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地域の文化や歴史を生かしつつ、国内外のアートが一堂に集まる芸術祭。近年、日本各地で芸術祭が次々と開催され、2026年9月には群馬県前橋市で「前橋国際芸術祭」が初開催されるとあり、注目が集まっている。
「また芸術祭?」と感じる人もいるかもしれない。しかし、前橋で開かれる同芸術祭は、ほかとは一線を画すさまざまな特徴がある。
1990年代後半以降、前橋市の中心市街地は「シャッター商店街」の参考イメージとして教科書に取り上げられるほど衰退が進んでいた。そうした状況を打開するため、2016年には「めぶく。」をテーマに新たなまちづくりビジョンを策定し、都市の魅力を高める取り組みを続けてきた。
代表的な取り組みに、約300年の歴史を持つ廃旅館を再生した「白井屋ホテル」や、デパート別館をリノベーションした公立美術館「アーツ前橋」がある。日本を代表する現代アートギャラリーが入居する「まえばしガレリア」もその一つ。これらの現代建築とアートが融合した新たなスポットは、前橋を新たなアートディスティネーションとして決定づけた。

変化する街のダイナミズムを感じる
2026年は、まちづくりのビジョンの策定から10年目の節目に当たる。会場となる前橋市街地では、変化を続ける街のダイナミズムが体感できる工夫が随所に盛り込まれている点で興味深い。
市街地エリアでは、2030年を目標に建築家・藤本荘介と平田晃久による再開発が進められている。変化のただ中にある場所を舞台とする点は、従来の芸術祭にはない特徴だ。
また商店街では、音楽家の渋谷慶一郎によるサウンドインスタレーション『Abstract Music』を展開。音が1カ所から響くのではなく、空間を駆け巡ることで立体的にし、目に見える建築風景に加えて、音による再設計の可能性を問いかける。
「詩のまち」で語り出すプロジェクト

アートが街の風景に溶け込む試みも行われる。詩人・萩原朔太郎の生誕地である前橋は、自由な感覚を詩に持ち込み、近代詩の新たな地平を切り開いた萩原の精神を受け継ぐ土地でもある。
「からっ風」と呼ばれる強い北風が吹き抜けることで豊かな表現が育まれてきたといわれる前橋。市内では、詩人・小説家の最果タヒとグラフィックデザイナーの佐々木俊によるコラボレーション作品が街中に登場する。さらに、ダンサーで映画作家の吉開菜央は、市内に滞在しながらリサーチを行い、冬の風をテーマにした短編映画を撮り下ろした。
前橋土着のプレーヤーによるまちづくり

地元で活動する人々も、この芸術祭を中心となって盛り上げている。群馬県出身のアーティスト・尾花賢一は、芸術人類学者の石倉敏明とともに、作品を通じて足元に眠る歴史を掘り起こす。
また、前橋にゆかりのあるアーティストたちによって2021年から続く「River to River 川のほとりのアートフェス」にも注目したい。街の歴史や記憶を刻む建造物や、空き店舗を改修した6カ所のスペースを舞台に展示が行われる予定だ。
前橋で芽吹く新たな文化

開催に当たり、アーツ前橋の特別館長である南條史生はこう語る。「商店街に会場が集中しているのが同芸術祭の特徴です。歩いて回ることで完結するので、訪れる人にとっても優しいビエンナーレであるといえるでしょう。
また、民間が意気込みを持って街を変えていくところが前橋市の特徴です。芸術祭が一つの象徴となり、他のジャンルの発展を引っ張っていくのではないかと期待しています」
会期は2026年9月19日(土)〜12月20日(日)。同芸術祭を通じて芽吹くのは、街や文化だけでなく、人々の記憶や発想そのものかもしれない。開催が楽しみだ。
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