自分たちの居場所を作ること

LGBTQの遊び場に選択肢を増やす「WAIFU」にインタビュー

作成者: Hisato Hayashi |
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WAIFU
インタビュー:Hisato Hayashi,Kosuke Shimizu
写真:Yuki Nakamura

クラブイベントには珍しく、参加者の多くが女性というパーティーが渋谷の青山蜂で開催され、話題を集めている。2019年9月13日(金)に4回目の開催を迎える『Wife/WAIFU(ワイフ)』は、「ジェンダー、セクシュアリティ、人種、年齢などに関らず、オープンで他者と寄り添う気持ちのあるさまざまな人が安心して楽しめるセーファースペースを、参加者とともにつくりあげていくこと」をテーマに据え、トランスジェンダー女性を含めた女性を軽視するような行為、および人種差別的な行動には即刻退場を求めるポリシーを掲げている。


社会のさまざまなところでジェンダーバランスの不均衡が問題視される昨今、音楽シーンもまた例外ではいられない。大規模の音楽フェスティバルでも男性の出演者が圧倒的に多いなかで、このパーティーのオーガナイザー5人全員が女性であることは大きな特徴だ。今回タイムアウト東京では、社会の現状に対するカウンターとして自分たちの居場所を作り出したオーガナイザーたち、美術家で海外展示のため不在のミドリ(Midori Morita)を除く、ローレン(Lauren Rose Kocher)、エリン(Elin McCready)、アサミ(Maiko Asami)、リサ(Lisa Tani)に話を聞いた。

WAIFU左からローレン、エリン、アサミ、リサ

発端は、新宿二丁目で行われたレズビアンパーティーで、トランスジェンダー女性であることを理由にエリンが入店を拒否された事件だ。もともと、トランスジェンダーやノンバイナリーの居場所が少ないと感じていたことや、そのためのパーティーを企画していたこと、今すぐに行動しようというオーガナイザー全員の意見が一致したことから、カウンターパーティーとしての『ワイフ』が立ち上がった。


新宿二
丁目で事件が起きたのは4月20日、開催日の5月2日までほぼ10日間。会場選びは時間勝負だったとエリンは話す。

WAIFU

エリン「蜂で起こった風営法の一件を応援したい気持ちもあったが、とにかく時間がない中で会場を探し、『ワイフ』の趣旨に賛同してくれた青山蜂を選んだ」

どんな酔っ払いでも目に入るシンプルなポリシーを

あらゆるジェンダーや身体的特徴を持つ人々の自由入場をうたうことはたやすくとも、実行へ移すには多くの困難があると予想する。『ワイフ』のメンバーはどのようにパーティーを計画したのだろうか。
彼女らはまず、対策として入り口にポリシーを掲げた。どんな酔っ払いでも目に入るよう大きくシンプルなポリシーは、オーガナイザー陣もよく訪れるベルリンのクラブにならったという。

WAIFU『ワイフ』のステートメント

リサ「入口にパーティーのポリシーを掲示しそこに賛同する人だけが入れる仕組みは、セイファースペースの確保に繋がる。それは当然守られるべきことで、犯罪の抑止にもつながることだから。痴漢行為などの被害に遭う人が出ることを、自分のパーティーでは絶対になくしたかった」

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WAIFUステッカーをキャップに貼る出演者

もう一つ、ユニークかつ画期的な対策が、セキュリティーステッカーの共有だ。人が密集し、流動的でもあるクラブにおける犯罪行為を減らす方法を話し合うなかで「ポリシーに賛同してくれた出演者やお客さん、みんなが貼って、みんなで声をかけ合いケアし合うためのセキュリティステッカーを作ろう」というアイデアが出た。
クラブやライブハウスで起きる痴漢や悪質なナンパなどの被害には、性犯罪への軽視とともに、スタッフによる対処も行き届いていない実情があるオーガナイザーだけでなく、ポリシーに賛同した来場者までもが自発的にステッカーを体の目立つところに貼ることで、フロアを楽しみながら行える自警としての機能をもたらしたと彼女たちは語る。

リサ「うれしかったのは、実際に(ステッカーを貼って)声をかけてくれる人がいたこと」

WAIFU

女性のためのスペースではなく、フェミニズムのためのスペース

また、現在の会場では車いすでの来場者を想定した際の入場が難しいことから、今後はバリアフリー化された会場での開催も目指しているという。
「都内のどこでも、クラブにふらっと行って自由に音楽を楽しめることが特権的なことだったと改めて気づいた。予算や人員の面で即座にすべての対策を盛り込むことは難しいけれど、できる限り自分たちとは違う属性を持った方の意見は積極的に取り入れて反映させていきたい」とアサミは話す。

WAIFU

会場オープンの18時から20時までは全フロアを禁煙にするといった対策も、煙に弱い人からの意見を受けてのことだ。禁煙スペースとZINEの販売フロアを兼ねた4階では、フライヤーデザインを担当するSuper-KiKiの作品集をはじめ、セクシュアリティ、ジェンダー、LGBTQ+、フェミニズム、セックスワークなどをテーマにしたTシャツなどのグッズも販売している。
「女性のためのスペースではなく、フェミニズムのためのスペースにしたい」とローレンが話す通り、来場者の幅も広がり、LGBTQやフェミニズムの界隈にも認知されつつある。
ツイッターなどのSNS上では、「フェミニスト」を名乗るアカウントによるトランス女性への排他的な言説も多く見られたが、
実際にさまざまな人々が『ワイフ』に訪れていることこそが、トランス女性への支持の厚さを物語っている

エリン「『ワイフ』には自分の居場所ができたと感じる」
リサ「こんなに安心して踊れるんだという実感がある」

WAIFU

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LGBTQにとっての高円寺や下北沢のような場所があってもいい

第4回を迎える現在、都内のクィアが集まる場所でも同じ方針のポリシーを掲げるパーティーが増え、『ワイフ』の影響を感じずにはいられない。新宿二丁目内でもまた、トランスジェンダー女性とレズビアンの交流の場や、座談会などを設ける機会も増えてきたという。「それは一番うれしいことだよね」と満足そうにエリンは話す。二丁目独自の文化や歴史を愛し尊重する一方で、出会い目的以外にLGBTQの遊べる場所がないと感じていたこともまた事実だった。

アサミ「二丁目はLGBTカルチャーの中心地で、バブル期世代の人たちが多く出店していることもあり、私の中では六本木とか西麻布のような『トレンディ』な場所。選択肢の一つとしてほかに高円寺とか下北沢のようなアートや音楽カルチャーを重視した場所があってもいいと思う。また二丁目はどうしてもLGBTQ+の中でもシスジェンダーのゲイ、レズビアンが中心の街だから、トランスジェンダー、ノンバイナリー、Xジェンダーやジェンダーフルイド、Aジェンダーの人も楽しめる場にしていきたい」
ローレン「私も二丁目が好きだけど、そこになじめないLGBTQが行く場所があってもいい。居場所の選択肢を増やしたい」

WAIFU

来年は武道館で、再来年は東京ドーム!(笑)

ネガティブな事件へ向けたカウンターとしてのパーティーはあくまでも発端、『ワイフ』はすでに今後の展望へと動き出している。今後は、同じ趣旨を持つクィアパーティーと協働してバリアフリー化された会場での開催や、タイや韓国などアジアで活躍するトランスジェンダーのDJたちの招致なども展望にあるそうだ。
ローレンは「来年は武道館で、再来年は東京ドーム!(笑)」と冗談めかして話す。

WAIFU

第3回では、音楽プロデューサーやDJとして活躍するsapphire slowsによるDJ講座も注目された。「女性DJが少ない」と言われる背景にある、そもそものきっかけや学ぶ機会が少ないという実感が、講座を設けた理由だ。「業界には年上の男性ばかり。前提として恋愛関係からでしかDJを学べないことが多く、ハラスメントもしばしば起こりうる。女の子たちがそういったしがらみなしに学べる場所を作りたい」というコンセプトには多くの共感が寄せられた。 

まもなく開催する第4回はDJ陣に注目しよう。フジロックへの出演が記憶に新しい7e、候補者への応援演説ならぬ応援DJ等も手がけるKiitaや、DJ Mars89と「南蛮渡来」を主催するsuimin、ワイフリピーターDJのChloé Juliette、90年代にVITAMIN-QのスタッフでもあったベテランDJのbimidori、網膜剥離(はくり)を発症し5年前に失明しながらも音楽活動を続けるnataraja(NPO NEW VISION)、オーガナイザーのリサも並ぶ。
また年内はハロウィンに絡めた企画や、クリスマスのイベントではトランス女性以外も楽しめるメイク教室も計画中だ。

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居場所を奪われた人たちの機会を「取り戻す」

最後に、ワイフの名前の由来について聞いてみた。まず、現在の日本で同性婚は認められていない。そしてオーガナイザーのエリンとミドリのカップルは2人とも女性を自認する「妻」たちである。名付けた理由の第一に、女性同士で結婚できるよう戦う姿を応援する思いもあるそうだ。
また、ローマ字表記をした「WAIFU」には別の狙いもある。海外では好きなアニメキャラクターのことを、日本語で言う「俺の嫁」同じく「waifu」と表現する文化があり、そこには女性を欲望の対象とした上でモノ化する無自覚な差別意識が横たわっている「ワイフという言葉を、私たちが使っていくことで取り戻したい。(女性のアニメキャラクターばかりの)画像検索結果に、日本の強い女たちの画像が出てきたら面白いなって」

WAIFU

現在、性的マイノリティーの文化を称揚する際にしばしば使われる言葉の「クィア」も、かつては「風変わりな」「奇妙な」を意味し、同性愛を侮蔑する言葉であった。ハウスやテクノに通じるダンスミュージックもまた、元をたどれば1920年代のドラァグボールカルチャーに始まり、1970年代に起こったゲイカルチャーの解放や、1980年代のディスコカルチャーを経て、主に有色人種のトランスジェンダーやゲイの間から生まれ広がった文化である。マイノリティの人々が集う場所で、より少ない属性を持った人々が排除されようとしている現状には混乱が生じているといえる。ワイフはトランスジェンダーへの差別、また抑圧された「嫁」「夫」などの旧来の制度の規範を越え、居場所を奪われた人々の機会を「取り戻す」きっかけへと歩を進めている。 

アサミ「(ポリシーやステイトメントに対し)『堅苦しい』という意見もあるが、見に来てみたら分かると思う」
エリン「まずは遊びに来て! 楽しいから」

WAIFU

WAIFUに興味があるなら……

ナイトライフ

東京、2019年にオープンしたミュージックバー

ここ数年で夜の楽しみ方が多様化している。2019年6月には東京都が、通年計画で実施するナイトライフイベントや地域のナイトライフヘの取り組みへの観光振興助成金の募集を開始し、話題となった。ここでは、DJがセレクトする音楽と酒が楽しめるミュージックバーを紹介したい。今年は渋谷に集中的にオープンした印象で、セレクトする酒や内装に力を入れていたり、昭和の老舗スナックを改装したユニークなものまでさまざまだ。クラブまで足を運ぶほどではないが、良い音楽と酒を楽しみたいと思った夜には、ぜひ参考にしてほしい。

LGBT

生きた本棚が作るゲイコミュニティ

言わずと知れたゲイタウン新宿二丁目。その深奥にある、とりわけディープな一角「新千鳥街」の中でブックカフェ「オカマルト」は営業している。店主の小倉東(おぐら とう)は、ドラァグクイーン「マーガレット」の名でも知られる、日本のアンダーグラウンドなゲイシーンにおける最重要人物の1人だ。かねてより雑誌編集や文筆業でも豊富な知識と鋭い洞察力を披露してきた彼が、2016年末にオープンさせた店とあって注目が集まっている。同店の本棚に並ぶのは、通常のブックカフェとは異なり、ポルノ雑誌からアカデミックな研究書まで、ゲイやクィアカルチャー、同性愛などにまつわるものばかり。二丁目というコミュニティ内でゲイ資料をアーカイブしていく意義とは何なのか。平日昼間のオカマルトで話を聞いた。

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