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2010年から3年ごとに開催されている国際芸術祭「あいち」。6回目を迎える今回は、2025年9月13日(土)から11月30日(日)まで、約2カ月半にわたり愛知県各地がアート作品で彩られる。
「あいち2025」のテーマは「灰と薔薇のあいまに」。相反するイメージを想起させるこの印象的な言葉は、シリア出身の詩人・アドニス(Adonis)の詩の一節から引用された。

「灰」は人間の営みによって生まれたものの残骸を、「バラ」はそこからの再生や希望を象徴している。混沌(こんとん)や破壊的な状況においても、前に進もうとする意志によって、再び花は咲く。アドニスの詩には、そんな思いが込められている。
参加アーティストは61組。先住民にルーツを持つ作家や漫画家をはじめ、多彩なバックグラウンドを持つアーティストが名を連ねている。中でも、先住民にルーツを持つアーティストや、さまざまな理由で出身地域とは異なる場所で活動しているアーティストのように、自らの社会的・文化的アイデンティティーを見つめ直しながら表現活動を模索するアーティストが数多く含まれている点は、同芸術祭の大きな特徴の一つだ。
秋田県出身で現在も地元を拠点に活動する永沢碧衣は、マタギ文化に深く関心を寄せ、自らも狩猟免許を取得したアーティスト。徹底したフィールドワークを通じて出合った自然の姿を、丁寧に描き出す。

シカゴ在住のイラク系アメリカ人アーティスト、マイケル・ラコウィッツ(Michael Rakowitz)は、イラクから欧米に略奪された美術品を、アラブの食品パッケージを使って再現した作品などを発表し、日用品に新たな意味を与えたり、型破りなアプローチを取り入れながら問題の周知を図っている。

パフォーマンスグループの「態変」は、障がいのある体や「ぶざま」とされてきた動きにこそ価値を見いだし、パフォーマンスを通して既存の価値観や社会規範に挑む。また、チュニジア出身の兄妹ユニット、セルマ&ソフィアン・ウィスィ(Selma & Sofiane Ouissi)は、ハトとダンサーによる予測不能なコラボレーションを通じて、自然と人間がともに生きることの可能性を問いかける。

会場は、「愛知芸術文化センター」のほか、「愛知県陶磁美術館」、「瀬戸市のまちなか」で、瀬戸焼の原料である粘土を採掘・精製する「加仙鉱山」、もとは旅館だった「松千代館」など、名鉄尾張瀬戸駅周辺の建物や公共施設などが展示場所となる。
普段は非公開である「加仙鉱山」内部で展開されるのは、アボリジニの血を引くロバート・アンドリュー(Robert Andrew)の作品。抑圧され、忘却されてきた個人や家族をテーマに制作を行なっている。

キービジュアルは、漫画家・五十嵐大介がイラストを書き下ろした。テーマに呼応して描かれたもので、繊細な筆致と水彩画ならではの優しい色使いが印象的だ。

芸術監督のフール・アル・カシミ(Hoor Al Qasimi)は、キービジュアルに漫画家を起用した理由について、「全ての人に来てもらえるよう、バリアを取り払い、より開かれたものにしたいと考え、あえてイラストという表現を選びました。皆さんと一緒に楽しめたらうれしいです」と語った。
多様な表現に触れることで、身の回りの出来事や世界の課題を、これまでとは違った視点から見つめ直すきっかけが生まれるかもしれない。2025年の秋は、ぜひ「あいち2025」を訪れてほしい。
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