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量子コンピュータとアートの共演「量子芸術祭 Quantum Art Festival 4/4」が開催中

青山スパイラルで2月1日まで、デジタル遺言や茶の湯など

Karin Minamishima
テキスト
Karin Minamishima
Writer/Editor
量子芸術祭 Quantum Art Festival 4/4
Photo: Karin Minamishima | 苳英里香の舞踏
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今この瞬間も、世界中で研究開発が進められている量子コンピュータ。その可能性を探索する芸術祭量子芸術祭 Quantum Art Festival 4/4」が、青山のスパイラルガーデン2026年2月1日(日)まで開催される

同展は、これまで3回にわたって行われてきた同芸術祭の活動を締めくくるファイナル展示。過去の展覧会で発表された作品の一部をアップデートして再展示するほか、新作も加え、量子コンピュータをめぐる新たな視点を提示する。

テーマは「Rendez-vous Q(量子コンピュータとの出会い)」。会場は、「量子コンピュータとは何か?」「量子コンピュータがアーティストにもたらすものとは?」「ビジネスをどう変えるのか?」「研究者が惹かれる理由とは?」「私たちは何を期待するのか?」「そこに潜む課題とは?」という6つの問いをもとにしたセクションで構成されている。

展示される成果物は、インスタレーションやゲーム、アニメーション、雑誌、詩、LINEスタンプなど実に多彩。研究者、アーティスト、企業といった異なる立場の出展者たちが、それぞれの視点から出会いを立ち上げていく。

本記事では、いくつかの作品を紹介しながら、展覧会をレポートする。

祝祭の計算文化

量子芸術祭 Quantum Art Festival 4/4
Photo: Karin Minamishimaオルタナティヴ・コンピュテーションズーー祝祭の計算文化

江戸の数学者たちは問題を解き、その成果を神社仏閣に奉納したように、かつて数学は技術だけでなく遊びや神との関係性を内包する祝祭的な文化でもあった。近代化に伴い、西洋数学を教育制度に採用したことで数学は効率と正解を求める道具へと変わっていった。

青木竜太は計算を祝祭文化へと取り戻す装置として、インスタレーション「オルタナティヴ・コンピュテーションズ」を発表。東アジアの宇宙観で天球を意味する28本の算木が、雨音のサウンドに合わせて波動のようにゆらめく。その姿は、巨大な楽器のようにも見える。

算木の下では茶の湯で小宇宙を表す四畳半の畳が置かれ、苳英里香の舞踏や村松宗亮の茶会も行われる。

量子技術と供養

量子芸術祭 Quantum Art Festival 4/4
Photo: Karin Minamishima「デジタル遺言」と5つの「おりん」

藤原大率いるチームは「遺言を起動する量子仏壇は実現できるか?クォンタム・ウィル・アルター」を発表。 量子暗号でデジタル遺言を数百年守る未来のサービスを提示する。暗号をパスワードではなく、音の現象と結びつけている点が特徴。5つ並んだおりんを、5人の相続人が同時に鳴らすと音のうねりが生まれ、遺言が開かれる。

また、伝統工芸とデジタル技術を融合した「デジタル仏壇」を通じて、新しい供養のかたちを提示する。

発見と報道の主体

量子芸術祭 Quantum Art Festival 4/4
Photo: Karin MinamishimaAIによって生成された写真や文章で構成された雑誌「BASH」

森旭彦は「アーティフィシャル・アドバイザリー」で『BASH』というテクノロジー雑誌を発表。掲載される写真と文章は学術論文や小説を学習したAIによって生成され、人間による編集はほとんどされていないという。

AIが大きく関与し始めている今日の情報学環をクリティカルな視線でまなざし、科学と報道の主体性は誰にあるのかという疑問を私たちに投げかけている。

私たちはコンピュータに何を期待するのか

量子芸術祭 Quantum Art Festival 4/4
Photo: Karin Minamishima両詩――ふたつの社会を生きる

芸術祭では展覧会の締めくくりとして、「両詩――ふたつの社会を生きる」を展示。生成AIによる詩と人間の作者による詩が、どちらが書いたものか分からないように並べられ、鑑賞者に静かな問いを投げかける構成だ。三浦武明・竹倉史人・水口哲也・長谷川愛・森岡督行の5人が詩を執筆。AIと競い合いながら並走するように言葉を紡いでいる。

社会は、「速い計算」をはじめとした限定的な機能を量子コンピュータに期待しがちだ。しかしここでは、コンピュータを単なる計算装置としてではなく、人間の認識や創造性そのものを揺さぶり、変容させる触媒として捉える視点が提示される。

測り方で世界は変わる

量子芸術祭 Quantum Art Festival 4/4
Photo: Karin Minamishima「波紋リバーシ」。量子の世界における「観測されるまで状態が決まらない」という特徴と「粒子と波の二重性」をゲームとして体験できる

同芸術祭の総合監督・藤原大は、「この仕事は、問う仕事だ」と語る。量子論には、測定の仕方によって結果が変わるという自然の性質があり、世界は確率によって立ち現れる。だからこそ、問いが変われば、私たちが見ている世界の像もまた変わっていく。

アートには、まだ言葉にならない問いを、観る者自身が感じ、確かめる力がある。藤原が語るのは、まさにその点において、アートと量子論が深く結びついているということだ。

科学が客観的なデータを明らかにし、アートが主観を揺さぶり、問い直す。その往復運動こそが、私たちの認識を更新し、よりよい社会への可能性を静かに、しかし確かに広げていくのだろう。

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