針で引っかいて音を出すというアナログなレコードの手法に、ジャズの音は非常に合う。そして、そこにアルコールが加われば言うまでもない。
本記事では、モダンやニューオリンズジャズを流す老舗はもちろん、フリーやDJカルチャーを通過した新時代のジャズを流すヴェニューも紹介。ジャズという音楽の奥深さにきっと気づかされることだろう。もちろん深いことは考えず、ただ音に身を委ねるのも一興だ。本記事で新たな出合いがあることを願う。

タイムアウト東京 > 音楽 > ジャズバー入門ガイド、グラス片手に楽しむ選曲と生演奏の醍醐味とは
映画『BLUE GIANT』の主人公の演奏を担当した、サックス奏者の馬場智章と、現代ジャズシーンを支えているヴェニューの下北沢「No Room For Squares(ノールームフォースクエアーズ)」(以下:ノールーム)の店主である仲田晃平。プレイヤー、そして店のスタッフとして現場に立つ2人に、ジャズバーの楽しみ方について聞いてみた。
2025年9月22・23日の2日間開催されたノールームの6周年記念フェスティバル「音響特区」を控え、そして馬場の定期イベントである「BaBaBar」のリハーサル前という慌ただしいタイミングにもかかわらず、時間を取ってくれた2人にまずは感謝したい。
対談は、人生で初めていったジャズバーやいつも頼む決まった一杯などから、ジャズを取り巻く場についてまで話は及んだ。時間とお金をかけて、音楽とじっくり向き合う。そんな場に足を運ぶことこそ、贅沢な時間の使い方なのかもしれない。
週末といわず今夜、グラス片手にジャズを聴くために街へ繰り出そう。
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—人生で初めて入ったジャズバーってどこでしたか? その時のことって覚えていますか?
仲田晃平(以降、仲田):北千住の「Birdland(バードランド)」です。当時所属していた大学のジャズ研のホームページにリンク集があってそこで見つけました。サークルの33個上の大先輩が店主だっだんですよね。 働きたいなと思ったので、まずは行ってみようと。それがジャズバーに初めて足を踏み入れた時でしたね。そうしたら勤めていたバーテンダーの方が独立したタイミングだったみたいで。「土曜日ライブやってるから手伝わない?」と言われて働くことになったんです。
—馬場さんはどこでしたか?
馬場智章(以降、馬場): 札幌で生まれ育ったのですが、サックスを習っていた先生が演奏していたお店にまず行くようになったんですね。それが札幌「JAMUSICA(ジャムジカ)」でした。 僕が中学・高校時代によく行ってたのは、「Slow boat(スローボート)」。今海外でもすごく有名なピアニストの、福居良さんのお店なんです。学校が終わってからよく行ってました。シットインさせてもらっていましたね。
—東京で、憧れのジャズバーや行きつけなどはありますか?
馬場: 初めて出演するとなってテンションが上がったのは、「BLUE NOTE TOKYO(ブルーノート東京)」でした。去年自分の名義で、初めてリーダーで2デイズライブをやったんです。ありがたいことに満席で。やっぱりあそこで演奏するっていうのは、ジャズミュージシャンとしては一つの目標なんですよね。 サポートやサイドマンでは出たり、自分の所属するバンドで出演したりとかはあったのですが、入り口に「アー写」や自分の名前がドンッて書いてあるポスターが貼られているのを見て、やっぱりうれしかったです。しかもそのポスターに「To Blue Note Tokyo」とサインするのはリーダーの役目なんですよ。奥の個室も、初めてリーダーとして使うっていう(笑)。
ブルーノート東京の皆さんも僕のことをよく知ってくださっていて、「初リーダー」とプレートに書いてあるケーキを出してくれて。感無量でした。
あとは六本木「Alfie(アルフィー)」や渋谷「Body & Soul(ボディ&ソウル)」とか、ミュージシャンとして認められた人が出るところで初めて演奏できた時はうれしかったですね。
—仲田さんはお店をオープンする際に憧れたというか、参考にしたお店ってあるんですか?
仲田: 憧れということであれば、実はノールームは、バードランドをもう実はめちゃくちゃまねしてまして(笑)。全てを教えてもらったと感じています。 店主は僕の父親の一つ下くらいの年なんです。ジャズのことも含めて、父親が話さないようなことも教えてもらって。いろいろな意味で父的な存在だったんです。なので、そのまねをしたいなというところがありました。
音楽のお店というより「ヒップなバー」という意味では、恵比寿「Bar Tram(バー トラム)」を参考にしています。ニューヨークの「Angel’s Share(エンジェルズシェア)」も、ですかね。
あとは、ミュージックバーとは名乗っていないお店なのですが、レコードをかけている湯島の「The TRAD(ザ トラッド)」は、内装も雰囲気も全てに意味があると感じるお店で参考にしました。
—プレイヤーとお店の人というお二人が思う、ジャズバーならではの楽しみ方ってなんでしょう?
馬場: それこそノールームによく来ているのですが、信頼できる人の選曲、かつ良い音響で聴けることで「情報を正しく得られる場所」な気がします。ストリーミングサービスはやっぱり音質が低下するし、自分が聴く音楽ってどうしても偏りが出てきてしまいますしね。
あと、以前はレコードプレイヤーを持っていなかったんですけど、自分のレコードがリリースされてノールームで初めて聞いたんですよ(笑)。その時はやっぱりいいなって思いました(笑)。
仲田: 僕はもう経営する側になってしまっているので、楽しみ方というよりは、同業者としてどう思うのか、というところの感覚になるのですが(笑)。やっぱり、お客さんの反応に対してリアクションすることがすごく大事な気がしています。
お客さんが1人だけだったらその人が喜ぶものだけかければいいんですけど、5人いればもう好みなんて全然違いますよね。一口にジャズとは言っても、「俺たちの時代はこれだ」っていう人もいれば、「そんなのかけられても仕方がないよ」と思う人もいるわけじゃないですか。まだ何も知らない若者もいる。そんな中で、「どうやってみんなが少しずつ新しいものを得られるか」ということに注力している人がいるお店は、やっぱり素晴らしいなと思います。
あと、例えば新宿の老舗「ジャズ喫茶ナルシス」のお母さんとかは、お客さんの反響をすごくよく見ている人で。しかも、自分のかけた曲に「この曲すごくいいわよね」って言うんです(笑)。ちゃんと音楽愛を感じるというか、音楽に携わる人間としてすごいなと思います。 音楽に対して愛とリスペクトを持って向き合っているミュージックバーやジャズバーが、かっこいいですよね。
馬場:個人的にノールームがいいなと思う理由は、ちゃんと日本人の音源をかけているんですよね。
仲田:それはバードランドからの教えですね。
馬場:「外国のものや古い盤こそ全て」みたいな人も多い印象があるんです。ネームバリューではなく、本当に好きで、いいと思っている音楽を流しているお店はすてきですよね。
友人のリリースした音源とかを、全部聴けているわけではないので。ここでかかっていてすごくいいなと思って「これ誰?」って聞いたら、ピアニストの梅井美咲の音源だった時がありました(笑)。
ージャズバーで決まって頼む1杯ってありますか?
馬場:ハイボールですね。ハイボールからのウイスキーハーフロックとか。あとはオールドファッションドとか。やっぱりウイスキーですかねえ。
仲田:僕の場合はウイスキーのストレートとか、お店に迷惑かけないものを頼んじゃうんですよね(笑)。
—お店の人からすると、初めてジャズバーに行く人は何を頼んだらいいと思います?
仲田:初めて行く人におすすめするなら、ウイスキーのロックのように時間をかけて飲めるものがいいと思います。例えばマティーニやギムレット、マンハッタンのようなショートカクテルは味の劣化が早いので、ゆっくりと音楽を聴きたい人には向かないのかなと。
音楽を聴きながらいろいろ考えるとなると、すごくティピカルなイメージだけれど「ロックグラス片手に」というのは理にかなっていると思いますね。
—最近気になってるジャズイベントとか、楽しみにしてる音楽フェスとかってあります?
仲田:うちの6周年フェスの「音響特区」です!(笑)
馬場:音響特区はもちろんですが、何でしょうね……。
—それこそ馬場さん主宰の「BaBaBar」のように、馬場さんのご友人が定期的にやっているイベントとかってあるのでしょうか?
仲田:ジャズ界隈(かいわい)って、意外とそういう定期的なイベントがあんまりないんですよ。だから「BaBaBar」って結構珍しいイベントで。会員制のセッションみたいなのはあるのですが。
馬場:渡辺翔太さんの「BONKERS LAND」とか、Shin Sakainoさんがやっているようなイベントは、「BaBaBar」と近いイベントなのかなと思います。
あと最近思うのですが、ひたすら即興的に演奏するのもジャズの醍醐味(だいごみ)ではありますが、一方でしっかり組んだバンドで作り上げていくっていうのも「今のジャズ」っていう意味ではすごく大事なのかと。両輪ですよね。
仲田:そこはやっぱり両輪ですよね。どちらにも良さがある。
馬場:あとは映画『BLUE GIANT』をきっかけに、「ジャズライブへ行ってみたい」っていう若い人がすごく増えてきた気がしていて。ノールームでの「BaBaBar」は、シートチャージ1,000円とチップで開催しているので、気軽に遊びに来てもらって、その時に出演していたミュージシャンとかをかっこいいなと思ってくれて、そこからさらにジャズの輪が広がってくれたらうれしいかな。
もちろんボーカルものもありますが、基本的にジャズって歌がないことですごく難しく捉えられがちだと感じているんです。でも実際はもっと簡単で、単純に好きか嫌いか、楽しいかそうじゃないかとか、その時の気分で選べる音楽だと思っていて。
確かに、チャージが高いライブなどは気軽には行けないというのも分かるんです。でも、旅行に行くのにもお金がかかりますしね。
仲田:個人的には、これまでミュージシャンたちがかけてきた時間を考えると、チャージは高くないと思ってます。
—いい音楽を聴くと、旅した気分になることもありますしね。
馬場:例えば「8,000円払って聴いてよかった、今日来て楽しかったな」って思ってもらえたらうれしいですね。ミュージシャンだけじゃなくて、料理を作る人やお酒作る人などお店のスタッフさんがいて、みんなで一晩の体験を作り上げていると思うので。
仲田:音楽って今はタダでも聴ける環境じゃないですか。そんな中でお金を払って聞くことって、かっこいいことなのかもしれない。
—海外の人からも日本のジャズバーやジャズ喫茶は注目されていますが、その理由は何だと思いますか?
仲田: ジャズ喫茶に関しては、「ジャズ喫茶案内」というアカウントを運営している方がいまして。ジャズ喫茶がはやり始めたっていうのは、彼の功績は大きいと思います。 全国のジャズ喫茶を撮影した、とてもすてきな冊子を作っていて、海外でも人気があるようです。「昭和レトロブーム」みたいな感覚にも近いのかも。レコードをかける喫茶店って基本的には海外にはない文化なので、それも大きいのかなと。
馬場:あまりない気がしますね。
仲田:あと海外のレコードコレクターが5、6年前から日本に買い付けに来ているという流れがあったのですが、それも影響していると思います。
馬場:今は韓国でも、ジャズ喫茶みたいなお店ができているという話を聞きますね。
仲田:アメリカだったら西海岸とかね。
—プレイヤー目線ではどうですか?
馬場: 海外の人ってみんな「生音」が好きなんですよ。僕の経験はアメリカの東海岸しかないのですが、生バンドを入れているお店も多くて、それをうるさいって思わない文化なんです。むしろ「最高だ!」ってチップを入れていくカルチャーで。
日本は、生演奏をしているお店で気軽に入れるところが、もしかしたら少なかったのかなと思います。ニューヨークではライブをやっているバーとかも多くて、僕もしょっちゅう遊びに行ってました。そこでセッションをやっていたりとか、ミュージシャンと出会ったりするんですよ。仕事につながることもありましたしね。
昨日ちょうどイタリアから来た友人を連れて高田馬場の「Intro(イントロ)」に行っていたのですが、1,000円くらいで入れるからか、観光客がたくさんいましたね。みんな「飽きたら帰る」みたいな気軽な感じだったのですが、面白いミュージシャンがいるとずっと観ているみたいです。
ニューヨークの「Smalls Jazz Club(スモールズ ジャズ クラブ)」とかもフラッと飲みに来て、そのまま音楽を聴きたいから残るという人が多かったですね。飲みに来てる人が多いから基本的にはにぎやかなんですけど、本当にいい音楽だと静かになるのが印象的でした。
あんまりな人の時はやっぱりガヤガヤしてるんですよね(笑)。あと「汚い格好の人が来たな」と思ったらロイ・ハーグローヴ(Roy Hargrove)だったとか(笑)。その環境がすごくフェアだなと感じていました。
ネームバリューがあるからかっこいいとかでなくて。平場で飲んでいる人が「かっこいいな」と思ったら静かに聞くっていう(笑)。そういう環境を作りたいという気持ちもあって「BaBaBar」というイベントを始めたんです。
仲田:ミュージシャン指定で来るのではなくて、「生演奏が聴きたいから来た」っていう土壌になったらいいですよね。
針で引っかいて音を出すというアナログなレコードの手法に、ジャズの音は非常に合う。そして、そこにアルコールが加われば言うまでもない。
本記事では、モダンやニューオリンズジャズを流す老舗はもちろん、フリーやDJカルチャーを通過した新時代のジャズを流すヴェニューも紹介。ジャズという音楽の奥深さにきっと気づかされることだろう。もちろん深いことは考えず、ただ音に身を委ねるのも一興だ。本記事で新たな出合いがあることを願う。
ジャズの鑑賞を主体に、コーヒーが楽しめるジャズ喫茶。その元祖は、1929年に本郷でオープンした「ブラックバード」だといわれている。
同時期でいえば、1933年に創業した横浜の「ちぐさ」は一度の閉店を挟みながらも、2022年まで約90年にわたって営業してきた。同店には、若き日の秋吉敏子や渡辺貞夫、日野皓正らジャズミュージシャンたちが足繁く通い、アメリカ軍のクラブでの演奏のかたわら、当時高価だったレコードを聴いて勉強していたという。もちろん、プレイヤーだけでなく、ジャズファンにとっても最新のジャズを仕入れられる場だったのだろう。
そんなジャズ喫茶は、日本におけるミュージックバーのルーツともいえるし、踊ることを主目的としていない「リスニングイベント」という概念の始祖でもあるかもしれない。2010年代以降のレコードブームや、漫画『BLUE GIANT』のヒット以降は、若い世代も以前より訪れるような印象を受ける。
本記事では、店主の音楽への真摯(しんし)な姿勢やアットホームな雰囲気、素晴らしいオーディオシステムをほこる店など、おすすめをピックアップした。ぜひ足を運んでみてほしい。
数多くのジャズライブハウスが点在している東京。毎夜都内で行われるジャズライブの数は50以上もあると言われている。それゆえ、初心者は店選びに迷い、敷居の高さに腰が引けてしまうことも多いだろう。ここで紹介するジャズハウスは、間違いなく訪れる価値のある場所なので、参考にしてほしい。
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