マーチェリン(馬緁羚)
Photo: Keisuke Tanigawaマーチェリン(馬緁羚)

台湾と日本の架け橋へ、「浮現祭 Emerge Fest」がつなぐ2つの音楽シーン

台湾出身のデュオコンテンツ制作スタッフ、マーチェリンに聞く日台の違い

テキスト:
Kosuke Hori
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渋谷「デュオ ミュージック エクスチェンジ(duo MUSIC EXCHANGE)」で、2023年9月7日(木)、8日(金)に「Emerge Fest : Japan」が開催する。同イベントは台湾・台中で2024年2月24日(土)、25日(日)の2日間開催される音楽フェスティバル「浮現祭 Emerge Fest」のプロモーションイベントという位置付けになっている。

本イベントはもちろん、来年のフェスティバルにもブッキングや制作で関わっているデュオのスタッフ、マーチェリン(馬緁羚)にインタビューした。日本と台湾の音楽シーンの違い、人気のバンドについてなど、日台両方に住み、働いている人の視点は貴重なのではないだろうか。コロナ禍も落ち着きを見せ、台湾をはじめとするアジア圏のミュージシャンたちの来日公演が盛んな今、新たな音楽との出合いの参考になれば幸いだ。

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日本のライブハウスで働くきっかけ

ー東京のライブハウスで働き始めたきっかけは何でしたか。

台湾にいた18歳の頃、台中にある「Emerge Live House」というライブハウスで働き始めました。「透明雑誌」というバンドが、そのライブハウスに日本のインディーズバンドを連れてきていたんです。

日本のアーティストをはじめ、台湾以外の音楽シーンに興味を持ったのですが、その時はまだ日本語が話せず、交流が持てなくて。公演の制作を学べる日本の専門学校への留学を決めました。

卒業後、日本でアリーナクラスの公演を行うイベンター会社で働き始めたのですが、もっと出演者やお客さんとの距離が近い、ライブハウスで働きたいと思って。そして2020年1月、渋谷の「デュオ ミュージック エクスチェンジ(duo MUSIC EXCHANGE)」に入社したんです。

Photo: Keisuke Tanigawa

ーデュオ ミュージック エクスチェンジとはどのようなライブハウスですか?

今年20周年を迎える、キャパシティーが700人のライブハウスです。ジャンルの幅が広く、ロックはもちろん、ポップやアイドルなどの公演をバランスよく開催しています。

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画像提供:馬緁羚

ーデュオではどのような仕事をしていますか?

入社時はブッキングとしての仕事に就いていたのですが、すぐにコロナ禍になってしまい......。香港のバンドと日本のバンドの3マンライブなど、公演は制作していましたが、延期に次ぐ延期の末に中止になることもありなかなかうまくいかず、歯がゆい思いをしていました。

今はコンテンツ制作部門で働いています。デュオでは、私の入社当初は台湾との関わりがほとんどなくて、日本と台湾をつなぐ役割ができたらと思いました。

コロナ禍で配信ライブも主流になったと思うのですが、その際に台湾と日本のバンドがオンラインで対バンするイベントを制作したり、ライブハウスを飛び出して、渋谷以外の場所でローカルをつなぐイベントを開催したりしています。

地元の人をうまく巻き込みたいという思いや、ライブハウスとは違う音楽体験を提供するために、茅ヶ崎「Cの辺り」というコワーキングスペースや、有形文化財の旅館「茅ヶ崎館」などでもライブ制作をしています。場所が増えることで、それぞれのスペースで地元の方と交流するチャンスが増えていくわけです。

少し変わったこととしては、軽井沢にを借りているんです(笑)。デュオのスタッフが管理していて、この前、収穫したエダマメをデュオの来場者にプレゼントしました。野菜を作ることで軽井沢の人たちと知り合うチャンスができ、コミュニティーも生まれています。生配信や音楽配信をその畑から行うこともあるんです。

今後もっとおもしろいコンテンツを、いろいろな地元の方と一緒に作り上げていけたらと思っています。

日本と台湾、音楽シーンの違い
画像提供:馬緁羚

日本と台湾、音楽シーンの違い

ー東京と台湾、ライブハウスをはじめとする音楽シーンの違いをどのようなところに感じますか。

まず思い浮かぶのはライブハウスの数です。東京はライブハウスの数が本当に多いと思うのですが、台湾は数えるほどしかないんです。

また台湾のライブハウスは月曜と火曜が定休日のことが多いですね。日本から来るバンドは、台北にある「THE WALL」「Legacy」、もしくは2020年にオープンした「Zepp New Taipei」でライブを行うことがほとんどです。

あと最近、台湾では音楽フェスティバルがとても増えたんですよ。初ライブがフェスというバンドもいるくらいです。ライブハウスよりもフェスに行く人が多いのは、ライブハウスにずっと関わってきたので少し悲しくもあります。

台湾は小さい国だから、音楽に関わっている人たちのコミュニティーもそこまで大きくないので、フェスに出ているミュージシャン同士もその場では交流がなくとも、知り合いだったりするんです。ただ、ライブハウスという出演者とスタッフ、お客さんの距離が近いところで生まれる交流も魅力的だなと思っています。

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Photo: Keisuke Tanigawa

ー東京と台湾、それぞれに良さがあるとは思うのですが、お互いに取り入れるべきシステムはありますか?

法律上の問題もあるので難しいですが、日本のライブハウスでは、チケットに加えて1ドリンク代を入場時に支払いますよね。台湾ではそもそもチケット代に含まれていることがほとんどです。

台湾ではイベントの規模にかかわらずチケットが先着順なので、目当てのライブがある時は友達に頼んだり、パソコンやスマートフォンを何台も使う人が多いんですよ。日本は抽選式だから、そこは台湾も取り入れたらいい部分かなと。

あと、日本のプレイガイドは大規模なライブの時に海外からの観光客向けに特設サイトを作ることが多いのですが、キャパシティーの小さいライブハウスでの公演だと日本に住んでいる人向けのことが多くて、海外のお客さんが買いづらい状況だと思います。もっと買いやすいシステムがあれば、インバウンドも増えるかもなと感じます。

ー台湾のSNS事情を教えてください。どのように新しい音楽を発見していますか?

実は台湾ではX(旧Twitter)はほとんど使われていないんです。おそらく一番普及しているのがInstagramで、その次がFacebookですね。ハッシュタグで新しい音楽を探す人も多いように思います。

音楽配信サービスでいえば、Spotifyももちろんシェアが高いのですが、台湾独自の「StreetVoice」というものがあります。メディアでもあるので、インタビューやライブ動画などをチェックする人も多いです。

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台湾の国民的バンド、現地で人気の日本のバンドとは
画像提供:浮現祭

台湾の国民的バンド、現地で人気の日本のバンドとは

ー台湾の国民的なミュージシャンを教えてください。

まず挙げられるのは「Mayday」でしょうか。基本的に中国語で歌っているバンドで、子どもから大人まで世代を超えてほとんどの人が知っていると思います。「日本武道館」でもライブをしていますよ。

2023年の「サマーソニック」やアメリカの「コーチェラ・フェスティバル」に出演していた「落日飛車(Sunset Rollercoaster)」もその一つでしょうか。欧米や日本で人気が出て、逆輸入のように台湾本国でも人気になった印象です。

あとは「草東沒有派對(No Party For Cao Dong)」ですね。インディーバンドでありながら、台湾ではアリーナクラスでライブをしています。2年間にわたる活動休止期間を経て、2023年7月には渋谷「Spotify O-EAST」でライブを行い、ソールドアウトだったようです。

ー今台湾で人気がある日本のバンドって?

ジャンルによるので一概に言えないのですが「エルレガーデン(ELLEGARDEN)」の台湾公演は話題になっていますね。ポストロックバンド「toe」も人気です。日本のアニメの主題歌も人気になることも多く、その時日本ではやっているものが台湾でも人気なことが多いと思いますよ。

台湾ではメジャーとインディーズで客層が違うのですが、インディーズの方が熱があるように感じます。情報の伝達スピードが早くて、日本のインディーズバンドの情報もすぐ伝わっていますね。日本にいる私が聴いていいなと思っている時にはもう台湾でのライブが決まっていることも多いです。

音楽フェスティバルもインディーズ系のバンドの出演が多く、フェスごとにオリジナリティーがあり、独自色を打ち出していていい感じですよ。

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ー現地の早耳リスナーが注目しているニューカマーなバンドを教えてください。

deca joins」や、プロモーションイベントにも出演する「溫蒂漫步(Wendy Wander)」でしょうか。シティポップのようなサウンドが、インディーズシーンでは主流だと感じます。

浮現祭 Emerge Festについて
画像提供:浮現祭

浮現祭 Emerge Festについて

ー浮現祭 Emerge Festとはどのような音楽フェスティバルですか?

主催者の地元である台中・清水という都市で開催されている音楽フェスティバルです。私が以前働いていたEmerge Live Houseが母体となっています。来場者はほとんど台湾人で、アクセスがあまりいいとはいえない場所なのですが、2日間で約2万人が来場するんですよ。

元々は台湾のバンドだけが出演していたのですが、2023年は15組ほど海外のバンドが出演しました。2023年のトリはSUGIZOさんで、日本のバンド「Cody・Lee(李)」のライブも盛り上がっていましたね。

地元の人にも参加してもらいたいという主催者の思いがあり、フードなどの出店が会場内にはないんです。その代わり近くに商店街があるので、お店それぞれのおすすめ商品などを書いたフードマップを配って、お客さんに足を運んでもらえるようにしているのが大きな特徴の一つかなと思います。

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画像提供:浮現祭

ー今回デュオで行われるプロモーションイベントの見どころを教えてください。

日本のアーティストは私がブッキングし、台湾のアーティストは現地のスタッフが決めました。現地でもライブがすぐソールドアウトする人気のバンドが揃っています。

9月7日(木)は、「ヤバイTシャツ屋さん」と、「台湾のヤバT」と呼ばれることもある「怕胖團(PAPUN BAND)」が共演するのが、個人的には面白いポイントです。8日(金)は、「Guiba」と溫蒂漫步(Wendy Wander)も相性抜群だろうなと思います。

言語や文化、コロナ禍の挑戦を超えて
Photo: Keisuke Tanigawa

言語や文化、コロナ禍の挑戦を超えて

ー今後実現したい目標はありますか?

デュオというライブハウスは、ありがたいことに知名度は結構ある方だと思うんです。ただ、どうしても年間でできる公演数には限りがある。その枠を拡張するという意味でも、コロナ禍でスタートしたコンテンツ制作をもっと頑張っていきたいです。

私は、日本のライブハウスで働いている台湾人として、日本と台湾をもっとつなげていく役割ができたらなと。言語も考え方も違いますが、両方で働いたことがあるからこそ見えるものもあって、このコロナ禍の3年間というつらい日々を一緒に乗り越えてきたことで、台湾の音楽関係者との絆も深くなってきたと感じています。

もちろん、日本で私よりも先に台湾との交流を頑張ってきた先輩方がいますので、うまく協力していけたらなと思っています。台湾には日本語が話せる人が少なくないですし、カルチャーに詳しい人が多いので、日本のバンドが台湾へ行くのはそこまで難しくないのですが、台湾のバンドが日本に来るには、まだ言語の壁などがあるように感じるんです。例えばツアーをするにしても、東京以外の都市でももっとライブができるようにしていけたらなと。

台湾と日本のアーティストを紹介したり、インタビューしたりしているYouTubeもやっているので、興味がある方は観ていただけるとうれしいです。あとは何よりライブハウスが大好きなので、アーティストの本当に小さいスタートの一歩からかかわっていけたら幸せですね。

日台のカルチャーに触れるなら......

  • 音楽

「生きる家」を意味するライブハウス、下北沢「LIVE HAUS(リヴハウス)」は、2020年4月9日にオープンする予定だった。「だった」というのは、オープンの数日前に第1回目の緊急事態宣言を迎えたからだ。その後も営業できない時期が続き、本オープンは2020年8月となった。

依然としてコロナ禍は続いているが、紆余(うよ)曲折という一言では語れない想像を絶するような日々を乗り越えて、LIVE HAUSは3周年の夏を迎える。まず場所があり、音楽を鳴らすミュージシャンやDJがいて、観客が集まって熱狂する。当たり前のようでいて尊いことだったと気付かされたのではないだろうか。

「1度立ち止まって、ライブハウスやクラブの魅力だったりとか、場所の意味みたいなものに改めて向き合って考えた3年間だった」と語る、店長の一人であるスガナミユウにインタビューした。

  • 音楽

9月の注目パーティーはDJ・ジャイルス・ピーターソンの来日公演「Midnight East」で決定。普段からクラビングを楽しんでいる人はもちろん、ディープなリスナーも必見の夜になるだろう。

そのほか、人気デュオのTuxedoも歌舞伎町「ゼロ トウキョウ」に出演する。DJバー「東間屋」とライブハウス「Spotify O-EAST」を回遊して楽しめるナイトヴェニュー「MIDNIGHT EAST」と、「Zepp Shinjuku (TOKYO)」のナイトタイムである「ゼロ トウキョウ」など、深夜公演では名称を変える大箱に注目したい。

ふらっと訪れたイベントで新たな表現に出合うこともあるだろう。出演者やジャンルをチェックせずに、ミュージックヴェニューの門をくぐるのもいいかもしれない。

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  • トラベル

日本から約4時間ほどで行ける台湾は、日本人の海外旅行先ランキングでも常に上位に入ってくる人気の観光地だ。『千と千尋の神隠し』のワンシーンに出てきそうなノスタルジックな景観の九份(きゅうふん)、昔ながらのゲームやB級グルメを楽しめる夜市、足つぼマッサージや台湾シャンプーなど癒しの時間を提供する美容スポットなど見どころも多い。

夏休みなどの長期休暇を利用してじっくりと楽しむのも良いが、週末にふらっと足を運べるのも魅力の1一つ。ここではエリアを台北に限定し、2日間で満足できる旅のプランを提案する。定番スポットから、地元の人が列を作る麺線の店、アングラなクラブまで幅広く紹介するので、旅行を計画している人はぜひ参考にしてほしい。

台湾、アートスポット10選
  • アート

アジア圏の旅行先として人気の台湾。2002年に台湾政府が掲げた「文化創意産業(文創)」政策以降、文化と創造性を結びつけた教育が進み、近年そのアートシーンには注目が集まっている。無料で解放されている美術館には小さな子ども連れも訪れやすく、幼い頃からアートに親しみやすい環境となっているよう。日本人にとってなじみの薄い現代アートも、身近な文化としての発展が目覚ましく、ファンにはぜひ訪れてみてほしい国だ。

2020年には第12回台北ビエンナーレが開催されることから、今後ますます台湾のアートシーンに期待が高まる。ここでは台中にオープンした建築の美しいオペラハウスや、アーティストが集う市場、台北では若者に人気のカルチャーストリートやアートブックを扱う店などを紹介。市場のグルメやマッサージなど、定番人気の楽しみ方以外にも訪れてみてほしいスポットを挙げる。

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  • Things to do

日本における台湾人気が止まらない。往来をコロナ禍にふさがれ、現地を気楽に訪れることができない飢えが拍車をかけるのか、台湾関連のフェスティバルは都内各所で次々に開催され、軽食やスイーツを供する店が着実に増えている。

台北から現地直送の本格店が上陸する一方、イメージ優先の「台湾風カフェめし」を出す店がもてはやされ、今や玉石混交の状態だ。「哈台族(ハータイーズー=台湾マニア)」のはしくれとして、台湾人も通う現地そのままの味や雰囲気が味わえる場所を都内から厳選し、台湾(具体的に台北)旅行気分で散策できるルートを組んでみた。台湾と変わらぬ夏の暑さが続く近頃の東京。台湾気分で楽しく乗り切ろう。

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