事直売所」が、9月17日(水)〜23日(火・祝)の11〜20時(23日は17時まで)に開催。全国の職人・クラフトマン・作家による「直売所スタイル」のイベントで、出展者の実演や手仕事の紹介、作り手との交流を通じた購入体験が楽しめる。ぜひ立ち寄ってほしい。

この夏のアートなら……

  • アート

本記事では、そんな時を過ごすべく2025年8月に行くべきアート展を厳選して紹介する。ポルトガルを代表する映画監督のペドロ・コスタ、ニューヨークを拠点に国際的に活躍する笹本晃、草間彌生・河原温・杉本博司などの作品を紹介する現代美術展など、注目のものをピックアップした。

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胸に響き、心に刻まれる作品との出合いは、日常に新たな視点や余白、奇妙さ、神秘性などをもたらす。この夏もそんな忘れがたいアートと巡り合うべく、本記事では2025年8月に都内で開催する入場無料の展示を届ける。

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