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同性婚を巡る判決、LGBTQ+の開かれた未来へ

日本初の司法判断を経て「私たちは透明人間じゃなくなった」

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Time Out Tokyo Editors
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タイムアウト東京LGBTQ+> 同性婚を巡る判決、LGBTQ+の開かれた未来へ

インタビュー、テキスト: Yuki Keiser

2021年現在、フランスやアメリカ、イギリス、ドイツ、台湾をはじめ、世界の数々の国で同性婚が法制化されているなか、日本では3月17日に札幌地方裁判所が「同性婚を認めないのは違憲」という歴史的な判断を下し、大きな注目を集めた。

同性婚が導入された時期や経緯、きっかけは国によって違うが、興味深いことにアメリカの同性婚の法制化も裁判から始まっている。ニューヨーク在住のEdith Windsorが、カナダ、トロントで結婚していた妻が亡くなった際、国に3,000万円以上の遺産相続税を請求されたことが発端だ。この場合、結婚している異性愛者であれば相続税がかからないことから、2010年にWindsormは訴訟に踏み切った。「結婚を男性と女性の間のみ」と定めた1996年のDOMA法が、彼女たちの結婚を国が認めない理由だったのだ。

当時、同性婚が可能なアメリカの州で結婚していても、同性カップルは遺産の税金軽減や国際結婚によってのビザなどの特権が得られなかった。その後2013年6月に、最高裁がDOMA法を違憲として17年ぶりに廃止し、2015年にはアメリカ全州に同性婚が導入された。個人の訴訟が、アメリカ全土のLGBTQ+の権利獲得に貢献し、そのおかげで多くの同性カップルがようやく家族になれたのだ。

そういった面で日本も現在、当時のアメリカに少し似ているのかもしれない。2015年から渋谷区や世田谷区などいくつかの地域で同性パートナーシップ宣誓制度が導入されているものの、国レベルでの権利獲得はまだないのが現状。しかし、同制度のおかげで、LGBTQ+の権利への意識が徐々に高まってきているのも事実だ。

今回、同判決を受けて、国内外のLGBTQ+事情に精通している市川穣嗣(Georgie Ichikawa)にインタビューを行った。市川はイベント『ミスターゲイジャパン』の創始者の一人で、2020年から彼が行っている同性婚賛同の署名活動も話題を集めた。LGBTQ+が直面する問題や同性婚の意義、同性パートナーシップ宣誓制度との違いなどについて話を聞いた。

「ジョージーが初めてのゲイの友達」
ミスターゲイジャパン

「ジョージーが初めてのゲイの友達」

市川さんは、日本で同性婚を認めるための同性婚賛同署名活動をされていますが、始めたきっかけや動機について教えていただけますか。

16歳から30歳までずっとロンドンに住んでいて、当時は特にLGBTQ+の活動はしていなかったんですね。悩みは多少あったものの、周りに分かり合える人がたくさんいたり、わりと 「普通」の青春時代を過ごせていたので。それで8年ほど前に日本に帰ったとき驚いたのが、小学校の同級生などいろいろな人にカミングアウトしたとき、「ジョージーが初めてのゲイの友達だね!」と言われたことです。LGBTQ+の人口からすると、僕が「彼らの初めてのゲイの知人」というのは考えられないので。

その後『ミスターゲイジャパン』を始めたのですが、イベントを重ねるごとに、「こういった大会も社会を変えていくきっかけになる」という感じのメッセージをたくさんもらうようになって。それで台湾で同性婚が導入された年に、イベントのテーマを「LGBTQ+の環境改善と同性婚への理解促進」にしたのがターニングポイントですね。

2020年の3月ごろ、ミスターゲイジャパン 日本代表選考会大会がコロナ禍で中止になったとき、僕たちに何ができるか運営チームや参加者と話し合って、同性婚賛同署名活動にたどり着いたんです。日本で起こされた同性婚裁判の支援などをしている『Marriage For All Japanに相談し、彼らの活動を私たちなりにほかの角度からサポートして世間によりインパクトを与えられたら、と思いました。

公の場で裁判官が承認「私たちは透明人間じゃなくなった」
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公の場で裁判官が承認「私たちは透明人間じゃなくなった」

―札幌地裁の判決を予想していましたか?

正直、うまく流されて終わると思っていたので、意外にポジティブだなと思いました(笑)。この判決で同性婚ができるわけじゃないので、まだ「勝ち」までは遠いと感じていますが、間違いなく大きな一歩ですね。ニュースを聞いた時、本当にうれしくて! 今でも考えただけで涙が少し出ちゃいそうです(笑)。

というのも、それまでは日本でLGBTQ+の人は透明人間みたいな存在だったんです。みんな何となくそういう人がいると理解はしているけれど、まさか身近にいるとは思っていなかったり、差別があること自体に気付いていなかったり。今回一番心に響いたのが、「差別がある、何か間違っているよね」ということを公の場で裁判官がはっきり言ってくれたことです。透明人間じゃなくなった、ここから始まったと感じました。

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直面して初めて分かる壁

―現在、日本にはいくつかの地域で同性パートナーシップ宣誓制度がありますが、市川さんの周りにパートナーシップ宣誓を行っているカップルはいますか? 

いますね。知り合いのレズビアンのカップルが2カ月ほど前に行っています。そして僕も、2021年の6月にパートナーシップ宣誓書を提出する予定です。日本に帰ってきたとき、ちょうど渋谷でパートナーシップ宣誓制度が始まって、当時はすぐ全国に広まると思ったんですけれど、結局あまりそうではなくて。

この宣誓書で「LGBTQ+の人は結婚できるんだね」と誤解している人が多いと思うんですね。良い前進でありつつも、ポジティブな面とネガティブな面の両方がある。例えばそのおかげで、保険会社などの企業がLGBTQ+カップルを認知するようになって、それは良かったんですけれど。実際ふたを開けてみたら、家庭裁判などの権利がなかったり、パートナーと一緒に住宅や車のローンを組めなかったり、国際カップルがビザを取得できなくて一緒になれなかったり。

例えば私は今38歳で、3、4年前から付き合っている人がいるんですけれど、そろそろ一緒に家を買ったり、車の保険を一緒に申し込んだりなどしたくてもできなくて。ああ! こういうことだったんだね!って(笑)。直面しないと分からない部分があると思うんです。自分もそうでしたから。

世論と政治とのギャップ
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世論と政治とのギャップ

―2013年、フランスで同性婚が導入されたとき、10万人以上の人が反対デモをしたり、2020年12月にスイスで同性婚の導入が議会で可決された際、反対の署名が5万件ほど集まって、秋に国民投票で決められることになってしまいました。これまで反発の声がいくつかの国で上がりましたが、日本で署名運動を行うなかで、反響はいかがでしたか? 

全体的にネガティブなメッセージはあまり来なかったです。Twitterなどで反対意見を目にしたり、「自分は別に結婚に興味ないし」「そんなことする必要ないよね、静かに暮らさせてもらいたい」といったLGBTQ+の人の意見も実際にありますが、やっぱり賛同する人が多い印象でしたね。

私たちにとっては、要望書を出してそれがニュースになる、というのが最終的な目標だったんです。署名活動に当たって、法務省の方などと1時間以上対談したんですけれど、結論としては国会の中で「同性婚を実現させよう」という姿勢がないんですよね。それが彼らの視点だから「今は同性婚は考えていない、ご意見ありがとうございました」で終わってしまうんです。

僕たちは政治的な団体ではないので、アピールできるのは感情だったり、世論的なところなんです。例えば、今は会場などで同性カップルの結婚式が普通に挙げられるので、一般的には受け入れられているけれど、政治的にはまだ問題がある、という世論と政治のギャップを感じています。

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国内外で子どもを産んでいる同性カップル
Photo: Marie S(unsplash)

国内外で子どもを産んでいる同性カップル

―おっしゃる通り、LGBTQ+のなかには結婚したくない人もたくさんいて、結婚や子どもを持つことだけが幸せのゴールではないと思いますが、したい人ができないのはやっぱり問題ですよね。タイムアウト東京でも以前、子どもを人工授精や代理出産で育てている同性カップルのインタビューをさせていただきました。私が知っている30代以上のアメリカの同性カップルのほとんどは結婚していて、その半分は子どもを産んでいるか、これから産む予定です。市川さんの周りにも、結婚をしていたり子どもを育てている同性カップルはいますか? 

日本で子どもを育てているカップルは知っていますが、友人のなかにはまだいないですね。イギリスやアメリカ、南アフリカなどではそういったカップルをたくさん知っています。新鮮だったのが、南アフリカで20代前半の既婚者のカップルが「来年は子どもをどうしようか」という会話をごく自然にしていたんです。ご飯を食べながらとか(笑)。一部の国では、もうそれが当たり前なんだな、と。

―同性カップルが異性カップルと同様に生殖補助医療ができるようになってから、本当に平等になったと感じられますよね。同性婚が導入されているフランスでも、同医療は結婚している異性カップルしか受けられないと法律で定められているので、廃止するべきかが定期的に議論されています。最後に、今後の展望などについて教えてください。

『ミスターゲイジャパン』としての活動や、声を挙げていくプラットフォームをもっと広げていきたいと思っています。若い世代の声を集めたり、彼らにつないでいけるかについて考えています。これまでの活動家たちがいろいろなことをしてくれたから、私たちもその恩恵を受けられているので。

例えば、第1回目の『ミスターゲイジャパン』で優勝したSHOGOさんも、この3年間ですごく成長したんです。日本の性教育に問題があると彼は感じていて、性教育についてのYouTubeチャンネル『日本一わかりやすい性教育のしょご先生』を開設しました。すでに3万人以上の登録者がいます。『ミスターゲイジャパン』の過程で、そういった若い世代も少しずつやりたいことができたのかなと感じたので、今後は若者に運営を任せたり、どんどん継承していきたいです。それによってまた違う視点や感性、興味、ネットワークなどができて、広げていけると思うので。

来年のイベントのテーマ活動も、もしかしたら同性婚ではなくて、性教育や子ども世代のLGBTQ+かもしれないですし。ちなみに、2022年のファイナリストをちょうど今応募しているので、興味のある方がいらしたら、ぜひ公式ウェブサイトから応募フォームにご連絡ください! ちょっと宣伝しちゃいました(笑)。

市川 穣嗣

日本初のゲイコンテスとであるミスターゲイジャパンの創立メンバーの1人。クリエイティブダイレクターとしてMGJを立ち上げ、現在は運営代表とし活躍する。またPUMA JAPAN Head of Creative and Designを務め、クリエイティブかつビジネスに特化した創造的なデザイナー、プロデューサー、映像制作など幅広く活躍している。今までにAlexander McQueen x PUMAのヘットデザイナーからY-3 / Youtube FanFest ( Google )の映像や1千200万回再生以上を廻すPVの制作などを成功に導く。

『ミスターゲイジャパン』公式ウェブサイト

Yuki Keiser

スイス生まれ。ジュネーブ国立大学文学部卒業後、東京大学大学院に2年間留学。その後、2013年まで東京でジュゼッペ・ザノッティなど、数々のヨーロッパのファッションブランドのエリア、PRマネジャーを務める。2011年に日本初のBOI本『Tokyo BOIS!』を執筆。現在は、カリフォルニア州のIT企業の人などに日本語 、フランス語 、ラテン語を教える傍ら、ヨーロッパのファッションイベントなどで日本の企業通訳やアドバイザーとしても活躍。

Yuki Keiser 公式ウェブサイト

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