SEX:私の場合#10 ラビアナ、ヴェラ、モチェ
Photo: Yanni左からラビアナ、ヴェラ、モチェ

ドラァグクイーンであることは政治的なこと

SEX:私の場合#10 若手クイーン座談会、プライドマンスを素直に喜べない理由は?

編集:
Hisato Hayashi
テキスト:
Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ > SEX:私の場合 > #10 ドラァグクイーンであることは政治的なこと

新宿二丁目にあるゲイバー「イーグル トウキョウ ブルー」に、3人のドラァグクイーンが集まった。座談会が行われたのは、「プライドマンス」が始まる1カ月前の2023年5月某日。

プライドマンスは、ニューヨークで起こった「ストーンウォールの反乱(*1)」がきっかけとなって始まった。LGBTQ+コミュニティーを示すための月間として知られ、日本でもキャンペーンの打ち出しやイベントの開催、企業によるレインボーグッズの販売など、クィア(*2)コミュニティーの一大イベントとなる期間だ。 しかし、当事者の声を届ける企画「QUEER VOICE」でも明らかになったことだが、「ハッピープライド!」と声を大にできない現状も同時にある。同性婚やLGBT+差別禁止法が認められないことが、クィアの生活に影響を及ぼしていることは言うまでもない。

今回、ドラァグクイーンとして活動するLabianna Joro(ラビアナ・ジョロー)Moche Le Cendrillon(モチェ)Vera Strondh(ヴェラ・ストロンジュ)の3人が集まり、単刀直入に意見を交わした。その中でも、「個人的なことは政治的なこと」とあるように、「ドラァグクイーンであることは政治的なこと」という言葉が印象的だった。ドラァグクイーンとしての活動は、政治とどう関係しているのか? さらに、プライドマンスを通して見える今の社会についても掘り下げる。

*1 1969年6月28日、ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」で起きた、警察によるLGBTQ+当事者らの迫害に真っ向から立ち向かう抵抗運動のこと。ゲイ解放運動が拡大するきっかけとなった、LGBTQ+の歴史における象徴的な出来事。

*2 「クィア」とは、19世紀の英語圏でゲイを侮辱的に表現する「奇妙な」「変態」といった意味を持つ。当事者が自らをクィアと名乗ることで、開き直った姿勢を示し、ポジティブな言葉として変換された歴史がある。本記事では、クィアコミュニティーにおける歴史的背景を踏まえた上で、クィアを単なる性的マイノリティーではなく「連帯」という意味合いを含んで示している。また、性的マイノリティーという属性を分かりやすく示すために「LGBTQ+」の単語を使用する場合もある。

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ドラァグクイーンは男性がするもの?
Photo: Yanni

ドラァグクイーンは男性がするもの?

ヴェラ:ドラァグクイーンといえば、リップシンク(歌曲に合わせて口を動かすパフォーマンス)のショーを思い浮かべる人が多いかもしれない。最近はドラァグクイーンのル・ポールが化粧品ブランドのMACとコラボレーションしたり、日本国内でもタレントとしてテレビに出演したり、活動の幅はステージの上だけではなくなってきているよね。2人にとってドラァグクイーンって何?

ラビアナ:私は「反抗から生まれるアート」だと思ってる。社会から求められる女性・男性らしさで遊びながらパフォーマンスして、そのバイアスをばかにしつつも問題として主張するのが、私にとってのドラァグクイーン。

モチェ:日本には反抗や反差別の意味を持つ「芸」は少ないように感じる。歌舞伎のように、異性装としてドラァグクイーンと類似して並べられながらも、女性が舞台に立つ機会が与えられない職業はたくさんあるよね。性別のバイアスを取り払えるのは、ドラァグクイーンが持つ一つの要素だと思うよ。

ヴェラ(Photo: Yanni)

ヴェラ(Photo: Yanni)

ラビアナ:一方、「ドラァグクイーンはシスゲイ男性(*3)のもの」というような、ミソジニスティック(女性嫌悪、女性軽視)な意見もあるよね。

モチェ:本来、ドラァグクイーンは性別に関係なく開かれているものだけど、大半はシスゲイ男性。そういう意味では、性別と結びつく可能性はあるかもしれないし、ドラァグクイーンだから自由になれると断言するのは難しい。

私はAFAB(出生時に女性を割り当てられた人)でアセクシュアル(*4)なので、シスゲイ男性と共感できる文化とは程遠い場所にいるかもしれないけど、あらゆるセクシュアリティーに対してドラァグクイーンというものが開かれてほしいと願ってる。

*3 生まれ持った性別と自認が男性として一致している同性愛者のこと
*4 性的欲求や恋愛感情をほとんど、または全く抱かないセクシュアリティーのこと

家父長制やジェンダーロールなどのバイアスを解剖
Photo: Yanni

家父長制やジェンダーロールなどのバイアスを解剖

ラビアナ:これからもっとオープンになっていく気がする。今はノンバイナリー、トランスジェンダー女性、シス(*5)女性など、さまざまなドラァグクイーンを目にするようになってるしね。その中でもシス男性のドラァグクイーンも見るけど、それに対してどう思う?

ヴェラ:リスペクトを持ってステージに立つなら問題ないかな。

モチェ:現状、社会的特権を持つシス男性が、その文化に根付いた問題に向き合わずにドラァグクイーンを利用して活動することは不誠実だと感じる。その文化にリスペクトを持つことは、LGBTQ+に限らず、全てのアーティストが持つべき態度だと思う。

*5 生まれ持った性別と自認する性別が一致していること

モチェ(Photo: Yanni)

モチェ(Photo: Yanni)

ラビアナ:日本では家父長制(*6)やジェンダーロール(*7)が根強く、それが当たり前であると刷り込まれてきた女性は世間のジェンダー観を内面化してしまう。

その違和感が、ドラァグクイーンという存在を通して解剖される働きはあると思う。社会が求める女性らしさを最大限に誇張した存在が、私にとってのドラァグクイーンだから。だからこそ、シス男性には一度ドラァグクイーンを体験してみてほしい!

モチェ:ジェンダーロールやステレオタイプに悩まされているシス女性も多いはず。実は、みんなドラァグクイーンが実践することを求めているのかもしれないね。

*6 家長である男性が絶対的な支配権を持つ家族制度
*7 性別によって期待される社会的な役割

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「ル・ポールのドラァグ・レース」が提示するクイーン像
Photo: Yanni

「ル・ポールのドラァグ・レース」が提示するクイーン像

ラビアナ:最近は、アメリカのリアリティー番組「ル・ポールのドラァグ・レース」の影響もあって、国内でドラァグクイーンを見に行く人は増えたよね!

ヴェラ:ドラァグ・レースのおかげで興味を示してくれるようになったのはうれしいけど、よく「ドラァグ・レースの◯◯◯に似てますね」って言われる(笑)。ドラァグクイーンはドラァグ・レースに出ているような人たちだけのイメージではないし、東京だけでなく地方にもたくさんいるのに。

モチェ:ドラァグ・レースが提示しているドラァグクイーン像ってすごく狭いと思う。ホラー系やコメディー系など、ドラァグ・レースに出ていなくても日本にはたくさんの素晴らしいドラァグクイーンがいることを知ってほしいな。

ラビアナ(Photo: Yanni)

ラビアナ(Photo: Yanni)

ヴェラ:多くの人が思うドラァグクイーンのイメージが限定的だから、そのイメージの枠の中にいないドラァグクイーンが活躍できないのは最近問題視していることでもあるよね。 だからこそ、私がオーガナイズに関わっている「OPULENCE」というイベントでは、ドラァグ・レースに出演した海外クイーンと、国内クイーンを交えた一つの大きな空間を作ってる。少しでも多くのローカルクイーンの存在を知ってもらえるいい機会になればいいな。

観光化する「レインボープライド」の未来
Photo: Yanni

観光化する「レインボープライド」の未来

ラビアナ:次はプライドマンスのトピックに移りたいと思います。4月に「東京レインボープライド」(以下、TRP)が終わって、来月からプライドマンスが始まるけど、2人はぶっちゃけどう思う?

モチェ:TRPに参加した時、アセクシュアルやアロマンティック(*8)の旗は全然見つけられなかった。例えば、会場では手をつないでいるカップルが祝福されているけど、それをしないアセクシュアル、アロマンティックの人たちもここにいる。

LGBTQ+全体のイベントなのにフィーチャーされているのは陽気な側面ばかりで、そうではない側面もクィアの文化の一部なのになとは思う。そのことに疑問を抱いて、今年は「陰気なクィアパーティ」を開催したんだよね。

もちろんTRPがなくなってほしいというわけではなく、いろんなクィアを包括するには政治的でなければならないこともあって。そういう問題が無視されることで、排除されてしまう人がいることに居心地悪く感じるかな。

*8 恋愛感情が他者に向かない指向のこと

ヴェラ(Photo: Yanni

ヴェラ(Photo: Yanni)

ヴェラ:あとは、面白い人たちがいるからという理由で、TPRに参加する人も見たことがある。

モチェ:そうだね。私はドラァグクイーンの格好をしてTRPに参加した時、写真撮影をお願いされたんだけど、その後もしつこく後をつけられて。ドラァグクイーンという存在が面白かったのか、私が女性だ(または女性として見られている)からという理由で声をかけたのか分からないけど、私にとっては安全な場所ではないなと感じた。

ラビアナ:日本では人権やハラスメント、差別を理解していないのが問題だよね。そもそも教育から変えなければいけない。教育を決めるのは政府で、その政府を決めるのは一般市民。TRPに参加しながら、そういった保守的な政府を指示している人たちがいるのかもしれないと考えると、複雑な気分だな。

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「ストーンウォールの反乱」から発展した政治的な祭典
Photo: Yanni

「ストーンウォールの反乱」から発展した政治的な祭典

モチェ:政治的な発言をすると「思想が強い」と言われるんだけど、政治的なことって当たり前なことでしょ。それに、ドラァグクイーンであるだけで政治的なんだよね。そもそもTPRやプライドマンスが始まったきっかけはストーンウォールの反乱で、政治的な背景があって、そのことが忘れ去られてしまっている印象はある。

ヴェラ:私がTRPやプライドマンスに関して思うことは3つ。1つ目は、毎年大きな企業がレインボーを掲げることで、LGBTQ+の存在が可視化されるきっかけになること。2つ目は、私はドラァグクイーンを始めたことで生きる理由を見つけたから、会場で新しいドラァグクイーンを見つけるとうれしくなる。3つ目は、私たちは結婚すらできない現状で、単なるパーティーとして楽しんでいて、戦うことが忘れられてしまっているということ。

モチェ(Photo: Yanni

モチェ(Photo: Yanni)

ヴェラ:ただ騒いだり久しぶりの友達に会ったりするだけじゃなくて、政治的なメッセージも伝えないと意味がない。たしかにみんなと出会える「楽しい場所」なのは分かるけど、そこはTinderじゃないし(笑)。

ラビアナ:お祭り騒ぎして周りを巻き込むからには、TRPやプライドマンスが何を意味してどこから来るのかを参加者には説明する必要がある。ただ陽気なだけではなく、自分のセクシュアリティーが他の人と違うだけで居場所がなかったり、生活が脅かされたりしている人たちがいたりするという現状があるから。

単なるお祭り騒ぎで終わらせないためには
Photo: Yanni

単なるお祭り騒ぎで終わらせないためには

ヴェラ:TRPやプライドマンスに参加した企業も、それが過ぎるとLGBTQ+に関する発言は何もないし、今の社会が抱える問題を伝えるための資金を広告に当てることも少ない気がするよね。

ラビアナ:企業はLGBTQ+が「ブーム」ではなく「戦い」である意識を持って、話を聞こうとする姿勢を持つことが大切だと思う。資本主義社会で企業の力は大きく、いろんなことに影響を与えるから。社内でもLGBTQ+に向けた制度を取り入れたり、福利厚生を反映させたりすることで、差別を減らすきっかけにもつながるはず。

ラビアナ(Photo: Yanni)

ラビアナ(Photo: Yanni)

ラビアナ:そもそも、TRPにブースを出展するための費用が25万円から150万円(*9)かかってしまう点で、大企業しか参加できない商業的な問題もあると思うけど。

モチェ:経済的な理由で何かを排除する側面があるなら、それはまた別の差別が生まれるんじゃないかな。TRPに参加することでアウティング(*10)につながる懸念もあるから、ピンポイントではなく継続的に開催できるといいよね。

ラビアナ:ギャラも高いしね(笑)。

ヴェラ:ていうか、なんで2日間しかないの……! TRPに参加した時、帰り道はちょっと寂しくなる。明日から現実に戻るのかって。だからこそ私は街で「ビヨンセウォーク」して、毎日戦いたい!

ラビアナ:今は「ハッピープライド」とは言えないけど、それぞれが自分の影響力を使って継続的にLGBTQ+コミュニティーの支援をしたら、少しずつ変わってくると思うな。

*9 特定非営利活動法人東京レインボープライド「Sponsorship Guide
*10 本人が公表していないセクシュアリティーなどを第三者に暴露する行為

Contributor

ドラァグクイーンをもっと知りたいなら……

  • LGBT

性教育パフォーマーを名乗るドラァグクイーンがいる。その名もラビアナ・ジョロー。端正な顔立ち、豊満な尻、青々と生い茂った胸毛。それを笑う者でさえも、いつしか彼女の魅力に吸い込まれていく。

軽快なトークときらびやかな踊りを披露する独特なパフォーマンスは、後に問いや話題のきっかけを生み出す。それは、彼女が培ってきた性の知識と社会の影に潜む問題をパフォーマンスと融合させ、我々に問いかけているからだ。ラビアナはなぜ胸毛を見せつけ、表現し続けるのか。話を聞いてみた。

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ドラァグクイーンは、単に派手で独創的なだけではない存在だ。豪華絢爛(けんらん)なエンターテイメントが繰り広げられる裏には、公では語られないようなさまざまなドラマがある。

3人は「Strondh」(ストロンジュ=マザーのVictoriaがもともと使用していたファミリーネーム)という名前のもと、2018年から活動している。日本ではあまり馴染みはないが、ドラァグシーンでは「ドラァグファミリー」と呼ばれる家族を構築し、母親が娘にドラァグの世界での振る舞いを教えることもある。 まだまだ謎が深いドラァグファミリーの実態を、インタビューを通して明らかにしていく。

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  • ナイトライフ

誰かコツを教えてくれる人がいないと、東京のドラァグクイーンシーンに潜入するのは難しいかもしれない。しかし、ひとたびこの世界のトップのクイーンたちを紹介してもらって、どこでパフォーマンスするかという情報さえ手に入れば、この街はもう自分のものだ。

このリップシンクのプロたちが新宿のステージを圧倒するのを観れば、いつもの日課のシャワーなどどうでも良くなるだろう。一般に信じられているのとは反対で、ドラァグクイーンのショーは、LGBTコミュニティーのためだけのものではない。多彩なクイーンとそのアルターエゴたちが織りなすステージに、誰もが夢中になる資格があるのだ。

インタビュー:ブルボンヌとエスムラルダ
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※2014年12月発行『タイムアウト東京マガジン5号(英語版)』に掲載した日本語翻訳記事を転載

近年、日本のテレビのバラエティー番組では、「女装」タレントを非常によく見かけるようになった。日本の芸能界においては、「オネエ系」と呼ばれ、一つのジャンルを築き上げるほどの人気となっている。 セクシャルマイノリティーへの極度の差別を目にすることは比較的少ない一方、まだまだ偏見が根強く残り、同性愛を公言する芸能人や政治家、実業家なども極端に少ない日本において、「女装」だけが熱烈な歓迎を受けているのはなぜだろうか。

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熱気を帯びるLGBTQ+コミュニティーのパーティーシーン。ゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィアなど、あらゆるセクシュアリティー・ジェンダーの人たちが足を鳴らして、自分たちの存在を光らせている。

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