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映画界の巨匠、ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard、1930〜2022年)。近年、4K版としてのリバイバル上映企画が人気であり、2025年9月にはゴダールがその死の前日に完成させたという遺作『シナリオ』も上映予定だ。歌舞伎町の「王城ビル」では、ゴダールの映像表現の革新性をひもとく日本初の展覧会「感情、表徴、情念 ゴダールの『イメージの本』について」が、8月31日(日)まで開催されている。
ゴダール最後の長編作品であり、「カンヌ映画祭」で同映画祭で史上初の「スペシャル・パルムドール」を受賞した『イメージの本』を、映像インスタレーションとして再構成している本展。映画上映の時系列的な制約を打ち破り、視覚・空間的にゴダールの世界を体感できる。
ゴダール最後の長編作品『イメージの本』
制作に約4年を費やした『イメージの本』は、歴史・戦争・宗教・芸術などの変遷を、さまざまな映画や文学、美術作品の引用でコラージュし、振り返る映画作品。本作を解体して再構築した展示では、映像や音の断片を通じ、映画制作時の考え方や映画を探究している状態、編集前のプロセスといったゴダールの思考を漂い、彼の眼で世界を見つめる観察者となっていく。

キュレーターは、2010年の映画『ゴダール・ソシアリスム』から撮影・音響・編集を手がけ、晩年のゴダールの右腕であったスイスの映画作家、ファブリス・アラーニョ(Fabrice Aragno)。これまでドイツ、スイスなどで会場の特徴を生かした展示が行われてきたが、建物4階にわたる本展は最大級の規模だ。

インスタレーションでも展示会でもない「生きた上映」
会場は、布とモニター合わせた50個以上のスクリーンを用い、多元的な空間が広がる。揺れる布と布の間を回遊し、映像と音の森へとわけ入ると、体感的にそして直感的に作品が感じ取れるだろう。ゴダール自身、この最初のバージョンの展示を「インスタレーションでも展示会でもない、生きた上映だ」と表現した。

戦争をテーマにした2階では、床に置かれたテレビが「墓」をイメージし、戦争に関する映像が流れる。また、「幸福のアラビア」をテーマにした4階では、書物が置かれたじゅうたんが幾重にも敷かれ、幻想的な雰囲気が広がっている。


各階には、『イメージの本』で引用された映画や文学作品、絵画などに関連する書籍が点在。その横には雰囲気のあるソファが配されており、想像にふけりたくなる。
ユニークで歴史的な建物「王城ビル」との化学反応
1960年代、東京のユースカルチャーの中心地であった新宿は、アングラ演劇や前衛芸術、フリージャズといったカッティングエッジなカルチャーが集まる街であった。

1964年開業の「王城ビル」は、喫茶店やキャバレー、カラオケといった時代に合った事業形態でカルチャーや発想を生み出してきた、歌舞伎町の象徴で歴史的な建物。レトロで廃虚のような雰囲気を持つこの独特の空間は、本展に別の次元を浮遊するような感覚をプラスする。


映画のセットのような塔の階段や、作品の一部として捉えられた壁は、映画の中へとトリップしたような気分になり、作品との化学反応を促進している。なお、初代オーナーが1960年代にオープンさせた喫茶店「王城」も、期間限定で復活する予定だ。
新しい形で映画とアートの鑑賞体験を提供し、ゴダールが残した普遍的なテーマを伝え、彼の芸術性を極限にまで拡大させた本展。往年の映画ファンはもちろん、ゴダールを知らない若い世代も足を運んでほしい。
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