

LGBTQ+の活動や表現が法律で禁じられているロシア出身のクィアアーティスト、ジェナ・マービン。ロシアによるウクライナ侵攻への反戦デモに参加したジェナは逮捕され、徴兵の危機にさらされる中、スキンヘッドにハイヒール、体を締め上げるテープや有刺鉄線をまとい、「静かな叫び」として無言のパフォーマンスを街に放つ――命をかけた表現の記録である。

タイムアウト東京 > カルチャー > インタビュー:ジェナ・マービン『クイーンダム/誕生』
2026年1月30日、ロシア出身の著名なクィアアーティスト、ジェナ・マービン(Jenna Marvin)のドキュメンタリー映画『クイーンダム/誕生』の全国上映がスタート。上映に合わせて来日したジェナを、渋谷のスクランブル交差点で撮影した。
高身長に、冗談みたいな高いハイヒール。白塗りのスキンヘッド姿のジェナは、信号待ちをする人々の中で「文字通り」頭一つ抜けて見える。さまざまな人が行き交う都会のど真ん中でも、彼女は周りの注目を一身に集めていた。
頭部は真っ白に塗られ、目と口の周りは真っ黒。黒目のほとんどを占めるカラーコンタクトレンズで白目はほとんど見えない。それでも彼女を目の前にして湧き上がるのは、「怖い」ではなく「かわいい」「魅力的」という感情ばかりだった。
撮影中、周りの人々もそう感じたのか、嬌声(きょうせい)を上げて写真を撮ったり、セクシーなポーズをとるジェナを見て「エロい、エロい」とつぶやく声も聞こえてきたり、誰もが楽しげだった。彼女のまとう雰囲気には、「慈愛」「優しさ」という言葉がよく似合う。
今回は、ジェナとともに来日した本作のプロデューサー、イゴール・ミャコチン(Igor Myakotin)とジェナに、映画について話を聞いた。
映画は、ロシアの極東の街・マガダンで、祖父母と暮らす様子から始まる。出生時に男性としての性別を割り振られたジェナに対し、祖父母は彼女のパフォーマンスを「女装」と一蹴し、「男らしくあれ」「真っ当な職に就け」と強く求める。
一方でジェナは、自らを男性でも女性でもなく「ジェナという存在」だと語る。セクシュアリティーは、男性・女性どちらかであるという枠組みで二分しきれないノンバイナリーだ。実際に我々が目にしたジェナは、男性か女性かいずれかでくくれるような存在では、確かになかった。
―自らのセクシュアリティーに気が付いたのはいつ頃ですか?
ジェナ:最初の気づきは、幼稚園の頃です。その後、さまざまな試行錯誤や考え方に触れながら、今の在り方が確立したわけですが、まず「自分はゲイだ」と気づきました。
当初は、家族を含め周りから「もっと男らしく」「普通に」と否定されました。だからといって、いわゆる一般的な「女性らしくありたい」というわけでもなかった。今に続くこの在り方こそが、私にとっての「普通」だったんです。
そんな中で、「ノンバイナリー」といった男女二択ではない性別の捉え方を知った時の衝撃は、とても大きなものでした。そういった男女二元的ではない、どちらかに切り分けないことは、私にとってすごく重要です。
先ほども触れたように、私の中には女性性も男性性もあるし、どちらにも属さない部分もあります。どちらかに自分を切り分けることはできません。多くの人にとってもきっとそうなのではないでしょうか。だからこそ「ノンバイナリー」という考え方は、私たちをより理想的な人間の在り方へと導いてくれるんじゃないかと感じています。
私が信じている理想的な人間の在り方とは、自分自身の体に対する権利があることです。性別を問わず好きなファッションを楽しむこと、より女性らしく、あるいは男性らしくなるためにホルモン治療することや、妊娠・出産の権利もそうです。
そして、どんな性別の相手を好きになるか、愛情を制限されることなく自分の人生を生きられること。それこそが、理想的な人間だと思っています。
―劇中で印象的だったのは、2022年2月のロシアでのウクライナ侵攻前に、ロシア国旗の色のテープで身を包み、抗議パフォーマンスを行った場面です。性的少数者として目立つこと自体が身の危険につながる状況で、なぜアクションを起こせたのでしょうか。
ジェナは何度も言葉を選び、訂正を繰り返しながら答えてくれた。
ジェナ:劇中の2022年当時のロシアは、LGBTQ+当事者にとっても予断を許さない状況でした。翌年にはトランスジェンダーの性別移行のための治療が違法となり、性的マイノリティー自体も「過激派組織」と見なされ、刑罰の対象となってしまって……。その状況は、今も続いています。
2022年はまさに過渡期であり、分水嶺(れい)でした。その時、恐怖よりも「私は同意しない」と表明すべきという考えに導かれたんです。そう思い至ったのは、アイデンティティーの確立同様、さまざまな人との出会いの結果かもしれません。
私は15歳の頃、一時的にサンクトペテルブルクへ引っ越し、ドラァグクイーンたちと出会いました。そこで私は具体的なメイクの仕方だけではなく「メイクはドラァグクィーンの力だ」ということを教わったんです。
そして一番大事な「ドラァグはただ観客のためのパフォーマンスでも、単なる衣装でもない」ということを学びました。それは、いわば政治的なものだったわけです。
その頃よく考えていたのは、「ロシアには、私のようなクィアな人たちが公に声を上げていくことが必要」だということでした。強いバッシングの中で声を上げるのは危険が伴います。けれど、そうした存在が不可欠だと感じていたんです。
ただ、直接的な影響を受けたのは、同作の監督であるアグニア・ガルダノヴァ(Agniia Galdanova)からかもしれません。自分のパフォーマンスが、単なるステージのショーではなく、政治的なものになり得るのだと、再発見させてくれたんです。
―政府に毅然(きぜん)と立ち向かう姿だけが、ジェナの全てではないと痛感させられました。パフォーマンスの原動力は何なのでしょうか。
ジェナ:ある日はすごく元気があって、ヒールを履いて走り回れることもあります。けれどある日には、本当にもう……なんというか、生きる力が湧かなくて、ベッドから一歩も起き上がれないこともあります。自分でも理由が分からなくて、家に帰ってから「これって何なんだろう?」って自問したくなります。
けれど、一つ言えるのは、アイデンティティーや性表現は、決して自由自在に変えられるものではないということ。それがたとえどんな法律に規制されても、投獄されたとしても、です。
―最後に、ジェナとともに来日し、インタビューを見守ってくださっていたプロデューサーのイゴールさんに伺います。本作の魅力を教えてください。
イゴール:ジェナは、全身を使ってクィアの人々に生きる力や喜びを伝えられるアーティストです。私自身も彼女のアートに触れた時、「このままでいいんだ」と、自らを肯定できる感覚を感じました。
私もジェナ同様、マガダン出身ですが、子ども時代にはインターネットもなく、どこにもセクシュアリティーをオープンにしたLGBTQ+当事者はいませんでした。そんな6、7歳の頃の自分のように、世界中で孤独感を感じている人へ、この映画が届いてほしいと願っています。
来日中、ジェナは新宿二丁目最大級のクラブ「AiSOTOPE LOUNGE(アイソトープラウンジ)」で開催されたMES主催によるパーティー「REVOLIC for QUEENDOM」でパフォーマンスを行った。ステージからゆっくりと客席に降り、人々の足元に横たわり、観客と触れるか触れないかギリギリの距離感で繰り広げられる彼女のパフォーマンス。どの一挙手一投足からも、「愛」という言葉が実にしっくりくるものだった。


LGBTQ+の活動や表現が法律で禁じられているロシア出身のクィアアーティスト、ジェナ・マービン。ロシアによるウクライナ侵攻への反戦デモに参加したジェナは逮捕され、徴兵の危機にさらされる中、スキンヘッドにハイヒール、体を締め上げるテープや有刺鉄線をまとい、「静かな叫び」として無言のパフォーマンスを街に放つ――命をかけた表現の記録である。
ピン芸人日本一を決める「R-1グランプリ」と、女性芸人ナンバーワンを決める「THE W」の2冠を達成。アメリカのオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」にも出場し、活動の軸足をアメリカへ向けている。テレビで「次にやりたいことは映画監督」と宣言したところ、それを観たプロデューサーから連絡があり、初監督作『禍禍女(まがまがおんな)』が誕生した。
“世界の終り”と“ハードボイルド・ワンダーランド”の2つの世界が交互に展開していく、村上春樹の長編小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が舞台化される。演出・振付は、身体と映像を駆使して現出させるマジカルな世界に定評あるフランスの振付家フィリップ・ドゥクフレだ。日本公演後にはシンガポール、中国、イギリス、フランスの4カ国を巡るワールドツアーも予定。
“世界の終り”の主人公である“僕”を演じる駒木根葵汰(こまぎね・きいた、島村龍乃介とのWキャスト)に、稽古の様子や舞台への意気込みを聞いた。
Discover Time Out original video