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4月29日〜9月23日、日本初公開作品は6点

人間と見紛うほどのハイパーリアリスティックな彫刻作品で知られるロン・ミュエク(Ron Mueck)。2008年の「金沢21世紀美術館」での個展以来、国内では18年ぶり2度目となる待望の大規模展覧会が、六本木の「森美術館」で行われる。同展は、2023年にパリの「カルティエ現代美術財団」で開催され大きな話題を呼び、ミラノ・ソウルへの巡回を経て、いよいよ東京での開催とのことで、話題を呼んでいる。
ミュエクの作品は、見上げるほど大きなものから、1メートルに満たない小さなものまで、そのサイズ感で知覚の先入観を揺さぶってきた。体温までも感じさせるほどのリアリティーで見る人を引きつける一方で、その表情やシチュエーションには曖昧さが漂い、鑑賞者の想像力を刺激している。
1958年にメルボルンで生まれたミュエクのキャリアは、人形制作やパペットを手がける家業の手伝いから始まった。彼を取り巻く環境が、後のキャリアに大きな影響を与えたのは言うまでもないだろう。
その後、渡米。「セサミストリート」の操り人形師として有名なジム・ヘンソン(Jim Henson)の下で働き、長年培ってきた職人技と人物造形の基礎を発揮する。転機が訪れたのは38歳の頃。亡くなった父親を約1メートルのスケールで再現した作品が大きな話題を呼んで以来、ミュエクは現代美術家の第一線を走り続けている。
一つの作品に何年もの歳月をかけて制作するミュエクが、アーティストとして活動を開始してから約30年の間に生み出した作品の数は、わずか49点。同展では、そのうち11点が集まり、そのうち『エンジェル』『チキン/マン』『ダーク・プレイス』『マス』『買い物中の女』『枝を持つ女』の6点が日本初公開となる。これほど多くの初公開作品を一度に目にできる機会は、極めて貴重だ。
ここでは、展示されている作品の中からミュエクの作品に特有の物語性が際立つ作品を紹介する。
『枝を持つ女』は、腕いっぱいの枝を必死に抱える裸婦の姿を表現した作品。まるで古くからの民話や寓話(ぐうわ)の一場面を切り取ったかのような設定でありながら、肝心なストーリーが何かは一切語られない。皮膚の奥で血管が膨張している様子までも感じられる徹底的な写実性と、あいまいさを残す設定のコントラストが、鑑賞者の想像力をかき立てるミュエクの真骨頂ともいえる作品である。
『船の中の男』もまた、明快なシチュエーションが設定されながらも、その結末を鑑賞者に委ねている点で共通している。オールを持たず、漂流される小舟に乗る男性のきれいに整えられた髪形とは裏腹に、彼の未来や行き先は不透明さに包まれている。鑑賞者は、不安に駆られる男性を前にして、あらゆる物語の可能性だけを感じることしかできないのである。
そして、初期の代表作『エンジェル』。背中に大きな翼を持ち、スツールに腰掛けてうつむく中年男性の姿は、一般的な天使のイメージとは異なる。彼は、差し迫った使命はないという感じで、ただ物思いにふけっているのだ。
ミュエクが同作を作る際の着想源としたというイタリアの画家、ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ(Giovanni Battista Tiepolo)による絵画『ヴィーナスと時間の寓意』にも「時間」を表す翼を持つ年老いた男性が描かれており、人生の圧倒的な長さを、その疲弊した体と表情によって体現させている。
同展のハイライトは、100点もの巨大な頭蓋骨で構成されたインスタレーション『マス』。同作は、サイト・スペシフィックに各場所で展示の仕方を変えてきたが、今回は積み重なった巨岩のように無作為に配置されており、まるで自然の大きな営みの中に「死」が内包され、それが可視化されたような風景が広がっている。さらに、真っ白な骸骨が、光のコントラストすらも表現の一部とさせている様からは、圧倒的な「無」や「静寂」が感じられるだろう。
会場では、25年以上にわたってミュエクの制作現場を撮影してきたフランスの写真家・ゴーティエ・ドゥブロンド(Gautier Deblonde)が制作した写真のシリーズと、映像2点も公開。作品について多くを語らないミュエクの制作風景から、貴重な舞台裏を垣間見られる貴重な機会である。
赤ちゃんから老人まで、幅広い世代の人物をモチーフに、孤独や希望といった人間が抱える普遍的な感情を顕在化させる同展は、個人と他者の距離、そして人間の尊厳を問い直す。老若男女を問わず、誰しもが接点を持てる希少な展覧会といえるだろう。計11点という、決して多いとはいえない作品数だからこそ、画面越しでは味わえない迫力を、じっくりと会場で体感してほしい。
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