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2025年5月10日、11日に開催された「東京インターナショナルバーショー2025」は、2日間で1万4100人超の来場者を集め、日本の酒の祭典として今回も随一の熱量をもたらした。会場となって久しい水道橋の東京ドームシティ・プリズムホールは、開場と同時にウイスキーやジン、そして世界中の銘酒を求める人々の熱気に包まれたほど。
海外からの著名なバーテンダーや蒸溜所のマスターディスティラーも多数登場、日本のバーカルチャーが世界から注目されるハブとなっていることを改めて証明した形だ。
今年のテーマは「The Historical Journey(歴史の旅)」。このテーマの通り、カクテルの歴史家として世界的に名高いデイヴィッド・ワンドリッチが来日し、2日間にわたり登壇。その深い知識を惜しみなく披露した。ただ新しい酒に出会うだけでなく、その一杯が持つ「時間」や「物語」に触れることができた。

彼のセミナーに耳を傾けていると、今、目の前にある一杯のカクテルが、何十年、何百年という先人たちの情熱と知恵の結晶なのだと実感できる。温故知新、過去を知ることで未来はもっと興味深さを湛える。そんな知的な興奮を、会場の各所で堪能することができた。
歴史への敬意と未来への創造、百花繚乱のカクテルたち

長蛇の列が目立ったのは、クローズド空間で日本の四季の旅を提供したサントリー・ブース。そのエントランスでは、創業者・鳥井信治郎をAIにより現代に蘇らせ、ウェルカム・トークでゲストを迎えるという凝った演出も。ロの字型のバーカウンターが迎える別世界では、ニューヨークを拠点にその名を世界に知らしめ、現在はSG Groupを率いる後閑信吾など精鋭バーテンダーたちが、春の桜、夏の涼、秋の実り、冬の静寂を表現したアートのようなカクテルを振る舞った。
世界で大人気を誇る同社のウイスキーをあえて封印し、カクテルにフォーカスする。その大胆な選択が、一杯一杯の価値を最大限に高めていた。まさにバーショーだからこそ出会える、至高のカクテル体験だ。

ニッカウヰスキーは「ニッカ フロンティア」という新しい世界の扉を提案し、バーテンダーたちが紡ぐ新しい物語に、世界中からのゲストが目を輝かせていた。バカルディもクローズドブースにおいて、スペイン語で「頂」の意味を冠した最高級テキーラ「パトロン エル・アルト」を提供。日本ではいまだにショットで一気飲みのイメージが根強いテキーラをフルートグラスで供し、テキーラを真摯に味わうという方向性の完全定着を狙う。
また、来場者たちはKOVAL、イチローズモルトや厚岸蒸溜所の貴重な一杯を求めて列に並び、手にしたグラスを仲間と掲げる。その瞬間、会場は単なる見本市ではなく、同じお酒を愛する人々が集う、巨大で温かいコミュニティそのものになった。

恒例となった、麗しきバーテンダーたちの饗宴である華麗な競技会「なでしこカップ」は今回で第10回を迎え、同日開催となった神田祭の装いで登場した東京・Bar Sekireiの環まよいが見事栄冠に輝いた。祭姿で彼女がシェイカーを振る姿は、日本のバーカルチャーが多様性に富んでいることを示唆していただろう。
近年のショーで象徴的なのは、それまでは目玉とされていた記念ボトルが「販売」ではなく、会場でしか味わえない「試飲体験」に特化してきた点だ。これは、単なる転売対策だけに終わらない。モノを所有する物欲的な喜びから、その場でしか味わえない一杯を、その場の空気と共に分かち合う「瞬間の喜び」へ。バーショーは我々に価値観の転換をも教えてくれる。
最高の祝祭を、最高の舞台へ - 東京ドームという選択肢はいかがか

しかし、この熱狂の渦に身を置いたゲストであれば、そして関係者の誰もが同じ一つの課題を感じるだろう。それは、会場の「狭さ」だ。そもそも限定ウイスキーボトルの販売など、客寄せは廃止したにもかかわらず、ホール入場までに1時間待ちの行列ができ、会場の通路は満員電車さながらの混雑で身動きもままならない。これは日本の誇るべきバーカルチャーが、そのポテンシャルを最大限に発揮できずにいる「機会損失」でもある。
東京インターナショナルバーショーの開催は、六本木の東京ミッドタウンで初開催となった2012年に遡る。第2回である13年の渋谷開催後、14年からはコロナ禍を挟みつつ現在のプリズムホールにたどり着いた。だが、そろそろこの「揺りかご」を抜け出す時期がやってきたのではないだろうか。
日本のバーシーンの未来を描くため、ぜひ東京ドームでの開催も視野に入れてもらいたいものだ。突拍子もない夢物語だろうか? いや、これは単なる規模の拡大ではなく、日本が誇るべきバーカルチャーの祝祭を、世界最高のイベントへと飛躍させるための一つの選択肢だ。
カクテルの歴史への敬意を胸に、未来への期待を込め、「次なる乾杯は、ぜひ東京ドームで」としたい。
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