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5月11日まで、テート美術館の所蔵作品を中心に約100点の作品が集結

1990年代のイギリスで台頭した「ヤング・ブリテッシュ・アーティスト」(以下、YBA)を改めて紹介する展覧会「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」が、2026年5月11日(月)まで「国立新美術館」で開催されている。同展は「テート美術館」の所蔵作品を中心に、約60組の作家による約100点の作品を通して、1990年代英国美術の革新的な創作の軌跡を検証するものだ。
アートを学んだ者にとって、YBAは避けては通れない存在だ。あえてタブーを侵し、鋭い皮肉を込めた彼らのアイデアは、停滞した日常に風穴を開けるような爽快感に満ちている。
しかし、同展の見どころは、単なるYBAの作品紹介だけでは終わらない点にある。当時、多くのYBAたちに「クール・ブリタニア」というラベルが貼られたことで、見えにくくなっていた同時代の野心的なアーティストたちの作品も等しく紹介されている。実は多層的な当時のアートシーンを、改めてフラットに見直せるという点で、同展はとても意義深いものといえるだろう。
まず来場者を出迎えるのは、フランシス・ベーコン(Francis Bacon)の『1944年のトリプティク(三幅対)の第2ヴァージョン』だ。ベーコンにとって最高傑作の一つであるこの大作は、その巨大なサイズ以上に画面の圧倒的なインパクトに驚かされる。
YBAとは世代が異なるベーコンの絵画が同展の起点として選ばれたのには、理由がある。この作品が描かれた1988年は、冷戦終結を目前に人間の暗部を描き続けたベーコンが円熟期を迎えていた時期と、保守的なアートシーンの枠組みを壊した伝説の「フリーズ」展の開催が重なった年でもあるのだ。
ベーコンからバトンを受け取ったのは、フリーズ展の仕掛け人、ダミアン・ハースト(Damien Hirst)による、無機質なオフィス空間をガラスケースに閉じ込めた『後天的な回避不能』。そして、ギルバート&ジョージ(Gilbert & George)による幅6メートルを超える作品『裸の目』といった、YBAを語る上で欠かせないアーティストたちによるビッグスケールの作品が続く。
先へ進むと、さまざまな手法で当時の英国を象徴する作品が現れる。ロンドン大学のゴールドスミス・カレッジで同時期を過ごしたヘンリー・ボンド(Henry Bond)とリアム・ギリック(Liam Gillick)による、ドキュメンタリー的アプローチで制作された作品もその一つ。彼らは、偽のプレス証でさまざまな記者会見場に潜入し、社会が動く瞬間を自らの手で記録した。
クリス・オフィリ(Chris Ofili)の『ユニオン・ブラック』も必見だ。オフィリといえば、ラメやグリッターを多用した装飾的な絵画を、馬ふんの台座の上に置くという破天荒なスタイルでよく知られるアーティスト。同展では、ブラックカルチャーを象徴する緑・赤・黒で作り変えたユニオンジャックの旗を発表している。
不況や移民問題といった社会を映し出す作品群を抜けると、展示は一気に個人的な物語を表現する作家たちへと移り変わる。そのことを象徴するのが、ネオン管や刺しゅうで心の内をさらけ出してきたトレイシー・エミン(Tracey Emin)の映像作品『なぜ私はダンサーにならなかったのか』である。
映像では、彼女が自身のプライベートな体験を語った後、ダンスミュージックとともに満面の笑みで踊る。その自由でチャーミングな姿に、いつの間にか彼女の物語を自分自身の体験であるかのように錯覚し、深いシンパシーを抱かされるはずだ。
当時の若きアーティストが放つスター性は、アートの枠組みを超え、ファッションや音楽といったカルチャーとも共鳴していた。会場では、ヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)が「i-D」マガジンで活躍していた時代の写真や雑誌資料も展示されている。中には、親しい友人であるアーティストのアレクサンドラ・ビルケン(Alexandra Bircken)らを捉えた写真もあり、彼らが共有していた繊細な感覚がダイレクトに伝わる。
展示の終盤には、資金難という状況さえも味方につけた、日用品から着想を得た作品群が展示されている。エリザベス・ライト(Elizabeth Wright)は、当時の恋人の自転車を実物とそっくりに1.35倍に拡大した『B.S.A.社製のレーサータイプ自転車「ツアー・オブ・ブリテン」を135%のサイズに拡大したもの』が放つ違和感は、鑑賞者の不安をかきたてる。
また、2025年末に急逝したシール・フロイヤー(Ceal Floyer)の『モノクロームのレシート(白)』も見逃せない。白い商品だけを購入したレシートが壁に貼られているだけの極めてミニマルな作品だが、彼女は壮大で重厚なミニマリスト的オブジェでは捉えきれない現代生活のリアルを、あえてレシートに託した。サイズは小さくとも、鑑賞者の想像力を無限に広げることに成功しているのだ。
巨大なベーコンの絵画で幕を開けた同展。しかし、どの作品もベーコンに劣らない強烈なインパクトを持つ。
同展を担当したテート美術館のキュレーターは「本展はもともと海外での巡回展のために、幅広いアーティストを選定しキュレーションしたものでした。しかし、その内容が素晴らしいものだったため、2026年末にはロンドンのテート美術館本国でも開催されることが急きょ決定されたのです」と語った。
想像力一つで世界を拡張してみせた英国アーティストたち。90年代という時代がいかに切実で、そしていかに自由だったかを、その目で確かめてほしい。
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