東京の知識人が何世代にもわたって集ってきた地、神保町。ここは歴史ある大学街であり、ビブリオマニアにとっての楽園だ。約130軒の古書店があり、そのほとんどが低層のやや年季の入った雑居ビルに入居し、昔ながらの喫茶店やカレー店と建物を共有している。
タイムアウト東京 > Things To Do > 街と生きる書店へ、三省堂書店が「神田」神保町本店という店名に変わった理由
本の街・神保町に、三省堂書店が帰ってきた。2026年3月19日(木)、「三省堂書店神田神保町本店」として新たにオープンするこの店は、単なるリニューアルではなく、街全体を巻き込んだ再出発だという。
折しも、タイムアウトが神保町を「世界で最もクールな街」の2025年度版に選出したばかり。アナログであることの価値が改めて問われる時代に、リアル書店はどこへ向かうのか。代表取締役社長・亀井崇雄に聞いた。
―タイムアウト東京では、神保町が「世界で最もクールな街」に選ばれたことを発表しました。この評価を受けて、率直にどう感じましたか?
亀井(以下同):まず率直に「えっ、どうして?」という驚きがありました。私たちはここで日常を過ごしていますし、ここで働いている。そういう意味では、この街がいかにクールであるかという認識を持っていませんでしたね。
だからこそ、「世界一」と言っていただけることは光栄です。千代田区長をはじめ、街に関わる多くの人々が話題にしてくださっていて、神保町に関わる皆さんにとって街を明るくするうれしいニュースだと思っております。
―インバウンドの増加も実感されていると思いますが、海外からの旅行者に対してどのようなアプローチを考えていますか?
1階のロフト上の「世界の展望台」に洋書コーナーを設けたり、日本を紹介する書籍を積極的に展開したり、2階では神保町らしいお土産品も揃えたりなど、意識して設定しております。
しかし、正直なところ、海外の方を意識した取り組みはまだ試行錯誤の段階です。まずは多くの方に来ていただきながら、海外からのお客さまがどう感じ、どう行動されるかを、お店を営業しながら学ばせていただこうと思っています。
―「三省堂書店神田神保町本店」という店名には、どんな思いが込められていますか?
以前は「三省堂書店神保町本店」という名前でした。しかし今回、街の人たちと協力し合いながら町全体を盛り上げていきたいという意識を込め、再出店に際して「三省堂書店神田神保町本店」に変更しました。
我々一社だけが神保町に戻ってきて頑張るのではなく、いろいろな人たちと力を合わせて、神保町・神田一帯をもっと盛り上げていくことで、大きな力を生み出せるポテンシャルがこの街にはあると気づいたんです。その思いを店名に込めて、従業員にも共通認識として伝えています。
―社長に就任されてからの神保町への関わり方について聞かせてください。
2020年、社長になった時はコロナ禍で、人との接点が全て途絶えていました。コロナ禍が収束して徐々に行動範囲を広げていく中で、街の方々と出会い、さまざまな考えを持つ人がいると知ったんです。
その気づきが、一社だけで頑張るのではなく、街の人たちと力を合わせていこうという考え方につながっています。今は、仕事の軸もそちらに置いて動いてますね。
―「神保町ブックフェスティバル」の実行委員長も務めていらっしゃいますね。
たまたまのご縁でお引き受けすることになったのですが、大きな気づきを得られた機会でしたね。コロナ禍で長い間開催できなかったブックフェスティバルが復活して、街の人たちが一つになって笑顔があふれる瞬間を目の当たりにしました。
正直それまでは、神保町はたくさんの業種・業界が雑多に集まっていて、まとまりのない街という印象があったんです。ですが、祭りやイベントを契機に皆さんが集まるという経験を共有できて、この街にはもっともっといろいろ祭りや取り組みがあるべきだと感じました。実行委員長を務めたことは、大きな転機でした。
―新店の話に戻って、リアル書店としての「体験」という観点で、特に重視したことはありますか?
「書店を歩いていると、世界中を旅しているみたいな気分になる」とお客さまに言われることがたまにあります。さまざまな本があって、表紙を見たりパラパラとめくったりするだけで、さまざまな気づきがある。「知の渓谷」や「探求の洞窟」など、とにかく店内をいろいろと歩いてもらうことを目標にして、店づくりを行いました。自分の目当てのジャンルにだけ素早くたどり着けるのではなく、歩きながら新しい世界を発見していただく――そういう仕掛けです。
セレンディピティのような形で手に取り、それが本当に自分にとってベストな一冊だったという体験、そんな「本との出逢い」をお手伝いできたら、書店員として最高の瞬間だと思います。
―三省堂書店は住所が「神保町1-1」ということもあり、神保町のシンボルであり、「本の街」の入り口だと感じます。書店として、「入り口」という役割についてはどうお考えですか?
入り口には2つの意味があると思っています。一つは、文字通り「街の入り口」として。書店員に聞けば教えてくれるだろうという感じで、周辺のカレー屋さんやお手洗いの場所まで聞かれることも多いんですよ(笑)。気軽に立ち寄れる書店だからこそ、そこで情報を得て周辺の街へ出かけていくという流れを生み出せると面白いなと思っています。
もう一つは、あらゆるジャンル・学問・分野への入り口として。何かに困ってその解決策を求めているお客さまに、まず入り口となる本をご提案し、さらにその本を読んだ後のソリューションにまで書店の役割を広げていけるよう、開発していきたいと思っています。
―では最後に、神保町に初めて来る方へのおすすめの場所や店があれば教えてください。
やはり、白山通りと靖国通りの交差点から古書店が並ぶ街並みを歩いていただくのが一番ですね。古本屋さんがずらりと並んでいる光景は、日本中探してもなかなかないですし、世界的にも非常に珍しいと思います。その街並みを眺めながら読書欲を刺激されて、どこかのお店で貴重な一冊と出会う体験をぜひしていただきたいです。
お店では……神保町でよくお世話になっている「キッチンカロリー」さんをおすすめします。名物の「カロリー焼き」は、スパゲティをご飯と一緒に食べるという「炭水化物×炭水化物」の定食で(笑)、明治大学の学生さんの胃袋を長年支えてきたお店です。カロリーが高いものはもう身にこたえる年になってきましたが、忘れられない味で、ついつい食べに行ってしまいます。









