ヨーナス・バリヘル(写真右)とミカ・ホタカイネン(左)
ヨーナス・バリヘル(写真右)とミカ・ホタカイネン(左)
ヨーナス・バリヘル(写真右)とミカ・ホタカイネン(左)

サウナマン まっちゃんが聞く、フィンランドのサウナ事情

本格サウナドキュメンタリー『サウナのあるところ』監督インタビュー

Mari Hiratsuka
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タイムアウト東京 > 映画 >映画『サウナのあるところ』インタビュー 

インタビュアー:松田宇貴
写真:豊嶋希沙

日本中で話題のサウナ。映画やドラマがつぎつぎに放送され、音楽フェスティバルなどでテントサウナを見かけることもしばしばある、というほどだ。

9月14日(土)に公開された、映画『サウナのあるところ』は、サウナで身も心も裸になったフィンランド人男性が、人生の悩みや苦しみを親しい人物に打ち明ける様子を写し出すドキュメンタリー作品だ。フィンランドでは2010年に公開され、1年以上のロングランを記録した。原題は『Miesten vuoro』。フィンランド語で「男の番」という意で、サウナで男女の時間を分けるときに使う言葉である。本作では、男性は寡黙であるほうが良いとされてきた歴史的背景と現在の男女平等が進んだ社会への新たな問題も垣間みることができる。

かつては、出産や葬儀をサウナで行ったフィンランド人にとっての「サウナ」は、日本人との大きな感覚の違いを改めて感じさせられた。ここでは、監督のヨーナス・バリヘル(写真右)とミカ・ホタカイネン(左)に作品についてはもちろん、フィンランドのサウナ事情やおすすめのサウナなど聞いてみた。

日本のサウナにビックリ、テルマー湯はトップ

ー自己紹介をさせていただくと、 僕は本当にサウナが好きで、サウナに関係する仕事をしています。なので今日お会いできるのを楽しみにしていました。早速、新宿のテルマー湯に行ったそうですがいかがでしたか。

ミカ:とても素晴らしかったです。特にサウナの部屋がとてもきれいなことは衝撃的でした。この41年間、フィンランドだけでなくさまざまなサウナに入りましたが、テルマー湯は本当に、トップに入るものでした。 サウナ内にテレビがあること(※1)にも大変驚きましたね。

(※1)テレビがあるサウナ室は、他国にはない。日本のサウナの特徴

ーまず、お聞きしたいのですが、なぜサウナを舞台にした映画を製作しようと思ったのでしょうか。フィンランドは自然が豊かで、お酒が好きな人も多い国だと思うんです。なので、サウナ以外でも本音を語れるような場所ってたくさんあるんじゃないかなと思いまして。

ミカ:次の映画のテーマを考えている時に、いつも行く公衆サウナ(ラヤポルッティ・サウナ)で気づいたことがあったんです。そこで20代の若者や60代の男性がとてもプライベートな話をしていました。この時、サウナは男性にとって特別な場所であると改めて気づかされたんです。それが大きなきっかけですね。

女性はカフェなど外で会話をして発散できるから、サウナでは以外と静かで、男性は外では話せないからサウナみたいなプライベートな場所で会話をすることに気付かされたんです。

ーテント式や電話ボックス、トラクターを改造したサウナなど、さまざまなサウナが作中に登場します。このような個性的なサウナで撮影したのはなぜでしょう。

ヨーナス:映画の中で撮影したサウナは、登場する本人たちが決めました。ここじゃなきゃダメだとか、一人一人こだわりがあって。フィンランド人にとってサウナは、それほど特別な存在なんです。お気に入りの場所となると、実家のサウナやおじいちゃん、おばあちゃんの家のサウナだったりします。

電気サウナに心地良く入る秘訣

ーサウナが特別な場所(存在)だとおっしゃられたのですが、お二人にとって特別な思い出があるお気に入りのサウナはありますか。また、その理由も教えて下さい。

ミカ:ひとつ選ばないといけないなら、父親がサマーハウスに建てたスモークサウナ(※2)のロウリュ(※3)は世界一です。ほかの場所では、あのような素晴らしいロウリュは体験したことがありません。

※2煙突のないログハウスを特殊なサウナストーブで、時間をかけて何時間も燻(む)し、その充満した煙で部屋を暖めるサウナ。入浴する際は、室内の煙を排出して使用する

※3熱したサウナストーンに水やアロマウォーターをかけ、蒸気を発生させること。または、蒸気そのものや蒸気で満たされた空間

ヨーナス:北極圏から60キロ南に木造の家を建てたんですけど、その家の中に薪で温めるサウナを作ったんです。今はそこが一番のお気に入りです。

あと庭に、50年前に建てられた使えないサウナ小屋があるので、近いうちにリノベーションしようと思っています。それも薪のサウナなんですけど。完成したら、きっとそこが自分の一番のサウナになるだろうと思っています。

ー薪のサウナが好きということですが、ヘルシンキなど都心部では電気ストーブ式が多いと思います。電気と薪の体感の違いはあるのでしょうか。

ミカ:一般的な電気サウナと薪のサウナの違いはご存じかもしれないですが、薪のストーブは下から空気が入る仕組みになっていて、それが蒸気を担っています。その蒸気が循環して、心地良いロウリュが得られるんですね。電気サウナは空気が大きく動いていないのでその時点で全然違います。

スモークサウナというのはまた別で、まず何時間もかけて石を温めるので、スモークサウナのロウリュが一番柔らかくて後味というか心地が良いですね。

ー感覚ではありますが、よく分かります(笑)。日本ではガスや電気のサウナがまだまだ主流なんですが、少しずつアウトドアサウナなどが、流行ってきて薪式のサウナを体験できる機会も増えてきています。

ヨーナス:僕は薪のサウナの、湿度と柔らかさが好きです。電気サウナは本当にカラカラなんですよ。

補足ですが、電気サウナに心地良く入る秘訣があって。入る直前まで電気を付けて、入るときにスイッチを消すと石だけが温まっている状態になるので、電気の刺激が薄れてより柔らかく入れます。

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「サウナに行こうよ」と言うのは暗号のようなもの

ー映画の話に戻りますが、登場人物はどのように選んだのでしょうか。

ミカ:もともと、男性の人生を通してのさまざまな出来事を話してほしいというテーマがありました。「こういう話をしてもらえたらいいね」というのは決めていたのですが、事前にどういう話を聞けるのか具体的には分かりませんでした。

ドキュメンタリー監督として、常に敏感に人を観察しているクセだったり、その人たちから敏感に読み取れるものや感じるものがあって、それに応じて、出演者を決めました。

ー皆さん、悩み事だとかちょっと重い話をしていますが、フィンランド人にとってサウナは深い話をする場でもあるのでしょうか。

ヨーナス:自分の体験として、この映画を作っていた時に200キロくらい離れたところに住んでいる友人から、「サウナに入りにこっちまで来れないか?」という電話があったんです。この時は忙しかったので断ってしまいました。しかし後々、これはサウナの誘いを口実に深い話をしたいんだということに気づいて、彼の元まで行ったことがあります。

なのでフィンランドの男性にとって悩みを打ち明けることを前提に誘うような。とは限らないんですけど、「サウナに行こうよ」っていうのはちょっと暗号のようなものなんです。

完全無音の状態を体験してほしい

ー映画を観て、ますますフィンランドに興味が湧きました。フィンランドのおすすめのサウナや、それ以外でもこういうことを楽しんでほしいなど、ぜひ教えてください。

ミカ:おすすめは、もちろんスモークサウナです。あと、湖の周辺にあるような薪式のサウナには入っていただきたいですね。

ヨーナス:フィンランドでは、場所というよりも文化を体験していただきたいです。なので、フィンランド人と知り合って交流をしてほしいです。おすすめは1週間ほど滞在して、半分をヘルシンキ、もう半分を自然が豊かなラップランドで過ごしていただきたいですね。

そして、ラップランドでは「静寂」を楽しんでください。個人的にとても好きなのが、2月の気温がマイナス35度ぐらいの中、サウナに入って外に涼みに出たときの、全く音が聞こえない完全無音の状態。それを体験してほしいです。

ー最後に、世界のサウナがこうなればいいな、など、今後のサウナそのものの可能性について教えてください。

ヨーナス:素晴らしい質問だと思います。現代はいろんな悩みがグローバルなレベルで増えていっていますが、その悩みを忘れられる場所として、どんどん活用していってほしいなと思います。

監督:ヨーナス・バリヘル(Joonas Berghäll)

国際的に評価されているフィンランド人監督の一人。本作でヨーロピアン・フィルム・アワードにノミネートされ、2010年米国アカデミー賞外国語映画賞のフィンランド代表にも選ばれた。本作や 『Mother’s wish』(2015)、最新作の『The Happiest Man on Earth』(2019)などは、個人的な視点から社会課題に焦点を当てている。プロデューサーとしては『Kaisa’s Enchanted Forest』(2016) 、2018年のフィンランド映画祭で上映された 『Entrepreneur』(2018)などを手がけた。 

監督:ミカ・ホタカイネン(Mika Hotakainen)

1998年からテレビ、映画業界で働いており、2004年にフィクションの監督としてヘルシンキ応用科学大学を卒業。本作のほかには、長編作品『Freedom to Serve』(2004)、『Ristin Tie』(2016)や短編作品『Visitor』(2006)、『Loose Wires』(2010)などのドキュメンタリーを制作している。

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インタビュアー:松田宇貴

サウナ好きが高じて、メディア業界からサウナをつくる某メーカーへと転職。日々、日本中のサウナを巡り、サウナ活動に勤しんでいる。その活動が評価され、2018年11月よりウェブで連載された漫画サウナマン』の監修を務めた。ウェブサイト上だけで終わらせたくないという想いから、2019年7月には『サウナマン展』を行い、一部のマニアから好評を得た。

サウナ好きなら……

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昨今のサウナブームにあっては、なんとなく知っているという人も少なくないであろうロウリュとアウフグース。どちらもサウナ浴の一環で行われるものなのだが、前者はフィンランド、後者はドイツと、それぞれ由来が異なる。ロウリュは、サウナストーブの中のサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させ、体感温度を上げる行為のこと。対してアウフグースは、ロウリュで発生した蒸気を専門スタッフ(日本では熱波師と呼ばれる)が入浴者に向けて扇ぎ、熱い空気を直接浴びせる、一種のイベントである。それぞれの意味は日本では混同されがちで、一緒くたにロウリュと呼ぶ場合が多い。かけ水はアロマオイルを混ぜたものを使用するのが一般的だ。 とにかく大量の汗をかくことができるロウリュ&アウフグースは、サウナ好きにとっては最高の楽しみであり、ビギナーにとってもサウナの醍醐味を知るきっかけとなる。本記事では、特にアウフグースに注目して、実施している施設を紹介する。もちろん、女性客に対応している施設もあるので、女性サウナーも安心して読んでほしい。

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東京、スーパー銭湯10選
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温浴施設があまたある東京。昔ながらの銭湯も風情があっていいが、ジェットバスや電気風呂、さらには岩盤浴やマッサージ施設を併設したスーパー銭湯も、レジャー感覚で利用できて楽しい。岩盤を使用したサウナ形式の入浴施設、岩盤浴は、ブームの去った昨今では専門施設が少なくなったので手軽に楽しめるスーパー銭湯が重宝される。タイやハワイアンなど様々なマッサージなども受けながら、代謝機能を上げる効果を期待したい。ここでは、健康ランドのように1日中滞在できそうな大型施設から、風呂好きの東京人が気軽に立ち寄れる、入場料1,000円以下のリーズナブルな温浴施設までをラインナップした。

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2018年、注目のリニューアル銭湯&ニューオープンスパ
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最も多い時で2600を数えた都内の銭湯の軒数は、東京都生活文化局によると、2016年で602軒、2017年は4月末の時点で584軒と、廃業の波は止まっていない。反面、2017年は雑誌やテレビにおいて、銭湯や温泉、サウナにまつわる特集が組まれているのを頻繁に見かけた印象もある。実際に、昨年にリニューアルまたは新たにオープンした銭湯やスパには、魅力的なものが多かった。殊に銭湯などの改築は、莫大な金がかかることはもちろん、後継者の問題をクリアする必要があるなど、ハードルの高い大仕事である。しかし、そうした厳しい状況だからこそ、熱意あるオーナーたちの間では、自らの理想を形にした魅力的な施設を作ろうという機運が高まっている。本記事では、タイムアウト東京が取り上げたこともある銭湯建築家 今井健太郎が新たに手がけた銭湯や、温浴業界に新風を吹き込んだ話題の施設など、2017年に登場した個性的な店を紹介する。

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