Fuyuki Kanai
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ニューノーマルの時代を考える、Netflix配信中のドラマ5選

カナイフユキ選、今の時代のセクシュアリティーに触れる映像作品

テキスト:
Hisato Hayashi
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イラスト、テキスト:カナイフユキ

新型コロナウイルスの影響下、どのように過ごしているだろうか。外出自粛が明けたとはいえ家にいる時間が長い日々もまだしばらくは続くだろう。そんな日々を楽しむため、イラストレーター、コミック作家として活動するカナイフユキにおすすめのドラマを聞いてみた。

テーマは「LGBTQ+の歴史に触れる」。2020年6月現在、Netflixで配信しているオリジナルドラマを中心に、U-NEXTやGoogle Playで観られる映画もセレクト。この機会にぜひ鑑賞して、感じたことを教えてほしい。

「LGBTQ+の歴史の上で、史実を基にしたものだけでなく「今はこんな物語も作られるようになったんだな」と時代の流れを感じられるものも選びました。

さまざまな歴史を知るため、僕の紹介する映画やドラマをご覧いただくだけでなく、皆さんのおすすめの映画やドラマも教えていただけたらうれしいです。歴史は一人一人が作っていくものですからね!」

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Netflixで配信中のドラマ

メリー・アン・シングルトンの物語

メリー・アン・シングルトンの物語

サンフランシスコを舞台にLGBTQ+を巡る歴史が描かれていて、勉強になるなと思いながら観たNetflixオリジナルドラマ。2019年のプライド月間に合わせて製作されたというだけあって、作り手の情熱を感じる作品となっている。

内容は、20年振りにサンフランシスコに戻ったメリー・アン、かつて彼女が置き去りにした娘と元夫、メリー・アンが暮らしていたアパートの家主・アンナや、アパートの現在の住人たち、多様な人々の人生が描かれる群像劇。親子の歴史や街の歴史、再開発(ジェントリフィケーション)やそれに対する抵抗が描かれており、歴史を動かしてきたのはやはり人なのだと思わされる。

現在のプライドパレードのようなLGBTQ+の権利運動のきっかけとして、「ストーン・ウォールの暴動(蜂起)」が有名だが、それに先んじた出来事といわれる「コンプトンズ・カフェテリア」での事件がこのドラマにも登場。こうした暴動の中心にいたのは、警察による差別的な取り締まりに抵抗したトランスジェンダーの人々だったといわれている。

「また、運動の初期は白人ゲイ男性が主導権を握り、トランス排斥の動きもあったそうです。今もLGBTQ+内でのパワーバランスについては課題がありますが、少なくとも、トランスの人々の権利を軽視せず、歴史を残しておこうとする動きがあるからこのようなドラマも作られているのだろうと考えました。

現在の日本でも運動がゲイ男性中心になりがちな状況はあると感じますが、同じ社会にさまざまな人が生きていると教えてくれるこのドラマが、それについて考えるきっかけになればと思います」

アンブレイカブル・キミー・シュミット

15歳の時に拉致監禁され、15年後にやっと外の世界に出ることができたキミー・シュミットは、人生を取り戻すために一人ニューヨークで暮らすことを決意する。しかし長年地下シェルターで暮らし教育も受けられなかったキミーには、全てが苦難の連続。持ち前の明るさと、監禁生活で培った不屈の精神で人生を切り拓くキミーの奮闘を描く、ハイテンションなコメディドラマ。

キミーはニューヨークでいろいろな仲間を得ていくのだが、なかでも彼女がベビーシッターとして働くことになる金持ち一家の主婦が、彼女の影響で夫の元を離れ、実業家として独立していく姿が印象的だ。映画『ミーン・ガールズ』の脚本を手がけたティナ・フェイが制作に携わっていることもあり、ガールパワーが満載。

「キミーのルームメイトになるタイタスというキャラクターについて、私の友達は「10年前だったらあの強烈な「オネエキャラ」は、ゲイ=笑いの対象というイメージを強化するということで問題視されたかもね」と言っていました。

確かに、ゲイの描かれ方に幅が出てきたからこそ、バリエーションの一つとしてタイタスのような人物を描けたのかなと思います。しかしタイタス、かなり面白いです」

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セックス・エデュケーション

セックス・エデュケーション

今さら語ることは何もないというほど、各所で魅力が語られているNetflixオリジナルドラマ。舞台はイギリスの郊外都市。学園ドラマを主軸に、思春期の親子関係や女性同士の連帯、そして異性愛以外のさまざまな恋愛とセックスを織り込みつつ、それらを単なる「ホットなトピック」として消費せず、丁寧に扱っている印象で好感を持った。

とにかく、セックスよりも先に、自尊心や人権や他者を尊重することを学ぶべきなのだという一貫したメッセージを感じ、子どもの頃に観たかったなと思わされる。 

「個人的に注目したのは色彩設計の素晴らしさ。衣装によるキャラクター分けも巧みで、主人公のオーティスはドラマ全体で多用されるブルー×アイボリー×バーガンディの服が中心。親友エリックは派手好きだけど勝負服はグリーンなので、彼をいじめるアダムがバイトする薬局のグリーンの制服には理由があるのかなと想像します。

オーラのレインボーモチーフの服にも理由があると思うし、リリーのパステルカラーの衣装とは相性バッチリ。モノトーンでキメたラヒームもセクシーだし、お金持ちグループのヴィヴィッドカラーで固めたスタイリングや、メイヴの黒×ピンクのゴスでパンクな強め女子スタイルも真似したくなります!」

クレイジー・エックス・ガールフレンド

ニューヨークで弁護士としてのキャリアを築いているが、心の中はボロボロの主人公レベッカ。そこに偶然現れた初恋の人(セクシーなジョシュ・チャン)を追って、全てを捨てて彼の住むカリフォルニア州ウエストコビーナへ引っ越す。しかし、彼には彼女がいて......?

このドラマの見どころは何と言っても気合の入ったミュージカルシーン。歌唱力自慢の俳優たちが1話につき2、3曲のパフォーマンスを見せるが、毎回遊び心満載で、ケイティ・ペリーやエド・シーラン、ミッシー・エリオットや『ラ・ラ・ランド』などの楽曲のパロディーもある。作り手が楽しんでいるのが伝わってきて、抱腹絶倒間違いなし。実は、このミュージカルシーンはレベッカの妄想癖によるもので、やがて彼女はセラピーによって自分のさまざまな問題に向き合うことになる。

例えば、優等生でいることを強要する母の言いなりになってきた親子関係を見直すなど、現代人が抱える様々な悩みを反映したドラマでもある。

「レベッカの周りには多種多様なキャラクターが登場しますが、あるゲイのキャラクターが、知り合って間もない人に自分のセクシュアリティーについて話すシーンが印象的でした。

カミングアウトというよりは自己紹介のように『あ、言い忘れてたけど俺ゲイなんだよね! みんな知ってるから誰も話題にしないんだ』とサラリと話すのです。日本のドラマにはこんな『サラリとしたカミングアウト』が登場する日は来るのかなと考えてしまいました」

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プリーズ・ライク・ミー

プリーズ・ライク・ミー

オープンリーゲイのコメディアン、ジョシュ・トーマスが脚本と主演を務めるオーストラリアのドラマシリーズ。

主人公ジョシュの母親は離婚してからそううつ病を患い、父親は別の女性と真剣交際中。シリアスなテーマを扱いつつ、インモラルな会話や、笑うしかないほどやるせないシチュエーションが笑いを誘うコメディとなっている。母親の入院する病院の患者たちと親しくなったり、その中の男の子と付き合ったりと、精神的な病と付き合う日常を軽やかなタッチで描いているのも新鮮。

つらい状況の中でも、かわいい部屋でルームメイトとおいしそうな料理を食べたり、彼氏がいるのにセフレを作って部屋に呼んだり、まったりと過ごしているのもおかしくて笑ってしまう。友人いわく「オージー的なお気楽さ」だそう。でも、そんな現実みたいにダラダラと進む物語こそ、このドラマの魅力の一つ。

「自信を持つことの難しさという、誰もが直面する悩みをユーモラスで現実的なタッチで描いたドラマだと思います。

日本ではこういった「特別じゃない人生」を生きているLGBTQ+を描いたドラマは少なく感じるので、もっと描かれ方の幅が広がるといいなという期待を込めて紹介しました」

映画

めぐり合う時間たち

ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』をモチーフに、1923年、1951年、2001年、三つの異なる時代を生きながらも交差する3人の女性の人生を描いた映画。

長い間女性同士の恋愛は隠さざるを得なかったことや、女性の自由が制限されてきた(今もされている)ことが描かれている。抑うつ症状に悩まされているウルフは、男性並みに働ける機会や、能力を発揮する機会を与えられていたらどうだったか…...と考えてしまう。

『ダロウェイ夫人』は、大きな歴史だけではなく、市井の人々が生きた小さな歴史も重要であることを描いているが、この映画も主人公たちの生活を丁寧に追っている点で同じトーンを感じ、「個人的なことは政治的なこと」という言葉を思い出した。近づいたり離れたりしながら漂う魂を俯瞰するような描き方も『ダロウェイ夫人』と重なり胸に響くものがある。普遍的な人生のままならなさを描いた映画だ。

「個人的には、ウルフに顔を似せるため特殊メイクを施したというニコール・キッドマンの演技が好きです。イライラしてメイドをいびるウルフの苦悩が伝わってきます。1951年の主婦・ローラ役のジュリアン・ムーアが出演した同年の映画『エデンより彼方に』もクィア映画の佳作なので、ぜひご覧いただきたいです」

BPM ビート・パー・ミニット

エイズ禍の中で青春を過ごすフランスの若者たちを群像劇で描いた映画。舞台となる1990年代初頭、治療法が開発途上だったエイズはまだ死の病といわれており、同性愛者やセックスワーカーの病気という偏見から世界各国の行政機関や製薬会社の対応は後手に回っていた。それに抵抗する人々が87年にニューヨークで結成した団体「ACT UP」が世界各地に広まり、デモやシットインなどの直接行動や、アートを通した抵抗運動を行った。

この映画の脚本は、フランスの「ACT UP PARIS」に実際に所属していた人が手がけており、エイズに対する恐怖や抵抗運動の切実さ、身近な人が亡くなっていく悲しさや焦りが生々しく描かれている。ただの悲しい話にも、史実の美化にも着地しないところにリアルさを感じた。

「この映画に登場するセックスシーンはとても美しく、ある種の人々にとってセックスは「生きること」への肯定であり、祝福そのものなのだと感じさせます。

そのセックスが死の原因になるかもしれないという葛藤と恐怖があり、それを抱えながらも生きて、愛し合い、セックスもするのだという一筋縄ではいかない複雑な感情がそのままぶつけられたような、ずしりとくる映画体験でした」

プロフィール

Fuyuki Kanai

カナイフユキ

イラストレーター、コミック作家。エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたジン(ZINE、個人出版物)の創作も行っている。

作品集『LONG WAY HOME』がSUNNY BOY BOOKSから発売中。

公式サイト

もっと映画を楽しみたいなら......

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新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大防止による緊急事態宣言を受け、渋谷と吉祥寺の都内2カ所と、京都にも映画館オープンさせる映画会社「アップリンク」は、オンライン映画館アップリンク・クラウド(UPLINK Cloud)にて、配給作品60本以上が見放題となるサービス(3カ月2,980円)を開始した。 ここでは、配信作品から10本をセレクトし、前編と後編に分けて紹介する。今もなお外出自粛の状況が続く中、自宅をはじめとした環境での鑑賞の一助となるだけでなく、街の映画館を失わないための一支援として、過去の作品を観ることで生まれる映画の「(再)発見の場」となれば幸いだ。

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ロンドンを拠点に、学生でありながら映像作家として活躍する「UMMMI.」こと石原海。彼女にとって初の長編映画『ガーデンアパート』が、テアトル新宿を皮切りに、2019年6月7日(金)から全国で順次公開中だ。同作は短編作品『忘却の先駆者』とともに『ロッテルダム国際映画祭 2019』のBright Future部門に選出されたことも記憶に新しい。 東京の夜をさまよう、居場所のない若者、そして女たち。本作は、一晩で繰り広げられる愛と狂気の物語だ。15歳で映像作品を撮り始めたという若手アーティストに本作への思いを聞いてみた。

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クラブイベントには珍しく、参加者の多くが女性というパーティーが渋谷の青山蜂で開催され、話題を集めている。2019年9月13日(金)に4回目の開催を迎える『Wife/WAIFU(ワイフ)』は、「ジェンダー、セクシュアリティ、人種、年齢などにかかわらず、オープンで他者と寄り添う気持ちのあるさまざまな人が安心して楽しめるセーファースペースを、参加者とともに作り上げていくこと」をテーマに据え、トランスジェンダー女性を含めた女性を軽視するような行為、および人種差別的な行動には即刻退場を求めるポリシーを掲げている。 社会のさまざまなところでジェンダーバランスの不均衡が問題視される昨今、音楽シーンもまた例外ではいられない。大規模の音楽フェスティバルでも男性の出演者が圧倒的に多いなかで、このパーティーのオーガナイザー5人全員が女性であることは大きな特徴だ。今回タイムアウト東京では、社会の現状に対するカウンターとして自分たちの居場所を作り出したオーガナイザーたち、美術家で海外展示のため不在のミドリ(Midori Morita)を除く、ローレン(Lauren Rose Kocher)、エリン(Elin McCready)、アサミ(Maiko Asami)、リサ(Lisa Tani)に話を聞いた。

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『The 100 best teen movies of all time』と題して、タイムアウトニューヨークで100本の映画が紹介された。タイムアウト東京ではその中から50本を選び紹介する。ここで選ばれているのは、青春映画の定番と言える作品から、近年公開された作品まで。どんな青春を過ごしたかは人それぞれだが、この特集で選ばれた映画のように、良くも悪くも忘れられない時代を過ごしたのではないだろうか。昔を振り返って懐かしさに浸ってみては。

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この世界的危機のなか、数々の魅力的な映画祭が開催中止を余儀なくされている。しかし各映画祭は柔軟に対応し、オンライン配信するイベントも多い。ここでは、そんな自宅で楽しめるオンライン映画祭を紹介する。配信作品を観ることで映画館を支援できるオンラインシアターなども記載した。NetflixやAmazonプライムももちろんいいがこの機会に、よりディープに映画を楽しんでほしい。

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