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ニューヨークを拠点に活動するパフォーマンスアーティスト・笹本晃(ささもと・あき)の展覧会「笹本晃 ラボラトリー」が「東京都現代美術館」で開催中。大学の卒業制作から新作まで、1980年生まれの笹本が約20年間にわたり制作の過程を通じて深めてきた思考に触れられる貴重な機会とあって、注目を集めている。


10代で単身渡英し、その後はアメリカで活動している笹本について、日本では広く知られているとはいえないかもしれない。しかし、2016年にはニューヨークの「スカルプチャーセンター(SculptureCenter)」で、2023〜2024年には「クイーンズ美術館(Queens Museum)」で個展を開催するなど、着実に実績を重ねてきた。


現在はイェール大学芸術大学院彫刻専攻で教壇に立つなど、国際的な評価は既に確かなものとなっている。今回の展覧会は、約20年間の活動をまとめて紹介するミッドキャリア展として、満足度の高いものといえよう。

パフォーマンスを通してあらゆるものの意味を再検証
活動初期から彼女は、日常的な物事や拾い集めたものを比喩にして、人間の経験や感情の探究を常としてきた。卒業直後に発表された作品『cooking show』は、しばしば彼女のキャリアの出発点として見なされている。

同作では、日本刀ほどの長さにまで誇張した包丁でジャガイモをドラマチックに切る姿が記録されている。行為自体を意味から取り出し、拡大し、入れ替え、あるいは細部を協調することで本質を探り出そうとする関心が、この頃から既に明確に表れているのが分かるだろう。

システムや環境を行き交う人々への飽くなき好奇心は、2022年に制作された『Social Sink Microcosm』にも顕著だ。「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」 に出展された別バージョンとして発表した同作では、業務用シンクの上に設置されたアクリル板の上に、カタツムリの殻やキャップ、スポンジなどが置かれ、それらが下から噴き上げる風によってコロコロと回転している。

そんな様子を映した映像作品『Point Peflection (Video)』には、小さな羽が取り付けられたカタツムリの殻が登場し、ほかの殻が時計回りで回転する中で、羽付きの殻だけが反時計回りで動く。カオスな都市の縮図のような光景の中で、羽が付いた殻はまるで「変わり者」や「クィア」な存在の化身であるかのようにも見える。

笹本の作品の魅力は、制作時のコンディションや、まだ答えを持たない問題の核心を、作品を作ることでどうにか手繰り寄せようと試みる姿勢そのものが伝わってくる点にある。2015年に発表されたパフォーマンス映像『Movie: Wrong Happy Hour』では、当時彼女がテーマにしていた「ロマンス」を手がかりに物語が展開されていく。



まだ形を定めない物語が語られる中で、観客はそれぞれの物語を頭の中で描き出すことになる。その体験は、詩を読むように自由で、入り口も出口も定められていない。鑑賞後には、自分自身に響く何かに出合えるだろう。


本人によるパフォーマンスも
会期中には、笹本によるパフォーマンスも予定されている。笹本が「インスタレーションを楽譜に見立て、それを解釈する形で即興的に行っています」と語るように、パフォーマンスは彼女のコンディションにより都度変化する。今回の公演も見逃さないように、公式ウェブサイトでスケジュールを確認し、ぜひ足を運んでほしい。

会期は、2025年11月24日(月・振休)まで。映像作品が中心のため、じっくり鑑賞しようと思えば2時間ほどは必要になるだろう。時間に余裕を持って訪れることを強く勧める。
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