Strondh family SEX:私の場合 #7-croped
Photo: Keisuke Tanigawa

「ファンタジーをリアルに変える」Strondhファミリーのドラァグクイーン観

SEX:私の場合 #7 新宿二丁目で活躍する新たな「家族」の物語

編集:
Hisato Hayashi
テキスト:
Honoka Yamasaki
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ドラァグクイーンは、単に派手で独創的なだけではない存在だ。豪華絢爛(けんらん)なエンターテイメントが繰り広げられる裏には、公では語られないようなさまざまなドラマがある。

ライター、ダンサーとして活動する筆者の、高校時代からの友人であるVera Strondh(ヴェラ・ストロンジュ)は、さまざまなシーンで活躍するドラァグクイーン。「一緒に踊らない?」という彼女の一言から新宿二丁目のイベントに出演した際、Veraの「ドラァグマザー」であるVictoria Strondh(ヴィクトリア・ストロンジュ)と「ドラァグファザー」のMarcel Onodera(マルセル・オノデラ)に出会った。

3人は「Strondh」(ストロンジュ=マザーのVictoriaがもともと使用していたファミリーネーム)という名前のもと、2018年から活動している。日本ではあまり馴染みはないが、ドラァグシーンでは「ドラァグファミリー」と呼ばれる家族を構築し、母親が娘にドラァグの世界での振る舞いを教えることもある。 まだまだ謎が深いドラァグファミリーの実態を、インタビューを通して明らかにしていく。

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ドラァグファミリー「Strondh」の出会い
Marcel(左)、Vera(中央)、Victoria(右)。3人でいる時は好きな歌手や仕事の話をしたりと話題が尽きない(Photo: Keisuke Tanigawa)

ドラァグファミリー「Strondh」の出会い

ーまず、3人の出会いについて聞かせて。

Victoria:自分とマルちゃん(ファザー、Marcel)との出会いは2014年。友人と二丁目のクラブにいたら、偶然マルちゃんを見つけて「かわいい!」と思ったの。

Marcel:あの日、遠くからVictoria(マザー)が見えて、僕も一目ぼれしたんだよね。Victoriaがトイレに行こうとした時に話しかけて、連絡先を交換した。そこから毎日のように一緒に過ごして、気付いたら8年が経過していた。

Strondh family

ドラァグマザーのVictoriaとファザーのMarcel。一度も喧嘩をしたことがないほど、仲がいい2人(Photo: Keisuke Tanigawa)

ーVeraと出会ったのはその後?

Victoria:2人の出会いの4年後、2018年だね。自分は「イーグル トウキョウ」という二丁目のゲイバーで働いていて、すごく酔っ払った状態でお店に来たVeraのことを覚えてる。

Vera:当時は家族のことで悩んでいて、二丁目でお酒を飲むことしかすることがなかったの。けど、マザー(Victoria)はお店に行くといつも話を聞いてくれたし、ほかのスタッフも優しくしてくれた。別の二丁目のクラブで「お掃除女装」(女装をして掃除などの業務をするスタッフ。Veraによる造語)として働いてたんだけど、イーグル トウキョウのマネージャーに誘われてマザーと同じお店で働くことになったの。

Vera

VeraはファザーのMarcelを「Daddy Marcel」、マザーのVictoriaを「Mother」と呼んでいる(Photo: Keisuke Tanigawa)

Victoria:その少し後、Veraからの連絡が途絶えた時期が1カ月間あった。その時は自殺したのかと本当に心配だった。

Vera:あの頃、毎日のようにお酒を飲んでその様子をFacebookに投稿していたんだよね。それを見たフィリピンの伯母さんが心配して「帰ってきなさい」と言ったの。それで自分はそのまま飛行機に乗って、故郷に帰ることになった。

フィリピンに帰国したらお酒やたばこは禁止されて、みんなが敵のように思えてきて……。スマホを触ることもなく自分の部屋にずっとこもってた。1カ月後、1月のある土曜日の昼に日本に入国して、夕方にはみんなのいる二丁目に戻ったの。

Victoria:当時、Veraには自信がなかったけど、踊れるしステージの経験もあるし、彼女にはいろんな才能が隠れていると思ってた。だから日本に戻ったVeraに「お掃除女装」ではなく「ドラァグクイーン」として活動することを提案してみたんだよね。

Vera:それから、「Strondhファミリーの娘」としてドラァグクイーンを始めた。

家族でパフォーマンスを作り上げること
イベント「Swish」でパフォーマンスするVictoria(Photo: Swish)

家族でパフォーマンスを作り上げること

ードラァグクイーンとしてステージに立つVictoriaとVera、衣装やメイクのサポートをするMarcelの仕事内容は?

Victoria:自分が変なアイデアを出して、それをマルちゃんが形にする。Veraはダンサーの経験が長いから、持っている振り付けや魅せ方を広げる。自分がハロウィンのイベントに向けて考えたのは、3つのおっぱいがほしいということ(笑)。そして、ウィッグを取ったらハゲ頭になるショーがしたかった。

Marcel:僕はアイデアを聞いて、衣装やウィッグを作ったり、メイクを手伝ったりする。どんなことも一度できるかどうかを考えて、できるだけ形にするようにしてる。だから、次は何が来るのかすごく怖い……。

Vera:2021年の花見がテーマのイベントでは花魁(おいらん)をやることになって。毎日みんなで花魁の動画を見てしゃべり方や動き方を勉強してたよね。気付いたら朝の4時になることもあった。

Vera and Victria

VeraとVictoria。この衣装もMarcelが手がけたもの

ーいつも斬新なアイデアを出しているけど、2人の中でテーマはある?

Victoria:自分は羽やダイアモンドを付けたり、テーマはとにかく派手にすること。逆にVeraは、ギャル要素の強いストリート系かな。

Marcel:だから、2人の衣装のベースが全く違う。Veraはダンスがメインのショーをするから動きやすい衣装を。逆にVictoriaはあまり動かないけど、遠くからでもキラキラして見えるゴージャスな衣装を作る。本番は、「衣装が取れないか」とか考えながらショーを見るから、おなかが痛くなるほど緊張するよ。

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日本のドラァグシーンと外国人としての葛藤
Victoria(左)、Vera(中央)、Marcel(右)VeraとVictoriaが働くイーグルトウキョウ ブルーの前で(Photo: Keisuke Tanigawa)

日本のドラァグシーンと外国人としての葛藤

ードラァグクイーンの世界で活動する中でプレッシャーに感じることは?

Victoria:自分たちのこと、イーグル トウキョウの名前を背負っていること、いろんなプレッシャーがある。活動当初は「イーグルクイーン」と呼ばれてたしね。

Marcel:あと僕たち3人は外国人だから、日本人の10倍頑張らないと認めてもらえない。

Vera:今は何言われても「I don’t care.(気にしない)」だけど、やっぱり外国人としてのハードルは感じる。例えばゴーゴーダンスのショーがある時、自分より歴の長い日本のドラァグクイーンよりも目立つ位置で踊れなかったり、楽屋に着いても「ごめん、もうスペースがないの」と言われたり。

だから活動し始めた時、マザーとダディの家でメイクを済ませてから会場に向かっていた。そうしたら、楽屋に自分のスペースがなくても問題ないでしょ。

Vera

Vera。最近は目元にストーンをつけるメイクにハマっている(Photo: Keisuke Tanigawa)

Marcel:相手にもよるけど、先輩と後輩の上下関係を感じることは多いよね。「目立つことはダメ」って。先輩よりきれいな衣装を着て派手に踊ることは、あまりよく思われないかもしれない。

僕たちは、「ほかのドラァグクイーンが派手にしているから、自分も負けないようにしよう」と考える方がいいと思う。そっちの方がお互いに高め合えるしね。

ードラァグクイーンの中でも若いVeraは目立っていた?

Vera:デビューした2019年はまだ21歳。当時は最年少で目立っていたかもしれない。

Marcel:もちろん我慢しなきゃいけないこともあるけど、僕たちはVeraを外から守ろうとしてた。

Victoria:Veraに理不尽な態度を向ける人がいたら「お前気をつけなさいよ」とよく言ってた。自分たちは二丁目に8年間もいるし、お店の看板も背負っているから。

だってVeraは若いし、ちゃんと踊るし、明るいし。絶対にお客さんが好きになると思っていて、それだけにいじめられることは分かってた。

Vera and Victoria

VeraとVictoria(Photo: Keisuke Tanigawa)

Marcel:特にダンスクイーンは、一部の人から目立ちたがり屋だとかわがままと言われることがあるからね。けど、どれだけ理不尽な目に遭ってもVeraはステージでは魅せるから、周りは徐々にいじめても意味がないことを理解し始めたと思う。

Victoria:当時のVeraには「あんたの次にも新しいクイーンが出てくるから、絶対にいじめないで。自分がされて嫌だったことはしないでね」と言った。それよりもいじめの文化を壊して、みんなが優しくて助け合える新しい文化を作りたいからね。

常にお互いを思い続けるファミリー
Photo: Keisuke Tanigawa

常にお互いを思い続けるファミリー

ー本当の家族のようにお互いを思っているんだね。

Victoria:私たちの場合、ドラァグクイーンをしている時だけじゃなくて、常に家族としてお互いのことを考えてる。それが本当のドラァグファミリーなんじゃないかな。

Marcel:家族それぞれ困ることやできないことに、「いいんじゃない?」とか「いや、やめた方がいい」という意見を出し合えば、もっと素晴らしいものができると思う。

Victria and Vera

VictoriaとVera(Photo: Keisuke Tanigawa)

ーたしかに、いつも意見を出し合っているよね。3人がファミリーになる前と後で何か変わったことはあった?

Vera:昔はとても頑固だったけど、マザーとダディがしっかりと意見を言ってくれたおかげで、少し性格が柔らかくなったと思う。

Victoria:出会った当初は、Veraは頑固な子どもだった。本当に大変でした(笑)。

Marcel:大変だったけど、もともと才能があったし絶対にできる子だと思ってた。どうやって彼女のエネルギーを最大限に発揮できるか考えながら、僕たちから教えられることは教えるようにしていたかな。 ーいろいろな経験を経て成長したんだね。

Vera:そうなの。今でも覚えているのは、初めてドラァグクイーンとしてショーをする予定だった「イーグル トウキョウ ブルー」のイベントに参加できなかったこと。14時からリハーサルがあったのに、起きたのは17時……。

イベントに呼んでくれた友達のKenjiから「girl、あんたクビ!」と連絡が来て、マザーに相談したのを覚えてる。そこでマザーは「時間を守りなさい」としっかり注意してくれた。

Victoria:思い返すと、自分たちが若い時にちゃんと注意してくれる人はいなかった。Veraがドラァグクイーンとして活動したいという意思があったから、そのためにしなければいけないことを教えた。少しずつメイクもうまくなったしね。

Marcel:自分のことは自分で分からない時もあるけど、外から見たらはっきり分かる。教えてくれる人は、たまには必要だね。

Vera and Marcel

メイク中のVeraとMarcel。準備中にもアイデアを出し合うことが多い(Photo: Keisuke Tanigawa)

Vera:だからドラァグクイーンを始めた時は、自分でメイクをする前にダディにお願いした。毎回メイクしながらやり方を教えてくれてたの。例えば、自分は目が垂れ目だからアイライナーを少し上に向けて引くとか、唇にグリッターを付けた方がリップシンクがはっきり見えるとか。

今は、昔嫌いだったものを全部使ってる(笑)。グリッターも使うし眉毛も隠す。少しずつ、どうするべきかが分かるようになったと思う。

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さらなる上のレベルを目指して
Victoria(左)、Marcel(中央)、Vera(右)(Photo: Keisuke Tanigawa)

さらなる上のレベルを目指して

ー最後に、Strondhファミリーは今後どうなりたい?

Marcel:考えるだけで緊張しちゃうな。VeraとVictoriaはショーを重ねるたびにレベルが上がっているから、毎回少しずつ衣装も派手になってる。毎回こだわりが強くなるし、リクエストも増えていく。プレッシャーを感じるけど、挑戦だと思って頑張ります。

Victoria:私は今後、もっと派手になりたい!

Marcel:ほらほら、やっぱり……。昨日、2023年1月に2人が出演する「OPULENCE」というイベントのメールが来て、ソワソワし始めた。「ZEPP ダイバーシティ東京」で開催される大きなイベントだからもっと派手にしなきゃいけないと思って、ずっと小林幸子の動画を見てるよ(笑)。

Vera:自分は、今後どうなりたいかは分からない。急にアイデアが出てくるから。けど、もっとギャルっぽくして激しいドラァグクイーンのイメージを強くしたいかな。

Marcel:ファンタジーからリアルに変えるのは大変だけど、今後もStrondhファミリーは成長していくよ。

Contributor

「SEX:私の場合」

  • LGBT

「性」とは、性別・性的指向・性自認を表すと同時に、人間の自然な側面を表す「さが」としての意味を持つ。性の在り方はLGBTQ+だけでなく、シスヘテロを含む全ての人が向き合う話題であり、当事者なのだ。

「シスヘテロ」とは、「シスジェンダー」(生まれた時に割り当てられた性別と自認する性が一致する人)と「ヘテロセクシュアル」(異性愛者)を合わせた言葉であり、世の中ではいわゆるマジョリティー側を指す。一方で、シスヘテロではないLGBTQ+やクィアはマイノリティーとされている。

本記事は、LGBTQ+やクィアが日々問われる質問をシスヘテロにインタビューし、性の当事者としてともに考えていくための新企画だ。

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  • LGBT

性教育パフォーマーを名乗るドラァグクイーンがいる。その名もラビアナ・ジョロー。端正な顔立ち、豊満な尻、青々と生い茂った胸毛。それを笑う者でさえも、いつしか彼女の魅力に吸い込まれていく。

軽快なトークときらびやかな踊りを披露する独特なパフォーマンスは、後に問いや話題のきっかけを生み出す。それは、彼女が培ってきた性の知識と社会の影に潜む問題をパフォーマンスと融合させ、我々に問いかけているからだ。ラビアナはなぜ胸毛を見せつけ、表現し続けるのか。話を聞いてみた。

  • LGBT

サラリーマン勤務時代を経て、23歳でアダルト業界に足を踏み入れたにしくん。身長109cmの元AV(アダルトビデオ)監督兼男優として才能を開花した彼は、まさに「等身大」で活躍する人物だ。

監督作品の中には「アクシデントでカラダが小さくなった成人男性」という設定でストーリーを展開することも。アダルト業界に新たな風を吹き込むにしくんに、タブー視されがちな障がい者の性を明るみに出そうと考えたきっかけを聞いてみた。

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  • LGBT

現在、「婦婦(ふうふ)」として3人の息子を持つ、エリンとみどり。二人が結婚した後、エリンは自身の性に対する違和感から、出身国であるアメリカ合衆国でトランジション(性別移行)を行った。しかし、日本では同性間の婚姻が認められない。そのため、二人は婚姻関係を解消するか、本来の性ではない「男性」のままでいるかの二者択一をせざるを得ない現実に直面した。

2021年、同性婚が認められない現状に対して、二人は国を相手取り裁判を起こしている。そんな二人に、について話してもらった。

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