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「なぜ異性が好きなの?」シスヘテロ当事者にインタビュー(前編)

SEX:私の場合 #5 自分のセクシュアリティーと向き合う回答を紹介

編集:
Hisato Hayashi
テキスト:
Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ > SEX:私の場合 > 「なぜ異性が好きなの?」シスヘテロ当事者にインタビュー(前編)

「性」とは、性別・性的指向・性自認を表すと同時に、人間の自然な側面を表す「さが」としての意味を持つ。性の在り方はLGBTQ+だけでなく、シスヘテロを含む全ての人が向き合う話題であり、当事者なのだ。

「シスヘテロ」とは、「シスジェンダー」(生まれた時に割り当てられた性別と自認する性が一致する人)と「ヘテロセクシュアル」(異性愛者)を合わせた言葉であり、世の中ではいわゆるマジョリティー側を指す。一方で、シスヘテロではないLGBTQ+やクィアはマイノリティーとされている。

本記事は、LGBTQ+やクィアが日々問われる質問をシスヘテロにインタビューし、性の当事者としてともに考えていくための新企画だ。

今回、企画に参加してくれるシスヘテロ当事者は、男性29%、女性71%と女性の割合が多い結果となった。年齢・職業・性別に偏りがないよう考慮したうえで、6人の当事者に取材を実施している。

質問は以下の5つ。いずれも、セクシュアルマイノリティーが日常で聞かれることの多い問いかけを用意した。

  • シスヘテロだと思ったきっかけは?
  • カミングアウトはしましたか?
  • シスヘテロとして生きづらさを感じたことはありますか?
  • シスヘテロとして感じられる幸せはありますか?
  • 今後どのような社会を願っていますか?

自分のセクシュアリティーとは何か。一度自分に問いただしてみると、新たな発見があるかもしれない。

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SEX:私の場合

「消去法でいうと女性を自認しています」
Photo: 雅咲

「消去法でいうと女性を自認しています」

雅咲(シスヘテロ女性/25歳/接客業/Zine制作)

Instagram /Atem(ウェブマガジン)/Un ( ). (Zine)

ーシスヘテロだと思ったきっかけは?

今まで「敷かれたレールを歩んでいる」感覚があるのと、おそらく自分を形容するときにかけられる言葉が女性であることが影響して、シスヘテロ女性を自認しています。女性にはなりたくないけど、「ノンバイナリー」(性自認を「男・女」といった性別の枠組みに当てはめないこと)かといわれるとそうではない感覚があるので、消去法的にも私は女性です。

ヘテロセクシュアルだと思うのは、性的な欲求を満たすときに求める相手が男性だからです。ただ、自分のことを女性だと思っていても、世間から女性であることを意識させられることは苦手で、その分男性性を強く求める傾向があると思います。

ーカミングアウトはしましたか?

ジェンダーやフェミニズムを発信するときに、シスヘテロの視点として意見を述べる文脈で伝えたことはあります。シスヘテロが多い社会構造の中で、いわゆる同性愛者のように隠してきたアイデンティティーを公言する経験はありません。

ーシスヘテロとして生きづらさを感じたことはありますか?

私はマジョリティーなので生きづらさといっていいのかは分かりませんが、女性であることにモヤモヤすることはあります。例えば、結婚式がすてきだとか、子どもを産むと人生が変わるような語られ方をしているとつらく思います。

あとは、過去に建設現場で働いていたことがあり、その会社の面接で「男ばかりで寂しいけど、女性がいると華があって和む」と言われました。今でも女性はケアする存在のように語られることが多く、スキル面ではない側面で雇われていることには納得できません。

ヘテロセクシュアルとしての生きづらさは、今のところ感じたことはないかもしれません。

ーシスヘテロとして感じられる幸せはありますか?

世の中には、映画や広告など、シスヘテロを前提としたコンテンツがあふれているので、それに対して違和感を覚えることはありません。マイノリティーの問題を無視してしまっていますが、シスヘテロにはロールモデルがあるので、それに乗ってしまえばある程度努力しなくても権利が与えられるとは思います。

ー今後どのような社会を願っていますか?

シスヘテロがいかに特権を持っているかを自覚する社会になってほしいです。シスヘテロが不自由なく生きている一方、同じ社会でほかのセクシュアリティーやジェンダーの人たちが差別を受けています。想像力を働かせて違う側面をみることで、シスヘテロの持つ特権をうまく利用できるのかなと思います。

「日本にいる日本人が国籍を意識せずに過ごすことと似ている」
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「日本にいる日本人が国籍を意識せずに過ごすことと似ている」

黄さん(シスヘテロ男性/30代/研究者)

ーシスヘテロだと思ったきっかけは?

今のところシスヘテロを自認しています。確信が持てないのは、学生時代に同性の友人と2人きりでアダルトビデオを見ていたとき、隣に座っていた友人に対して「かわいいな」という感情が生まれた経験があるからです。あとは、男性を恋愛対象とする同級生に好意を寄せられたことがあり、一瞬気持ちが揺らぎました。

この揺らぎが一時期の迷いなのか、思い込みなのかはいまだに分かりません。ですが、男性同士のアダルトビデオを見て興奮するとは思えませんし、迷った結果、同性愛者ではないと位置付けています。

ーカミングアウトはしましたか?

好意を寄せてくれた同性の友人に、男性は恋愛対象ではないことを伝えたことがあります。

ーシスヘテロとして生きづらさを感じたことはありますか?

シスヘテロであることは、日本にいる日本人が自分の国籍について何も考えずに過ごせる感覚と近い気がします。そこまでの苦悩は経験していませんが、いくつかの側面が当てはまると考えています。

私は子どもの頃から運動神経が悪く、けんかも弱く、いわゆる男性らしさはありませんでした。当時そのことを気にしていたせいか、自分の内面には、女性に対する蔑視もあったんです。

中学時代はクラスの7割がヤンキーで、私はその人たちと仲良くしながら勉強するタイプでした。ヤンキーの人たちは、筋肉をつけてけんかで勝った人が強い世界観で生きていることを知り、いわゆる男性らしさがない方が生きやすいと思いました。そこから徐々に自分の中にあるコンプレックスは少なくなりましたね。

普段男性らしくしている人でも抑圧されていることはあると思います。昔カフェでバイトをしていたときに見た、サラリーマン4人がイチゴパフェを楽しそうに食べている姿は今でも印象的です。普段仕事でブラックコーヒーを頼まなければならない雰囲気はあるけど、本当は甘いものが欲しいこともあるのだと、自分と同じような人がいることに安心しました。

もう一つ、出身の中国では、一人前の男性は子どもがいて家族を養う、といった考えが今でも根付いています。そんな中、妻の意思を尊重し、私たちは子どもをもうけない選択をしているのですが、実家に帰ると両親には毎回のように問われます。

「子どもを産まないことは妻による選択だ」と伝えると非難されてしまうため、両親には、私が決めたこととして伝えています。そのとき、男女による権力や家父長制(男や家長が家族の中で絶対的な支配権を持つ形態)に加担していると感じますね。

ーシスヘテロとして感じられる幸せはありますか?

差別的なことを言われたりすることは少ないので特に苦労はないですが、正直、シスヘテロであることに心からの幸せは感じられません。

ー今後どのような社会を願っていますか?

学生時代を振り返ると、同性の友人の思いに答えていたら、人生は変わっていたのかもしれません。なので、セクシュアリティーやジェンダーによって不幸になる人がいない社会を願っています。

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「その枠に収まることで説明が省かれる」
画像提供: pixabay

「その枠に収まることで説明が省かれる」

N.S(シスヘテロ女性/25歳/カフェ経営)

ーシスヘテロだと思ったきっかけは?

大学で自分のセクシュアリティーを問われる授業があり、そこで初めて自分がマジョリティーに位置付けられていることを知りました。

私は農家の生まれで、「古い価値観を持つ父親」と「寛容な母親」の間で育ちました。父親には「女の子はこうあるべきだ」という考えが根付いていて、父方の祖父母からは「早く結婚してほしい」「孫の顔が見たい」とよく言われます。

一方母親は、周りからの抑圧で「女性だから」と大学に行かせてもらえず、農家に嫁ぐことを歓迎されていた背景がありました。母親は自身の経験からそれを解放するような子育てを好み、私には大学への進学も望んでいましたし、恋愛にも口を出すこともありません。

母親の子育ての方針にある背景を知り、中学校は地元を離れ東京の学校へ通いました。そこで、初めて父親の価値観が典型的な田舎の価値観と似ていることに気付いたのです。そのことがきっかけとなり、大学からセクシュアリティーやジェンダーを学んでいます。

大学1年生のとき、同性と交際に近い形で過ごしたことはありましたが、それ以降、パートナーとなる相手が男性であることが続き、総合的に見ると、男性を好きになるのだと後から認識しました。

私の経験上、異性間・同性間の恋愛関係は異なる側面が少なかった一方で、世間からの認知は全く違いました。同性同士は少数派であることからか、私から提示しない限り世間から認知されませんでした。異性と交際していた方が受け入れられやすいですし、パートナーシップが強固なものになると感じています。

ーカミングアウトはしましたか?

一度もないです。今までカミングアウトを必要とする場面がなかったので、初めて同性と交際した時には、違う環境に行ってしまったかのように、足元が揺らぎました。

ーシスヘテロとして生きづらさを感じたことはありますか?

男女の友情は成立しないという説があるように、パートナーのいる異性と接するときは意識してしまいます。男性的に振る舞って敵ではないことを示したり、同じようにパートナーがいることを伝えたり、相手が自分の恋愛の対象にならないことを間接的に伝えるようにしています。

ーシスヘテロとして感じられる幸せはありますか?

「シスヘテロの枠」に収まることで、理解がない上の世代への説明がある程度省かれると思います。ですが、これが幸せなのかと問われると難しいです。裏を返せば、自分がどういう人なのかを考える機会が失われていることにもなるからです。

ー今後どのような社会を願っていますか?

自分はどんな人間でどういう人が好きか、自分のことを伝えられる社会になってほしいです。人間は面白い生き物なので、お互いのことを話し合えないのはもったいない気がします。

後編に続く

Contributor

シリーズを読みたいなら……

  • LGBT

本記事は、LGBTQ+やクィアが日々問われる質問をシスヘテロにインタビューし、性の当事者としてともに考えていくための新企画だ。前編では、ためらいながら言葉を探す人、自信を持って答える人、回答が見つからない人など、さまざまな面持ちで答える様子が印象的であった。

後編では、3人の当事者の回答を紹介する。セクシュアリティーについて、今一度自分に問いただしてみると、新たな発見があるかもしれない。

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  • LGBT

サラリーマン勤務時代を経て、23歳でアダルト業界に足を踏み入れたにしくん。身長109cmの元AV(アダルトビデオ)監督兼男優として才能を開花した彼は、まさに「等身大」で活躍する人物だ。

監督作品の中には「アクシデントでカラダが小さくなった成人男性」という設定でストーリーを展開することも。アダルト業界に新たな風を吹き込むにしくんに、タブー視されがちな障がい者の性を明るみに出そうと考えたきっかけを聞いてみた。

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性教育パフォーマーを名乗るドラァグクイーンがいる。その名もラビアナ・ジョロー。端正な顔立ち、豊満な尻、青々と生い茂った胸毛。それを笑う者でさえも、いつしか彼女の魅力に吸い込まれていく。

軽快なトークときらびやかな踊りを披露する独特なパフォーマンスは、後に問いや話題のきっかけを生み出す。それは、彼女が培ってきた性の知識と社会の影に潜む問題をパフォーマンスと融合させ、我々に問いかけているからだ。ラビアナはなぜ胸毛を見せつけ、表現し続けるのか。話を聞いてみた。

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  • LGBT

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)ポジティブをオープンにしながら、ノンバイナリー(性自認を「男・女」といった性別の枠組みに当てはめないこと)としての経験や考えを発信する中里虎鉄。ライター、雑誌の編集者、フォトグラファーの活動を通して、テレビや雑誌の出演、政治デモでのスピーチなど、さまざまなシーンで声を上げている。

筆者は、そんな情熱の持ち主である中里虎鉄と新宿二丁目で出会い、興味を抱いた。複数のマイノリティー性が重なり合う、彼女、彼でもない「中里虎鉄」という人間が、窮屈な世の中で訴え続ける理由とは何だろうか。

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