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「キミは松田光市を知っているか!!?」 「なに、知らない!? 貴様は一生THE TUBEしか音楽を聴けない刑じゃあ~~~!!!」などといきなり大上段な物言いから始めてみたが、彼の存在を知ったのは2025年8月アタマのことである。つい最近知ったクセに偉そうな感じ出すのマジ良くないよ! ともあれ、まずは公式プロフィールをチェックしていこう。
松田は1994年、岩手県盛岡市生まれ。上京後は美学校に入学した。「特殊漫画家前衛の道」を受講、根本敬に師事する。在学中に青林工藝舎主催 「第22回アックス漫画新人賞」を受賞。以降、同誌で漫画の連載をスタートした。個性的な線描と色使いで「ガロ」の系譜を引き継ぐ注目の若手作家だ。
経歴からしてただ者ではないが、実際に会った彼はまさしく「何か得体の知れない」人物だった。早口でぼやくように語り、自分の話をすることにとても慎重。なのに、チャーミングで実直でもある。そしてその目は澄んでいる。本当にヤバい人はだいたい、澄み切った目をしているのだ。

彼の作風は、かつての所謂「アングラ」そして「サブカル」に対する憧憬(しょうけい)から生まれていると感じる。そして、今日かろうじて残る一本道を実直に、一歩一歩足を進めているのが松田光市であろう。
それはあまりにも現代の世相からずれていて、でもその外れっぷりを恐らく彼は鼻にかけていないと思う。実に謙虚な、正体の知れない人である。ていうか、すげえいい人。そんな松田の個展『夏が来るたび想い出す』が、田端の「WISH LESS/ウィッシュ レス」ギャラリーで9月14日(日)まで開催中。われわれ取材班は、会場でインタビューを行った。

ー経歴からして謎めいていますね。岩手から上京して美学校に入り、根本敬の講義を受けたりしたとありますが、その時は将来的なビジョンがあったんですか?
松田:いや、全然そんな感じじゃなくて。大学を出て、若気の至りで東京に来たものの何もせずダラダラ過ごしていることに漠然と危機感を感じたわけですが。ふとSNSを見たら「生徒募集」のポストが目に入って、気がつくと美学校に足が向いてました。
ー元々根本さんのファンだったんですか?
松田:そこまで存じ上げてなかったっていうのが正直なところです。今思うと、何で僕はあそこに行ったんでしょうね......。
ーその頃はおいくつでしたか。
松田:2019年に入ったんで、24か5ぐらいですね。
ー美学校はどんな感じだったんですか?
松田:行けば分かると思いますが、あそこだけ創立当初(1970年)から時間が止まっているような校舎で。当時、根本先生の授業は隔週月曜日にありました。年々、伊藤桂司さんやスージー甘金さん、小田島等さんなど、「受けてみたいな」と思う講座が増えています。
ー授業はどんな内容だったんですか?
松田:すごく言語化が難しいんですが、僕自身は映像や音楽、根本さんの解説含め、そこからどう影響を受けるのか・考えるか、ということだと思います。こう言うとすごく難しい授業なのかという印象を受けると思うのですが、すごく楽しいんですよ。実際自分は3年いたわけですから。
ー根本さんとはいわゆる師弟関係という感じですか?
松田:そう捉える人は多いんですかね。でも「弟子」っていうのはちょっと違うと思います。もし僕が「弟子」っていうと美学校の根本クラスの受講生は皆そうだと思いますから、少なくとも自分はそういう言い方はしないということです。

ー漫画家としてデビューされたのちに、絵画作品も手がけるようになったんですね。
松田:「ビリケンギャラリー」で年に1、2回ぐらい『アックス』の作家さんの展示があって、それが最初でした。
アックス執筆陣は、根本さん、蛭子さん然り、漫画やアート以外の分野でも活躍される方は多いので自然にそういうものだと思っていたんです。で、作品をSNSに上げていたのですが、漫画より絵の仕事の方が早く仕事が来ましたね。
ー描き始めた頃から現在の作風は定まっていましたか?
松田:あ~~~どうですかね。これは2年ぐらい前に出たやつなんですが……。(と言いながら、会場で販売している画集『桃色旬報』を見せてくれる)

ーあー、カッコイイ。今回の展示作品とはまた違って、この頃は佐伯俊男さんのテイストもちょっと感じますね。
松田:まぁ、いろいろって感じですよね。
ー松田さんの作品は、横尾さんや蛭子さんの影響を感じますが、そのあたりは個人的にどうですか?
松田:高校の頃に図書館で横尾さんの絵を見てすごいなって思ったり、大学の頃に復刊された蛭子さんの漫画を読んで面白いなって感じたり、そういうのが徐々に蓄積されてったって感じでしょうか。
ー今回の展示は基本的に書き下ろしですか?
松田:そうですね。展示内容にマッチするもので過去作を1点だけ、あとは全部新作ですね。漫画もやりつつ、半年ぐらいで制作しました。
ー半年! この謎めいた世界観は、どういった視点や発想から生み出されているんですか?
松田:あー、なんですかね…………(しばらく無言)生活感のある絵が好きなんですよ。そこが古臭い感じにつながってるのかもしんないですけど。あと、空白恐怖症、なんですかね、そこに背景がないと描き足りないような気がしちゃうんですよね。
ー1994年生まれとお若いにも関わらず、昭和的なモチーフに多く取り組んでおられますが、何か思い入れとかあるんですか?
松田:子どもの頃はまだいろいろなモノが現役でしたから、レトロみたいな意識はないんです。
「昭和感」と言う、ある意味雑なくくり方をされざるおえないー面があることは自覚しています。ただ、自分としては生活感のある作品を作りたいんです。漫画を描いていることもあって、そういうことを意識してしまうのかもしれません。実社会の流れやトレンドは別にして、作品の中の人々の生活の中では黒電話や花柄の衣類等も必要不可欠なものなんです。


ーどのようなスタイルで制作していますか?
松田:アクリルで描いて、最後にニスを塗ってます。発色が良くなるので。カラートーンっていう、漫画家が使う色付きのスクリーントーンがあったんですが、とうの昔に廃盤になってしまったので永遠に憧れの道具です。パキッとした発色にはすごくこだわってますね。
ーこうして実物を見ると質感がめっちゃ面白いですね。インスタとかじゃこの感じわかんないですね。
松田:ちゃんと来てよかったな、実物見てよかったなって思えるようなものを考えてました。ツヤ感とか。あと金や銀など、ギラっとした色を今回は多く使ってます。夏だし。
ー夏だし。
松田:ギラッとしたものを入れて、ウワッてなったらいいなっていうか。

ーいやぁ、たくさんの人に観てほしいですねえ。
松田:漫画ファンは来てくれるんですけど、アートのファンはなかなか来てくれないんですよ。これが結構ムズカシイ。
ー松田さんはどちらが本業という意識はない?
松田:最初に間口を広げてくれたのは漫画なんで、漫画家って肩書にはしています。でも、来た仕事は拒まずっていう感じでやってますね。絵は日本より海外の方が結構気に入ってくれて、EDWIN Europeとコラボしたりしました。漫画家のはずなんですが、海外から絵の仕事が来るパターンが多いかな。

ー今後の野望はありますか。
松田:野望ですか......。基本は「凌ぐ」ということしか考えていないのですが、移り変わりの激しい時代なので。
しいて言うなら野望っていうとアレですけど、漫画家の展示となると、原画だったり、コンパクトな作品が多くなりがちなのかなと思うので、そこはいい意味で見るものの期待を裏切る展示をして行かないといけないなとは思いますね。サイズのあるもの、かさばるもの、もっとモノとして大きくしていきたいです。

ー絵や漫画以外で好きなカルチャーってありますか?
松田:……………(しばし無言)………なんですかねえ……うーん…………(さらに無言)………うーん……映画だったら、金綺泳(Kim Ki-young)って監督の作品が好きですかねえ……。
ーチェックしてみます! 今回の会場「WISH LESS」で展示をやるのは初めてですか?
松田:はい。国内外の好きな作家だったり(本当にグッと来る人選)知り合いの方々が何人も展示されているので、良いギャラリーだなと率直に思っていました。実は昨年もお声がけいただいてたのですが、単行本(『運命』青林工藝舎刊)の執筆や諸々手が回らなくて、お断りさせていただいたんです。なのでお互い満を持しててというか、「ようやく」といったところです。
ギャラリーを運営されているお2人(RobさんとYokoさん)も作家活動をされているので、そこも信頼できるなと、今日(取材日)の設営も大変お世話になりました。
ー展示のタイトル『夏が来るたび想い出す』は何とも意味深ですが、どんな気持ちが込められているんですか?
松田:これは、野坂昭如の曲「サメに喰われた娘」の歌詞から引用してますが、いろんな方がカバーしている曲で、竹越ひろ子のカヴァー曲の方が今回の展示に合うような気がします。是非御一聴を。
ー期間中は在廊されるんですか。
松田:あーもう毎日。ぜひいらっしゃってください。あ、これ良かったら、ぜひ。(といって、画集をわれわれ取材班に1冊ずつくれる)
ーうわっ、いいんですか! ありがとうございます!! それでは最後に展示の意気込みをお聞かせください!!!
松田:来たら分かるというか。「今」来てほしい。これが率直なところですよ。アートが好きな方々、キュレーター様。皆々様連日暑い日が続きますが、是非お越しください。という一言を締めの言葉にさせていただきましょうか。
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