はすぬま温泉
はすぬま温泉

注目のリニューアル銭湯&ニューオープンスパ

恵比寿、蒲田、上野、三ノ輪など。2017年に登場した魅力的な銭湯とスパを紹介

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Text by 猿渡さとみ、三木邦洋

最も多い時で2600を数えた都内の銭湯の軒数は、東京都生活文化局によると、2016年で602軒、2017年は4月末の時点で584軒と、廃業の波は止まっていない。反面、2017年は雑誌やテレビにおいて、銭湯や温泉、サウナにまつわる特集が組まれているのを頻繁に見かけた印象もある。実際に、昨年にリニューアルまたは新たにオープンした銭湯やスパには、魅力的なものが多かった。殊に銭湯などの改築は、莫大な金がかかることはもちろん、後継者の問題をクリアする必要があるなど、ハードルの高い大仕事である。しかし、そうした厳しい状況だからこそ、熱意あるオーナーたちの間では、自らの理想を形にした魅力的な施設を作ろうという機運が高まっている。本記事では、タイムアウト東京が取り上げたこともある銭湯建築家 今井健太郎が新たに手がけた銭湯や、温浴業界に新風を吹き込んだ話題の施設など、2017年に登場した個性的な店を紹介する。

今井健太郎の新作銭湯

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  • 新宿
哲学堂銭湯 栄湯
哲学堂銭湯 栄湯

住宅街の中にある栄湯は開業30年目を迎える2017年に、約3ヶ月間の改装工事を経てリニューアルオープンした。設計を担当したのは銭湯デザインを多く手がける建築家の今井健太郎。昭和風だった改装前から、見違えるほどに洗練された銭湯に生まれ変わらせた。大胆なリニューアルに踏み切ったのは、地元への恩返しをしたかったからだと、オーナーの石田は力強く語る。

石田が今井にリクエストしたテーマは、「哲学」だ。地元の名所である哲学堂からインスピレーションを受け、浴室をそれぞれ「カントの湯」「ソクラテスの湯」、そして半露天風呂は「孔子の湯」と名付けた。また、サウナの天井には現代的な銭湯富士を描くことで知られるペインターのグラビティフリーによる釈迦が描かれている。 新たに設置した半露天風呂は、男女両方にあったサウナを週替わりの共有型にしたことで生まれたスペースを利用して作られた。 半露天風呂とサウナの男女入れ替えは毎週土曜日に行われる。運が良ければ、同店スタッフで日本銭湯大使のステファニーに会えるかもしれない。

今井健太郎のコメント
「近所の名勝、哲学堂公園に祀られている四聖=釈迦/孔子/カント/ソクラテスを4色の光り(黄色/オレンジ/青/紫)で表現し、浴室の照明演出としました。哲学の根本は「人がより生きるための知恵を見つける」こと。日常の中で自分を振り返ることができる浴室空間をイメージし、オフホワイトのタイルでデザインしました。」

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  • 板橋区
クアパレス藤
クアパレス藤

カラフルな海水魚が泳ぐ水槽と90年代J POPが流れるサウナ。このふたつが揃う銭湯は、要町のクアパレス藤だけだろう。リニューアルオープンは2017年12月。湯船や洗い場の配置はそのままに、今井健太郎の建築らしい凝ったタイルや、男湯と女湯を仕切る壁に植わる観葉植物がちょっとしたリゾート感を演出している。半露天風呂は、高い吹き抜けと浴室をのぞむ大きな窓のおかげで窮屈さを感じない。追加で300円を払って、懐メロが流れるサウナに入るのも忘れずに。

リニューアル後は遅い時間帯に来る若い層が増えたそうだ。大きな水槽の前で生ビール片手に湯上りを過ごす楽しみを知ってしまったら、誰でも足しげく通ってしまうだろう。日曜日や祝日は13時から店を開けるなど、日々の営業は決して楽なものではないはずだが、老若男女を迎える黄緑の暖簾が続いたことに地元民は感謝しているに違いない。

今井健太郎のコメント
「板橋の住宅地にあるクアパレス藤の特徴は『大きな水槽と沢山の植栽』があることでした。この特徴を生かし設計コンセプトを『テラリウム銭湯』としました。テラリウムとは地球環境を模しながらひとつの空間に凝縮した施設を言いますが、そのような概念を銭湯にマッチングさせた試みです。」

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  • 蒲田
はすぬま温泉
はすぬま温泉

住宅街に突如現れる漆喰とステンドグラスの建物。銭湯の多い大田区の中でもひときわ個性が光るのが、はすぬま温泉だ。3代目の近藤はこれまでも何度かリニューアルを行ってきたが、2017年は配管設備の工事もあり、最も大々的なものとなった。リニューアルのテーマは「大正ロマン」だ。館内の床板や脱衣所のロッカー、さらに漆喰の白い天井を照らすシャンデリアも木製という徹底ぶり。照明が青白いLEDでないのも、雰囲気作りに一役買っている。

浴室に入ると目の前に大きな湯船があり、男湯と女湯を貫く正面の壁には大きな滝の絵が描かれている。熱めの温泉風呂、炭酸温泉、そして水風呂と設備はいたってシンプルだが、どの風呂も壁にもたれかかって滝を眺められるよう設計されている。滝はよく見ると壁に直接描かれているのではなく、無数のタイルからできていることに気がつく。滝の流れの先にある鯉が2匹彫られた壺から、湧き出た温泉が注がれている。言うまでもなく、湯処の道後温泉を意識した造りだ。

休憩室には銭湯絵師の丸山清人による富士山の絵が飾られている。本来浴場内にあるはずのものだが、銭湯に来た記念を写真で残してもらうための配慮だと言う。大田区の観光特使を務める三代目の近藤ならではのアイデアと言える。「日本文化、銭湯文化の継承に少しでも貢献したい」という思いが詰まった銭湯だ。

今井健太郎のコメント
「日本の窓口であり、東京の窓口である羽田空港、そして品川に至近のはすぬま温泉。『旅情銭湯』を設計コンセプトとして、日本の郷愁を感じる空間造りを目指しました。はすぬま温泉の入浴体験を通じて、利用者がそれぞれの旅感を感じられるような空間演出をしています。」

ニューオープンのスパ&サウナ

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  • 上野
センチュリオンホテル&スパ 上野駅前
センチュリオンホテル&スパ 上野駅前

2017年7月にオープンしたセンリュチオンホテル&スパ。上野駅から徒歩4分ほどの場所にある同館は、外国人観光客にも人気のホテルだ。館内2階のスパは宿泊客だけでなく外来客も利用することができる。一番の特徴は、和を前面に出した内装だろう。女湯は大和絵の鶴、男湯は葛飾北斎の波が壁や天井に描かれている。まるで絵の中にいるような気分に浸ることができる。浴場には、ボタン式のジャグジーとバイブラのある湯船と水風呂、6人は入れるテレビ付きの遠赤外線サウナがある。洗い場は、珍しいシャワー室形式になっており、個室に入って汗を流すことができる。更衣室もゆったりとした造りになっている。マッサージチェアが6台置かれた休憩エリアに、壁一面に設置された鏡。ドライヤーや美顔器も置かれている。料金は、男性は3時間1500円、女性は1000円。3時間以降は30分ごとに500円追加となる。上野駅の近くということもあり、仕事帰りや旅行前に使えそうだ。

  • ホテル
  • 恵比寿

観光客向けの宿泊施設を手がけるナインアワーズが、2017年に開始した新業態「ドシー(℃)」。サウナと睡眠に特化したカプセルホテルだ。大きな特長は2つ。ひとつは、サウナストーブが焼け石に水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」が可能なフィンランド式で、客自らひしゃくを使ったセルフ式のロウリュを行うことができる点。サウナルームは低めの天井で、心地よい蒸気の循環が考慮されている。

もうひとつは、水風呂をあえて置かず、代わりにクールダウン用のシャワーを配置したこと点だ。シャワーは、15度、20度、25度、30度、常温と、温度別に並べられており、個人の好みに合わせた冷たさを選ぶことができる。常温のシャワーは、冬場は約7度になるという。客室数は、男性が102室、女性が60室。料金は、宿泊が4,900円〜、仮眠が1,500円〜、サウナのみが1,000円〜。なお、2018年4月20日(金)には五反田に2号店がオープン予定だ。

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  • ヘルス&ビューティー
  • スパ
  • 水道橋

都心のリラクゼーションスポットとして親しまれてきたスパ ラクーアが、初の大規模改装を行い、2017年10月にリニューアルオープンした。もとよりクリーンな雰囲気の印象が強かったが、改装によって内装のデザイン性が高まった。

温浴ゾーンでは、屋外にフィンランド式サウナを新設し、客自らロウリュ(サウナストーンに水をかけて発汗作用を促す入浴法)を行えるようになった。薄暗い室内は木製で天井が低く、本場フィンランドのサウナのスピリチュアルな雰囲気が味わえる。屋内浴場には天然温泉や炭酸泉、足湯(女湯のみ)、バブルピットに加え、3種類のサウナ(女湯は2種類)がある。

岩盤浴や幻想的な雰囲気の低温サウナがあるヒーリング バーデゾーンには、ファイテン社が開発したアクアチタンを使用した、発汗作用を高めるホットルームが新登場した。休憩ゾーンも複数あり、非常に広い。充電コンセントも完備されているので、ここで仕事をする人もいるようだ。

注目のリニューアル銭湯

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  • 向島
たぬき湯
たぬき湯

大正時代から続く向島の老舗銭湯、たぬき湯。2017年9月にリニューアルが完了し、外観はそのままに浴室を全面改修した。見どころは、先代から付き合いがあるという銭湯絵師の丸山清人による銭湯絵だろう。女湯は瀬戸内の海が、男湯には若女将たっての希望で富士山が描かれている。丸山の使う特徴的な青は、白い壁と相まって湯気が立ち上る浴室内でもよく映える。ぜひ自然光の下で眺めたい。

男湯の配置に大きな変更はないが、女湯はカランを一列減らし、新たにぬる湯を増設した。これまでも地元の高齢者から支持を集めていたが、リニューアル後は祖父母と孫という組み合わせの客が増えたそうだ。ぬる湯は子どもにも入りやすく評判だという。

銭湯全体を見渡す番台や脱衣所の格子天井、縁側など、昔ながらの銭湯の造りを残しつつ、手すりを追加するなどの客層に合わせた改装は、地元に根付いた銭湯ならではと言える。ちなみに銭湯名の由来は、店前を通るたぬき通りから、近くの店の前にたぬきの銅像があったから、はたまた先代の妻がたぬきのようだったからなど、諸説あるらしい。

  • ヘルス&ビューティー
  • 鴬谷
萩の湯
萩の湯

2017年5月にビルを立て替え、階ごとに男女の浴室を分ける大幅なリニューアルを行った萩の湯。一般的な銭湯の倍はあろうかという広さの浴場では、光マイクロバブル湯や電気風呂、炭酸泉、露天風呂、ジェット風呂、サウナ、水風呂など、種類豊富な風呂が楽しめる。女湯には塩サウナもある。設備の豊富さもさることながら、ジェット風呂の水圧やサウナ室の温度、水風呂の広さなど、細かな部分にこだわりが感じられる。手がけたのは、上野の寿湯の再生させた、やり手の銭湯経営者として知られる長沼雄三。萩の湯のリニューアルには、銭湯の範疇(はんちゅう)でやれることはすべてやる、という長沼の気概が満ちている。

1階の食堂は、本格的な味の中華料理やカレーが売りで、入浴をせずに食堂だけを利用する客も多い。ドリンクは下手な居酒屋よりも品揃えがいい。ビールはありきたりな缶ビールではなく、国産のクラフトビールを数種類置いている。鶯谷に降り立つことがあれば、必ず立ち寄りたい場所だ。

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  • ヘルス&ビューティー
  • 三ノ輪

スーパー銭湯顔負けの設備で知られる、三ノ輪の湯どんぶり栄湯。2017年5月に店名に念願の「天然温泉」を掲げリニューアルを果たした。大きな変化は2つ。露天風呂の追加と、サウナの拡張だ。露天風呂は敷地を広げ、男湯女湯ともに大きな湯船が設置された。真っ白に見える湯の正体は、ナノファインバブルという粒子レベルの泡。毛穴の中に入り込み、汚れを取り除いてくれるという。湯船の中に設置された2つの壺は、注ぎ口かと思いきや壺型の湯船。豪快に湯をあふれさせながら肩まで浸かりたい。サウナルームは、男湯女湯ともに10人は入れる大きさに改装。スーパー銭湯でも珍しい岩塩を使いながら、追加料金はたった200円という点も特筆したい。サウナ好きは、入らないという選択肢はないだろう。

湯船をどんぶりに見立ててつけられた店名の通り、浴室には薬湯、ジェットバス、電気風呂など様々な風呂がある。浴室内がリニューアルされたのは20年以上前だというが、ピカピカに磨き上げられたカランやタイルは、3代目の梅田清治郎の几帳面さと銭湯への真摯な姿勢をうかがわせる。ランナー用のロッカーや駐車場、駐輪場も完備されているので、色々な使い方ができそうだ。

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