対談:いとうせいこう × xiangyu

2019年の「女性解放運動」と、「音楽で食う」こと

作成者: Kunihiro Miki |
Advertising
テキスト: Lisa Tanimura
写真:中村悠希

かつて東京には、今では伝説と呼ばれるアーティストたちが集うアンダーグラウンドな場があった。S-KENが率いたクラブイベント『東京ソイソース』にはTOMATOS、JAGATARA、MUTE BEATといったバンドを筆頭に、若き日の藤原ヒロシ&高木完(TINNNE PUNX)、そしていとうせいこうといった今では誰もがその名を知るようなアーティストたちが集っていた。出演者だけではなく、観客からも、ミュージシャンやデザイナーといったさまざまなクリエーターたちが羽ばたいていく場であった。

東京という街が持つ新旧混合、秩序と混沌といった要素を体現したかのような、音楽ジャンルだけではなく表現方法の壁をも飛び越え、全て混ぜ合わせたかのようなイベントが『東京ソイソース』だった。その伝説的イベントが、『東京ニューソース』として生まれ変わり、11月23日(土・祝)、青山CAYを舞台に『女性解放運動』をテーマに掲げ、第2回目となるイベントを行う。

なぜ今『女性解放運動』なのか、芸術における差別的な表現の対極にあるものについて、さらにはアーティストとして人として、型にはまらず自由に生きることについて、主宰のいとうせいこうと、当日出演が決定している気鋭アーティストのxiangyu(シャンユー)に、話を聞いた。

男とか女とかじゃなくて、一人の生き物として

―まず、なぜ『東京ニューソース』を始められたのかを教えてください。

いとう:僕は1980年代の『東京ソイソース』に、藤原ヒロシがDJをしている横でラップをするという形で出演していて。それがアンダーグラウンドシーンでのデビューのようなものなんです。『東京ソイソース』にはそういう風に若者をフックアップしていく機能があった。去年『東京ソイソース』のバンドのメンバーが集まる機会があり、そういうのがまた必要だなって話になって。俺も当時フックアップされた身として、フックアップする場を作る責任もあるし。

―なぜ今回「女性解放運動」というイベントタイトルにされたのですか。

いとう:女性の時代なのに女性が出ないのもおかしい話なので、女の人縛りでやったらいいんじゃないですかって言ったんです。もうアンダーグラウンドは男っていう時代じゃないでしょ。日本はそういうところがすごく遅れてて、意識して女の人多くしていかなきゃ半々にもならないような社会だから、それでいいんだと思うんですよね。

それで、xiangyuさんとかZOMBIE CHANGさんをお呼びしたんです。BimBamBoomはs-kenさんがずっとプロデュースしてるファンクインストバンド。サヨコさんは『東京ソイソース』の時代にZELDAというバンドをやっていた超カリスマだから、もう一度出演してもらったら面白いなと。

―いとうさんとxiangyuさんをの出会いは?

いとう:xiangyuさんとはコントライブで一緒だったんですよ。

xiangyu:先日、テニスコートさんというコントユニットのライブにゲスト出演したんですよ。そのライブにせいこうさんも出演されてたのが出会いです。

いとう:俺はxiangyuっていう人は芸人なんだと思ってた(笑)。

x:そうだったんですか!(笑)

いとう:誤解が解けたのは、翌日くらいに検索して、あの人アーティストなのかって。でもそういう誤解は俺が一番受けてきた誤解だから。垣根を越えちゃうタイプってところでは親近感はある。

―xiangyuさんは音楽活動をされる上で、ご自身のジェンダーについて考えられたことはありますか。

x:私は、この地球上に生きてる生き物っていう感覚が強くて。男がどうとか女がどうとか、とかいうよりかは、もっとこの特性を持っている人はこういうところで頑張って、みたいになればいいと思っています。

いとう:男、女、っていうのはさ、指数が少な過ぎるからね、あまりに粗雑じゃないかな。

x:男とか女とかじゃなくて、一個人として、一人の生き物として見ていけば話はそんなに複雑にならないんじゃないかと思って生きていて。そんなことを思いつつ曲を作ったり、音楽活動してます。生き物として、って気持ちの方が私は強いです。

いとう:そもそもこんなシャンユーなんて名前つけてるしね。性別も人種も分からない。

x:そうですね(笑)。

人が驚く工夫をすることがヒップホップだと思っている

―昨年、ヒップホップに潜むミソジニー(女性蔑視)に葛藤されるあるリスナーの方が書かれた記事がバズったのですが、いとうさんは、ヒップホップだけではなく音楽全般やさまざまな表現方法に潜む女性差別的な表現についてはどう思われますか?

いとう:僕は『フリースタイルダンジョン』って番組で審査員をしてるけど、差別は激しく減点するって自分で決めてる。それは人種も性差別も同じ。差別でディスるっていうことはあまりに単純で芸のないことだし、ヒップホップのよくないとこだと思ってる。むしろ差別されている側が声を上げるためにやっていたのに。まあ、「為に」というと「違う」って言う人もいるけど、また差別する相手を見つけてそれを差別するっていうのは全くバカバカしい話。だから差別がなくなんないんじゃんって話になるじゃん。

でも、例えば女の人に優しくしましょうね、とかいう必要もなく、何か違う価値観をうたったりする。上手に対抗軸のものをよりちゃんと探して、それをいいものだと言う。それがアートっていうもの。僕、新しいことをして人が驚く工夫をすることがヒップホップだと思っているので。

型にはまって「ビッチが俺を追いかけてくる」とか言いたがるけど、そもそも追いかけてないじゃん(笑)。それに日本で稼ぐ金なんて大したもんじゃないから、アメリカのあいつらとは全然違うじゃん、全然お金ないじゃん(笑)。

Advertising

バイト3つしてます!

―(笑)。お話に出たように、今日本では、ラッパーのみならずさまざまなアーティストがなかなかそれ一本で食べていくのは難しいという時代ですが、それについてはどう思われますか。

いとう:だから俺とかxiangyuちゃんみたいな雑食系がいいと思ってる。意識的に一つの仕事にとどまらないようにもしてる。例えば、音楽が好きでギターをやってるけどそれで食っていけない、なのでバイトしてます、っていうことを俺は恥じる必要は全くないと思ってるわけ。俺はその労働が尊いと思ってる。一本でやっていくことが正しいみたいに日本の人が思ってない? 食ってくように食ってくしかないじゃん! xiangyuちゃんはどう食ってるの?

x:私、今バイト3つしてます!!

いとう:ほら偉いでしょ!(笑)

x:コスチュームデザイナーのアシスタントと、昼に飲食、夜も別のバイトをやってます。

音楽をやってるけど、音楽って世の中のごくごく一部分じゃないですか。世の中ってそんな小さな部分で完結していなくて、もっといろいろなことがあるから、そこと自分が切り離されたくない。そこが切り離されたら多分歌詞書けないっていうのもあって。いつかはバイト減らしたいとは思っているけれど、今は自分の生活スタイルに不満はないです。

いとう:誰かに搾取されたりしてるのをそのままにしろとは言わないけども、音楽でしか食っていけないと言われても、なんで音楽だけで食ってかなきゃいけないんだろう、って僕は思う。

それより大事なものは自分がやりたい音楽がちゃんとはっきりしてて、それをやるってことじゃないですか。それをやるためにはどんな職業でも構わないわけじゃないですか。みんなそこが転倒してんじゃない? ヒップホップがやりたいからヒップホップっぽくしてる、ってのとちょっと似ちゃってない? 本当にやりたいことってそうじゃなかったんじゃない?って。

みんなゴチャっとした東京っぽい場

―形に囚われてしまっている、と。

いとう:そうそう。だから、『東京ニューソース』では、いろいろなタイプの人を集めて、みんながもっと自由になれるようにしたい。あるいはそこで誰かが出会って、「私デザインやってるんだけど」「私絵描くんだけど」ってバンバン混ざり合える。それがやっぱ面白いじゃん。

客もアーティストも垣根がないのが良い。『東京ソイソース』っていうのはそういうところだった。アーティストがいてデザイナーがいて雑誌の編集がいて誰がいてどれがいて、みんなゴチャっとしてて。そういう東京っぽい場づくりをやりたい。

―xiangyuさんは、出演する側としてこういうイベントにしたいというのはありますか?

x:私、自分が出るイベントでも出番直前まで裏にいて本番で出る、みたいな感じが好きじゃなくて。自分のライブとかフェスでもずーっとフロアで遊んでてぴゅっと出るみたいな(笑)。それがすごく楽しくて。お客さんと遊んでて、そのまま自分も歌っちゃったみたいなのがすごく好き。

いつも遊びに来てくれた人からおすすめの本とかイベントとか教えてもらったりもしてます。なので、新しい出会いがメチャメチャ楽しみです! 本当お客さんとずーっと踊ってますよ、私! 一緒に遊びたいです!

―なるほど。最後に、お二人にとって今東京っぽいと思う場所や、好きなエリアはありますか?

いとう:俺は行き詰まったら錦糸町に行くことにしてる。まず、いろいろ人種がいるでしょう。で、夜の街がちゃんと怖い。ちゃんと怖いとピリッとする。そしておいしいB級グルメがいっぱいある。あと、お店で売られてる女性物のファッションが意外と悪くない。好きなんだよね、錦糸町。

x:ちゃんと怖いって大事ですね!私は、最近一番行ってるのは幡ヶ谷のフォレストリミットです。前にライブで出演してからすごく気に入ってて。しょっちゅう一人で行ってます。何が良いって、東京のほかのクラブとかでは観られないような超若手のDJとかアーティストが出てて。音も良いし混んでない時が多くて、本当に音楽に酔えるというか、無茶苦茶になって音を感じられるところが気に入ってます。外国のお客さんも多くて、今一番ハマってます

いとう:ちゃんと遊んでるわ、偉いわ。

x:ちゃんと遊んでます!(笑)

『東京ニューソース』の詳しい情報はこちら

LGBT

自分たちの居場所を作ること

クラブイベントには珍しく、参加者の多くが女性というパーティーが渋谷の青山蜂で開催され、話題を集めている。2019年9月13日(金)に4回目の開催を迎える『Wife/WAIFU(ワイフ)』は、「ジェンダー、セクシュアリティ、人種、年齢などに関らず、オープンで他者と寄り添う気持ちのあるさまざまな人が安心して楽しめるセーファースペースを、参加者とともにつくりあげていくこと」をテーマに据え、トランスジェンダー女性を含めた女性を軽視するような行為、および人種差別的な行動には即刻退場を求めるポリシーを掲げている。 社会のさまざまなところでジェンダーバランスの不均衡が問題視される昨今、音楽シーンもまた例外ではいられない。大規模の音楽フェスティバルでも男性の出演者が圧倒的に多いなかで、このパーティーのオーガナイザー5人全員が女性であることは大きな特徴だ。今回タイムアウト東京では、社会の現状に対するカウンターとして自分たちの居場所を作り出したオーガナイザーたち、美術家で海外展示のため不在のミドリ(Midori Morita)を除く、ローレン(Lauren Rose Kocher)、エリン(Elin McCready)、アサミ(Maiko Asami)、リサ(Lisa Tani)に話を聞いた。

LGBT

東京、LGBTフレンドリースポット

Text by Time Out Tokyo Editors & カイザー雪 海外では、ロサンゼルスのウェストハリウッドや、パリのマレ地区などがLGBTエリアとして知られており、セクシュアリティを問わず、トレンド発信地としても人気だが、日本ではLGBT界隈の店は一般的にはまだあまり知られていない。ここでは東京のLGBTフレンドリーなスポットをピックアップする。関連記事:『東京、ショーパブガイド』『東京、深夜営業の店』

Advertising
Ja Lebrija
音楽

センティミエントで遅い、テクノ

テキスト:大石始 近年、南米とヨーロッパを跨(また)ぐ形で新しい音楽が生まれつつある。それが「エレクトリック・フォルクローレ」と呼ばれる潮流だ。 南米大陸には、アンデス山脈周辺地域をはじめとする各地に先住民文化の影響を色濃く残す伝承音楽や大衆音楽が伝わっているが、エレクトリック・フォルクローレとはそうした伝承音楽(フォルクローレ)とアンダーグラウンドなダンスミュージックのハイブリッドである。その代表的アーティストであるエクアドルのニコラ・クルース(Nicola Cruz)は、ヨーロッパやアメリカでもブレイク。来日も果たしており、今年の『フジロック』への出演も決定している。 今回は、そのニコラをはじめ、チャンチャ・ビア・シルクイート(Chancha Via Circuito)やバリオ・リンド(Barrio Lindo)、R・ビンセンゾ(R. Vincenzo)らエレクトリック・フォルクローレのキーマンたちの来日公演をオーガナイズするだけでなく、近年はベトナム ホーチミンのクラブ The ObservatoryのレジデントDJに就任するなど、ワールドワイドな活動を展開しているShhhhhに、シーンの背景を解説してもらおう。開催を直前に控えたエレクトリック・フォルクローレの総本山的レーベル、ZZK所属のウジ(Uji)ことルイス・マルエッテの来日公演の見どころについても話してもらった。

LGBT

生きた本棚が作るゲイコミュニティ

言わずと知れたゲイタウン新宿二丁目。その深奥にある、とりわけディープな一角「新千鳥街」の中でブックカフェ「オカマルト」は営業している。店主の小倉東(おぐら とう)は、ドラァグクイーン「マーガレット」の名でも知られる、日本のアンダーグラウンドなゲイシーンにおける最重要人物の1人だ。かねてより雑誌編集や文筆業でも豊富な知識と鋭い洞察力を披露してきた彼が、2016年末にオープンさせた店とあって注目が集まっている。同店の本棚に並ぶのは、通常のブックカフェとは異なり、ポルノ雑誌からアカデミックな研究書まで、ゲイやクィアカルチャー、同性愛などにまつわるものばかり。二丁目というコミュニティ内でゲイ資料をアーカイブしていく意義とは何なのか。平日昼間のオカマルトで話を聞いた。

Advertising