センティミエントで遅い、テクノ

南米発の新潮流、エレクトリック・フォルクローレの最前線

Ja Lebrija
作成者: Kunihiro Miki |
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テキスト:大石始

近年、南米とヨーロッパを跨(また)ぐ形で新しい音楽が生まれつつある。それが「エレクトリック・フォルクローレ」と呼ばれる潮流だ。

南米大陸には、アンデス山脈周辺地域をはじめとする各地に先住民文化の影響を色濃く残す伝承音楽や大衆音楽が伝わっているが、エレクトリック・フォルクローレとはそうした伝承音楽(フォルクローレ)とアンダーグラウンドなダンスミュージックのハイブリッドである。その代表的アーティストであるエクアドルのニコラ・クルース(Nicola Cruz)は、ヨーロッパやアメリカでもブレイク。来日も果たしており、今年の『フジロック』への出演も決定している。

今回は、そのニコラをはじめ、チャンチャ・ビア・シルクイート(Chancha Via Circuito)やバリオ・リンド(Barrio Lindo)、R・ビンセンゾ(R. Vincenzo)らエレクトリック・フォルクローレのキーマンたちの来日公演をオーガナイズするだけでなく、近年はベトナム ホーチミンのクラブ The ObservatoryのレジデントDJに就任するなど、ワールドワイドな活動を展開しているShhhhhに、シーンの背景を解説してもらおう。開催を直前に控えたエレクトリック・フォルクローレの総本山的レーベル、ZZK所属のウジ(Uji)ことルイス・マルエッテの来日公演の見どころについても話してもらった。

快楽的な音楽の一部に自国の伝統音楽を引用

―エレクトリック・フォルクローレと呼ばれる動きはいつごろから、どのように始まったものなのでしょうか?

アルゼンチンのブエノスアイレスのレーベル、ZZKに代表されるデジタル・クンビアというジャンルが始まった2008年前後が最初だと思います。チャンチャ・ビア・シルクイートらシーンの代表的アーティストは当時から(コロンビアの大衆音楽である)クンビアだけでなく、フォルクローレをダブ化していました。

『コンドルは飛んでいく』のようなイメージしかなかったフォルクローレがダブ化されていたのは衝撃でした。

21世紀に入って「ableton live」という安価な音楽制作ソフトが普及した影響もあるのではないかと思います。このソフトを使うと、小節単位でシーケンスを刻み、簡単にループを作ることができるんですね。

民族音楽にキックを足しておいしいところをループさせたりしながら、フロアとの親和性のあるトラックを作ることが簡単にできるようになった。しかも高価な機材を買わなくても、PC一台でそれを実現できるようになったんです。

2015年ぐらいからそういった音楽が、それこそ雨後の筍のように南米やヨーロッパの地下のトラックメーカーからリリースされるようになってきた。それもどんどん洗練されながら、オリジナルな音源が出てきている。

トーマッシュ(Thomash ※)やR・ビンセンゾらはableton liveでループと上ネタを自在に変化させながら即興的にDJしてる。そういうアイデア自体は決して新しいものではないけれど、フォルクローレをネタとして使っているのは面白いですよね。

※トーマッシュ:ブラジルのDIYパーティ/アートコレクティブ『VOODOOHOP』の主宰。来日公演も過去に数回行われている。



あと、ブラジルは関税が100%と聞きました。そのため国外から入ってくるDJ機材がかなり高く、それだったら曲作りやDJもPCでやったほうが良い、ということもあるんだと思います。

トーマッシュとA・MACACAがヨーロッパからブラジルのサンパウロに移住し、『Voodoohop』という名前でパーティーを始めたこともきっかけになったと想像しています。

ヨーロッパのトラックメーカーが、テクノやハウスの4/4拍子ループの快楽をZZK以降の地下シーンに持ち込んだことで化学反応が起こった、という部分は少なからずあるんだろうなと。

―Shhhhhさんがそうした動きに注目するようになったのはいつごろですか?

僕は普段、ラテンのCDを輸入する会社に勤めているんですが、ある時期からその会社でもZZKに影響を受けた音が少しずつ入ってくるようになりました。ただ、南米でCDが盛んに作られていたのは2012〜13年ごろが最後で、それ以降はCDを経由してシーンの情報が入ってこなくなったんですよ。

それから、3年ほど前に日本でトーマッシュと共演させてもらう機会があって、そのときに衝撃を受けました。テクノ/ハウスのピッチを極端に落として、デジタル・クンビアや自分たちでエディットした(エレクトリック・)フォルクローレら南米のトラック、そして変なワールドミュージックにつなげている。

パーティーのフロアで、今まで「伝統音楽」や「辺境」などと呼ばれていた音楽がまったく並列に扱われている。南米的な情感である「センティミエント(Sentimiento:スペイン語で「感情」を意味する)」がフロアで抽出されていて、とても爽快な眺めでした。

―10数年前からリカルド・ヴィラロボス(Ricardo Villalobos)やルチアーノ(Luciano)あたりがフォルクローレをサンプリングしたテクノやテックハウスをリリースし、世界的に知られるようになりましたが、そこからつながる流れもあるのでしょうか。

確実にあると思います。リカルドたちが「伝統音楽を研究/紹介する」という文脈ではなく、ダンスミュージックという快楽的な音楽の一部に自国の伝統音楽を引用した、という行為はZZK周辺も見ていたと思います。

ちょうどそのころ(2008年)は南米も経済的に調子が良かったので、クラブの数も多かったと聞いています。横の繋がりできやすかったんじゃないでしょうか。 

ただ、リカルド自身も1973年の軍事クーデターの際にチリから亡命していますし、今年初頭もアメリカに入国できなかったというニュースがありましたね。彼らがただのネタとしてハウス/テクノにフォルクローレを混ぜたとは考えにくいと思います。

―Shhhhhさんが南米出身のアーティスト/DJの日本公演をオーガナイズするようになったのはいつごろから? 

トーマッシュも出てきてるし、アルゼンチン音楽のコンピ(2009年にリリースされた『UNICORISMO』)も作らせてもらっておきながら、俺が動かないでどうする!みたいな感覚があったんですよね。

ちょうどミニマル/ベルリン志向のシーンも一辺倒に感じていた時期に、ちょうど「ニコラ・クルースを呼ばないか?」という話がきたんですよ。それが2017年初頭です。

初めて呼んだのはサンパウロのスパニオール(Spaniol)です。『Re:birth』というオーガナイザーチームが運営する野外トランスパーティーに出てもらいました。前情報として「ブラジルのDJ」ということをアピールせず、変なバイアスをかけないで聴いてくれるトランスのオーディエンスにはめようという作戦でした。緊張したけど、その日のフロアは忘れられません。

現行のダンスミュージックとして紹介する

―これまで招聘したアーティスト/DJで印象深かったのは誰ですか? 記憶に残るエピソードがあれば教えてください。

みんなそれぞれ違って面白過ぎます! 僕が人に説明するときによく使う表現が「悪魔くんの12使徒みたい」ということで(笑)。妖怪っぽくて魔法使いで、得意技がいちいち違う。童話の世界みたいな感じなんですよ。

印象深いのはやはりニコラ・クルースでしょうか。彼を最初に呼んだパーティーが大爆発で。フォルクローレのフレーズで客が手を上げて盛り上がっている。本気で感動しました。トーマッシュやVoodoohopも衝撃でしたが、エクアドルからこういうスターが出てきたのは本当に大きいと思います。

―これまでShhhhhさんがオーガナイズしてきた南米出身アーティスト/DJの日本公演はいずれもいわゆるワールドミュージックのイベントではなく、あくまでも現行ダンスミュージックのパーティーとして作られていました。オーガナイズする上で意識していることがあれば教えてください。

その通りです。僕はドイツのテクノだろうが、イギリスのベースミュージックだろうが、同列に並べて踊れることがDJ/ダンスミュージックだと思ってるんですよ。ニコラ・クルースたちの音楽も当然今のダンス音楽なので。 

―シーンのアーティストやDJたちと交流するなかで、フォルクローレに対する彼らの思い入れに触れることもあったのではないかと思います。彼らにとってのフォルクローレはどのような存在なのでしょうか?

同じ質問をアルゼンチンのノーラ・サルモリア(Nora Sarmoria)にぶつけたことがあります。彼女は「南米の現象すべて」という言い方をしていました。その真意は日本人である僕には分かりかねるのですが、彼女たちより10~15歳くらい年下の彼らにとっては、もっとミスティックな、失われた風景だったり情感なのかなと予想します。

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ヨーロッパのトレンドばかり追わず、多様な解釈を

―今回招聘するウジとはどのようなアーティストなのでしょうか?  

元はルラクルサというフォルクローレのユニットを組んでた人で、ダンス系のプロジェクトとしてウジを始めたようです。近年僕が招聘してきたアーティストとも交流が深くて、同じコレクティヴのようですね。

ZZKから昨年リリースされたアルバム『Alborada』は南米の各メディアでも絶賛されたようです。チャンチャやニコラとも違った新型エレクトリック・フォルクローレを披露してくれています。

あと、映像作家であるヴィンセント・ムーン(Vincent Moon)のビジュアルアルバムにも出演しています。

―今回のツアーについて、各公演の見どころを教えてください。

東京と神戸では生楽器をフィーチャーしたライブをする予定です。今までPCだけのパターンが多くて、お客さんからも「もっとバラエティーに富んだライブを観たい」という声も多かったので、今回はより生に近いフォルクローレを楽しめるはずです。名古屋はPCを使ってよりDJ的なパフォーマンスをしてくれることになっています。

―最後に、現在の日本のクラブシーンについてはどう思われますか?

本当に頑張ってる人をたくさん知っているので悪く言いたくはないんですが、どうもオリジナル指向を失い、ヨーロッパのトレンドばっかり追っている気がします。今回みたいなオーガニックな音も、どうも解釈が一辺倒。同じ「土臭い」音とブッキングされているケースをよく見るんですが、それも違うなあと。シーンの老害化はありますね、自戒を込めて。

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