中里虎鉄
Photo: Kengo Ogawa中里虎鉄

「ノンバイナリー」「HIVポジティブ」、中里虎鉄が今伝えたいマイノリティーのこと

SEX:私の場合#3 生きづらい社会で声を上げ続ける意味とは

編集:
Hisato Hayashi
テキスト:
Honoka Yamasaki
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HIV(ヒト免疫不全ウイルス)ポジティブをオープンにしながら、ノンバイナリー(性自認を「男・女」といった性別の枠組みに当てはめないこと)としての経験や考えを発信する中里虎鉄。ライター、雑誌の編集者、フォトグラファーの活動を通して、テレビや雑誌の出演、政治デモでのスピーチなど、さまざまなシーンで声を上げている。

筆者は、そんな情熱の持ち主である中里虎鉄と新宿二丁目で出会い、興味を抱いた。複数のマイノリティー性が重なり合う、彼女、彼でもない「中里虎鉄」という人間が、窮屈な世の中で訴え続ける理由とは何だろうか。

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「男・女」が前提の世の中で
画像提供:中里虎鉄

「男・女」が前提の世の中で

ーノンバイナリーを自認したきっかけは?

生まれた時からノンバイナリーだったと思うけど、その言葉に出合ったことはなかった。虎鉄のジェンダーアイデンティティーが明確になったのは、2019年にサム・スミスがノンバイナリーであることをカミングアウトした時。

記事を読んで、自分の持つ男女二元論ではない考え方は「ノンバイナリー」という言葉が一番近いと感じた。今は「自認する」というよりは「ノンバイナリーな状態である」感覚の方が強いかも。

ーノンバイナリーにもさまざまな定義があるけど、虎鉄さんにとってのノンバイナリーについて教えて。

虎鉄は自分のジェンダーについて、男性でも女性でもないと感じている。「性はグラデーション」という言葉があって、端と端が男性と女性、その中間がノンバイナリーという考えはあるけど、個人的には円形のスペクトルの一部だと捉えてる。男性、女性、ノンバイナリー、そのほかのジェンダーがあちらこちらに点在しているイメージだね。

ー規範的なジェンダーに関する考え方が世間に広く根付いているように感じる?

洋服や髪形、化粧などが、直接ジェンダーと結びついてしまっていると感じる。今、エクステを付けて髪を伸ばしているんだけど、ロングヘアだから女性と判断されることもある。逆にショートヘアの時は男性として話しかけられることが多い。男女二元論が前提となるコミュニケーションは、まだまだ世の中にあふれている。

ー「男・女」の前提で話しかけられたら、相手にはなんて言うの?

「虎鉄はノンバイナリーというジェンダーで、男女どちらでもないんですよね〜」ってカジュアルに伝える! セクシュアリティーについては「マセクシュアル(*1)」と答えているけど、場合によっては「男性が好き」と言うかな。教科書モードじゃなくてパーティーモードの時もあるからね(笑)。

*1性自認を問わず恋愛感情や性的欲求が男性に向いているセクシュアリティーのこと

知った後の行動が大事
Photo: Kengo Ogawa

知った後の行動が大事

ー自分のアイデンティティーを伝えると、どんな反応が返ってくる?

事実に対して受け止めてくれる人は多い。ただ、ノンバイナリーについて知った後、当事者に対するコミュニケーションの仕方や、男女二元論が前提となるシステムや公共デザインをどのように変えていけるか考えられる人は、ごくわずかだと感じるかな。トランスジェンダー男性やトランスジェンダー女性までは、男女の中での移行だから想像できる人は多いけど、男女以外の話になると受け止めるまでで終わってしまうから。

ーどうしたら、知るだけでなく行動につながると思う?

大事なのは、制度を整えることだと思う。みんなの知識や理解が追いついていないと、制度を作るのは難しいという意見は理解できるけど、LGBT差別禁止法もない状態で当事者が自分のアイデンティティーを公にするリスクを負ってまで声を上げるのはハードルが高い。だからこそ、当事者が生きやすい、声を上げやすいと感じられるシステムや公共デザインをまずはどんどん作っていくべきじゃないかな。

もう一つは、ロールモデルを増やすこと。個人的には、宇多田ヒカルが「自分はノンバイナリーだ」とカミングアウトしたことはうれしかった。著名人や権力を持った人がカミングアウトすることで、たくさんのメディアに取り上げられ、多くの人が知ることにつながる。

そして、全ての人が平等に扱われるべきという本来あるべき機会を取り戻そうとすることで、同じ悩みを抱える人たちへのエンパワーメントにもなる。もちろん、当事者全員が前に出る必要はないし、できることではないんだよね。だからこそ、虎鉄は自分のできる範囲で行動しようと思ってる。

ーノンバイナリーに関するさまざまな認識に対して、どのように感じる?

中には個人的な考えとは違うこともある。けど、そうではないものを決めつけるより、迎え入れる幅を広げることを心がけてる。

宇多田ヒカルのカミングアウトに関して、「女性の役割から逃げたいだけなんじゃないの?」「この人は真のノンバイナリーではない」という意見があったけど、本人がどのような思いでカミングアウトをしたのかは分からないし、第三者が「こうあるべき」「こうではない」と判断するのは不可能だよ。

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HIVポジティブとしての発信
Photo: Kengo Ogawa

HIVポジティブとしての発信

ー最近では、HIVに感染した経験を発信しているよね。そのきっかけは?

LGBTQ+当事者としてHIV感染について発信する主な理由は、HIVに関する誤解や偏見を少しずつクリアにしていきたいから。虎鉄自身も、2020年に感染するまで、HIVに関する知識が圧倒的に足りなかったんだよね。いざHIVポジティブと言われて、「今後セックスできないのかな」「恋人を作るハードルが上がるのかな」「他人にうつしてしまうのかな」とか、すごく不安だった。

だけどHIVポジティブとして過ごす中で、治療をしっかり進めていけば、相手に感染するリスクはほぼなくなること、セックスもできることなど、新しい気付きがたくさんあったの。

ーたしかに、HIVに関する偏見は多いよね。

HIVは一生治らない病気として認知されているけど、投薬治療を続ければ、ウイルスが検出不可能値まで抑えられて、性交渉しても相手に感染させないことが科学的に証明されてる。だけど、これはまだまだ広まっていないと思う。

U=U」といって、抗HIV療法を始めてから1〜6カ月で血液中のウイルスが検出されない状態になって、そこから半年間その数値のまま抑えられたら、性交渉をした相手にHIVを感染させることは一切ないと証明されているの。

ー自身のnoteでもHIV感染について発信していたよね。

コンドームを着けないことへの同意がないまま行為をして、HIV感染者であることをつづった記事を出した時、それを読んだイギリスに住む友人がはっきりと「あなたが受けたことは性暴力だよ」と言ってくれたの。そのとき、パワーバランスがある中での行為が性暴力であったと認識できた。自分が「No」と言えなかったことを責めた時期もあった。発信を通して出来事を客観視することで、少しずつ事実を受け止めて心のケアができるようになったかな。

ーノンバイナリーかつHIV感染者として過ごす中で、困難に感じることはあった?

HIVの疑いがあって病院に行った時、医師から「この1カ月の間で性交渉しましたか?」「相手は男性ですか?」と聞かれたんだよね。「はい、そうです」と答えると、HIV感染の可能性が高いことを伝えられた。

虎鉄はアイデンティティーをオープンにしてるけど、不必要に自分のセクシュアリティーを言わなきゃいけない状況への違和感や、ノンバイナリーであることが考慮されず「男性同士」の性交渉が前提で話しが進むことへの居心地の悪さ、そもそも男性と性交渉をしたことを聞く必要性はあったのかなど、複雑な感情が入り混じってた。

HIV感染後の変化
Photo: Kengo Ogawa

HIV感染後の変化

ー病院では気持ちの面でのサポートはあった?

ソーシャルワーカーさんは親身にいろいろ聞いてくれたり、不安に思っていることを話せる環境づくりに励んでくれたりしたかな。けど、HIVに感染した範囲でしかケアできないから、性暴力を受けたことについて話を聞いたり、必要な機関につなげてくれたりすることはなかった。そもそも、ノンバイナリー当事者が自分のアイデンティティーをオープンにした上でアクセスできる機関は調べてもヒットしなくて……。いまだに見つけられていないのが現状。

ー感染してからの2年間、気持ちの変化はあったりした?

虎鉄は「U=U」の状態になってからは感染に関してそこまで重く捉えることはなくなったけど、性暴力を受けたことに関してはまだ気持ちの整理がついていない。相手を起訴しようと考えたこともあったけど、アプリでセックス目的で会った人だったから、名前すら情報がなくて。

あの時のショックや不安が解消されない状態で、起訴するために弁護士事務所へ行って一から話したり、相手の情報を入手したりするのは難しかった。だから、今は自分の心をケアすることを優先してるよ。

ー状況や環境の変化もあった?

性暴力を受けたことやHIVに感染したことを公にすることで、新しく知り合った人とデートや性交渉する機会はすごく減った。このことはノンバイナリーであることをオープンにしたのと同じで、自分のステータスやアイデンティティーをオープンにし、かつそれがマイノリティーの中でもさらにマイノリティーであるほど、最初の段階で排除されることが多くなる。マッチングアプリ上でノンバイナリーだとプロフィールに書くことで、マッチする確率は圧倒的に低くなったと実感してる。

だから今はマッチングアプリを消して、オフラインで出会う人たちと深いコミュニケーションをすることに意識を向けているかな。

ーそういった変化を実感する中、今はどのような気持ちで自分の経験や考えを発信してる?

アクティビスト、表現者として、自分のステータスやアイデンティティーを発信することと、自分の恋愛やプライベートの充実が反比例しているように感じる。この現状が嫌になった時、発信をやめたいとか、海外に出たいと思うこともある。けど、多くの人々のアイデンティティーが尊重されることが大事だとも思う。日頃から何を優先して行動すべきかは悩むね。いろんな葛藤の中で発信してるのかもしれない。

ー最後に、タイムアウト東京の読者にメッセージをお願いします。

当事者が過ごしやすい社会をつくるために「当事者性を持つ」という言葉がよく使われてるけど、個人的には誰かを100パーセント理解するのは難しいことだと感じる。だから「LGBTQ+について考えてください」というよりも、周りと接する中で「自分が持つ特権や課題は何か?」を考えることが重要だと思う。

それが、マイノリティー性を持つ人たちと共存して、世の中に不平等があるという認識を持つきっかけになると信じてる。皆さん一緒に考えていきましょ!

Profile

フリーランスフォトグラファー、エディター、ライター(そのほか諸々手出しがち)なノンバイナリーギャル。 They/Them。

世の中の当たり前に「違和感」を問いかける雑誌『IWAKAN』が発売中。

Contributor

Honoka Yamasaki

Honoka Yamasaki

昼間はライターとしてタブーなトピックを発信する傍ら、夜はディープな街、新宿二丁目でドラァグクイーンと踊るダンサーとして活動。あらゆる性や嗜好について取材。メディアでは取り上げられにくい話題を、形式に捉われずに発信する雑誌purple millenniumを運営。

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