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現代美術館ならではの建築展、藤本壮介の大規模展が「森美術館」で開幕

11月9日まで、大阪・関西万博の『大屋根リング』の大型部分模型も登場

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Chikaru Yoshioka
藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshima | 冒頭の「思考の森」の展示風景
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東京とパリ、深圳に設計事務所を構え、個人住宅から大学、商業施設、ホテル、複合施設まで世界各地でプロジェクトを展開している建築家の藤本壮介。「2025年大阪・関西万博」(以下、大阪・関西万博)では会場デザインプロデューサーを担当し、今最も注目される日本の建築家の一人だ。大阪・関西万博の開催時期に合わせ、六本木の「森美術館」では、藤本の初の大規模展である「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が、2025年7月2日〜11月9日(日)に開催される。

模型や設計図面、記録写真に加え、インスタレーションや空間を体験する大型模型、建築を擬人化したぬいぐるみなども登場する本展では、分かりやすくダイナミックに藤本建築の魅力を伝え、その本質を視覚的・聴覚的に体感できる。従来の建築展の在り方を刷新し、現代美術館での建築展の可能性を探究した展覧会だ。

30年にわたるプロジェクトを広大な空間「思考の森」で紹介

コンセプトは、藤本の故郷である北海道・東神楽町の雑木林からインスピレーションを受けた「森」。森は藤本の原風景であり、東京のような巨大都市の入り組んだ路地や雑多なものが併存するありようも「乱雑さの中にゆるやかな秩序がある」と、森の要素を見いだしている。

多様性を受け止める森は、藤本の創造における源であり、現在までさまざまな形で具現化されてきた。

藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshima展示会場の藤本壮介

会場は8つのセクションで構成。冒頭は大型インスタレーション「思考の森」へと分け入る。1990年の初期から現在までの100を超えるプロジェクトやアイデアの断片が集合し、年代順に配置されている。

藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshima冒頭の大型インスタレーション「思考の森」

精神科医の父親の病院である最初期の仕事「聖台病院」では、管理する側と管理される側のヒエラルキーの分離を、その後の「情緒障害児短期治療施設」でも、人とつながりながらも、一人一人が隠れられるちょっとしたスペースが設けられている。

藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshima「思考の森」の展示風景

シンプルでありながら複雑さの共鳴といった相対する概念の共存や、さまざまな文化的バックグラウンドや個性が響き合っていることが、藤本建築に初期から通底していることが感じられるだろう。

余白を感じられる場「あわいの図書室」

ブックラウンジ「あわいの図書室」では、藤本建築に着想を得たテーマに基づき、自然と都市を考える書籍や、『風の谷のナウシカ』といった漫画や絵本などが1冊ずつ椅子に設置されている。

藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshima「あわいの図書室」

真っ白な空間で、本を読みながら一息ついても、東京の街並みを眺めてもよい。安心感と開放感があり、余白を感じられる場となっている。

藤本建築がぬいぐるみとして擬人化

「ぬいぐるみたちの森のざわめき」では、樹木から葉が広がるようにバルコニーが多数配置さたモンペリエの集合住宅『ラルブル・ブラン』や、屋根の無数の穴から自然光が降り注ぎ、森と人と音楽が一体となった風景が生まれる『ハンガリー 音楽の家』といった代表的な藤本建築が、ぬいぐるみとして出現。動くぬいぐるみたちがグループに分かれ、それぞれ雑談や自分たちの建物の特徴について会話を繰り広げる。

藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshimaぬいぐるみとして擬人化した藤本建築

輪の中の椅子に座って会話を聞きながら、楽しく藤本建築について学べるのだ。

大阪・関西万博の象徴ともいえる『大屋根リング』も

大阪・関西万博の『大屋根リング』のプロジェクトも、高さ4メートル超の部分模型や構想段階のスケッチ、記録写真、200分の1の模型などを通して、さまざまな角度から紹介している。

藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshima『大屋根リング』のプロジェクトはさまざまな角度から紹介
藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshima『大屋根リング』の部分模型

インタビュー映像では、世界中の人が輪の中に入ってともに過ごす場として造られた、藤本の同プロジェクトに対する思いや力強いメッセージを知ることができる。

最新プロジェクトの巨大模型や未来の都市像を提案

2031年に完成予定の、宮城県・仙台市のコンサートホール兼震災メモリアル『仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設』の15分の1の大型模型なども登場。廊下を通ると、ホールの中に入ったような体験が味わえる。

藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshima『仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設』の15分の1の大型模型

また、データサイエンティストの宮田裕章とコラボレーションし、隣接する球体を組み合わせた、人工500万人を収容する「未来の近代都市」を映像と模型で表現。未来都市の映像では、個々人を運ぶパーソナルドローンで空での斜め移動を可能にし、人々が複層的に関係を構築する新たなコミュニティーが形成される。藤本の建築・都市・社会への提案に、未来への想像力が膨らんでいくだろう。

藤本壮介の建築:原初・未来・森
Photo: Kisa Toyoshima「未来の近代都市」を映像と模型で表現

過去・現在・未来と、藤本建築のエッセンスを身体感覚を通じてたどることのできる本展。ぜひ足を運んでほしい。

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