A Midsummer Night’s Dream, Shakespeare’s Globe, 2013
Photograph: John HaynesA Midsummer Night’s Dream

自宅で観劇:第2回 常識をくつがえす演劇作品

シェイクスピアの名作、人型ロボットのもたらす衝撃作を紹介

編集:
Hisato Hayashi
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タイムアウト東京 > アート&カルチャー > 自宅で楽しめるステージビューイング > 自宅で観劇:第2回 常識をくつがえす演劇2選

テキスト:高橋彩子

外出自粛を余儀なくされる日々が続く。それは裏を返せば、家で過ごす時間がいつもよりたっぷりあるということだ。現在、国内外の劇場や団体が、これでもかと演劇公演の映像を無料で配信している。その中から、英語上演あるいは英語字幕が付く映像を紹介するこのシリーズ。

今回は閉じこもる日々に刺激をもたらし、既成概念を打ち破ってくれる演劇作品を紹介する。イギリスの名門、グローブ座で上演されたシェイクスピアの名作『ハムレット』、アートプロジェクトユニット、リミニ・プロトコルが手がけた、人型ロボットが出演する衝撃作『不気味の谷』をチョイス。シアターゴアー(劇場の常連)のあなたも、普段は演劇を見ないあなたも、のぞいてみれば刺激あふれる演劇作品に驚かされるだろう。

※配信日時は、各国の現地時間で表記。

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英国シェイクスピア・グローブ座:『ハムレット』
Photograph: John Wildgoose

英国シェイクスピア・グローブ座:『ハムレット』

固定された性別から解き放たれた配役

イギリスのシェイクスピア・グローブ座は、毎週月曜日から2週間ごとに1作、過去の舞台映像を無料配信する。現在、その1作目として、2018年上演の『ハムレット』を見ることができる

グローブ座といえば、シェイクスピアが自作を数多く上演した劇場。17世紀に閉鎖されたが、1997年、かつての場所から230メートルほど離れた場所に同じ姿で再建されて今に至る。

映像でまず注目してほしいのは、そのユニークな空間だ。舞台上には巨大な2本の柱(大理石に見えるが実は木製)。その舞台を囲むように存在する客席のうち、平土間には天井がなく立ち見席となっている。舞台に手をついて鑑賞する観客の姿からは、舞台と客席がいかに近いかが分かるだろう。

物語の舞台はデンマーク。先王が死に、その弟クローディアスと先王の妻ガートルードが結婚している。先王の息子ハムレットは、亡き父の霊から自分を殺したのはクローディアスだと聞き、暗殺を再現した芝居を見たクローディアスの反応からそれが事実であることを確信する。狂人のふりをし、親友ホレーショの助けを借りながら復讐(ふくしゅう)をしようとするハムレットは、恋人オフィーリアを狂気の末の死へと追い込んでしまう。オフィーリアの兄レアティーズに、フェンシングの試合を申し込まれたハムレットだが、その剣には毒が仕込まれており、最後にはハムレットもレアティーズも、そしてクローディアスもガートルードも、死を迎える。

このプロダクションの大きな特徴は、ハムレット役を女性のミシェル・テリーが男装で演じていることだ。同様に、ホレーショ、レアティーズを演じるのも女性。一方、オフィーリアを演じるのは女装した男優である。

といっても、「ハムレットは実は女性だった」といった読み替えがなされているわけではない。ジェンダーフリー(gender blind)で自由な配役によって、役柄を固有のイメージから解き放っているのだ。それによって実際、父の霊とハムレットの別れといい、オフィーリアへのハムレットの罵倒といい、従来とは違う感覚がたくさん生まれている。常にセットで行動するハムレットの学友ローゼンクランツとギルデンスターンのキャラクターづけにも注目してほしい。

主演するテリーの、グローブ座の芸術監督のお披露目演目の一つとして上演された本作。舞台美術の無いシンプルな舞台で繰り広げられる、新たな時代を見据えた意欲作をお見逃しなく。パンフレットをダウンロードできるのもうれしい。

英国シェイクスピア・グローブ座:『ハムレット』

フェデレイ・ホームズ&エル・ワイル演出

2020年4月19日(日)で配信終了。

※グローブ座のアカウントは今後、『ロミオとジュリエット』『夏の夜の夢』『冬物語』『二人の貴公子』『ウィンザーの陽気な女房たち』など順次配信予定。

https://www.youtube.com/user/ShakespearesGlobe

リミニ・プロトコル:『不気味の谷』
© Gabriela Neeb

リミニ・プロトコル:『不気味の谷』

ロボットを見つめる私たち自身の話

既成概念を打ち破るドキュメンタリー演劇を送り続けているアートプロジェクト・ユニット、リミニ・プロトコルは、18年初演の『不気味の谷』を配信中

日本でもこれまで、模型の世界の中で老人達が語り合う『ムネモパーク』、本物の経済学者や革命家や労働者が登場する『カール・マルクス:資本論、第一巻』、物流をテーマに観客を東京から横浜までトラックで運ぶ『Cargo Tokyo-Yokohama』、白人家庭の養子となった韓国人女性を扱った『Black Tie』、舞台上で東京都民の統計を取る『100% トーキョー』と、作品を上演するたびに大きな話題を呼んだ彼ら。今作で扱っているのは、ロボットの世界だ。

舞台上には、小説家であり劇作家であるトーマス・メレの人型ロボットの姿。彼は観客に向かってレクチャーをし始める。生の舞台を鑑賞する場所である劇場で、プログラミングされたロボットのレクチャーを経験することの不思議さ。そのレクチャーが、メレ自身についての内容にとどまらず、模倣や認知、何が自然で何が人工的なのか、といった事柄へと広がっていくに従って、私たちはこれが演劇についての、さらには私たち自身の話であることに気付くだろう。

ちなみに「不気味の谷」とは、ロボット工学者の森政弘が唱えた説で、人間に似せた造形物に対する人の感情が、ある時点で肯定から否定へと翻る現象のことだ。

この『不気味の谷』は、2020年11月28日(土)、29日(日)に山口情報芸術センター(YCAM)で上演を予定している。テーマから考えるに、PCで見る本作と、劇場で見る本作もまた、違った感興を湧き上がらせるに違いない。

リミニ・プロトコル:『不気味の谷』

シュテファン・ケーギ  コンセプト・テキスト・演出

https://vimeo.com/339074946

配信終了日は未定。

高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。「エル・ジャポン」「AERA」「ぴあ」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜を連載中。

 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

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